【凡作】ワイルド・スピード9 ジェットブレイク_車である必然性がない(ネタバレあり・感想・解説)

クライムアクション
クライムアクション

(2021年 アメリカ)
ついに宇宙にまで飛び出した第9作目だけど、ここまでくるともはや車である必然性がなく、ド派手な見せ場の連続にもちょっと引く自分がいた。ドム&ジェイコブ兄弟の確執も分かったような分からんような微妙なものだったし、全体的に出来はよろしくない。

感想

製作現場での人間関係のもつれが原因でホブス(ドウェイン・ジョンソン)とデッカード(ジェイソン・ステイサム)が抜けた波乱の9作目。デッカードはミッドクレジットに登場するんだけど、本編には絡まないのでノーカウントってことで。

主力がごっそり抜けたことに焦ったヴィン・ディーゼルは(シリーズのプロデューサーでもある)、ドウェイン・ジョンソンと同じくプロレスラー出身のジョン・シナを新たに起用。

さらには美しく引退したはずのミア(ジョーダナ・ブリュースター)と、現在のシリーズの基礎を築き上げたジャスティン・リン監督を復帰させ、鉄壁の体制を構築。

ポール・ウォーカーが亡くなった時もいろいろ大変だったけど、ファミリーは何とか乗り越えて『SKY MISSION』は世界興収15億ドルという特大ヒットになった。

夢よ再びとばかりに挑んだ本作だったが、コロナ禍の影響もあって公開は何度も延期、2021年6月にようやっと公開となっても作品評も興行成績もパッとせずで、世界興収は7億ドルに留まった。

それでも年間第5位のヒットなので悪くはなかったが、2億ドル超という破格の製作費を考えると、もっと伸びて欲しいところだった(製作費の3倍程度が損益分岐点と言われる)。

愛するレティ(ミシェル・ロドリゲス)と息子のリトルBと共に田舎でスモールライフを送るドミニク(ヴィン・ディーゼル)。

そこにローマン(タイリース・ギブソン)、テズ(リュダクルス)、ラムジー(ナタリー・エマニュエル)のいつもの3人組が現れ、ミスターノーバディ(カート・ラッセル)の乗った飛行機が襲撃を受け墜落したと知らされる。

コロナ禍の自粛期間中においても対面でのコミュニケーションにこだわり続ける古風なファミリーだ。

息子のためと捜索隊への参加を一度は断るドムだったが、世界一男らしい女レティは「ダチのピンチはほっとけねぇ!」とばかりに出発し、思い直したドムもその後を追う。

なお両親不在中のリトルBはブライアン宅に預けられたという設定で、ポール・ウォーカーが生存している世界観にほっこりしたと同時に、『SKY MISSION』のY路で分かれるラストの感動を返してほしいとも思った。親戚づきあいしてたんかいと。

兎にも角にも墜落現場に直行する一行だがそこに人影はなく、ラムジーが機体の中にあった金庫を開けると、謎の半球体デバイスを発見する

シリーズ恒例「悪党の手に渡れば世界終わる」系アイテムで、今回のは全世界のデジタル端末を操れるツールらしい。

そして金庫を開けた瞬間に襲い掛かってくる武装集団。

ノーバディ救出→デバイス争奪戦とミッションは目まぐるしく移行するが、あまりにもスムーズ過ぎて各自が何のために行動しているのか初見時には完全に見失った。

ま、分かったところで面白さが変わる映画ではないのだが。

武装集団を率いているのはドミニクの弟ジェイコブ(ジョン・シナ)。

ドム&ミアのゴリゴリのラテン顔の兄妹の間に、ブリティッシュ系の顔立ちの弟ジェイコブ。

兄弟は腹違いなのかしらという疑問を抱かせる暇もなく、トレット家の血縁関係に係る謎は秒で有耶無耶にされる。このどんぶり勘定が堪らない。

ここから映画は世界をまたにかけた兄弟喧嘩に発展。

事の発端は二人の青年期、レーサーだった父を亡くした日にまで遡る(若き日のドムを演じているのはヴィン・ディーゼルの実子ヴィンセント・シンクレア)。

このパートは第一作で語られたエピソードのブローアップで、20年近く宙ぶらりんだった設定をここでちゃんと生かしてきている。

「実は〇〇は生きていた!」という豪快なインチキをやる一方、こうした細かな設定なり些細な違和感なりをちゃんと回収する辺りの仕事の細かさも、本シリーズの隠し味だったりする。

