【良作】マトリックス_ボンクラ社員が世界の救世主だった(ネタバレあり・感想・解説)

異世界

(1999年 アメリカ)
サイバーパンクの完全な映像化作品であり、香港のワイヤーワークや日本のアニメなどの映像表現を拝借してカルチャー面での支持も集めた人気作なのですが、その本質はボンクラ社員が世界の救世主だったという現実逃避的な物語を圧倒的な説得力で描き切ったことであり、多くの人の共感を得る主人公を配置したことが成功の要だったような気がします。

作品解説

ウォシャウスキー兄弟初の大作

本作の脚本と監督を務めたのはウォシャウスキー兄弟(現姉妹)。

1994年、ウォシャウスキー兄弟はワーナーに『暗殺者』(1995年)と本作『マトリックス』の脚本をそれぞれ100万ドルで売りました。

1996年、兄弟はフィルムノワール『バウンド』(1996年)で監督デビューを果たしたのですが、同作が高評価を獲得したことから、ワーナーの製作部門トップだったロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラが本作の製作を決定。

プロデューサーにはワーナーと懇意にしていたジョエル・シルバーが就任し、大物プロデューサーの参加により、スタッフや資金の機動的な調達が可能となりました。

兄弟が最初に主演をオファーしたのはウィル・スミスであり、黒人と白人のコンビを考えていたことからモーフィアス役にはヴァル・キルマーを考えていたのですが、スミスは脚本を理解することができず、『ワイルド・ワイルド・ウエスト』(1999年)へと移っていきました。

その後、キアヌ・リーブスに話がいき、彼が脚本を完璧に理解できたことから兄弟はキアヌこそが最適であると感じたのですが、周囲はさらにリスクが高まったと懸念しました。

現在では信じられないのですが、当時のキアヌ・リーブスは『スピード』(1994年)以外の映画をことごとくコケさせており、落ち目のスターとして見られていたのです。

そして白人のキアヌに合わせてモーフィアス役には黒人のローレンス・フィッシュバーンをキャスティングし、またトリニティ役には無名だったキャリー=アン・モスをオーディションにより選び出しました。

役柄のオーディションに当たっては演技のみならず、パンチなどもさせてみて様になる動きをするかどうかを確認したようです。

全世界年間興収第4位の大ヒット作

本作は1999年3月31日に全米公開され、2位の『恋のからさわぎ』(1999年)に3倍以上の金額差をつけてぶっちぎりの1位を獲得。2週目に入っても売上高はほとんど落ちることなくV2達成。

3週目には『エディ&マーティンの逃走人生』(1999年)に敗れて2位に落ちたものの、根強い人気で4週目には1位に返り咲きました。

全米トータルグロスは1億7147万ドルで、年間興行成績第5位という好記録となりました。6300万ドルという大作としては控えめな製作費までを考慮すると、本作はかなりの大金星を挙げたということになります。

国際マーケットでも同じく好調であり、全世界トータルグロスは4億6351万ドル。こちらでは年間第4位でした。

感想

史上初めて成功したサイバーパンク映画

サイバーパンクとはSFのサブジャンルの一つなのですが、従来のサイエンス・フィクションの非現実性に対するカウンターとして、リアルな現実性が意識されています。

テクノロジーの発展によって肉体的・精神的な変容を余儀なくされる人間を緻密に描くことから、当該ジャンルは今という時代の写し鏡となっており、SF小説界では1980年代に一大ムーブメントが起こりました。

しかし、映画界は長らくその表現に手こずってきました。

ジェームズ・キャメロン製作・脚本×キャスリン・ビグロー監督の『ストレンジ・デイズ』(1995年)は製作費の5分の1も稼げないという大爆死だったし、サーバーパンクの大御所ウィリアム・ギブスンの小説を原作とし、ギブスン自身が脚色を行った『JM』(1995年)は批評家から惨憺たる評価を受けました。

