【良作】フェイス/オフ_濃厚コッテリなジョン・ウー総決算(ネタバレあり・感想・解説)

クライムアクション
クライムアクション

(1997年 アメリカ)
ジョン・ウーの過剰な演出とハリウッド資本が見事な連携を見せたアクション大作。見せ場は目を見張るほどド派手なのですが、それらすべてのアクションは登場人物の感情表現として機能しており、かつてないほどエモーショナルなアクション映画となっています。

© Touchstone Pictures

あらすじ

FBI捜査官ショーン・アーチャー(ジョン・トラボルタ)は自分を狙った狙撃が急所を外し、貫通した弾が当たって息子マイケルを失った。6年後、執念の捜査が実って狙撃犯である国際テロリスト キャスター・トロイ(ニコラス・ケイジ)を追い込み、昏睡状態で逮捕するが、キャスターが逮捕直前に毒ガス爆弾をLAのどこかに仕掛けていたことが判明する。爆弾のありかを知っているのはキャスターの弟ポラックスだけだが、精神異常者のポラックスが口を割ることはない。そこでFBIの技術班から特異な提案を受ける。顔面移植手術によってアーチャーをキャスターに改造し、キャスターとして刑務所に潜入してポラックスから爆弾のありかを聞き出してはどうかと。悩んだ末に、アーチャーは危険な潜入捜査を引き受ける。

スタッフ・キャスト

ジョン・ウーのハリウッド進出3作目

香港ノワールの開祖にして、舞踏のように華麗な銃撃戦を発明した偉人です。

『ハード・ターゲット』(1993年)でハリウッドに進出。『ブロークン・アロー』(1996年)を経て本作がハリウッド3作目となるのですが、スタジオからの激しい干渉に遭って思うような映画に仕上げられなかった前2作からは一転して、本作では現場での全権限、すなわち脚本の書き換えもキャスティングも編集も自由に行えるという、当時スピルバーグやスコセッシクラスにしか許されていなかったほどの権限を与えられ、濃厚コッテリなアクション大作に仕上げています。

ジョン・トラボルタとウーの2度目のコラボ

FBI捜査官 ショーン・アーチャーを演じるのはジョン・トラボルタ。70年代後半のアイドル的な人気からの80年代の凋落、『パルプ・フィクション』(1994年)での復活と浮き沈みの激しいキャリアにおいて、絶頂期に出演したのが本作でした。

前年にも『ブロークン・アロー』(1996年)に主演しており、ジョン・ウー監督とのコラボも二回目。抜群の安定感を見せます。ただし『ブロークン・アロー』の時とは比較にならないほど太っちゃったのはなぜなんでしょうか。ニコラス・ケイジの体格と合わせるためにはスリムであるべきだったんですが。

アクション俳優ニコラス・ケイジを確立した作品

国際テロリスト キャスター・トロイを演じるのはニコラス・ケイジ。現在ではアクションのイメージの強い俳優ですが、元はブロックバスターとは無縁の演技派俳優であり、『リービング・ラスベガス』(1995年)ではアカデミー主演男優賞を受賞しています。

転機となったのはマイケル・ベイ監督の『ザ・ロック』(1996年)で、本作のキャスティング案にもあがっていたアーノルド・シュワルツェネッガーに断られたFBI捜査官役を演じて、これが初のアクション映画となりました。

ただし『ザ・ロック』では戦闘経験のないバディの一方という位置づけであり、その時点では演技派俳優がたまたまアクション映画にも出てみた的な扱いだったので、彼のアクションスター化を決定づけたのは本作と、本作と同時期に公開されたサイモン・ウェスト監督の『コン・エアー』(1997年)ということになります。

二丁拳銃を撃つ姿はなかなか様になっており、アクション俳優への転向は正解だったと思います。

作品解説

タイトルは「対決」と「顔を剥がす」のダブルミーニング

フェイス・オフとは対決の意味であり、本来はアイスホッケーで向かい合った二人の間にパックを落とす試合開始の合図をフェイス・オフと呼び、それが一般化したものです。

また、これを単語に分解すると「顔(Face)を剥がす(off)」とも読めることから、このタイトルは作品のテーマと設定を同時に表現したダブルミーニングになっています。

タイトルにスラッシュが入っているのはアイスホッケーの映画だと勘違いされないようにというジョン・ウーのこだわりだったのですが、スタジオはこのスラッシュをとることを要求していたようです。スラッシュが入る方がかっこいいので、ジョン・ウーの判断で正解でした。

元はSF映画だった

本作の脚本はジョン・フランケンハイマー監督の『セコンド/アーサー・ハミルトンからトニー・ウィルソンへの転身』(1966年)にインスパイアされており、元は200年後を舞台にしたSFでした。

