【良作】007 消されたライセンス_地獄のような壮絶さ(ネタバレあり・感想・解説)

軍隊・エージェント
軍隊・エージェント

(1989年 イギリス、アメリカ)
早すぎた良作。 剥き出しの暴力、感情的なボンド、有能なボンドガールとクレイグ・ボンドを20年先行する内容で、80年代末にはウケなかったものの、今こそ見るべき作品となっています。加えて他の映画に影響を与えたアクションも多く、見せ場的にも充実しています。

作品解説

前作を下回った興行成績

本作は1989年6月13日に公開されましたが、『リーサル・ウェポン2』(1989年)、『バットマン』(1989年)、『ミクロキッズ』(1989年)といった強敵に敗れて初登場4位。初週のランクがここまで低かったのは初めてのこと。

そして全米トータルグロスは3466万ドルで年間興行成績37位と、シリーズ史上かつてないほどの大惨敗でした。

国際マーケットでは持ち直したものの、それでも全世界トータルグロスは1億5469万ドルで前作『リビング・デイライツ』の記録1億9120万ドルから2割近くも減少しました。

ただし本作の興行的不振が6年間のシリーズ中断に繋がったというのは誤情報で、公開直後から続編の企画はあったものの、製作会社と配給会社との間で権利関係のトラブルが発生し、法廷闘争に入ったことから新作を作りたくても作れない状況が発生したためです。

感想

怒涛のバイオレンス巨編

ティモシー・ダルトンの個性に合わせて作られたという本作は、シリーズ中でも屈指の激しさとなっています。公開時にはシリーズ初の年齢制限を喰らってしまったのですが、「お子ちゃまは見に来ちゃダメよ」という怒涛のバイオレンスの連続には震えました。

麻薬王サンチェス(ロバート・ダヴィ)の報復により友人のCIA工作員フェリックス・ライターが重症を負わされ、その新妻は殺害。怒りに燃えるボンドが殺しのライセンスを剥奪されてまで個人的な復讐に打って出ることが、本作のあらすじとなります。

まず凄いのがフェリックスが拷問を受ける場面。サメやピラニアを使った処刑や拷問はコネリー時代からの伝統ではあるのですが、本当にエグい部分は断末魔の叫びなりあぶくなりで誤魔化されてきました。しかし本作では『ジョーズ』(1975年)並みに派手な血しぶきが上がり、とんでもないバイオレンスの発生を観客に見せつけます。

サンチェスが部下を加圧室で殺す場面も同じく。人体の破裂というのは『死ぬのは奴らだ』(1973年)のクライマックスと同様なのですが、ほとんど冗談だった『死ぬのは~』から一転、本作ではスプラッタホラー並みの血糊が飛び散る凄惨な処刑場面に変貌しました。

その他、細切れにされる若い頃のベニチオ・デル・トロや、火だるまにされるロバート・ダヴィなど、タランティーノの映画ですかと言いたくなるほど殺し方がいちいちエグくて驚かされます。

この作風変化の影響を受けたのはボンドも同様で、これまではボンドが傷つくといっても唇の端から血を流す程度でしたが、本作のクライマックスではボロボロの状態となります。こんな状態になったボンドはいまだかつて見たことがなく、一瞬、敵キャラかと思ったほどです。

ドリフの爆発コント並みにボロボロになるボンド

しかも最後に振るわれる武器はマチェーテで、これほどまでに武骨な武器が使われることも異例中の異例のことでした。

シリーズ中、もっとも収穫の多い見せ場

そんなハードなバイオレンス描写と並んで、シリーズ恒例のガチスタントにもさらに磨きがかかっています。

ヘリがセスナ機を吊るすという『ダークナイト ライジング』(2012年)の元ネタのような場面からガチ度全開。本当に危険な部分はスタントマンがやっているとはいえ、ダルトン自身もヘリから吊るされるなどのスタントをこなしているので迫力や説得力が違います。

中盤における足裏水上スキーからの水上艇乗っ取りアクションは、その後『レッド・ブロンクス』(1995年)、『スピード2』(1997年)『フェイス/オフ』(1997年)など多くのアクション映画で模倣されることになりますが、迫力はいまだに本作が一番だと思います。

そして最大の見せ場はクライマックスのトレーラーチェイスで、これまたトレーラーの片車輪走行を本当にやるなどガチ度が違います。こちらは『ダークナイト』(2008年)のトレーラーでんぐり返し(本当にトレーラーを転がして撮影)という形でグレードアップされるわけで、クリストファー・ノーランはどれだけ本作を愛してるんだよって感じです。

