【凡作】ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART1_イーサンはニキータ!?(ネタバレあり・感想・解説)

軍隊・エージェント
軍隊・エージェント

(2023年 アメリカ)
ず~っとアクションをやってて飽きは来ないけど、話は妙に込み入ってて分かりづらいし、二部作の宿命で未消化の構成要素も多いし、満足度はイマイチだった。来年公開の続編の出来次第だと思う。

作品解説

製作自体がインポッシブルなミッションだった

本作は話題性に事欠かない作品だった。

主要撮影が始まったのは2020年2月だったが、コロナ禍で現場は一時凍結。

トムほどの資産があれば数年ほど映画製作が止まったところでまったく困ることはないのだが(実際、ほとんどのハリウッドセレブはその道を選んだ)、一方でスタッフたちは廃業せざるをえなくなる瀬戸際にまで追い込まれた。

スタッフたちを食わせるべく、2020年9月に撮影を再開。

あえてこの状況だからこそ大作を作り、映画製作は継続可能だという手本を業界内で示したいとの思いから、トムは立ち上がったのだった。相変わらず凄い男である。ルックス以上に中身が男前だ。

そんな中、2020年12月に感染対策を怠ったスタッフをトムが叱責する録音データが出回った。

当初はスターによるパワハラという文脈での報道だったが、よくよく聞いてみるとトムは正論しか言っていないではないか。結果、世論は「トムかっこいい!」という方向に振れた。

また、クライマックスのため実際に爆破できる橋がないかというトム・クルーズの要望のもと、スタッフは爆破可能な橋探しを敢行し、老朽化が進んでいたポーランドの橋がピックアップされた。

2016年から使用されていない橋だったこともあり、当初、ポーランド政府は撮影に乗り気だったのだが、「ハリウッドセレブがポーランドの田舎の橋を爆破しようとしている」という文脈はあまりにショッキングすぎた。

さすがにこちらは国際的な非難を浴びて方針を撤回。採石場に組まれた巨大セットとCGIによって代替された。

すべての撮影は2021年2月に完了したが、依然としてコロナ禍が継続している中で劇場公開の目途は立たず、当初予定の2021年11月からは大幅に遅れた2023年7月の公開となった。

何とも困難なミッションである。

感想

話がややこしい

初日7月21日にIMAXで見てきたけど、話題作だけあって満員。上映初日のこの熱気が大好きだ。

隣の席のおじさんは唐揚げとドリンクのセットを買っている。ちょうど小腹が空いてくる時間だし、コンセッションで何か買って来ればよかったとちょっとだけ後悔した。隣から漂ってくる唐揚げのいい匂いに気が取られる中で映画開始。

冒頭からロシアの潜水艦が撃沈されるなど、大変景気がよろしい。

舞台はベーリング海→アムステルダム→アラブと次々と飛んでいくが、お馴染みのテーマ曲はまだ流れない。

長い。アバンタイトルがとにかく長い。

最近では007もアバンタイトルが長時間化しているが、そんなものの比ではないほどの長さ。オープニングトークで1時間以上を使う『ラヴィット』を彷彿とさせられた。

冒頭の潜水艦撃沈は自己進化を開始したAIの仕業であり、全世界の政府は当該AIの脅威への対応策に乗り出している。

そんな中、AIを制御できるという鍵を巡っての国際的な争奪戦がはじまっており、その中心人物の一人が、第5弾『ローグネイション』(2015年)よりシリーズに参戦したイルサ(レベッカ・ファーガソン)だというので、居ても立ってもいられなくなったイーサン・ハント(トム・クルーズ)も動き出すというのが、ざっくりとしたあらすじ。

世界の命運を握る鍵の争奪戦というと分かりやすいんだけど、複数登場するキャラクター達はそれぞれに別の思惑を持っており、何より主人公のイーサン自身の狙いも鍵そのものにはないので、話はかなりややこしい。

