【凡作】デルタ・フォース_B級街道まっしぐら(ネタバレあり・感想・解説)

軍隊・エージェント
軍隊・エージェント

(1986年 アメリカ・イスラエル)
80年代の能天気なアクション大作。ツッコもうと思えば無限にツッコめるのですが、チャック・ノリスが大暴れする様には道理を超越した楽しさがあって、そういうものだと思って見ればそれなりに満足できます。

スタッフ・キャスト

製作・監督・脚本はメナハム・ゴーラン

1929年イスラエル出身。

従弟のヨーラム・グローバスと共にイスラエルからハリウッドに殴り込みをかけ、1980年代前半には「早い、安い」を売りにしたキャッチーなB級映画の量産体制を確立して大儲けしました。

ただしどれだけ儲けてもハリウッド界隈での尊敬を得られないことに不満を持っており、1980年代半ばよりメジャーに負けない大作路線を模索し始めました。

シルベスター・スタローン主演の『コブラ』(1986年)『オーバー・ザ・トップ』(1987年)、SFホラー『スペースバンパイア』(1986年)などがこれにあたり、本作もその流れの中で製作されました。

ただし大作路線でヒット作は生み出せずに会社の経営が圧迫され、彼が率いるキャノン・フィルムズ(日本のキャノン株式会社とは無関係)は1993年に倒産しました。

主演はチャック・ノリス

1940年オクラホマ州出身。貧しい家庭で育ち、少年期には内向的で運動も苦手だったようなのですが、18歳の時に憲兵隊に入隊し、そこで格闘技を学びました。

1962年に退役した後には格闘技の大会で戦績を上げ、1968年には全米プロフェッショナル空手大会のミドル級王者となりました。それが呼び水となって経営する道場は大盛況となり、スティーブ・マックィーンを始めとして映画俳優にも稽古をつけるようになりました。

その後、ハリウッドでアクションシーンの振り付けなどを担当するようになり、その時の仕事仲間だったブルース・リーからの依頼で『ドラゴンへの道』(1972年)のラスボス役で映画初出演を果たしました。

1970年代半ばより自分で企画し資金集めも行ったインディペンデント映画で俳優としてのキャリアを広げていき、『地獄のヒーロー』(1984年)以降はキャノンフィルムズの看板俳優の一人となりました。

またノリスは駆け出し時代のジャン=クロード・ヴァン・ダムの面倒を見ており、彼をメナハム・ゴーランに紹介したことがデビュー作『ブラッドスポーツ』(1988年)の製作に繋がりました。二人は『エクスペンダブルズ2』(2012年)にて初共演を果たしています。

作品解説

デルタフォースとは

アメリカ陸軍の特殊部隊なのですが、アメリカ政府はその存在を認めておらず公然の秘密状態にあります。米陸軍内にはもともと特殊部隊グリーンベレーがあったのですが、それとは別の対テロ部隊として1977年に創設されました。

グリーンベレーにはA(アルファ)分遣隊、B(ブラボー)分遣隊、C(チャーリー)分遣隊があって、その並びでこの組織はD(デルタ)分遣隊と名付けられ、その通称としてデルタフォースという名前が定着したようです。

対テロという目的があるので戦闘はもちろんのこと潜入や偵察も任務の範囲であり、高い語学力なども求められる大変な部隊のようです。本作においてもチャック・ノリス扮するスコット隊長が敵地ベイルートに潜入する場面がありますね。

海軍特殊部隊ネイビー・シールズと比較するとエンタメ作品での登場頻度が非常に少なく、本作と『ブラックホーク・ダウン』(2001年)くらいしかめぼしい作品が見当たりません。

潜入も行う特殊部隊ってかなりおいしい題材だと思うのですが、エンタメ作品においてなぜこんなにも冷遇されているのかは謎です。

興行的にはイマイチだった

本作は1986年2月14日に全米公開。ニック・ノルティ主演のコメディ『ビバリーヒルズ・バム』(1986年)とスピルバーグ監督の歴史ドラマ『カラー・パープル』(1986年)に敗れて初登場3位というイマイチな初動であり、その後も順位を上げることなく公開後4週目でトップ10圏外へフェードアウト。

全米トータルグロスは1776万ドルでチャック・ノリスが前年に出演した『野獣捜査線』(1985年)の2034万ドルをやや下回り、1200万ドルという製作費を考えるとイマイチな結果に終わりました。

感想

ポリコレ度外視の作風

本作は、1985年6月に発生したトランスワールド航空847便テロ事件をモチーフにしていると思われます。

イスラム過激派がイスラエル政府に同志の釈放などを要求したこの事件をメナハム・ゴーランは意外なほど忠実になぞってはいるのですが、国際政治の複雑さにまでは言及しなかった結果、「アラブ人=乱暴な悪党」「アメリカ軍=ワールドポリス」という実に単純な図式にまで落とし込まれています。

製作当時はこれで良かったにしても、現在の目で見るとものすごい違和感を感じました。

ジョエル・シルバーのように架空の国名を使うことで政治的批判から逃れる作りにすればよかったのに、実際の国名をモロに挙げていることが視聴者側のノイズになってしまっています。

ドラマがいろいろと雑

中東で起こったこのハイジャック事件に対し、アメリカ陸軍特殊部隊デルタフォースが出動。

イスラエル国防軍にもサイェレット・マトカルという優秀な特殊部隊がいたはずなのですが、なぜここで直接の当事国ではないアメリカが特殊部隊を送り込んでいるのかは謎です。ま、メナハム・ゴーランの映画なのであまり真剣に考えても仕方ないのですが。