当初、ドムはライバルレーサーのしつこい追撃が事故原因だと考え、そいつを半殺しにして少年院に入ったんだけど、そこで出会ったテゴ&レオ(第4作でドムと一緒にガソリン強盗をしていた奴ら)との何気ない会話から、そういえば弟ジェイコブがレース直前に車をいじっていたことを思い出す。

「親父を殺したのはジェイコブ!理由は知らんけど!」と実に短絡的に判断したドムは、出所後ソッコーでジェイコブの元に向かう。

この時点でドム的には、完全な誤解からライバルレーサーを暴行したということになるので、むしろそっちに謝りに行くのがスジじゃないかとも思うが、瞬間湯沸かし器ドムにそんな生ぬるい理屈は通用しない。

そして兄弟間のわだかまりも話せば即解決するような気もするけど、「揉め事は殴り合いかカーレースで解決」が信条のドムのこと、「俺が勝ったら追放な」と言ってジェイコブにカーレースを挑み、幸か不幸か勝利する。

ジェイコブはジェイコブで「何か誤解してませんか?」と聞けばいいものを、これまた賭け事の結果は厳守という謎の縛りで泣く泣くLAを後にして、兄ドムへの復讐を誓っていた。

道は違えど、兄弟共に世界有数の工作員に成長したトレット家の遺伝子の濃さには驚くばかりだけど、「とにかく一言会話しろ」「二人で喫茶店でも行け」という思いが終始頭をよぎり、兄弟の確執を見ているのがしんどかった。

ジェイコブは前作のヴィラン サイファー(シャーリーズ・セロン)と、「俺の親父は国家元首」と、どこまで本当か分からない自己紹介をするオットー(トゥエ・アーステッド・ラスムッセン 長い名前だ)と組み、ドム達に襲い掛かる。

オットーの「俺の親父」発言が本当か嘘かは最後まで有耶無耶なままで、シリーズ屈指の謎キャラクターとなっている。

…こうして長々とあらすじを書いたのは、本作のキャラ設定がいかにガバガバかを知っていただきたいからだ。

主人公ドムを含め、納得できる背景を持つ者が一人もいないという壮絶なことになっている。

ストーリーはシリーズで一番ひどかったと思う。

見せ場は豪華で楽しいんだけど、タイヤにロープを引っかけてターザンのように崖を飛び越える、ロケットエンジンを積んで宇宙にまで飛び出すなど、もはや車でやる意味がないので、「自分は何を見せられているのだろうか」と感じた。

なお車にロケットエンジンをくっつけるという豪快なことをしでかしたのは、『X3』の主人公ショーン(ルーカス・ブラック)。

『X3』の時点から設定年齢に見えないほどの老け顔だったルーカス・ブラックの見た目の劣化が加速しており、紹介されるまで誰だか分からなかった。

また車をも引っ張るほどの強力な電磁石を使ったカーチェイスは、狙ったものだけが都合良く吹っ飛んでいく、一番影響を受けるであろう電磁石を積んだドムの車がなぜかまっすぐ走り続けるなど、「やりすぎ」とは別次元の疑問符の塊で、これまた熱中してみることができなかった。

その過程で何の心変わりがあったのかも不明なままドムと和解するジェイコブなど、感情的なピークも何気なくスルーされ、良いところがほとんどない残念な仕上がりとなっている。

あと、ハン復活は強引すぎた。

ヤクザとの違法レースでクラッシュして死亡(X3)

→実はハンを殺したのは弟オーウェンの復讐に燃えるデッカードだった(SKY MISSION)

→ミスターノーバディによって死を偽装されており、実は生きていました(ジェットブレイク)

さすがに設定を上書きしすぎ。

「仲間を殺したデッカードと笑顔でBBQを囲むドム、いくら何でも節操なさすぎ」という、前作『ICE BREAK』で誰もが感じた違和感を払拭するための措置ではあるんだけど、それにしてもねぇ。

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