しかし現場の全権限を与えられたジョン・ウーがドラマ要素を強め、そのためには現代劇に変更する必要ありと判断したことから、脚本は全面的に書き換えられました。

なお、現実の世界での顔の移植手術は2012年に成功しています。

当初のキャスティング案はスタ×シュワだった

今となってはジョン・トラボルタvsニコラス・ケイジという組み合わせ以外は考えられない作品ですが、当初はスタローンとシュワルツェネッガーの共演作として考えられていました。後にスタ×シュワのW主演が実現した『大脱出』(2013年)では、舞台となる刑務所がまんま本作のエア・ワン刑務所でしたね。

結局、ドラマ要素を強めたいというジョン・ウーの意向で演技のできる俳優をキャスティングする方針となり、アカデミー賞受賞者のニコラス・ケイジと、ゴールデングローブ賞受賞者のジョン・トラボルタに落ち着きました。

企画段階ではスタ×シュワ以外にもいろんなキャスティング案が考えられていたようで、以下が考慮されていた組み合わせです。

  1. ハリソン・フォード×マイケル・ダグラス
  2. ブルース・ウィリス×アレック・ボールドウィン
  3. アル・パチーノ×ロバート・デ・ニーロ
  4. ジャン=クロード・ヴァン・ダム×スティーブン・セガール

1.はプロデューサーのマイケル・ダグラス自身が主演するという案。1990年に書かれた初期稿はもともとジョエル・シルバーの手元にあり、1995年には『デモリションマン』(1993年)のマルコ・ブランビヤが監督すると発表されていたのですが、これを自身とハリソン・フォードの共演作にしたいと考えたマイケル・ダグラスが買い取ったという経緯があります。当時二人のイメージは近かったらしく、スティーヴン・ソダーバーグ監督の『トラフィック』(2000年)ではハリソン・フォードが降板した大統領補佐官役をマイケル・ダグラスが演じました。

2.はジョン・マクレーンvsジャック・ライアンという対戦カード。二人はポンコツサスペンス『マーキュリー・ライジング』(1998年)で共演していますね。当時のアレック・ボールドウィンは精悍なエリート官僚役が似合っていたので、ショーン・アーチャー役としては結構イケたと思います。

3.は言わずと知れた『ヒート』(1995年)のコンビ。ただしこの二人が二丁拳銃をバンバンぶっ放す画には相当な違和感があり、実現しなくて正解だったかも。

4.は一気にB級化しますが、90年代は両者共に全米No.1ヒットを連発していたスターだったので、夢の競演という意味では貴重かも。ただしアクションでは銃撃ではなく格闘がメインになったと予想されるので、作品全体のイメージがガラっと変わったはず。『デモリションマン』(1993年)でも二人の共演が考慮されていました。

全米年間興行成績第8位の大ヒット

本作は1997年6月27日に公開され、ディズニーのアニメ『ヘラクレス』(1997年)や前週の1位『バットマン & ロビン Mr.フリーズの逆襲』(1997年)を抑えてNo.1を獲得。なお4週目に入った『コン・エアー』(1997年)も5位に留まっており、当時のニコラス・ケイジの人気がいかに凄かったかが分かります。

年間1位を獲ることとなる大ヒット作『メン・イン・ブラック』(1997年)が驚異的なオープニング興収を挙げた翌週には2位に後退したものの初週と比較した売上高の減少は少なく、最終的な全米トータルグロスは1億1227万ドル、全米年間興行成績第8位という大ヒットとなりました。

世界マーケットでも同じく好調で、全世界トータルグロスは2億4567万ドルとなりました。

感想

『インファナル・アフェア』の素

顔を入れ替えるという特異なSF設定こそ置かれているものの、トラブルから潜入捜査官が元の身分に戻れなくなるという本作の骨子部分は通常のサスペンス映画と通底しており、それは『インファナル・アフェア』(2002年)や、そのリメイクのアカデミー賞受賞作『ディパーテッド』(2006年)へと繋がっていきます。

『インファナル・アフェア』はジョン・ウーの古巣である香港で製作された映画だし、『ディパーテッド』はジョン・ウーの才能を認めてハリウッド進出を後押ししたマーティン・スコセッシ監督作品ということで、これら3作は私にとっては親戚関係にあるように見えます。

犯罪者にも人間的な生活がある

主人公アーチャーとトロイは憎しみ合っているからこそ、誰よりもお互いを知り尽くしているはずだという前提は面白いし、正義の捜査官が憎むべきテロリストになりきることで、これまで血の通った人間として見てこなかった相手にも守るべき家族や生活があったことを知るというドラマは興味深いものでした。