↓自分の頭を整理するために各自の行動原理をまとめてみたが、この認識が正しいかどうかの保証はどこにもない。

  • イーサン・ハント(トム・クルーズ):鍵の一つを持つイルザが賞金首になったことから、彼女の身の安全を守るため、シリーズお馴染みのルーサー(ヴィング・レイムス)&ベンジー(サイモン・ペッグ)を引き連れて争奪戦に参戦
  • CIA長官キトリッジ(ヘンリー・ツェニー):米国政府からの指示で鍵を手中にしようとしており、その実現のためにイーサンを動かすが、イーサンとの間にも緊張関係があるため、その監視役として2名のCIAエージェントも現場に送り込んでいる。
  • 武器商人アラナ(ヴァネッサ・カービー):米国政府に鍵を高値で売りつけるべく、女泥棒グレースを使って鍵を盗み出そうとしている。
  • 女泥棒グレース(ヘイリー・アトウェル):アラナに雇われた泥棒で、アブダヴィ空港で所有者から鍵を盗んだところをイーサンに捕まる。当初イーサンとは敵味方の関係ではあったが、そのうち仲間となる。
  • ガブリエル(イーサイ・モラレス)&パリス(ポム・クレメンティエフ):争奪戦の現場に現れては場を荒らす殺し屋。AIそのものの意を汲んでいる様子だが、詳細は不明。ガブリエルはイーサンと過去に何かあった様子だが、こちらも詳細は不明。

鍵の争奪戦と言いつつ、鍵そのものに関心を持っているのはキトリッジだけという点が、まずわかりづらい。また、度々姿を現すガブリエル&パリスがイマイチよく分からん存在であることも、話をややこしくしている。

単純な鍵の争奪戦にすればよかったのに、なぜこんなに話をこねくり回してしまったんだろうかと不思議で仕方なかった。

また、序盤では「AIの脅威を避けるため、各国諜報機関はデジタルを放棄している」という説明があり、実際、何百人ものCIA職員が昔ながらのタイプライターを打ち込んでいるという描写が入る。

デジタルを使えないという制約条件を設けることで、テレビシリーズ『スパイ大作戦』のようなアナログのスパイ合戦にしようとしているのかと思ってちょっと期待したんだけど、本編では依然としてノートPCやスマホなどがガンガン出てくるので、最初にぶち上げた設定は一体どこに行ったんだとガッカリした。

あと、大事な鍵なのに登場人物たちは無造作にポケットにつっこみ、それをグレースにスラれるという展開が何度もあることもカックンだった。お前ら、もっとまじめにやれ。

そんなわけで、お話の方はかなりよろしくない。第一作の時点から無駄にややこしい話が邪魔だと感じてきたシリーズだが、その傾向が最高潮に達している。

イーサン=ニキータ

あと無駄設定だと感じたのが、IMF(インポッシブル・ミッション・フォース)は元犯罪者集団であるという後付け設定が加えられたことだ。

イーサン自身も30年前に殺人罪に問われており、終身刑かIMFかという選択を迫られて、IMFに入ったらしい(誰だってそっちを選ぶよね)。

ルーサーやベンジーも同じく、過去に何かしらをやらかし、その清算があるのでIMFを抜け出すことができない身であることが仄めかされる。

要は彼らは『ニキータ』(1990年)みたいな存在だったということなんだけど、これでドラマ性が増したかと言うと、そうでもない。

それどころか、これまで国家のために骨身を削ってきた彼らのドラマの根本も揺らいでしまうので、私はまったく不要な設定だと感じた。

続編のPART2でこの辺りは深堀されることにはなるんだろうけど、現時点では蛇足でしかない。

手に汗握るクライマックス

とまぁお話の方はいただけなかったんだけど、メインのアクションは素晴らしかった。ず~っとアクションをやっていて、ストーリーはその間をつなぐ程度のものでしかない。

作品全体のメインビジュアルになっているトムの崖降下は、もはや頭おかしいレベルだった。よくあんなことしたなと。

前作『フォールアウト』(2019年)のHALOジャンプと同じく、ストーリー上は全く意味のないアクションではあったけど(場面が丸々なくても話は成立する)、全く必然性のないアクションに命を懸けるトムのサービス精神は好意的に評価したくなった。

それよりも凄かったのはクライマックスの列車アクションで、切れた鉄橋から順々に落ちていく車両からの脱出という大アクションには、見ているこちらも力が入りまくりだった。

よくよく考えるとセガールの『暴走特急』(1995年)のクライマックスと同じと言えば同じなんだけど、俳優がかなり危険な撮影を敢行しているということが見るからに伝わってくる本作の迫真性には唯一無二のものがある。

話はマズいがアクションはイケるというのが、本作への評価である。

PART2の複線回収次第では評価が変わるかもしれないが、本作単品だと良い点と悪い点が併存した並み程度という評価となる。

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