【良作】007 スカイフォール_Mがボンドガール(ネタバレあり・感想・解説)

軍隊・エージェント

(2012年 イギリス、アメリカ)
ヒーローとヴィランを表裏一体の存在とした哲学的なテーマ、Mとボンドの愛憎関係を描いた重厚なドラマ要素など、娯楽アクションを超越した破格の作品でした。シルヴァの計画が偶然性に頼り過ぎなどの細けぇ点は気にしないってことで。

作品解説

初のオスカー監督就任

本作の監督に就任したサム・メンデスは『アメリカン・ビューティ』(1999年)でアカデミー作品賞と監督賞を受賞した経験を持っていますが、オスカー受賞歴のある監督が就任するのはシリーズ初のこととなります。

なおメンデスにはダニエル・クレイグの奥さんレイチェル・ワイズとの交際歴があり、よくそんな二人で一緒に映画を作ろうと思うものだと、欧米人の感覚には理解できないものがあります。

撮影監督にはサム・メンデス作品の常連ロジャー・ディーキンスが就任。ディーキンスは後に『ブレードランナー2049』(2017年)『1917命をかけた伝令』(2019年)でアカデミー撮影賞を受賞することとなります。

脚本家としては『ワールド・イズ・ノット・イナフ』(1999年)以来のニール・パーヴィス&ロバート・ウェイドに加えて、『グラディエーター』(2000年)や『ラスト・サムライ』(2003年)のジョン・ローガンが雇われました。

そして編集には『007 カジノ・ロワイヤル』(2006年)のスチュアート・ベアードが復帰しています。

47年ぶりのアカデミー賞受賞

かくしてオスカーでも狙いにいけるメンバーで製作された本作は、アカデミー5部門にノミネートされました(撮影賞、作曲賞、音響編集賞、歌曲賞、録音賞)。

うち、音響編集賞と歌曲賞の2部門を受賞したのですが、これは視覚効果賞を受賞した『サンダーボール作戦』(1965年)以来、47年ぶりの快挙となります。

また英国アカデミー賞では作品賞を受賞しましたが、こちらはシリーズ初の快挙でした。

シリーズ最大のヒット作

本作は2012年11月9日に全米公開され、初動だけで8780万ドルを売り上げるという猛烈なヒットとなりました。

全米トータルグロスは3億436万ドルで、年間興行成績第4位。インフレ調整後の興行成績でも『サンダーボール作戦』(1965年)、『ゴールドフィンガー』(1964年)に次ぐシリーズ歴代3位という好記録を収めました。

国際マーケットでも同じく好調で、特にイギリスでは『アバター』(2008年)を抜いて歴代興行成績No.1に輝くという華々しいヒットとなり、全世界トータルグロスは11億856万ドルにも及びました。

これは、それまでのシリーズ最高成績だった『カジノロワイヤル』の6億599万ドルの1.8倍という驚異的な金額であり、本作のヒットでMGMは慢性的な財政難を脱したほどでした。

感想

使い捨てにされた工作員の怨念

主題歌のバックの映像では、ボンドが自分の影を撃ったり、鏡を撃ったりしています。しかし撃っても撃っても次から次へと現れる影。

これが如実に表す通り、本作のテーマは自分と等しい存在との戦い。ヒーローとヴィランを表裏一体として描くというアプローチからは、クリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』(2008年)を彷彿とさせられました。

今回の敵は元MI6工作員のラウル・シルヴァ(ハビエル・バルデム)。

Mに仕えていた時には非常に優秀な工作員だったのですが、5人の捕虜とシルヴァ1人を交換するというMI6にとって好条件の取引によって敵国に差し出され、それでもお国への忠誠を守って青酸カリで自決しようとしたものの死ねず、酷い拷問を受けた後にテロリストとなりました。

組織や上司への復讐を果たそうとする悪役とは往々にして逆恨みの場合が多いのですが、シルヴァに関しては恨んで当然の事情があるだけに、観客はこの複雑なキャラクターをどう理解すればいいのかに迷うこととなります。

全体を眺めても、明確なゴールに向かって動いていく従前シリーズとは異なり、この先どう転んでいくのか皆目見当もつかない物語が構築されています。

さらに異例なのが、従来のボンドが攻める側なのに対して、今回は守る側になるということ。こちらの打ち手を熟知し、本丸へとどんどん進撃してくるシルヴァに対し、ボンドは防戦一方となります。こちらが主導権を握ったかと思っても、実はそれもシルヴァの計画のうちだったなど、ボンドは徹底的に振り回されます。

