(2021年 アメリカ)
前2作がつまらなかったので本作にも期待していなかったのだが、まさかまさかの面白さだった。全体的にシリアスで、男の友情と裏切りが作品の核をなしており、もはやG.I.ジョーというよりもジョン・ウーの映画だった。
感想
シリーズで一番面白い
『G.I.ジョー』シリーズは1も2も見たのだが、どちらも好みではなかったので、本作はスルーしていた。
なのだがネットフリックスに上がっていたのを何気なく見たところ、面白いので感心した。三度目の正直ってのはあるもんですな。
毎回リブートすることで悪評のあるこのシリーズ。
おもちゃ箱をひっくり返したような『1』はこの企画の正攻法だったんだが、思ったほどの収益を上げられなかったためか、設定こそ繋がっているが前作の登場人物を皆殺しにして、ほぼ仕切り直しとなった『2』が作られた。
『2』はドウェイン・ジョンソン主演にブルース・ウィリス共演ということで、SF要素を小さくした軍事アクションとなっていたのだが、こちらもまた不発。
そしてついに前2作を完全になかったことにしたのが本作『漆黒のスネークアイズ』で、概要を見る限りでは「リブートもいい加減にしろ。そろそろ腰据えて取り組め」と思ったのだが、そんな本作が一番面白かったのだから映画とは分からんものである。
内容は黒ずくめの忍者スネークアイズのオリジンであり、ミリタリー要素やSF要素はほとんどないので、これが『G.I.ジョー』かと言われると、ちょっと微妙なものがある。
なのだが、動ける人間を多く配置したことで見せるアクション映画になっているし、スネークアイズとストームシャドーの愛憎劇にはジョン・ウー映画並みに熱いものがあって、男のドラマとしてもグッときた。
過去の『G.I.ジョー』シリーズが合わなかった人こそ、本作を見るべきではなかろうか。
確信犯的に誇張されたトーキョー
少年期に父親を殺され、現在は地下格闘界で生きる男スネークアイズ(ヘンリー・ゴールディング)が、ヤクザの親分ケンタ(平岳大)からのスカウトを受ける。
ケンタが提示した条件は親の仇を引き渡すことであり、それと引き換えにスネークアイズは、東京の忍者組織「嵐影一族」に潜入するというのがざっくりとしたあらすじ。
ケンタと共に打った芝居で嵐影一族の後継者トミサブロウ(アンドリュー・小路)に気に入られたスネークアイズは、東京の嵐影総本山に連れていかれる。
東京なのに富士山が異様に近くにあるというハリウッド映画でよくある光景に始まり、目立ちまくる城を拠点にして全然忍ぶ気のない嵐影一族とか、甲冑姿の門番とか、昭和感溢れすぎる路地裏とか、東京のイメージがひたすらおかしい。
ただし外国人が豪快に勘違いした東京ではなく、『キル・ビル』でタランティーノが描いたような確信犯的に誇張されたトーキョーなので、むしろ愛を感じたが。
中盤での格闘なんて、東京のゴチャゴチャした路地裏をうまく舞台として活かしたものだと感心したほどである。
シリアスな愛憎劇
ドラマのタッチは前2作ほどおちゃらけたものではなく、日本刀を用いたアクションには舞踏のような華麗さと生々しい暴力性の両面が備わっていて、全体の雰囲気はシリアスと言っていい。
嵐影を英訳するとストームシャドーで、日本人ならばその名を聞いただけでほぼネタバレするのがツライところだが、後のライバル ストームシャドーとスネークアイズの因縁の発端部分が本作の骨子である。
トミサブロウが連れてきたスネークアイズを目の前にして、嵐影一族の面々は「本当にそいつに稽古つけるの?」と懐疑的な視線を向ける。
跡取り息子トミサブロウのゴリ押しもあって一応稽古は始まるのだが、秘めた才能を全開にして全員を見返すなんて少年漫画的な展開もなく、まぁまぁ期待外れなスネークアイズ。
しかもたまにケンタへの報告に行ったりもするので、疑惑の目まで向いてくる。しかしスネークアイズに対して厳しい意見が出るたびに、トミサブロウは「こいつはいい奴なんだ!」と言って友人をフォローする。
スネークアイズに対して純粋な友情を抱き、盲目的に友を庇い続けるトミサブロウの思いがとてつもなく切なくなってくるのだが、一方のスネークアイズは非情にもケンタのミッションを貫徹し続ける。
最終的に二人の善悪は入れ替わるのだが、発端部分で悪の側にいたのがスネークアイズだったという辺りが実に興味深い。
で、ケンタのバックには悪の組織コブラがいて、嵐影一族はG.I.ジョーと懇意にしていたことが明らかになり、後半になるとようやく『G.I.ジョー』の要素が入ってくるのだが、こちらでも善悪が絶対のものではなく、状況に応じてコブラとG.I.ジョーが共闘したりもする。
善悪二元論を避けたことで人間同士の因縁が浮かび上がってくるという構図は実によく考えられている。
スネークアイズの裏切りがトミサブロウにとって決定的になる場面や、二人が袂を分かつ場面は切なさの嵐だった。その熱さは、ジョン・ウー映画にも匹敵すると言える。
まさか『G.I.ジョー』で感動させられるとは思ってもみなかった。
興行成績が酷かったので続編が作られる見込みは限りなく薄そうだが、スネークアイズとストームシャドーのリターンマッチはぜひとも見てみたい。