(1996年 アメリカ)
スタローンが周囲から舐められまくりの冴えない保安官役で新境地を切り開いた作品であり、演技派達からいたぶられた末に正義の鉄槌を下すという、なかなか熱い映画でした。ディスクを買うほどではないが、午後ローでやっていると「見なきゃ」と思わせるだけの魅力はあります(褒めてんだか褒めてないんだか)。
感想
事なかれ主義のスタローン
タイトルのコップランドとは、警察官達が集まって暮らす街のこと。
マンハッタンの向こう岸のニュージャージーにそうした街があるのですが、社宅住まいを経験したことある方ならご存知の通り、職場を同じくする大人の集合生活は、往々にして独特な空気になるものです。
先輩は際限なく先輩面し続け、ローカルルールが幅を利かせる。
コップランドで言えばレイ(ハーヴェイ・カイテル)というおっさんが街の掟であり、彼に従わなければ肩身の狭い思いを余儀なくされます。
例えばフィッグス刑事(レイ・リオッタ)は、潜入捜査官ということもあって他の警官たちとは職場を共有しておらず、そのためかレイとその取り巻き達とは一線を画した行動をとるので、街では絶賛ハブられ中です。
そんな息苦しい街でも法執行機関は存在します。それを担当しているのがヘフリン保安官(シルベスター・スタローン)。
日本人には分かりづらい警察と保安官の違いについては↓の記事をご参照いただくとして、保安官と警察官は全然違う立場であり、保安官には保安官の職務というものがあるのですが、コップランドの警察官達はそれを望まない。
【保安官・市警・FBI】アメリカ捜査機関を徹底解説【DEA・CIA・NSA】
そのためヘフリンは彼らの言いなりとなっています。こちらがどう言ったって警察官たちは言うことを聞かないし、その一方で警察官の街には犯罪者が寄り付かないという事実もあるので、自分が一生懸命仕事をしなくても治安は守られている。
なもんで、レイの仕事はすべてがやっつけで、街の事情に明るくない部下から「こんなこと放っといてもいいんですか?」と言われても、「まぁまぁ、この街は特別だし」としか言えません。
そして住人たる警察官たちからしても、変にやる気のあるよそ者保安官に来られるよりも、ヘフリンのような御しやすそうな奴の方が好都合と考えており、彼の保安官就任にはレイの後押しがあったという裏事情も匂わされます。
いつもは正義を燃やすスタローンが、ここではやる気のない事なかれ主義の保安官ということが新鮮でした。
またヘフリンが警察官達から舐められまくっており、この街では「保安官」という言葉がダチョウ倶楽部における「リーダー」並みに軽いという点も泣かせます。
何かあると「黙っとけぇや、保安官」と言って、喫煙を見られたヤンキーのように絡んでくる警察官達が不愉快で仕方ありませんでした。
プライベートでも奥手のスタローン
そんなヘフリンですが、もともとは警察官志望だったが、若い頃のハプニングで片耳の聴覚を失ったために、その希望が叶わなかったという過去があります。
そのハプニングとは、車ごと川に落ちた美女を救出したというものであり、助けられた美女リズ(アナベラ・シオラ)とはいまだに交流が続いています。
で、ヘフリンが彼女に気があることはバレバレなんですが、モーションをかけないものだからリズは随分前に阿呆みたいな警察官ジョーイ(ピーター・バーグ)と結婚し、子供も作っています。
そんな状況でもリズに「良いお友達」として接し続けるヘフリンの、男エイドリアンかと言いたくなるような奥手ぶりには衝撃を受けましたね。
そして、プライベートでは派手な婚姻関係を誇っているスタローンが、ここまで中年童貞役にハマっていることも意外でした。何だかんだ言われていますが、この人は意外と演技ができる人なのです。
ついにブチ切れるカタルシス
そんなヘフリン保安官とコップランドですが、レイの甥っ子で、やはり警官のマレー(マイケル・ラパポート)が煽り運転を受けた際に動転して相手を死なせてしまうという事件が発生。
