トータル・リコール(1990年)【良作】ディックらしさゼロだけど面白い(ネタバレあり感想)

(1990年 アメリカ)
火星への憧憬に憑りつかれた男・ダグは記憶旅行サービスを利用するが、その過程で封印された記憶が甦ったことから、惑星をまたぐ巨大な陰謀の当事者となる。

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完成までの苦節16年

本作の脚本家としてクレジットされているロナルド・シュゼットがフィリップ・K・ディックの『追憶売ります』の映画化権を取得したのは1974年のことでしたが、えらく金のかかりそうな企画で制作は困難だろうと判断していったん棚上げし、『エイリアン』を先に仕上げました。その『エイリアン』が大ヒットしてくれたおかげで本作の目途も立ち、ダン・オバノンと共に脚本化してディノ・デ・ラウレンティスの制作会社に売ることができました。

リチャード・ラッシュやルイス・ティーグといった監督が選ばれては降板し、そのうち声のかかったデヴィッド・クローネンバーグは12回に渡って脚本を書き換えたものの結局まとめられずに降板。その後、『テンダー・マーシー』のブルース・ベレスフォードが監督に就任してパトリック・スウェイジ主演で契約書にサインまでがなされたものの、ラウレンティスの制作会社が破産してオーストラリアに建造中だったセットは放棄されました。

ブルース・ペレスフォードが監督に就任した頃にこの企画を知ったシュワルツェネッガーは自分を主演にと売り込んでいたものの、さすがにお前は気弱な会計士には見えないとラウレンティスに一蹴されていたのですが(代わりにシュワがラウレンティスから提示された企画は『ゴリラ』)、今回の制作中止をチャンスと見たシュワルツェネッガーは『レッドブル』で仕事をしていた新進気鋭の制作会社・カロルコに権利を買い取るよう要請し、また『ロボコップ』の主演候補として声をかけられたことのあるポール・バーホーベンを監督に指名しました。

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仕事ができる男・ポール・バーホーベン

カロルコが権利を取得したのが1988年の秋で、撮影開始は1989年3月。バーホーベンは大車輪で制作に取り掛かり、たった6か月で45ものセットをメキシコに建造し、また『ゴーストハンターズ』の脚本家・ゲイリー・ゴールドマンを雇って脚本の手直しを行いました。

大勢の監督・脚本家がまとめられなかった話をバーホーベンは極めて短時間で仕切り直し、それと同時に史上最大規模の現場をコントロールして映画を完成へと導いた手腕は驚異的だったと言えます。その過程でバーホーベンは『ロボコップ』で喧嘩別れした特殊メイクアップアーティストのロブ・ボッティンを呼び寄せているのですが、個人的に嫌いな相手でも適材適所と判断すれば過去の経緯にこだわらずに使うという姿勢には見習うべきものがあり、かつ、この布陣で同年のアカデミー賞では視覚効果部門で唯一のノミネート作品となり、対抗馬なしで同賞を受賞するというぶっちぎりの評価を受けたという実績を出しており、仕事の質という点では申し分なかったと言えます。

ロナルド・シュゼットやデヴィッド・クローネンバーグといったかつて本作に関わった人たちは押しなべて完成版への不満を口にしているのですが、バーホーベンはこれを破綻させずに完成させたのだから、話をまとめられなかったあなた方よりも良い仕事をしてるでしょと言いたくなります。

シュワルツェネッガー主演の問題点

本来は気弱な会計士が己の秘めたる願望に目覚める物語であり、パトリック・スウェイジの前にはジェフ・ブリッジス、サム・ニール、リチャード・ドレイファスらが主演候補に挙がっていたのですが、そこに筋肉隆々のシュワがキャスティングされたので作品の空気が一変しました。ラウレンティスの言う通り当初設定のダグ・クエイドには見えないためにこのキャラクターは土木作業員に書き換えられたのですが、この設定をとったことで多くの問題が発生しています。

