【凡作】サブウェイ123 激突_アクション映画としての山場がない(ネタバレあり・感想・解説)

クライムアクション

(2009年 アメリカ)
トラボルタvsデンゼルの熱いやり取りには見ごたえがあったのですが、クライムアクションとしての山場がなく、完全犯罪を達成する気のない犯罪者と、犯罪者の言いなりになるだけの地下鉄職員という、盛り上がりに欠ける構図に終始したことは残念でした。

作品解説

小説『サブウェイ・パニック』(1973年)三度目の映像化

本作の原作はジョン・ゴーディ著の犯罪スリラー小説『サブウェイ・パニック』(1973年)で、その三度目の映像化となります。

これを最初に映像化したのは『探偵スルース』(1972年)のパロマー・ピクチャーズであり、小説発売の3か月まえに映画化権を取得しており、本がベストセラーになったことから映画化企画がスタートしました。

当時新人だったスティーヴン・スピルバーグが監督するという話もあったのですが、監督は『地球爆破作戦』(1970年)のジョセフ・サージェントに決定。後にサージェントはスピルバーグの手から完全に離れた『ジョーズ’87 復讐篇』(1987年)を監督します。

作品は地味ながらも高評価を獲得し、Rotten Tomatoesの批評家レビューでは支持率100%を獲得しています。

1998年にはTVMとして2度目の映像化。『沈黙の断崖』(1997年)のフェリックス・エンリケス・アルカラが監督し、『ブレードランナー』(1982年)のガフ役でお馴染みのエドワード・ジェームズ・オルモスとほほえみデブことヴィンセント・ドノフリオが主演しました。

そして今回が三度目の映像化なのですが、過去最高のメンバーが集結しています。

興行的には失敗した

2009年6月12日に全米公開されたのですが、好調が続く『ハングオーバー!』と『カールじいさんの空飛ぶ家』(2009年)に敗れて初登場3位と低迷。その後もランクを上げることはなく、全米トータルグロスは6,545万ドルに留まりました。

国際マーケットでも同じく不調で、全世界トータルグロスは1億5016万ドル。製作費1億ドルのアクション大作としてはかなり物足りない金額となりました。

感想

トラボルタは破滅型の犯罪者

NYの地下鉄が何者かに占拠され、乗客の命と引き換えに1000万ドルがNY市に要求されることが本作のあらすじ。地下鉄ジャックの犯人はジョン・トラボルタ扮するライダーという男です。

一般にこの手の犯罪者は自分の素性を隠そうとするものなのですが、ライダーの場合は顔を隠すでもないし、個人特定につながりそうな身の上話も平気でします。

で、早々に暴かれたその正体とは、ウォール街でブイブイ言わせていた(死語)元ブローカーであり、NY市長(ジェームズ・ガンドルフィーニ)に盾突いたことから見せしめのように逮捕され、10年の刑務所暮らしを終えたところであることが分かります。

日本でいえばライブドア事件の堀江貴文氏や、村上ファンド事件の村上世彰氏のような存在ですね。

このライダーという男、終始イライラしていろんなものに当たり散らすのですが、かといって冷静な判断力を失っているわけでもなく、感情的になっているのか緻密な計算の上での行動なのかが分からないこともしばしば。

『ブロークン・アロー』(1996年)『フェイス/オフ』(1997年)など、計算高い知能犯を演じてきたトラボルタはライダー役に適任であり、説教臭い犯人像を見事モノにしています。

で、このライダーの目的なのですが、表面上は大金を要求しているものの、そこにあまり関心はないように思います。

というのも、彼は逮捕前に結構な金額の所得隠しを行っていたと言い(その資金は犯罪計画に使ったとのこと)、そもそも金には困っていないからです。

では一体何がやりたかったのかというと、自分を陥れた市長に一泡吹かせてやりたいということと、隠し財産でチマチマとした余生を送るなんて性分ではなく、もうひと花火上げて散りたいということだったと思います。

頭の良いライダーのこと、公金1000万ドルを奪えば地の果てまで追われることになるので、完全犯罪など不可能ということは理解していただろうし。

だから彼は身バレ上等でしたい話をするし、最後の最後では雑な脱出計画しか立てられていなかったりします。

こうした破滅型の犯罪者には特有の魅力があるので、終始関心を持ってみることができました。

デンゼルは訳アリの窓際族

そんなライダーに対するのがデンゼル・ワシントン扮する地下鉄職員ガーバー。最初、彼は運航司令官という立場で事に当たるのですが、無線ごしの会話でライダーに気に入られたことから、FBIに代わる交渉窓口に指名されます。

このガーバー、一見すると平凡な男なのですが、実は新型機種の競争入札で賄賂を受け取っていたのではないかという疑惑をかけられており、現在は降格させられたうえで現場仕事をさせられています。

脛に傷持つ男ということでライダーとは通じるものがあったらしく、それがご指名にもつながったものと思われます。

演じているデンゼルの個性もあって、ガーバーが善良な男であることは誰しもが認めるところ。しかしそんなガーバーにも魔が刺した瞬間があって、その一瞬の隙によって長いキャリアで築き上げたものの多くを失ったわけです。

それまでの功績も不正の背景も考慮されず、「あ、今悪いことしましたね」ですべて持っていかれた男の無念。ここにライダーは感じるものがあったのでしょう。

そしてライダーはガーバーを「俺のヒーローだ」とも言うのですが、これは不遇を受けても自分のように捨て鉢になることなく、誰が悪いと他人を恨むでもなく、人生に向かい合い続けるガーバーの姿勢への敬意であると思われます。

デンゼルは終始受け身の演技でガーバー役を演じるのですが、小市民の胆力みたいなものを表現しており、多くの観客が共感できる人物像に仕上げています。こちらもお見事でした。

アクション映画としての山場がない

そんなわけで中年男のドラマとしてはなかなか面白かったのですが、問題は、本作がクライムアクションだったということです。

本筋である地下鉄ジャックが面白かったかと言われると、これが微妙。なので作品全体の評価はあまり高いものにはなりませんでした。

たった1時間で1000万ドル持ってこいというかなり厳しめのタイムリミットが設定されている割にはスピード感がないし、湿っぽいドラマに重心が置かれているために、完全犯罪をもくろむ犯罪者と、それを阻止する公務員との攻防戦としての熱もありません。

上述したとおり、そもそも勝つ気のないライダーと、そのライダーの言いなりになり、時に怒り狂うライダーのなだめ役になるガーバーのやり取りが物語の大部分を占めるために、犯罪映画としての山場がないわけです。

寝てても面白い映画を撮れる職人監督トニー・スコットだけに期待したのですが、彼の監督作の中でも面白くない部類に入ると思います。

【備考】なぜ金の相場が上がったのか

劇中、ライダーは犯罪計画により金相場のつり上げに成功してほくそ笑むのですが、なぜそうなったのかの説明がないのでよく分からない方も多いのではないかと思います。そこで簡単に説明しておきます。

一般に金は安全資産と見られています。貨幣とは違って実体があるためです。

このため、大規模災害やテロ等の社会不安が起こると、金の価格が上昇する傾向があります。特にドル相場との関連性は深く、ドルが下がると金が上がり、ドルが上がると金が下がるという関係があります。

本作では、NYでテロを疑われる犯罪が起こったことからマーケットは2001年の同時多発テロを想起し、社会不安を察知したことからドルを売って安定資産である金を買うという動きが起こったために金の相場が上がったものと考えられます。