【良作】007 トゥモロー・ネバー・ダイ_戦うボンドガール(ネタバレあり・感想・解説)

軍隊・エージェント
軍隊・エージェント

(1997年 イギリス、アメリカ)
ボンド映画らしさは薄まり、一般的なアクション映画フォーマットとなった作品。冒頭からクライマックスまで中弛みなし、見せ場のみでつながれていく豪胆な作風であるため、私は楽しめました。007ファンからは不評らしいのですが。

作品解説

脚本未完成のまま始まった撮影

前作『ゴールデンアイ』(1995年)の大ヒットを受け、MGM/UAの大株主カーク・カーコリアンはすぐに次回作を作るよう指示。プロデューサーのマイケル・G・ウィルソンは、あまりに急なスケジュールでファンにとって期待外れな作品を作ってしまうのではとの不安を抱えつつも、本作の製作を開始しました。

監督には前作のマーティン・キャンベルの続投が望まれたものの、ボンド映画を2作連続で撮りたくないとのことで降板。『ゴールデンアイ』の監督候補だったこともあるロジャー・スポティスウッドに交代しました。

そして『ゴールデンアイ』の脚本家ブルース・フィアスティンによって湾岸戦争の報道に着想を得た物語が構築され、7人の脚本家の手を経て、最終的に『スター・トレック カーンの逆襲』(1982年)のニコラス・メイヤーの手で仕上げられました。

ただし撮影開始時点では脚本が完成しておらず、その日の撮影分が朝に送られてくるような状況でした。

この状況に危機感を覚えたのが、当初エリオット・カーヴァー役にキャスティングされていたアンソニー・ホプキンスで、彼はたった3日で降板。急遽『未来世紀ブラジル』(1985年)のジョナサン・プライスがキャスティングされました。

なお、ホプキンスが本作を降板後に出演したのは、前作の監督マーティン・キャンベルの新作『マスク・オブ・ゾロ』(1998年)でした。

本作の撮影開始は1997年1月でしたが、その年の年末公開が決定済であったことからスケジュール最優先の現場となり、製作費は前作の6000万ドルから1億1000万ドルにまで増額しました。

前作を上回る興行成績

1997年12月19日に全米公開されましたが、『タイタニック』(1997年)と重なって初登場2位。ブロスナン主演の007で全米1位をとっていない唯一の作品となったのですが、金額的には悪くなくて全米トータルグロスは1億2530万ドルでした。

これは前作の1億642万ドルを超えて、インフレを考慮しない場合に当時のシリーズ最高金額でした。

国際マーケットでも好調で、全米トータルグロスは3億3301万ドル。こちらは3億5642万ドル稼いだ前作をやや下回る金額だったものの、十分に満足できる金額でした。

感想

90年代爆破アクションに

007ファンからは不評で、歴代シリーズの人気投票でも下位にランクされることの多い本作ですが、私は楽しめました。

不評の理由はあまりにもボンドらしさがなく普通のアクション映画みたいだということなのですが、前作『ゴールデンアイ』(1995年)にて従来のボンド映画のフォーマットに無理がありすぎると感じていた私としては、むしろ本作の方が楽しめました。

闇の武器マーケットを襲撃するアバンタイトルから規模の大きなアクションが連続して飽きることがなく、アクションのコラージュはクライマックスまでテンポよく繋がれていきます。

また、キャストにミシェル・ヨーを加えることで動ける人間が2人になっており、単純に見せ場が2倍になっていることもおいしかったです。

白眉は手錠に繋がれたボンドとヨーがバイクにまたがって逃走する中盤の一大チェイスであり、そのアクロバティックなアクションには新奇性と面白さがあって、十分に楽しませてくれました。

そんなボンドガールが相手ではボンドも脂下がっている暇ではなく、中弛みなしで見せ場が展開してきます。加えてシンプルな物語が直線的に進んでいくという脚本も見せ場の連続を邪魔しておらず、全体にアクション映画らしい勢いができていました。

フェイクニュースにより戦争を起こす

今回の敵はメディア王エリオット・カーヴァー(ジョナサン・プライス)。

自社メディアの売り上げ増大と中国での放送利権獲得のためにイギリスと中国を戦争させようとしているのですが、このカーヴァーに現実味がないという批判がよくあります。

確かに現在の目で見るとメディア王が戦争を起こすというシナリオには荒唐無稽なものを感じるのですが、製作された90年代の世相は違いました。

1990年に、後にナイラ証言と呼ばれるものが登場します。これはイラク軍兵士がクウェートの病院に押し入って保育器を奪い、赤ちゃんを殺すのを目撃したという少女ナイラの証言でした。

この証言は湾岸戦争に踏み切る直前にアメリカでテレビ放映されて大変な反響を呼び、その後の上院では5票差で戦争賛成派が勝利して開戦に至ったのですが、賛成票を投じた議員のうち6人以上はナイラ証言後に意見を変えたと後に証言しています。

結果的に戦争を起こすこととなったこのナイラという少女の正体は、在アメリカ クウェート大使の娘でした。事件があったとされる時期にはアメリカに住んでおり、クウェートの病院で赤ちゃんが殺される様子など目撃しているはずがありませんでした。

この証言は戦争支持が半数を切っていたことに焦ったアメリカ政府が広告代理店を使って仕組んだものだったのですが、誤情報によって開戦にまで至った事例となりました。

90年代にはこうした実例があったため、情報を歪められて戦争が始まるかもという話には、当時それなりにリアリティがあったのです。ナイラ証言をテーマにした映画としては、ロバート・デ・ニーロとダスティン・ホフマンが共演した『ワグ・ザ・ドッグ』(1998年)という作品も作られています。

≪007シリーズ≫
【凡作】007 リビング・デイライツ_重厚な国際情勢を軽く描く
【良作】007 消されたライセンス_地獄のような壮絶さ
【凡作】007 ゴールデンアイ_良くも悪くも伝統に忠実
【良作】007 トゥモロー・ネバー・ダイ_戦うボンドガール
【凡作】007 ワールド・イズ・ノット・イナフ_アクション映画として不十分
【駄作】007 ダイ・アナザー・デイ_壊滅的に面白くない
【良作】007 カジノ・ロワイヤル_荒々しく暴力的なボンド
【凡作】007 慰めの報酬_ジェイソン・ボーンみたいにしちゃダメ
【良作】007 スカイフォール_Mがボンドガール
【凡作】007 スペクター_幼馴染みのブロフェルド君
【良作】007 ノー・タイム・トゥ・ダイ_目を見張るアクション

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