【良作】007 ノー・タイム・トゥ・ダイ_目を見張るアクション(ネタバレあり・感想・解説)

軍隊・エージェント
軍隊・エージェント

(2021年 イギリス、アメリカ)
文学的なドラマと壮絶なアクションの組み合わせはよくできていたし、3人のボンドガール達は全員魅力的で、娯楽映画としては非常に充実していました。その反面、ヴィランであるサフィンの目的がよくわからなかったり、スペクターが最後まで芯のない組織だったりと、悪役に魅力がなかったことが作品のリミッターとなっています。

感想

映画館に戻った熱気

作品の感想に入る前に、まず公開時の様子から。

もともと本作は2020年2月14日に全世界同時公開の予定だったのですが、新型コロナウィルスの世界的パンデミックの影響で何度も公開延期の憂き目に遭っていました。

その後、新型コロナの影響は映画業界全体に及び、映画館で大作がかからない、レイトショーができない、コンセッションもクローズなど、とても寂しい状況がしばらく続いていました。

そんなこんながありつつも2021年9月30日のイギリス公開に続いて、2021年10月1日に日本公開に漕ぎつけたのですが、10月1日にはかねてより発出されていた緊急事態宣言も解除され、映画館でのレイトショーもコンセッションも戻ってまいりました。

私は初日のレイトショーで見に行ったのですが、映画館は久しぶりの大盛況。緊急事態宣言下のような座席一つ空けでもないので本当に満席に近い状態であり、大作が公開された初日の熱気を久しぶりに味わうことができました。

さらに個人的な事情になるのですが、うちから近くてよく利用している映画館がIMAXレーザーを導入した初日ということもあり、こちらもテンションの上がる要素でした。

実際に見てみるとIMAXレーザーはバッキバキの高画質で、以前のノーマルIMAXとの差が一目瞭然。泣きの場面になるとレア・セドゥが鼻水垂らしてんなぁって事がいちいち気になるほどでした。鼻水の件はともかく、007シリーズで初めてIMAX撮影された本作を見るにあたって最高の環境でもありました。

いろんな意味で、今日、この映画館に見に来てよかったなぁという最高の映像体験ができました。

史上最高のアバンタイトル

いきなりアバンタイトルの見せ場で観客の心をつかむのは007シリーズの伝統であり、時に本編を上回るほど面白かったりするのですが、そんな中でも本作のアバンの完成度は史上最高だったと思います。

なんと今回のアバンは二部構成。

まず少女期のマドレーヌ(レア・セドゥ)と今回のヴィランであるサフィン(ラミ・マレック)の隠された因縁が描かれ、その次に前作『スペクター』(2015年)の続きとなるマドレーヌとボンド(ダニエル・クレイグ)のドラマが描かれます。

かつて文芸作品『ジェーン・エア』(2011年)を撮った経験のあるキャリー・フクナガ監督らしく文学的なやりとりでドラマを描いたかと思えば、その直後に壮絶なアクションが始まる。

さらに久々登場のギミック満載ボンドカーが伸び伸びと暴れまわったかと思えば、殺しのライセンスを持つエージェントに逆戻りしたボンドが冷徹にマドレーヌを引き離すというハードボイルドな幕引きをする。

これほど多くの要素をぶち込んだアバンはかつてなく、短時間で何度も転調させながらも一つの流れを生み出したキャリー・フクナガ監督の演出力の高さには唸らされました。

目を見張るアクションの数々

アバンが終わって本編に入っても感動させられるのは、やはりアクションの素晴らしさ。

迫力やスピード感重視の『慰めの報酬』(2009年)と、様式美や映像美重視の『スカイフォール』(2012年)の良いとこ取りをしている感じで、激しさと美しさが同居した素晴らしい見せ場で目を楽しませてくれます。

特徴的だったのが静から動への転換や、脅威が姿を現すタイミングの作り方・見せ方で、例えば中盤のカーチェイスではボンドとマドレーヌが乗る車一台が原野を走るさまをまず写し、カメラが引くとサフィンのヘリが姿を現し、さらにサイドから車両やバイクがやってくる。この一連の流れが実によくできているわけです。

キャリー・フクナガ監督はこれまでアクション大作の類に関わったことはないものの、テレビシリーズ『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』(2014年)では伝説の10分長回し銃撃戦を撮ったし、少年兵を描いた『ビースト・オブ・ノー・ネーション』(2015年)でも素晴らしい戦場場面を作り上げていました。

このように見せ場の構築にセンスを見せてきた監督が、アクションメインの本作でついにその才能を全開にさせたというところです。

これからもどんどんアクション大作を撮っていけば、そのうちリドリー・スコットみたいになるかもと思うほどのポテンシャルを感じました。

加えて、クライマックスの潜入でグライダーを使用するのは何となく『ニューヨーク1997』(1981年)っぽいなと思ったのですが、着水寸前で羽をたたんで潜水艇になるという『エスケープ・フロム・L.A.』(1996年)みたいなギミックを見せた時点で、これは確信犯だと認識。

ジョン・カーペンターへのオマージュまであって、とても感激しました。

アナ・デ・アルマスのスピンオフを作るべき

そんなアクションと並んで印象に残ったのが、女性たちの活躍です。本作ではマドレーヌに加えて、ボンド引退後に007を引き継いだノーミ(ラシャーナ・リンチ)とCIAの新米工作員パロマ(アナ・デ・アルマス)が登場します。

