【凡作】007 慰めの報酬_ジェイソン・ボーンみたいにしちゃダメ(ネタバレあり・感想・解説)

軍隊・エージェント

(2008年 イギリス、アメリカ)
ジェイソン・ボーン風アクションが007に合っていなかったり、公務と私怨のバランスが悪かったりと、いろいろと辛い出来だったのですが、ついに正体を現した悪の組織クォンタムの設定や、水資源を狙っているという目的が素晴らしすぎた点は見所となっています。

作品解説

シリーズ初の続編

007シリーズは毎回1話完結であり、ボンドの妻が殺された『女王陛下の007』(1969年)という例外を除いては、その内容が後続作品に影響するということはありませんでした。

そこに来て本作は前作『007 カジノロワイヤル』(2006年)のクライマックスと直接つながっており、前作の黒幕だったミスターホワイトの背後にいる組織を追いかけるという、シリーズ初の前後編という試みがなされています。

興行成績は前作とほぼ同等

2008年11月7日に全米公開され、前週の1位だった『マダガスカル2』(2008年)を大差で抑えてぶっちぎりの1位を獲得。

その後も好調で全米トータルグロスは1億6836万ドルに達し、全米年間興行成績第9位という大ヒットとなりました。

国際マーケットでも同じく好調で、全世界トータルグロスは5億8958万ドル。前作カジノロワイヤルの5億9904万ドルとほぼ同程度のヒットとなりました。

感想

唐突なジェイソン・ボーン風アクション

映画会社のロゴの直後、すぐにおっ始まるカーチェイス。これが物凄いスピード感と迫力で目が釘付けにされるのですが、異様に早いカット割りに違和感も覚えます。

主題歌を挟むと、今度はボンドが殺し屋を走って追いかけるアクションが始まるのですが、ここでは先ほどのカーチェイスに輪をかけて素早いカット割りとなり、観客の動体視力が試されるようなレベルとなります。ここで私のコレジャナイ感は決定的となりました。

本作の第2班監督ダン・ブラッドリーと編集のリック・ピアソンは共に『ボーン・スプレマシー』(2004年)に関与していたスタッフであり、本作のアクションは意図してジェイソン・ボーン風に作られています。

私はジェイソン・ボーンのアクションも好きなのですが、老舗007にそのスタイルを当てはめるのは、ちょっと違うんじゃないのと思います。

せっかく前作『カジノロワイヤル』(2006年)でショーン・コネリー時代のゆったりとしたペースを取り戻したところだったのに、その続編でいきなり21世紀風のせかせかしたテンポに戻しちゃ台無しだし。

悪の組織クォンタムが凄い

今回のボンドは前作の黒幕ミスターホワイトが属する謎の組織に迫っていこうとするのですが、調べてみるとこれが思いのほか強力で、各国政府や諜報機関にもすでに入り込まれていることに気付くというのがざっくりとしたあらすじ。

彼らは要人や著名人が集まるオペラに紛れて総会をしているのですが、そこに割って入ったボンドが彼らの面を剥がし、大物揃いであることに驚愕する場面などはゾクゾクさせられましたね。

ディスプレイに表示される顔を見て「これはヤバいやつだ」と司令部もざわつくという。

秘密結社の名前はクォンタムと言い、南米の独裁政権を後押しする見返りに現地の水資源を押さえ、将来的には地域の人々の命を握って大儲けしようとしています。

これは1999年から2000年にかけてボリビアで実際に起こった水道民営化騒動をモチーフにしたもので、水の危機は今後の人類の大テーマになりうるものでもあることから、本作で描かれる陰謀には絵空事ではない怖さがあります。

世界征服という漠然とした目的を掲げるかつての秘密結社スペクターよりも、こうした現実的な方法で世界の実権を握ろうとするクォンタムの方が恐ろしい組織に見えてきます。

そしてクォンタムが狡猾なのが、エコ企業をフロントに置くことで暴力を使う組織であることを巧妙に隠していること、また脅威になりそうなアメリカやイギリスとは仲良くやりつつ、政情不安定な途上国をターゲットにしていること。

これだけしっかりとした悪の組織は、スパイ映画史上かつてなかったと思います。

で、彼らはすでにCIAとのつながりを持っており、英国政府とも取引を始めようとしているため、これに対抗しようとするボンドは組織からの支援を受けられなくなります。

そこで引退済の工作員ルネ・マティス(ジャンカルロ・ジャンニーニ)や、個人的な復讐を果たそうとしている女諜報員カミーユ(オルガ・キュリレンコ)らと協力して動くことになるのですが、圧倒的な組織力を持つクォンタムにはぐれ工作員数名が挑むという構図にも緊張感があります。

この全体の構図はお見事としか言いようがありませんでした。

結局私怨で終わるのはいかがなものか

かくしてクォンタムとの戦いが始まるのかと思いきや、終盤はボリビアの将軍に家族を殺されたカミーユの復讐劇が中心となり、ボンドの頭にも殺されたヴェスパーの影がちらつき続けているので、せっかく広げた大風呂敷が台無しになってしまいます。これは残念でした。

諜報員たるもの、途方もない巨大組織の一角を崩すという公益のために戦って欲しいところなのですが。

クライマックスでは大爆破を伴った素晴らしいアクションが展開されるのですが、敵がエロ親父とエコ企業CEOなのでまったく強そうではなく、見た目の豪華さとは裏腹にハラハラドキドキはさせられませんでした。

また、前作で殺されたヴェスパーがクォンタムの色仕掛けにはまっていたという後付け設定も余計でしたね。そういうのにはまりそうな脇の甘いタイプではなかったと思うのですが。

そんな感じで、公務と私怨のバランスや、感情が絡む部分の処理がイマイチだったので、『カジノロワイヤル』よりは相当落ちる出来だったと思います。

あと、中盤で石油まみれで殺されたストロベリー・フィールズ(ジェマ・アータートン)が不憫すぎやしませんかね。

ボンドに篭絡されて彼と行動を共にするようになったのも束の間、ボンドは目当てのカミーユと二人で砂漠へと消えてしまい、事情も分からず一人取り残されたフィールズはボンドの同伴者ということでクォンタムの標的とされてしまいます。

こちらに引き込んだ以上、ボンドは最後まで面倒見てあげるべきだったと思うのですが。

≪007シリーズ≫
【凡作】007 ゴールデンアイ_良くも悪くも伝統に忠実
【良作】007 トゥモロー・ネバー・ダイ_戦うボンドガール
【凡作】007 ワールド・イズ・ノット・イナフ_アクション映画として不十分
【駄作】007 ダイ・アナザー・デイ_壊滅的に面白くない
【良作】007 カジノ・ロワイヤル_荒々しく暴力的なボンド
【凡作】007 慰めの報酬_ジェイソン・ボーンみたいにしちゃダメ
【良作】007 スカイフォール_Mがボンドガール
【凡作】007 スペクター_幼馴染みのブロフェルド君