【凡作】イレイザー_見せ場の連続なのに手に汗握らない(ネタバレあり・感想・解説)

軍隊・エージェント
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(1996年 アメリカ)
多様な見せ場に彩られた豪勢なアクション映画なのですが、シュワルツェネッガーの肉体という肝心な部分が欠けているために、どうにも盛り上がりに欠けます。加えて、バカ映画と開き直っているわけでもないのに間抜けな展開が目立つことも、作品の印象を歪なものにしています。「法で裁こうかと思ったけど、裁判で負けそうなのでやっぱ止めた」というオチは如何なものかと。

©Warner Bros.

あらすじ

証人保護プログラムのエージェントであるクルーガー連邦保安官(アーノルド・シュワルツェネッガー)は、兵器メーカーの内部告発者であるリー・カレン(ヴァネッサ・ウィリアムズ)の身柄保護を命じられる。カレンが握っている情報は国防総省やCIAも絡む壮大な陰謀であり、二人は窮地に追い込まれていく。

スタッフ・キャスト

監督は『マスク』のチャック・ラッセル

監督を務めたチャック・ラッセルは1994年にジム・キャリー主演の『マスク』を大ヒットさせた人で、当時まだ珍しかったCGIを扱った実績のある監督ということで、本作に呼ばれたんだろうと思います。

プロデューサーのアーノルド・コぺルソンとは非常に折り合いが悪く、二人が顔を合わせることがないようスケジュールには別段の配慮があったようです。

シュワルツェネッガーが二人の間に入り、双方と別々にコミュニケーションをとることで現場をまとめていたという話もあって、いろいろと気苦労の多い現場だったようです。

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脚本家は6人

クレジットされている脚本家は3人。主にテレビ界で活躍しているトニー・パーイヤーとマイケル・S・チャヌーチン、そして『ワイルド・バンチ』『恐怖の報酬(フリードキンの方』『ザ・ボーダー』といった男性映画を多く手掛けてきたベテラン脚本家・ウォロン・グリーンです。

グリーンは後にテレビ界へと活躍の場を移して『E.R.』や『Law & Order』といった人気作の脚本を手掛けています。前述したチャヌーチンも、後に『Law & Order』の製作と脚本を担当しています。

さらにノークレジットで、『地獄の黙示録』『コナン・ザ・グレート』のジョン・ミリアス、『ターミネーター2』のウィリアム・ウィッシャー、『ショーシャンクの空に』『ブロブ/宇宙からの不明物体』のフランク・ダラボンも書き直しに参加しています。

ミリアス、ウィッシャーはシュワルツェネッガーの人脈、ダラボンは過去にチャック・ラッセルとコンビを組んでいた関係で呼ばれたんでしょうが、この陣容からは主演俳優や監督が知り合いのヘルプを必要とするほど逼迫した現場だったということが読み取れます。

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こうして6人もの脚本家が参加し、うち4人はハリウッドでもトップクラスの実績を持つ人材だったにも関わらず、完成した作品はいつものシュワルツェネッガー映画でしかなかったのですが。

主演にアーノルド・シュワルツェネッガー

言わずと知れた大スター。

90年代前半には『トータル・リコール』『ターミネーター2』『トゥルー・ライズ』と大ヒットを連発しており、80年代にそのポジションにいたスタローンを完全に上回りました。

この時期の勢いには凄まじいものがあり、本作と同年に製作された何の見せ場もないコメディ映画『ジングル・オール・ザ・ウェイ』にすら、シュワルツェネッガーの名前だけで客が入っていたほどです。本作も順当にヒットし、アメリカだけで1億ドルの大台を突破。

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ただし、本作の後にシュワのキャリアは低迷しました。

まず1997年の『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』が映画史上に残るレベルの駄作になってしまったこと。

次に先天性心疾患が原因で心臓弁を取り換える大手術を行ったこと。

特に心疾患の件は致命的で、ただでさえ製作費のかかるアクション大作に、いつ倒れるか分からない主演俳優は使えないということで、シュワが抱えていたプロジェクトは軒並み製作中止となりました。

悪役にジェームズ・カーン

悪役は『ゴッドファーザー』のソニー・コルレオーネでお馴染みのジェームズ・カーンです。大作への出演を断り続けてきた男・カーンにとって、本作が初のブロックバスター映画となります。

過去にカーンが断わってきた映画はこれだけあるのですが、なぜ本作のみが彼のお眼鏡に適ったのかは謎です。

  • ある愛の詩
  • フレンチ・コネクション
  • カッコーの巣の上で
  • スーパーマン
  • 未知との遭遇
  • クレイマー、クレイマー

登場人物

連邦保安局

  • ジョン・クルーガー(アーノルド・シュワルツェネッガー):連邦保安官で、証人保護プログラムを担当している凄腕エージェント。サイレス社の内部告発者であるカレンの保護を担当することになった。
  • ロバート・ドゥゲラン(ジェームズ・カーン):連邦保安官で、クルーガーの師匠筋に当たる。ハーパー国務次官と裏で繋がっており、カレンの口封じを画策する。
  • アーサー・ベラー(ジェームズ・コバーン):連邦保安局の本部長。クルーガーへの信頼が厚く、彼が裏切ったとする情報にも終始懐疑的。
  • モンロー(ダニー・ヌッチ):新人の証人保護官。たまたまクルーガーとドゥゲランの争いの場に居合わせたために殺された。演じるダニー・ヌッチは『ザ・ロック』のネイビーシールズ隊員や『タイタニック』のディカプリオの友人など、主人公を引き立てるために死ぬ役を演じることが多い。

