(2003年 アメリカ)
セリフがわざとらしく説明が長いという欠点は『リローデッド』と同じくなのですが、後半に見せ場を集約させたことでアクション映画としての体裁はきちんと整っているし、話の締め方も理にかなっていて私は気に入りました。
作品解説
前作の半分程度だった興行成績
前作『リローデッド』と同時に製作された本作は、リローデッド公開の半年後、2003年11月5日に全世界60か国で同時刻公開されました。
ただし賛否両論だった『リローデッド』の反動もあってか、本作はワーナーが仕掛けたほど盛り上がらず、全米トータルグロスは1億3931万ドルで2億8100万ドルを稼いだ前作の半額以下に留まりました。
国際マーケットでも同じく低調で、全世界トータルグロスは4億2498万ドル。こちらもまた7億3500万ドルを稼いだ前作の半額程度でした。
感想
つまらない前半はひたすら我慢
前作『リローデッド』よりストーリーとアクションの遊離が気になっており、その傾向は本作でも継続しているのですが、長いセリフとアクションがサンドウィッチ状態だった『リローデッド』に対して、本作では前半部分に説明を集約させて後半を見せ場の連続にしているので、メリハリはできています。
その分、前半部分はかなりしんどいのですが。
トレインマンからネオを救出してからザイオン攻撃までのチンタラとした展開は如何ともし難く、チートと化したネオをどうやって本筋に関わらせないかという謎の努力も垣間見えてきて、何とももどかしい感覚を覚えました。
加えてこれまでシリーズを引っ張ってきたモーフィアス(ローレンス・フィッシュバーン)がほとんどチョイ役扱いとなっており、物語を積極的に進めていく主体が不在となってしまったために、いろんな人が入れ代わり立ち代わりにあーだこーだと状況を説明しているだけという、何とも集中しづらい構図になっていることもしんどかったです。
めくるめく後半に向けて、ここは我慢のしどころなのです。
ド迫力のザイオン攻撃
そして、中盤にてようやくやってくるのが本作における最大の目玉であるザイオン攻撃。
25万のセンチネルズがついにザイオンに到達し、パワーローダーに乗った部隊がこれに応戦。未来戦争をここまで真正面から描いた作品は前例がなく、その物量には圧倒されました。
ここで獅子奮迅の活躍を見せるのがミフネ(ナサニエル・リーズ)という軍人で、その名の通り東洋系であり、見た目はガテン系のおっさんです。この英雄像が象徴的なのですが、それまでの『マトリックス』シリーズにあったスタイリッシュさはこの場面にはなく、その戦いには痛みが伴っています。
感情を持たぬ魚群のような動きをするセンチネルズに対して、血と汗にまみれた軍人たちが徹底抗戦し、一人、また一人と散っていく。「頼むからそこまでにしてくれ」と見ている私までが機械にお願いしたくなるような無慈悲な戦闘には感情を持って行かれまくりでした。
この場面はシリーズを通しても最大の見せ場だったと言えます。
ドラゴンボール状態のラストバトル
そんなミフネらの健闘も空しく、リアルの戦場では物量で劣る人類側が圧倒的に不利であり、このままではザイオンは陥落という事態に陥ります。
これに対してネオは機械の総本山であるマシン・シティに乗り込み、その支配者であるデウス・エクス・マキナに対して取引を持ち掛けます。
もはや制御不可能なウィルスと化したスミスはマトリックスを飲み込んでおり、このまま放置していれば機械文明全体をも破壊しかねない危険な存在。そこでネオはスミスを倒す代わりに、ザイオンからの撤退をマキナに約束させるのです。
ここからネオとスミスのラストバトルが始まるのですが、ズラっと並んだ数千のスミスが見守る中、代表格の一人とネオが刺しの勝負をする場面はリアル・ドラゴンボールでしたね。この見せ場は燃えました。
二人は自由に空を飛び回り、ビル群を破壊し、衝撃波で車が舞う。マトリックスが行きつくのはこういう場面だろうなと想像はしていたものの、いざ実際の画面で見せられるとあまりの迫力と面白さに感動しました。
また、この場面では素晴らしいBGMもアクションを援護しています。
第一作以来のドン・デイヴィスが本作の音楽も担当しているのですが、テクノロジーを扱った作品だけに電子音楽が多くを占めていたこのシリーズにおいては例外的に、この場面ではコーラスを使ったプリミティブな味付けが施されています。
ここでコーラスを使うというのはウォシャウスキー兄弟の発案だったようなのですが、絶望的な世界観を表現することにこの重厚なBGMが大きく貢献しており、またオペラの劇構造とトリロジーのクライマックスが見事に整合し、物凄い映像体験を引き出しています。
ちなみにこのコーラスはサンスクリット語であり、高校時代に世界史をとっていた方にはお馴染みの『ウパニシャッド』の一節が使用されています。
妄想から真実へ
闇から光へ
死から不滅へと導く
この詩もまた『マトリックス』の世界観と見事に整合しており、歌詞の意味を知った時には身震いしました。
古典や小説などからの引用がマトリックスシリーズの醍醐味なのですが、クライマックスでは紀元前にインドで編纂された宗教文書までが持ち込まれている。この幅広さ・奥深さには感動いたしました。
≪マトリックス シリーズ≫
【良作】マトリックス_ボンクラ社員が世界の救世主だった
【凡作】マトリックス リローデッド_下品なロマンス部分
【良作】マトリックス レボリューションズ_ド迫力の全面戦争
【良作】マトリックス レザレクションズ_上出来なセルフパロディ