マレー本人は観念しているものの、警察官が刑務所に入れられれば大変なことになることは『地獄のマッドコップ』(1988年)や『デッドフォール』(1989年)などでお馴染みの事実。
大事な甥っ子をマット・コーデルのような目には遭わせられないと考えたレイは、咄嗟の判断でマレーの自殺を偽装し、彼をコップランドで匿うことにします。
が、書面上は死んだことになった人間をその後にどうするつもりなのかというマスタープランもなかったので、匿ったはいいがその扱いに困り始めるレイ。
まぁ阿呆なのですが、演じているのがハーヴェイ・カイテルなので、レイという男が必要以上に間抜けに見えていないのはキャスティングの妙でした。そして、
- そこまで豪快な不正をされるとさすがの俺も気付くぜというわけで、何か手を打たざるを得なくなるヘフリン
- 捜査の手が迫ってくることに焦り、問題の元凶であるマレーを始末しようとするレイ
- 死にたくないのでヘフリンを頼ることにするマレー
こんな感じで、いよいよヘフリンはどうするのかの判断を迫られます。
すると慕っていたリズが「ヘフリン、黙っていてよ」と言いに来たり、親友のフィッグスが別件で保険金詐欺を働いていたことがわかったりで、レイとその取り巻き連中はともかく、個人的な信頼を寄せていた者達までが不正どっぷりだったことに深く深く失望。
「なんじゃい!この街は!」と、ヘフリンはついにブチキレます。
普段はヘフリンへの敬意を示さない部下(ノア・エメリッヒ)も、刺し違えてでもやってやるぜという今のヘフリンの迫力には圧倒され、「よ、嫁がお産で」と言って帰っていく。
舐められ通しだったヘフリンが、ついにブチキレる様にはカタルシスが宿っていましたね。スタローンにとっても十八番の展開で、ようやく彼らしさが戻ったという気もしたし。
しかもその直前の縁日の場面で、実はヘフリンが物凄い銃の名手であることが発覚するので、この後に続くヘフリンの討ち入りへの期待値は高まりました。
討ち入りは地味だった
で、ショットガンを構えたスタローンがレイの家を目指す光景は、一人ワイルドバンチって感じで格好良かったのですが、ついに始まる討ち入りがアッサリ目だったのが残念でした。
数人を撃ち殺して終わりですからね。
また、レイが両耳ともやられてしまった都合上、映画も無音状態だったのですが、銃撃戦の醍醐味は腹に響くような銃声なので、音の演出という面でも微妙。
ここまでドラマで引き付けてきたのだから、少々派手なことをやっても観客は付いてくるので、華麗なるレイの射撃スキルが発揮される豪快な見せ場であっても良かったんですが。
デ・ニーロが役立たず
あと残念だったのが、ロバート・デ・ニーロ扮する内務調査官ティルディンが役立たずだったことですね。
ティルディンはレイと警察学校の同期ではあるものの、畑違いの道を歩んできました。で、同期ならではの勘もあってレイは何かやってると踏んでおり、その調査のためコップランドにやってきます。
露骨に嫌な顔をするレイに対し、「別に目的なんかなくて、ちょっと寄ってみただけだよ」と言ってはぐらかすティルディンは、この時点では凄腕風。
で、その足でヘフリンに会い、何かあったら自分に報告して欲しいと言います。
こういうフリがあったので、クライマックスではロッキーとジェイク・ラモッタの共闘が見られるものとばかり思っていたのですが、いざヘフリンが「情報提供したい」と申し出ると、「もう遅い」と言って帰してしまいます。
そうは言うもののティルディンは本当にレイへの調査を打ち切ったわけではなく、ヘフリンを泳がせて何かしらを掴ませようというものだったのですが、勇気を出してやってきたヘフリンに対して、その扱いって酷くないかと思ったり。
で、レイとの確執が決定的となって本当にピリピリしていたヘフリンの支援をするでもなし、銃撃戦を生き延びたヘフリンが連れてきたマレーを受領して終わりって、さすがに何もやらなさすぎです。
せっかくデ・ニーロという良い俳優を配置し、盟友ハーヴェイ・カイテルと共演させているのに、ここまで見せ場を与えていないのは勿体ない限りでした。