(1963年 アメリカ)
スター勢ぞろいの圧倒的な華、ジョン・スタージェスの骨太演出、有名なテーマ曲と、名作の条件を楽々クリアした古典ではあるけど、今観るとしんどい。脱走プロセスが意外とヌルいし、後半はまぁまぁの鬱展開だ。
感想
昔は地上波放送の定番だったようだが、1981年生まれの私にはあまり馴染みがなかった。
wikiで調べてみると地上波洋画劇場で頻繁に放送されてたのは1987年までらしいので、地上波の定番という意識を持っているのは私よりも上の世代になるのだろう。
うちの父親と母親が本作の大ファンだったようで、地上波放送の途絶えていた1990年代前半頃に、あまりに再放送がなされない状況に業を煮やしたのか、セル版VHSを購入していた。
小学校高学年の私も一緒に鑑賞して、当時は面白いと感じたんだけど、かといって滅茶苦茶ハマるほどのものでもなかったので、少年期に付き合い鑑賞したっきりだった。
時は過ぎて2019年の年末に午後のロードショーで往年の吹き替え版が放送された。私が見たことがあるのは字幕版のみだったので一応録画しておいたけど、長尺ということもありなんやかんやで見ない状況が4年近く続いた。
週末の夜にまとまった時間ができたのでようやっとの鑑賞となったけど、少年期に感じた以上に面白くなかった。名作の誉れ高い作品なので腐すにも勇気がいるけど、そうは言っても面白くないものは面白くない。
第二次世界大戦中のドイツ軍捕虜収容所を舞台に、後方かく乱のため大規模な脱走計画を企てる連合軍捕虜たちと、管理者たるドイツ軍看守たちのひそかな攻防戦が繰り広げられる。
…というのがざっくりとしたあらすじなんだけど、ドイツ軍側の管理体制があまりにザルすぎるのはいかがなものかと。
舞台となるのは並みの捕虜収容所ではなく、全国から集めた脱走の常習犯を集中管理するための施設だ。
管理側も相応の対策を取るべきなのに、捕虜たちの怪しげな集会を見過ごしたり、監房のチェックを怠ったりと、「どうぞやっちゃってください」状態である。
しかもこの収容所の居心地が良さそうなので、逃げる必要性をあまり感じない。
私の世代の捕虜収容所って『ランボー/怒りの脱出』(1985年)みたいなやつなので(あれはあれで極端だけど…)、シャワーなどの設備も整っていて、レクリエーションの自由もあり、密造酒を作ったり独立記念日を祝ったりする余裕もある捕虜収容所って素敵やんと思う。
そして所長が物分かりの良い紳士なので、「脱走するとこの人に迷惑がかかるんだけど」ということも気になってきた。
ここに本作の抱えるもう一つの欠陥がある。ドイツ軍側に強烈なキャラクターがいないので、結果、憎まれ役不在の物語となっているのだ。
「ドイツ軍=無条件に憎むべきもの」という図式が観客の頭にあることが前提となっているのだろうけど、初公開当時はともかく、今の時代にそうした映画の見方はできないかな。
史実に基づいているとはいえ、他の部分はかなり脚色されているようだし、ドイツ軍側に『ロックアップ』(1989年)のドナルド・サザーランド並みのキャラを配置して対立軸を明確にして欲しかった。
一方連合国側の大規模脱走作戦はうまくいきすぎ。
トンネル掘削に使うツルハシやらスコップはどこから持ってきたのだろう。脱走に使えそうなツールは、特に厳重に管理されてると思うんだけど。
ジェームズ・ガーナー扮するヘンドリーが調達を担当しているということにはなっているけど、彼の仕事ぶりの描写がないので、魔法のように何でも持ってくるご都合主義の塊のようなキャラクターになっている。
スティーヴ・マックイーン扮するヒルツは、劇中でこそ「独房王」なんて呼ばれているけど、彼にどんな特殊技能があるのかはよくわからない。
結果、集団脱走計画という本筋からはいささか浮いた存在となっており、本来的には脇役にすべきキャラなんだろうなぁと思ったりで。
大脱走後の後半は国外脱出劇となるんだけど、連合軍捕虜たちは散り散りとなっているので、このパートは随分とまとまりがない。
結構な人数が捕まったり処刑されたりするんだけど、中でもドイツ軍のバイクと軍服を盗んで大立ち回りを演じ、一番処刑されそうなヒルツが独房に戻されて終わりなど、こちらでも主人公特権の存在を感じて冷めてしまった。
ファンの方には申し訳ないが、私としては気になることの多い作品だった。