【凡作】ダブル・インパクト_ダブルゼータヴァンダム(ネタバレあり・感想・解説)

クライムアクション
クライムアクション

(1991年 アメリカ)
ヴァンダムが製作・脚本にまで口を出した結果、「俺をかっこよく撮れ」だけになってしまった凡作。滅茶苦茶ひどいわけでもないが、インパクトはダブルになっていない。

感想

ヴァンダムの俺様映画

中学生の頃に金曜ロードショーで見たけど、当時は面白いとは感じなかった。

なんだけど、なぜかうちには本作のセル版DVDがある。いつ買ったものだか自分でも覚えていない、本サイト恒例の「謎のDVDコレクション」の一本なんだが、吹替版未収録ということもあってこのDVDは今の今まで一度も見たことがない。何のために買ったんだか。

ちょっと前に午後のロードショーが山寺宏一さんの吹替版を放送してくれたので、結局そちらで再見することとなった。

午後ローさんには本当にお世話になりっぱなしだ。いつか菓子折り持ってお礼に行かなきゃいけない。

午後ローでの放送でもう一点感動したのは、HD画質だった点だ。国内ではBlu-ray化されていない作品なのだけど、HDでは古い映画とは思えないほどの高画質で感激した。

今回の鑑賞で香港のロケーションを捉えたショットがかなり美しいことに気づいたのだが、それもそのはずで、『ソイレント・グリーン』(1973年)や『スタートレック』(1979年)など70年代のSF映画で活躍した名匠リチャード・H・クラインが撮影監督を務めている。

名匠と言えば、後に『タイタンズを忘れない』(2000年)や『グランド・イリュージョン』(2013年)を手掛けるボアズ・イェーキンもノークレジットで本作の脚本に参加している。

当時のイェーキンはドル版『パニッシャー』(1989年)でデビューした直後で、香港のロケ現場に一か月間張り付きで脚本の手直しをしたらしい。

そんなわけでなかなかの豪華メンバーが参加した作品ではあるが、悲しいかな、映画そのものはB級アクションの域を超えていない。

ヴァンダム自身が製作と脚本に乗り出すという力の入れようなのだが、芸術的センスのないヴァンダムがクリエイティブ面での発言力を持つべきではなかった。

監督は『ブラッドスポーツ』(1988年)や『ライオンハート』(1990年)などでヴァンダムと繰り返し組んできたシェルドン・レティックという点を見ても、気心の知れた仲間で固めた、悪い意味でアットホームな現場だったことがうかがえる。

この脚本はもともとメナハム・ゴーランの手元にあったのだが、ヴァンダムの演技力では一人二役は持たないというのがゴーランの見立てだった。

また、ヴァンダムは『サイボーグ』(1989年)で組んだアルバート・ピュンに監督を打診したのだが、「君はこういうトリッキーな企画ではなく、純粋なアクションスターの道を考えた方がいいよ」とアドバイスされた。

そんなわけで古巣から断られてヴァンダム自ら製作に乗り出したという経緯があるので、ヴァンダムの俺様具合もマックスだったのだろう。

一人二役のヴァンダムを映すということにすべてが投じられており、筋の通ったストーリーとか、心揺さぶるドラマツルギーなるものはこの映画に存在していない。

エモーショナルではない復讐劇

香港の有力者だった実の父と母を乳児期に殺された双子がいる。兄アレックスは香港の孤児院に預けられ、弟チャドは父のボディガードだったフランク(ジェフリー・ルイス)と共に命からがらアメリカに逃れ、それぞれ大きく育っていた(両方とも演じているのはヴァンダム)。

孤児院育ちの兄アレックスは自分の身の上を知りようのない境遇にいたし、弟チャドも実の両親については何も教えられてこなかったのだが、アレックスの生存を知ったフランクから事の真相を聞かされ、二人でアレックスに会いに行くことにする。

ここから兄弟げんかをちょいちょい挟みつつ、親の仇への復讐が始まるのだが、アレックスとチャドが敵に対する怒りを表現する場面がないので、二人のスイッチがどこで入ったんだかがよく分からない。

物心ついた時点で死亡していた親の話なんて実感わかないだろうし。

一番必死になっているのはフランクで、「あれがお前らの親の仇だぞ。いいのか?許しておけるのか?」みたいな煽り方をするんだけど、本人たちが何も感じていないのであれば、放っときゃいいのにとも思う。

親の仇というのが現在では香港の実業家として名を馳せているグリフィス(アラン・スカーフ)と、香港の裏社会を牛耳っているザング(フィリップ・チャン)であり、香港の表裏両面の顔役を相手にすることになるわけだが、この二人に強敵感ゼロなのも凄い。

どう見てもダブルゼータヴァンダムが勝てる相手でしかないのだ。

製作チームは一人二役のヴァンダムを描くことにすべてを投じており、どうやって悪党を強く見せるのかには特段の注意が払われていなかったのではないかと思う。それほどまでにインパクトがない。

そしてアレックスはザングの手下として働いているという関係性もあるのだけど、天涯孤独のアレックスが身を寄せていた相手が親の仇だったという複雑な心境も表現できていない。

メナハム・ゴーランが心配した通り、ヴァンダムでは感情的な場面をこなすことができず、脚本上では確かに存在していたドラマティックな構成要素も、ことごとく無視して進めることにしたのだろう。

ヤンスエが素晴らしすぎる

そんなわけで映画としてはグダグダすぎるのだけど、唯一光っていたのが敵方における暴力装置の存在だ。

ザングにはムーンという手下がいて、こいつがアレックスとチャドの両親を殺す際にも重要な役割を果たしていたんだけど、そのキャラ立ちが異様すぎて映画はいろんなものを取り戻している。

演じているのはヤン・スエ。ブルース・リーの晩年のスパーリングパートナーだった御仁であり、『燃えよドラゴン』(1973年)でもムキムキの強敵ボロを演じていた。

本作でも圧倒的な目力と肉厚でヴァンダムに襲い掛かるのだけど、その存在感の前ではダブルゼータヴァンダムすら霞んでしまう。

ヤン・スエとヴァンダムは『ブラッドスポーツ』で共演して以来の親友であり、本作を制作する際にヴァンダムはヤン・スエとの共演を激しく望んだらしい。また『ダブル・インパクト2』を作るなら主人公の友人役でヤン・スエと再共演したいと、何とも心温まるビジョンを明らかにしたこともある。

自分自身と知り合いには果てしなく優しいヴァンダムは、どこまでも俺様な映画人であった。

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