(2000年 アメリカ)
国連直属の工作チームを主人公にした一風変わったサスペンス・アクションだけど、硬派な政治劇とウェズのやりすぎアクションの喰い合わせが悪く、黒幕の正体もバレバレで、いろいろとうまくいっていない。
感想
Netflix配信版は新規吹替
21世紀に入ると完全にVシネ俳優になり、挙句には脱税で臭い飯を喰らう羽目になるなど、何ともエクスペンダブルな俳優ウェズリー・スナイプスだけど、1990年代にはデンゼル、エディに続くブラックアクターの星だった。
その全盛期に製作された本作には6000万ドルもの製作費がかけられており、「いよいよウェズをAクラスへ!」という製作陣の並々ならぬ期待が感じられた。
日本での劇場公開時にもそこそこの広告宣伝が打たれたと記憶しているけど、何となくヤバイものを感じ取った私は劇場には行かず、レンタルビデオで済ませた。
案の定、面白くはなかったので「映画館に行かなくてよかった」と思ったけど、どういうわけだかうちの棚にはセル版DVDがある。なぜ買ったのか、いつ買ったのかは覚えていない、恒例、謎のDVDコレクションである。
で、このセル版DVDは一度も再生されることなく放置しているんだけど、最近、Netflixで本作が配信されているのを発見し、DVDは完全スルーでネトフリ版で再見した。
なんという無駄さ加減。
ネトフリは相変わらず羽振りが良くて、四半期近く前のコケ映画であるにもかかわらず、吹き替えが新録されていた。
ウェズ役には、マイケル・B・ジョーダンやジョン・ボイエガ等の吹き替えを担当することの多い杉村憲司。ウェズ初吹き替えではあるけどその声はなかなかマッチしており、聞き心地が良かった。
ウェズは大塚明夫さんや江原正士さんといった大御所が担当することが多く、その分役柄にも貫禄が付くことが多い中で、若々しく精悍なボイスは新鮮だった。この吹き替えを考えた人は素晴らしいセンスをしていると思う。
ユルめのサスペンスアクション
今回ウェズが扮するのは国連直属の工作員ニール・ショー。CIAやNSAではなく、国連直属という点が新しい。
上司のエレノア(アン・アーチャー)曰く、分担金未納の加盟国も多く、国連にはお金がない。なのでニールの部隊は少人数であり、かつ、いろんなミッションで使い回されている。
「なぜ主人公のチームばかりが世界中を飛び回っているのか」というスパイものにありがちな疑問に、見事な回答を出しているのは流石。
ただし国連所属という特異な設定が生きているのはこの点だけで、他の部分ではCIAだろうがNSAだろうが大差がない。どの政府にも偏らない立ち位置を活劇に生かしてほしいところだった。
あらすじはざっとこんな感じ↓
- 中国との貿易協定締結を控え、不正の香りがぷんぷんする中国の国連大使と香港の実業家を監視するショーのチーム
- 監視中に中国国連大使が暗殺され、ショーは容疑者として追われる身となる
- 窮地のショーは、暗殺現場にいた人たちの中で、唯一自分の身の潔白を証言してくれた通訳のジュリア(マリエ・マチコ)を巻き込んで、真犯人探しを開始する
濡れ衣を着せられた工作員ウェズという構図は『追跡者』(1998年)と全く同じで、本人は割と気に入っていたのかもしれないが、見ている側としては既視感バリバリで「またかい」という感じだった。
そして彼の相棒となるジュリアは中国人。ここに人種を越えたバディが誕生する。
ウェズ率いる製作会社アメンラーフィルムズは、本作に先駆ける『ビッグ・ヒット』(1998年)においてもアジア系女優をヒロインに据えていた。オスカーを受賞した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022年)に先駆けること四半世紀、アジア系アクター起用の重要性を見抜いていたのは流石の慧眼だ。
ただしヒロインがアジア系という設定がドラマやアクションに生かされているかというと、そうでもない。他の人種でも問題なく成立する話なので、異文化交流ものとしての面白さは追及されていないように感じる。
ジュリアは通訳というお堅い職業ながら、職場にサングラス&へそ出しで出勤する型破りな人物として描かれるんだけど、ドラマが進行するにつれて普通のヒロインになっていき、その設定が生かされることはない。
そしてジュリアが現れる前のショーの相方は、チームの同僚で主に後方支援を務めるブライなんだけど、これを演じるのがマイケル・ビーンなので違和感が凄い。
軍人役ばかりを演じてきたマイケル・ビーン(『エイリアン2』(1986年)、『アビス』(1989年)、『ザ・ロック』(1996年)etc…)が後方支援なわけないだろと思って見ていると、案の定、こいつはいろいろ訳アリだったことがミステリーの核心部分となる。
キャスティングの時点で半ばネタバレ状態というのは如何なものか。
こんな下手な映画を作った監督は誰だと思って見ると、カナダ出身のクリスチャン・デュゲイだった。なお、ショーのチームの一員ノヴァック役を演じるリリアナ・コモロウスカは、デュゲイの奥さん。
クリスチャン・デュゲイは『スクリーマーズ』(1995年)や『アサインメント』(1997年)など侮れないB級映画を作り、一部の映画マニアから注目されていた監督であり、満を持しての大作進出が本作だったが、従前の硬派な演出を抑えて大衆化を図った結果、豪快に失敗したようだ。
なお、国連事務総長役のドナルド・サザーランドは『アサインメント』に続く起用となる。
クライマックスではピストルの弾道をよけるウェズというサスペンスアクションらしからぬ見せ場が炸裂するけど、スローモーションを駆使して優雅に決めた『マトリックス』(1999年)に対して、本作ではスローモーションの援護なくウェズがぴょこぴょこ跳ね回るので、せわしないったらありゃしない。
デュゲイにはデュゲイの良さがあるのだから、当時の流行りものに安易に飛びつくということはしてほしくなかった。『スクリーマーズ』や『アサインメント』を楽しんだ私としては、心からそう思う。