女性を添え物としてではなくボンドと対等に描くというフクナガ監督の方針に従い、彼女らはそれぞれ劇中で重要なポジションを担うのですが、そんな中でも輝いていたのがアナ・デ・アルマスでした。

最高すぎたアナ・デ・アルマス

おっぱいを半分出したようなドレスで登場するし、かわいい顔で「私は入ってまだ3か月です」とか言うのでお色気要因かと思いきや、スペクターとの交戦に入ると格闘でも銃撃でも抜群の動きを見せるので、その魅力に完全にやられてしまいました。

実は彼女の登場場面は短いのですが、「私はここまでよ」と言う去り際までが印象的で、彼女の活躍をもっと見たいと思いました。

パロマ単独で一本映画作ってくれないですかね。

イオン・プロは本作と同時進行でブレイク・ライブリー主演の『リズム・セクション』(2020年)を製作しており、これを女スパイものとしてシリーズしたいという思いが見えていたのですが、それよりもパロマですよ。

結局何がしたかったんだ、サフィン

ここから文句です。

ボンド自身のドラマやボンドガール達が良すぎたためか、ヴィランの存在が際立っていません。クレイグ・ボンドはヴィランが弱いと言われ続けてきましたが、最後までその問題は解決しなかったようです。

かつてスペクターに殺された家族の復讐がサフィンの第一目標であり、彼はスペクター幹部達をキューバで皆殺しにし、またMI6による管理下にあるブロフェルド(クリストフ・ヴァルツ)も巧妙な作戦によって暗殺します。

こうしてサフィンは目標を達成するのですが、これが物語の中盤あたり。

ここから先はサフィンがどんな行動原理で動いているのかが不明確になるし、彼が率いているのがどういう組織なのかもよくわかりません。

私の理解が追い付かなかったためか、マドレーヌとその娘マチルドをさらって何をやろうとしていたのかもはっきりしなかったので、クライマックスの見せ場が不完全燃焼を起こす原因ともなっています。

サフィンは一体何を企んでいるのか、実現するとどんな悪いことがあるのか、ボンドはどうやってそれを止めようとしているのか、ボンドを阻むものは何なのかということの整理ができていないまま戦闘が始まってしまうので、何とも気持ちが乗っからないわけです。

オスカー俳優ラミ・マレックの不気味な演技は良かっただけに、キャラクターの作りこみの甘さ、状況の不可解さが余計に気になります。

スペクターとは一体何だったのか…

そして最大のガッカリは、最後まで良いところのなかったスペクターですね。

前作にて作品のタイトルにもなるほど華々しいデビューを飾るはずが、初登場作でいきなり首領ブロフェルドがMI6に捕まるという間抜けな幕開けとなりました。

本作ではキューバで総会を開いているのですが、MI6やCIAが簡単に潜入できるほどのガバガバのセキュリティで緊張感ゼロ。そして、そこをサフィンに突かれて幹部連中が全滅します。

さらにはブロフェルドも獄中で暗殺。こんなにアッサリ殺されていいのかというほどの呆気ない幕引きであり、鳴り物入りで登場したスペクターは早々に壊滅します。いくら何でも弱すぎ。

仮面ライダーアマゾンにたった14話で壊滅させられた秘密結社ゲドン以下じゃないのかという程の最底辺の秘密結社でした。

【やや余談】最終決戦は大久野島

サフィンが拠点にしているのがロシアと日本が領有権を巡って揉めている島と説明されるのですが、これはモロに北方領土でしたね。

その島ではスペクターに仕えていたサフィンの父もかつて働いており、植物から猛毒を作るための巨大なプラントが存在しています。

猛毒を生成する島と言われて思い出すのが広島県の大久野島で、これは瀬戸内海の小さな島なのですが、明治時代には陸軍の要塞が築かれ、その後、毒ガス製造がなされていたという物々しい歴史を持っています。

よって、最終決戦地は北方領土と大久野島のイメージをミックスしたものだと思われます。

ちなみに現在の大久野島はどういうわけだかウサギが大繁殖してウサギの島になっており、国際的にも有名な観光地になっています。

ラストのキーアイテムがウサギのぬいぐるみなのは、ここから来てるのかなと思います。

≪007シリーズ≫
【凡作】007 リビング・デイライツ_重厚な国際情勢を軽く描く
【良作】007 消されたライセンス_地獄のような壮絶さ
【凡作】007 ゴールデンアイ_良くも悪くも伝統に忠実
【良作】007 トゥモロー・ネバー・ダイ_戦うボンドガール
【凡作】007 ワールド・イズ・ノット・イナフ_アクション映画として不十分
【駄作】007 ダイ・アナザー・デイ_壊滅的に面白くない
【良作】007 カジノ・ロワイヤル_荒々しく暴力的なボンド
【凡作】007 慰めの報酬_ジェイソン・ボーンみたいにしちゃダメ
【良作】007 スカイフォール_Mがボンドガール
【凡作】007 スペクター_幼馴染みのブロフェルド君
【良作】007 ノー・タイム・トゥ・ダイ_目を見張るアクション

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