【凡作】トランスポーター_あんまり運んでないよね(ネタバレあり・感想・解説)

クライムアクション
クライムアクション

(2002年 フランス)
ステイサムのアクションはキレッキレなんだけど、お話の方は全然キレッキレではない。職人気質風なのにすぐにルールを破る主人公とか、途中から運び屋要素ゼロになるとか、最終的に何のために戦ってるのか分からなくなるとか。

感想

簡単にルールを破るトランスポーター

DVD化直後に見てあんまり面白くなくて、その後は一切見返してこなかったのだが、Amazonプライムのもうすぐ無料配信終了欄に入っていたので、20年ぶりに鑑賞した。

冒頭では強盗団のドライバーをするフランク(ジェイソン・ステイサム)だが、事前の契約より乗車人数が1名多く、このままでは発車しないと言ってガンとして譲らない。

強盗団のボスらしき男は仕方なしに仲間のうちの1人を射殺。死体を降ろしたところで、ようやくフランクは車を発進させる。

そこから先は素晴らしいドライビングテクニックでパトカーの追撃を振り切り、強盗団を約束の地にまで送り届けるフランクだが、追加料金を払うからその先にまで送ってほしいという追加依頼は断る。

徹底した準備と自己管理の下、確実に任務をやり遂げるフランクという男のストイックな仕事ぶりが描かれるこの導入部だけは百点満点だったんだけど、ここから先は尻すぼみに悪くなっていく。

  • 契約厳守
  • 名前は聞かない
  • 依頼品をあけない

3つのルールを自らに課すことで完璧な仕事をやり遂げてきたフランクだが、うち一つを破ってしまったことから想定外のトラブルに巻き込まれるというのが、本作の骨子。

続く任務で依頼品が動き、中身は人間だということに気づいたフランクはバッグをあけてしまうのだが、この大きな分岐点でフランクが逡巡した様子がないので、「一線を踏み越えちゃった感」がない。

この場面でのフランクからは「暑いしジュースでも飲ませてやろう」みたいな軽い気持ちしか感じられないのだ。

また、依頼品が若い女だと気づいた時点で「彼女を目的地に届けていいものか」と悩むのかと思いきや、仕事は仕事できっちりやり遂げるのだから、またしても「一線を踏み越えちゃった感」がない。

フランクにとっての転機だったのは依頼品を見てしまったことではなく、その後に依頼主から爆殺されかけたことだが、依頼品を見たせいで爆弾を仕掛けられたのか、口封じのためそもそも運び屋を殺す予定だったのかも判然としない。

冒頭では強盗団の追加依頼を拒否したフランクが、この場面では帰るついでの輸送業務を引き受けたことも不自然だったし。

『レオン』(1994年)『フィフス・エレメント』(1997年)など、ドラマティックな男女の出会いを冒険のきっかけとして重視してきたリュック・ベッソンだが、本作のカバンあけは不発だった。

物を運ばなくなるトランスポーター

爆殺されかけたフランクは圧倒的な身体能力で敵に反撃する。この場面でのステイサムの身のこなしは素晴らしく、映画は息を吹き返したかに見えた。

が、愛車を爆破されたフランクにはすでに輸送手段がなく、この時点で運び屋要素は消え失せてしまい、ただのバトルアクションとなる。

依頼品だった若い女を自宅に持ち帰るフランクだが、「名前は聞かない」という大原則を唐突に思い出したのか、「お前は誰なのか?」「敵は何者なのか?」「なぜヤクザの依頼品だったのか?」という肝心なことを一切聞こうとしない。

普通に寝たり、呑気に朝食を食べたりしているうちに、敵に自宅を突き止められ、ミサイルと銃弾の雨を喰らわされるフランク。阿呆である。「一人多いので発車しない」とガンとして譲らなかった冒頭のトランスポーターとは、まるで別人である。

女自身の説明によると、敵は人身売買組織で、女は中華系マフィアの娘らしいが、そんな娘を袋詰めにしてフランクに輸送させることになった経緯は皆目見当もつかず、設定は滅茶苦茶に粗い。

そんなわけなので最後には何のために戦っているのかすらよく分からなくなり、気づけば上半身裸のステイサムがマシンガンをぶっ放し、オイルまみれになって敵とくんずほぐれつになるというカオスが広がっている。

こんなサイトを運営しているくらいなので、私は低偏差値アクションを好んでいるのだけど、「娘を誘拐された」とか「戦友を殺された」とか「とにかく不快な街のダニ掃除」とか、シンプルかつ共感可能な動機づけがあってこその低偏差値アクションである。

本作の場合にはどういう動機があるのかが分かりづらいので、アクションに気持ちが入っていかなかった。ステイサムの動きは良かったんだけどね。

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