トロイになりすましたアーチャーがサーシャ(ジーナ・ガーション)とその息子アダムと合流する場面。数日前にFBI捜査官として任意聴取した際には、アーチャーにとってサーシャはロクでもない犯罪者の内縁の妻でしかなく、「息子を取り上げるぞ!」などと脅しをかけていました。しかしプライベートで会ってみるとサーシャは息子の将来を案じる優しい母親だし、キャスターの息子アダムは可愛い子供なのです。

アーチャーは二人に対してすまなかったと謝ります。それは、表面上は今まで家庭を顧みてこなかった父キャスター・トロイの顔から発せられる謝罪なのですが、本心では君らの私生活を想像もしてこなくてすまなかったというFBI捜査官ショーン・アーチャーとしての謝罪であるという二つの意味を持っていました。

平凡な男になる犯罪者

トロイはトロイで、残虐なテロリストから一転して郊外の住宅地で暮らすFBI捜査官になりすますことで、家族関係の構築や組織内での出世というありふれた人生のテーマに直面します。

ここで興味深いのがトロイの行動で、極悪テロリストがFBI捜査官の立場を手に入れてどんな悪さをするのかと思いきや、彼は何もやりません。それどころか弟のポラックスには悪事をやめるよう指示し、自分が知っている犯罪組織の摘発を開始。このまま捜査官として上にいってやるぜ!とか言うわけです。

そして、悪党ならではの魅力で家庭も仕事も意外とうまくこなしていくという痛快さもあって、こちらのドラマも面白くなっています。

よくよく考えてみれば顔面入れ替えはトロイがやったことではなく、アーチャーの決定事項なんですよね。昏睡状態から目覚めると自分の顔の皮が剥がされていたので、仕方なくその場にあったアーチャーの顔を移植し、そのままアーチャーになりすますことにしたというトロイ側の事情もちょっとは汲み取ってあげたくなります。

心底憎んでいた人間になりきり、決して交わることがないと思っていた二人の私生活が交わった時に起こる化学反応。ジョン・ウーはこれを見事に描き出せているし、このドラマを描くためにはSFであってはならない、現代劇にしなければならないという見立ても正しいものでした。

テロリストが郊外の平凡な生活を送ることになるというドラマは社会風土に根差した部分となるので、SF設定ではうまく表現できなかったはずです。

芸術レベルの銃撃戦

アクションは冒頭から特盛状態。滑走路での飛行機vsヘリ、格納庫での銃撃戦、刑務所からの脱走、銃撃戦からのボートチェイスと、ボリュームもバリエーションも素晴らしいことになっています。

最高だったのが中盤における隠れ家での大銃撃戦であり、この場面の激しさや美しさは芸術の域に達していました。

無数の銃弾が飛び交う修羅場で突如効果音が消えて「オーバー・ザ・レインボー」だけが流れる場面や、ついにまみえたアーチャーとトロイが鏡を挟んで向かい合い、お互いの顔に向けて銃弾を発射するという作品のテーマを象徴する撃ち合いなど、煽情的なアクションが連続します。

また銃撃戦における動きの付け方が面白くて、ショーンと子連れのサーシャが画面手前にいて、画面奥の扉からサブマシンガンを持った警官が突入してくる。そこに、拳銃を持った男が右から左へとスライディングしてきて、警官を追い払います。事前に置いた手前と奥という縦の構図に対して、今度は右から左へという横の構図が入り、見せ場が立体的なものとなっています。

勢いが理屈を凌駕したボートチェイス

クライマックスのボートチェイスになってくると、見せ場はさらに突き抜けてきます。

トロイは片手でモーターボートを操縦してアーチャーと競り合いながらも、もう片方の手で握ったマシンガンで目の前の哨戒艇に向けて発砲し、乗っていた5人の隊員をわずか数秒で撃ち殺した直後、アーチャーのボートに体当たりして進路を変え、哨戒艇に突っ込ませるという超人的な動きを見せます。

また、一連の場面では俳優と似ても似つかぬスタントマンが配置されており、俳優本人ではないことが一目瞭然です。

はっきり言いますがメチャクチャなのですが、それだけのメチャクチャでも許せるほど見せ場の勢いが凄いことになっています。穴だらけの描写につっこむ気も失せるほど面白いのです。この辺りの過剰なまでのパワーと勢いは凄いなと思いました。

なお、このボートチェイスは『ハード・ターゲット』(1993年)の時に考えられていたアクションなのですが、ヴァンダムのこだわりで馬vsヘリのチェイスに変更され、その4年後の『フェイス/オフ』でようやく実現したという経緯があります。

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