大手兵器メーカー・サイレス社

  • リー・カレン(ヴァネッサ・ウィリアムズ):サイレス社の違法な武器製造と輸出の情報を掴み、FBIに捜査協力した。身に危険が及んだものの、築いてきたキャリアが台無しになる証人保護プログラムの適用を当初は望んでいなかった。
  • ウィリアム・ドナヒュー(ジェームズ・クロムウェル):リーの上司。違法な武器輸出に関与していたが、カレンが内部告発したことを知り、陰謀の発覚を感じ取って自殺した。

その他

  • ジョニー・キャステレオーネ(ロバート・パストレリ):証人保護プログラムの適用者。自身の不注意から殺されそうになったところをクルーガーに救われた恩から、窮地のクルーガーとカレンに積極的に協力する。
  • ダニエル・ハーパー(アンディ・ロマーノ):国務次官。国防総省の補助金で研究開発された武器をロシアに輸出して利益を上げようとしている。
  • コルデロン(ニック・チンランド):CIAエージェント。ハーパーの武器輸出に関与しており、ドゥゲランと行動を共にしている。ラストの戦闘ではスナイパーとしてEM銃を扱った。

感想

シュワルツェネッガー平常運転

『トータル・リコール』『ターミネーター2』といったハイレベルな娯楽作や、失敗したながらも当初の目論見は壮大だった『ラスト・アクション・ヒーロー』など、当時のシュワルツェネッガーは気合の入りまくった企画が連続していました。そんな中で、『コマンドー』のDNAを受け継ぐ久々の平常運転作品が本作でした。

冒頭から見せ場がパンパンに詰まっており、ストーリーは見せ場と見せ場を繋ぐためのものでしかないという扱いとなっています。

恩師が裏切り者だったり、国防総省やCIAも絡む壮大な陰謀だったりと、この企画独自の色もあるにはあるものの、どれも作品の本質に影響を与えるレベルにまでは昇華できていません。圧倒的に強いシュワがいろんなものを爆破しながら目的を達成するという、いつものパターンですね。

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ただし、エモーションが宿っていない

見せ場のバリエーションは豊富であるものの…

冒頭では、シュワの回し蹴りという珍しいものを拝めます。

そこから見せ場は測ったようにスケールアップしていき、最新鋭兵器vsシュワ、飛行機からパラシュートなしでダイブするシュワ、敵の総本山であるサイレス社に奇襲をかけるシュワ、そして国防総省・CIA・ロシア人vs港湾マフィア・シュワという気の狂ったような対戦カードへと雪崩れ込んでいきます。

見せ場の作り込みや配置方法は素晴らしく、一流脚本家を何人も雇った成果は確かに見て取れます。

シュワの肉体ではなくVFXをメインに据えるという愚策

ただし、そこに決定的に欠けていたのはシュワの肉体という要素であり、VFXを前面に押し出し過ぎたために、肉体と肉体のぶつかり合いというアクション映画の基本が抜け落ちた味気ない見せ場になっています。

特に『コマンドー』を好んで繰り返し見るような客層は、ありえない肉体をしたシュワルツェネッガーにしか演じられない、常軌を逸したアクションを見に行っているのです。CGでクリエイトしたワニや、合成丸出しのスカイアクションを見たいのではないのです。

『ターミネーター2』や『トゥルー・ライズ』だってVFX満載だったでしょと言われても、あれらはジェームズ・キャメロンというありえないくらいうまい監督が作った映画で、もはやシュワの映画ではなくキャメロンの映画でした。

では本作のチャック・ラッセルがキャメロンレベルの映画を撮れるのかと言うと、決してその器ではありません。本作は紛れもなくシュワの映画だったのに、シュワの映画に期待されることをやっていないという問題を抱えていました。

話のアラが凄すぎる

クルーガーの仕事ぶりがおかしい

クルーガーには凄腕の証人保護官という設定が置かれているのですが、その仕事ぶりはちょいちょい変です。

中盤にて、過去に保護した証人達が次々に殺されているから一緒に捜査しようとドゥゲランから言われて、カレンを保護中の身でありながら一時的に彼女を放置してドゥゲランの現場へと出向いて行きます。そこはカレン優先じゃないとおかしいでしょ。

また、組織から追われる身となったクルーガーは過去の証人保護プログラム適用者達を頼るのですが、過去を捨てて身を隠している人たちを再度脅威にさらすというのは、プロとしてどうなのと思いました。そこは絶対に当てにしちゃいけない人たちでしょ。

証人保護プログラムの執行者としては意外と雑で、プログラム適用者最優先ではないという動かし方は、彼の基本設定に反しています。

やってきたこと全否定のラスト

ラスト、陰謀が明らかになったハーパーとドゥゲランが議会の公聴会にかけられるのですが、港で大銃撃戦をやり、密輸しようとしていた大量のEM銃という物的証拠まで残っている状態で、もはや内部告発者のカレンをどうこうすれば済むような状況ではないにも関わらず、相変わらず「あの女さえ何とかできれば」とか言っています。バカなんでしょうか。

クルーガーはクルーガーで、ハーパーとドゥゲランが公聴会を乗り切りそうな雰囲気だったので、二人の乗った車を線路に放置して貨物列車と衝突させて殺します。「法で裁こうと思ったけど、やっぱやめた」というこの投げやりなオチの付け方はさすがにどうなんだと、頭を抱えてしまいました。

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