そしてジッポライターがキーアイテムとなり、ボンドの怒りを象徴するかの如く激しく火柱が上がるクライマックスは、翌年の『ダイ・ハード2』(1990年)へと繋がっていきます。

その他、フロリダ半島からキーウェストにかかるセブンマイル・ブリッジを舞台にしたアクションは『トゥルーライズ』(1994年)へ、橋上で護送車が襲われるというシチュエーションは『ミッション:インポッシブル3』(2006年)へ、制御を失った護送車が海へ落ちていくというアクションは『ダークナイト』(2008年)や『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(2018年)へと繋がっていきます。

ここまで来るとアクションの見本市状態。本作の見せ場はその後のアクション映画に影響を与えたものが多く、シリーズ中、もっとも収穫の多い作品だと言えます。

ボンドが役に立たない(良い意味で)

本作はストーリーも充実しています。

復讐に燃えるボンドは上司の命令を無視して単身戦いを挑むのですが、実はあまり役に立ちません。サンチェスに捕まったり、味方の計画の邪魔をしたりと、多くのことがうまくいかないわけです。

2名の優秀過ぎるボンドガールがいてくれたおかげで何とかなっただけで、「僕一人でやるから君は帰れ」とカッコいいこと言いつつも、単独行動ではミスだらけというボンドのポンコツ加減が作品の良い味になっています。

脚本の妙なのか、ボンドのミスが観客のフラストレーションを誘う形にはなっておらず、むしろ二転三転する状況下で翻弄されるボンドの姿によって、敵の強力さが浮き彫りになるという良い効果が得られています。

加えて、組織を離れたことで今までボンドを支えてきた裏方の存在が際立つという形にもなっており、あらすじだけではおおよそ007らしからぬ内容なのに、ちゃんと007になっている辺りも見事でした。

例えばボンドに殺しのライセンス取消を宣告する場面。ジュディ・デンチ扮するMならばボンドの命令不服従を厳しく叱責するであろうところですが、ロバート・ブラウン扮するMは口頭では命令違反を咎めつつも、ボンドの身を案じる内心の方が際立っています。

マネーペニーは組織としては何もできない状況であるため、ボンドと最も親しいQを非公式に現場へ送り込む手配をするし、Qは武器担当としてではなく友人としてボンドを助けます。

こうした家族的な連携がボンドの力になってきたということが今回明らかになったわけで、これまでの公式任務においても、実はボンド一人の力ではどうにもなっていなかったということが分かる仕組みになっています。これは興味深い解釈でした。

『カジノ・ロワイヤル』を先行しすぎた

剥き出しの暴力、感情的なボンド、有能なボンドガールと、本作は17年後の『カジノ・ロワイヤル』(2006年)に通じる部分が多く、そのプロトタイプとして見ることもできます。

ただし時代が早すぎたのでしょうね。2000年代中盤は『スパイダーマン2』(2004年)や『バットマン ビギンズ』(2005年)などヒーローの万能性を否定する作品が人気だったので、その潮流に乗った『カジノ・ロワイヤル』は熱狂的に受け入れられましたが、本作が製作されたのは80年代末。

シュワルツェネッガーやスタローンが1本の映画で数十人の敵を殺害する映画が大ヒットしていた時期にあって、ボンドが麻薬王相手に苦戦する作風は観客の見たいものではなかったのでしょう。

ただし現在の目で見ると驚くほどの内容なので、その先見性も込みで評価したくなる一作です。

≪007シリーズ≫
【凡作】007 リビング・デイライツ_重厚な国際情勢を軽く描く
【良作】007 消されたライセンス_地獄のような壮絶さ
【凡作】007 ゴールデンアイ_良くも悪くも伝統に忠実
【良作】007 トゥモロー・ネバー・ダイ_戦うボンドガール
【凡作】007 ワールド・イズ・ノット・イナフ_アクション映画として不十分
【駄作】007 ダイ・アナザー・デイ_壊滅的に面白くない
【良作】007 カジノ・ロワイヤル_荒々しく暴力的なボンド
【凡作】007 慰めの報酬_ジェイソン・ボーンみたいにしちゃダメ
【良作】007 スカイフォール_Mがボンドガール
【凡作】007 スペクター_幼馴染みのブロフェルド君
【良作】007 ノー・タイム・トゥ・ダイ_目を見張るアクション

スポンサーリンク
公認会計士のB級洋画劇場