主人公が現実逃避を求めた動機が不明確になった

嫌なことがあっても言い返せない気弱なホワイトカラーの変身願望こそが記憶旅行の動機部分にあったはずであり、偶然にもダグの当初設定と同じ会計士をしている私なども、中学時代にはヤンキーグループに怯えながらも、頭の中では己の拳でヤンキーどもを制圧して学校に平和を取り戻すという妄想を日々繰り広げていたものでした。

しかしこれがシュワルツェネッガー演じる土木作業員になってしまうと、現実世界でも気の食わない奴をぶん殴って言うことを聞かせそうな威圧感を漂わせており、なぜ彼が友人や奥さんの忠告を無視してまで現実逃避をしたがったのかが見えなくなっています。

奥さんを敵視する理由が分からなくなった

夫婦仲が悪かったわけでもないのに記憶旅行中のダグが奥さんを過剰に敵視しているという展開についても、自分に自信を持てない主人公の人格面での問題が根底にあり、そのことが「こんな美人が自分に好意を抱いているとは思えない」という今の生活に対して主人公が抱く漠然とした不安に繋がり、そしてそれが「奥さんは組織から送り込まれた監視役だった」というリコール社から与えられた設定と整合して、ダグの中で非常に腑に落ちた状態になったという流れが当初の脚本にはあったのだろうと推測します。

しかし、オラオラ系のシュワが主人公になったことでこの要素も死んでおり、シャロン・ストーンを殺してレイチェル・ティコティンとくっつくという、多くの観客にとって理解不能な話となってしまっています。

ダグの暮らしぶりがおかしい

すでにメキシコに建造中だったセットがダグの設定変更に追い付いておらず、冒頭ではスタイリッシュで機能性のあるマンションに住んでいて随分と良い暮らし向きに見えていたにも関わらず、「仕事に行ってくる」と言って出掛けたダグが泥まみれで道路に穴を掘っているというおかしな現象が発生しています。初見時には、ブルーカラーでもハイテクマンションに住めるほど社会が成熟したというSF的設定であると実に愛のある解釈をして自分を納得させたものですが、やはりこの描写はおかしいですよね。

単純なアクション大作への転換

上記の問題はシュワもバーホーベンも認識していたようで、彼らはこの映画を現実か夢か分からない世界を気弱な男が彷徨う内にあらたな人格が目覚めるといういかにもディックやクローネンバーグらしい話から、記憶を消されたエリート諜報員が火星で革命を起こす話へと転換しました。

この転換によってSF映画としてはつまらなくなったのですが、脂の乗りきっていた時期のシュワとバーホーベンががっぷりと組み、現場に対していくらでも製作費を与えていたイケイケ状態のカロルコによる支援もあって、猛烈に面白いアクション大作として仕上がっています。絶え間ない見せ場の連続に、クライマックスに向けてきっちり計ったように拡大していくスペクタクル、観客を混乱させないよう適度なレンジに調整された捻りのある展開など、娯楽作として抜群に優れているのです。

また、火星の大気にさらされた瞬間に主人公の顔がブクブクと膨れていくという訳の分からん冒頭に始まり、巻き込まれた一般人を盾にした序盤の銃撃戦や、鼻からの発信機取り出し、マイケル・アイアンサイドの腕チョンパなど、なぜここまで過激にする必要があったのかは分からないが、とにかく印象には残る見せ場の数々は他のアクション大作との差別化に大いに貢献しており、唯一無二の大作として仕上がっています。

なお、厳密に言えば本作も夢オチであり、DVDのコメンタリーにてバーホーベンは「これは火星の空というプログラムを楽しむ内に現実に戻れなくなった男の話だ」と言っているのですが、本編中に「これは夢か現実か」と観客の認識を揺さぶるような描写はほとんどなく、いつものシュワルツェネッガーが記録的な数の人を殺しながら突き進む映画として作られています。観客の側においても、冒頭で見せた土木作業員の姿と、本編での銃を乱射する諜報員の姿とどちらがシュワルツェネッガーらしいかと言われれば当然後者であり、劇場公開当時、本作を夢オチの映画として受け取った人は皆無でした。

≪2012年のリブート≫
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