よくよく考えてみれば、シルヴァの計画には偶然性に頼る部分が大きかったり、魔法の杖の如くPCを使いこなしてどんなシステムでも一瞬で乗っ取ったりと、リアリティの面ではおかしな点が多いのですが、シルヴァという存在が半ばゴーストとして描かれており、実在性よりも象徴性の方が強いキャラクターであることから、見ている間は特に気になりませんでした。

シルヴァは生みの親に復讐しに来た元工作員達の怨念であるというわけです。

ボンドとMの愛憎関係

そしてボンドの立場もシルヴァと変わったものではありません。

アバンタイトルでは死にかけている仲間の応急処置よりも任務を優先せよと言われ、自分自身も味方の銃弾を受けて任務の犠牲になります。

ここまで不当な扱いを受ければボンドもやっていられなくなり、死を偽装して南国で隠居。酒と女に溺れる悠々自適の生活を送っていました。

しかしMI6本部がテロを受けたというニュースを見て、やはりMの安全が心配になってロンドンへと戻ってくるボンド。

Mのマンションで二人は再会するのですが、お互いの本心は分かりつつも憎まれ口を言い合います。この会話で分かったのが、ボンドは誤射されたことに怒っているのではなく、自分の能力を信用せずMが早まった判断を下したことに怒っているということでした。

ほんの短い会話でこうした複雑な感情を表現してみせた脚本の妙が光っており、本作はアクション映画というよりも重厚な人間ドラマに近い作りとなっています。最高でした。

で、ボンドは復職に当たってのテストを受けるのですが、結果はボロボロ。しかしMはボンドのプライドに配慮して合格点だったと嘘をつき、黒幕に繋がる殺し屋を追いかけよという任務を与えます。必要な人材であるとのメッセージを送らなければ、ボンドは本当に腐るからです。

こうしたMの態度が、現在のボンドやかつてのシルヴァからの忠誠心を引き出す原動力となっていたのでしょう。

その思いを受け取ったボンドは、シルヴァの標的にされているMを必死に守ろうとします。本作のボンドガールはMであるというわけです。

スカイフォールとは何なのか

ただしこちらの打ち手を知り尽くしたシルヴァは想像以上に強力な敵であり、あちらが設定する舞台に立っている限りは勝てないということをボンドは悟ります。

そこでボンドはMと共にスコットランドの生家に移り、情報を流してシルヴァをここに引き込もうとします。このボンドの生家はスカイフォール・ロッジと呼ばれており、タイトルは一義的にはこれを指しています。

そして、さらに深い意味は北欧神話に由来します。北欧神話ではラグナロク(神々の黄昏)と呼ばれる最終戦争で世界が終わるとされているのですが、世界の終わりに起こるとされているのが「天の落下(スカイフォール)」です。

すなわちスカイフォールは物事の終わりを含意しており、実際、ボンドは冒頭で死に、戦闘の末にMは死亡、公聴会では大臣の口よりMI6不要論が飛び出します。

ダニエル・クレイグは本作を最後にボンドを引退するつもりでいたようですが(大ヒットにより2本引き伸ばされました)、そうした裏事情も含めてスカイフォールがキーワードとなっています。

ラストのワクワク感が凄い

かくして『ゴールデンアイ』(1995年)以来のMはこの世を去ったのですが(ブロスナン時代のMとクレイグ時代のMが同一人物かどうかは定かではないものの)、脇役として登場した国防委員長ギャレス・マロリー(レイフ・ファインズ)がその地位を引き継ぎました。

執務室の手前にはマネーペニー(ナオミ・ハリス)のデスクが置かれ、入ってきたボンドと他愛もない会話をする。

コネリー時代のフォーマットがここに来て戻ってきたのですが、「いつものあれ」をもう一度見られたことのワクワク感は凄かったですね。

≪007シリーズ≫
【凡作】007 ゴールデンアイ_良くも悪くも伝統に忠実
【良作】007 トゥモロー・ネバー・ダイ_戦うボンドガール
【凡作】007 ワールド・イズ・ノット・イナフ_アクション映画として不十分
【駄作】007 ダイ・アナザー・デイ_壊滅的に面白くない
【良作】007 カジノ・ロワイヤル_荒々しく暴力的なボンド
【凡作】007 慰めの報酬_ジェイソン・ボーンみたいにしちゃダメ
【良作】007 スカイフォール_Mがボンドガール
【凡作】007 スペクター_幼馴染みのブロフェルド君