『JM』には本作と同じくキアヌ・リーブスが主演していますね。サイバーパンク向きの俳優であるとの評価は本作以前からあったということなのでしょう。

そんな中、本作はサイバースペース、バーチャル・リアリティ、風俗、人間性の回復といったサイバーパンクの必須条件を網羅しつつも、娯楽映画のフォーマットに収めることで一般客からの支持も獲得し、批評的にも興行的にも大成功を収めました。

本作は、史上初めて成功したサイバーパンク映画であると言えます。

ボンクラ社員が人類の救世主だった

では、なぜ本作がそこまでの支持を獲得したのかというと、主人公の物語への感情移入が容易だったためだと思います。

主人公トーマス・アンダーソン(キアヌ・リーブス)は世界有数のソフトウェア会社に勤めるエンジニアなのですが、上司からの評価は低く、ある日も寝坊して遅刻をしてしまったために大目玉を喰らってしまいます。

アンダーソンにとって否定したい現実が目の前にあるのですが、決してそれがたいそうなものではなく、嫌な上司、嫌な会社、社畜生活といったものへの反発だからこそ、多くの観客が「これは俺の話だ」と感情移入したわけです。

そこにどストライクの美女が現れて「私たちはあなたを探していたの」と言われます。そして今の生活に戻るか、まだ見ぬ世界へと足を踏み入れるのかを選択を迫られ、後者を選んだところからアンダーソンの旅が始まるのですが、美女から「あなたを探していた」なんて言われると、誰だってそっち側へ行きたくなりますよね。

そこからアンダーソンはネオと名前を変え、機械に対するレジスタンス活動に従事する工作船ネブカドネザル号のクルーとなるのですが、みんなから「君が噂の選ばれし者か」と言われ、プログラムに参加すると「マジですごいわ、ネオ」と褒められ、リーマン時代からは考えられないVIP待遇を獲得します。

しかも美女とは両想いになるというおまけ付きで。彼女の名前はトリニティー(キャリー=アン・モス)と言い、一方的にこちらに惚れていたという、これまた会社と家の往復だけだったリーマン時代からは考えられないことになります。

自分はつまらない一般人ではなく、実は重要な使命を背負った特別な存在であるというイタイ妄想が本作の根底にあって、そのことが観客に刺さりまくったからこそ本作は大ヒットしたというわけです。

一風変わった世界観

もう一つ本作で光っていたのは、現実世界を虚構として描いたということです。

現実世界から幻想的なバーチャル・リアリティの世界に身を投じるのが一般的なSF映画のパターンなのですが、これをひっくり返したという点に本作の新奇性が宿っています。

すなわち、観客にとって現実に見える世界こそが作品内ではバーチャル・リアリティであり、馴染みのない未来世界こそが現実であるという驚天動地の発想が本作を唯一無二のものとしているのです。

加えて、現実の世界がバーチャルであるため、そのコントロール方法を会得することで超人のような動きをできるようになることが本作にアクション映画としての面白みを付加することにつながっており、例えば『JM』のように幻想的なバーチャル世界で戦うよりも遥かに面白いビジュアルをモノにしています。

抜群のコラージュセンス

そしてアクション映画としては、新奇性よりも既存ジャンルのコラージュによって全体を構築しているのですが、そのコラージュセンスが抜群であることも娯楽作としての好感度を大きくアップさせる要因となっています。

バーチャル世界における超人的な動きはカンフーで表現し、ガンファイトではジョン・ウーのスタイルを継承。そして文字通り銃弾が雨あられと降り注ぐ銃撃戦では日本のアニメーションの表現を、ネオとエージェント・スミスが対決する場面ではマカロニ・ウエスタンの様式を拝借。

この通り、世界各国の映像表現を貪欲に吸収してバーチャル世界の具体化を行っているのですが、オタクが喜びそうなところを選んできているあたりが実にうまいし、既存のテクニックを換骨奪胎して新たな意味合いを持たせることで、「パクリ」とは言わせないようにもなっています。

このあたりの匙加減のうまさも本作の醍醐味だし、続編2作ではこの塩梅が崩れたこともあって、本作の出来の良さが際立って感じられます。