(1993年 アメリカ)
ビデオスルーのB級SFだが、かと言って切って捨てられない魅力がある。限られた予算の中でもちゃんとSFできているし、出演者は思いのほか豪華。アンジェリーナ・ジョリーは無名時代から輝いていた。

作品解説
『サイボーグ』(1989年)の正式続編
ジャン=クロード・ヴァン・ダム主演『サイボーグ』(1989年)の正式な続編。冒頭では、前作のフッテージも登場する。
前作を製作したキャノン・フィルムズは90年代前半には破産状態にあり(1994年に倒産)、代わって新興のトライマーク・ピクチャーズが本作を製作した。
当時のトライマークは『バタリアン・リターンズ』(1993年)や『フィラデルフィア・エクスペリメントⅡ/超時空決戦』(1993年)など、他社の企画を買い取っては続編を製作するという戦略をとっており、そんな中で製作されたのが本作である。
最終的にはビデオ公開に落ち着いたものの、本編はシネマスコープで撮影されており、劇場公開する気満々だったのが勇ましい。
感想
豪華キャストによるB級映画
…と「『サイボーグ』(1989年)の正式続編」と書いた直後に言うのもアレだけど、世界観はほぼ繋がっていない。
前作の舞台は『マッドマックス2』(1981年)のような荒廃しきった未来だったが、一方本作では『ブレードランナー』(1982年)のようなビル群が立ち並び、世界はハッピーではないにせよ、破滅もしていないようだ。
そして経済社会は依然として機能しており、ヒャッハー達が跋扈していた前作とは似ても似つかぬ世界が広がっている。
日系のコバヤシ電子と世界のサイバネティック業界を二分するピンウィール社は、ライバル会社の役員を皆殺しにすべく、グラスシャドウと呼ばれる液体爆薬を内蔵した色仕掛けロボットを秘密裏に開発していた。
この色仕掛けロボットの設定が壮絶そのもので、標的との性行為を行い興奮がピークに達すると、ロボット自身の意識とは無関係にグラスシャドウが起動して爆発するという、『オースティン・パワーズ』(1997年)のフェムボットを先取りしたかのような仕様となっている。
これをコメディではなくシリアスなSFアクションでやろうとしたのは良い度胸だが、ともかく試作機のテストに成功したピンウィール社は、2号機”キャッシュ”を本番環境に投入しようとする。
この2号機こそが、後の大女優アンジェリーナ・ジョリー。撮影時17歳とのことだが、この時期のアンジーは美しさが爆発している。彼女のすべての出演作の中でも、最も美しいかもしれない。
私が本作を初めて見たのは地上波の深夜枠で、その時点でもアンジェリーナ・ジョリーは無名だったが、それでもこの主演女優にはめちゃくちゃ惹かれるものがあった。
月曜の学校で本作の話をしてみると、見たという奴がやたら多い。深夜枠のB級SFを見ている奴なんて普段はほとんどいないのだが、本作のクラス内視聴率は異常に高かった。そして全員の一致した見解が「長ったらしい名前の主演の女が可愛い」だった。
この「長ったらしい名前の主演の女」が、数年後にアカデミー賞を受賞することになるとは、この時誰も想像だにしなかった。
ちなみに『ジャッカル』(1998年)の記事でもおなじみ、当時の親友・中川も本作を見ていたのだが、冒頭で爆発したテスト機の肉片を見ての「サイボーグシチューだ」というセリフが妙にハマり、しばらく二人で「〇〇シチュー」と言い合ったのはナイスな思い出。
話を映画に戻そう。
本番環境に向けてのトレーニングが進むキャッシュだったが、ある時モニターからハッキングされたかのような乱れた映像と共に「逃げろ」というメッセージを受け取る。
格闘技のトレーナーだったコルト(イライアス・コティーズ)の支援も受けてピンウィール社から脱出するキャッシュだったが、案の定、二人はピンウィールの放つ刺客に追われることとなるというのが、ザックリとしたあらすじ。
追っ手は2名いるんだけど、それぞれ演じるのは『アンタッチャブル』(1987年)でショーン・コネリーを殺害したビリー・ドラゴと、元空手世界王者のカレン・シェパードなので、なかなか豪華。ともにキャラ立ちした悪役としてSFアクションを盛り上げてくれる。
またキャッシュの相手役は『シン・レッド・ライン』(1998年)や『コラテラル・ダメージ』(2001年)などでハリウッドの名脇役となるイライアス・コティーズだし、キャッシュを導く役は『シティ・スリッカーズ』(1991年)でアカデミー賞を受賞した直後のジャック・パランスだし、俳優陣にはなかなか恵まれている。
製作時点で一番のビッグネームはジャック・パランスで、合計出演時間は数分程度であるものの、モニター越しに登場させることで全編に渡ってその存在感を放っている。この構成上の工夫も見事なものだった。
キャッシュに仕掛けられたグラスシャドウが9時間後には起動するというタイムリミットサスペンスがいつの間にやら有耶無耶にされたり、海外逃亡のチケットを得るため賭け試合に出場するという、本編とは何らの関係もないイベントが無理やり挿入されたりと、おかしな部分は多々ある。
ただし芸達者な俳優に恵まれたおかげで、サイボーグと人間の純愛物語という主軸はしっかりと機能しているし、運動神経抜群のアンジェリーナ・ジョリーによるアクションには説得力がある。
サイボーグを表現する特殊メイクや、大都市を表現するミニチュアワークも、数こそ少ないが効果的に用いられており、黙示録SF的な雰囲気の醸成にも成功している。
90年代に製作されたビデオスルーのSFアクションという括りで考えれば、かなり良い出来ではないだろうか。