ともかくデルタフォースが出撃することになるのですが、隊員達は5年前に退役したがいまだ慕い続けている元隊長スコット・マッコイ(チャック・ノリス)にこっそりと手紙を送り、今回の指揮を執って欲しいと依頼をしていました。

元部下達の思いに応えて戻ってくるマッコイ元隊長。すると、すでに軍籍にはないはずのマッコイが当然の如く隊長の座に就き、部隊はハイジャックの現場であるベイルートへと飛びます。

バイトのシフト変更並に軽い隊長の交代劇。軍隊、しかも隠密任務を遂行しようとしている特殊部隊がこんなことでいいのだろうかと頭を抱えてしまいました。

そもそもマッコイが退役したのは、5年前のイランで上層部の立てた無理な作戦の失敗に激怒してのことでした。これもまた1980年のイランアメリカ大使館人質事件(『アルゴ』で描かれていた事件)において失敗した現実の人質奪還作戦をモチーフにしたものだと思われるのですが、ともかくマッコイ隊長は軍隊のやり方に腹を立てて辞めたわけです。

そんな前振りがあった以上、今回の現場復帰をマッコイが躊躇したり、「今回は現場主導で動く!危なければ引き返す!」と上層部に対して条件を切る場面などが必要だったと思うのですが、そうした経緯を踏まえずに本編が進み始めるので違和感しかありませんでした。

だったら退役済という設定なんて要らなかっただろと。

緊張感皆無の偵察任務

舞台となる当時のベイルートは現在とは違いPLOが実権を握りソ連の支援も受けていた、西側諸国にとっては「あちら側」の世界でした。

よってアメリカ人が堂々と入国できる状況にはなく、マッコイ隊長は1名の部下と共に粗めの変装で現地に潜入し、人質が閉じ込められている敵の拠点などの情報収集を行います。

本人は変装しているつもりだが、どう見てもタダ者ではないマッコイ隊長

ただし何が起ころうと敵に負けることはないであろうチャック・ノリスの圧倒的安定感もあって、危険な敵地での偵察任務であるにも関わらず緊張感は皆無。実際、マッコイ隊長は身分を隠す気もなく早々に敵とのドンパチを始めてしまうし。

そんなこんながありつつもマッコイ隊長は敵の拠点を確認し、公海上の艦艇で控えていた本隊に上陸を指示。デルタフォースは闇に紛れてベイルートの海岸に上陸するのですが、その海岸には彼らが使う大量の特殊車両やバイクがすでに準備済という謎。

一体誰がこれを持ち込んだのか分かりませんが、これだけの資材を敵地で自由に動かす能力があるのなら、デルタフォース本隊も海岸に上陸するというしちめんどくさい方法を取らなくてよかったのではないかと思います。

理屈抜きに楽しいドンパチ

ここから人質救出&敵基地殲滅ミッションがスタートするのですが、デルタフォースが圧倒的な強さで進撃し、赤子の手を捻るかの如くいとも簡単にテロリスト達を倒していきます。

そこら中で景気よく上がる火柱。ダース単位でバタバタと倒れていくテロリスト。

今の時代では絶対に成立しないタイプの見せ場なのですが、80年代アクション特有の空気感の中では理屈を忘れて楽しむことができました。

マッコイ隊長が乗るバイクにはミサイルランチャーまでが備えられており、容赦なく標的を爆破。照準装置もなく撃てるミサイルって一体何なんだろうという疑問はさておき、鬼に金棒状態の過剰な武装には嬉しくなります。

一暴れする度に飛び出す「デルタフォースっていいだろ?」という感じのチャック・ノリスの決め顔も個人的には大好きでした。これくらい強くてカッコよくてこそアクションヒーローなのです。

クライマックスの大アクションで本作は多くのものを取り戻しました。

同じ音楽が流れ過ぎで飽きる

本作の音楽を担当したのはアラン・シルベストリ。ロバート・ゼメキス監督のお気に入りで『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)が代表作、近年では『アベンジャーズ』シリーズ(2012-2019年)を手掛けている映画音楽界の巨匠です。

そんなシルベストリが作曲した本作のテーマは80年代らしいシンセサイザーばりばりの曲調であり、今聞くと古臭さを感じます。ただしこれには悲しい理由があって、映画音楽の世界ではまだまだ駆け出しだった当時のシルベストリにはまともな予算が与えられておらず、オーケストラを使用できなかったのです。

そんなわけで苦肉の策としてシンセ全開のテーマ曲にしたのですが、古臭さを度外視すると軽快で耳に残るなかなか良い曲であり、インディ500の中継では長年このテーマ曲が使われてきました。なので映画は知らなくてもこのテーマは知っているという方は多いのではないでしょうか。

そしてデルタ・フォースが暴れ回る能天気な本作にはこの曲がマッチしており、戦闘場面をきっちりと盛り上げてくれます。

ただし、これまたシルベストリに与えられた予算の少なさが災いして、本作にはこれ一つしかテーマがありません。

だから同じテーマが繰り返し流れ続けます。マッコイ隊長が「こんな出鱈目な作戦に付き合ってられるか!」と怒って退役を申し出る場面でも、若い隊員が死んで悲しみに暮れる場面でもこの軽快なテーマ。

飽きました。

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