【凡作】サイボーグ(1989年)_話はマズイがヴァンダムは素晴らしい(ネタバレあり・感想・解説)

クリーチャー・メカ
クリーチャー・メカ

(1989年 アメリカ)
さほど難しくないはずなのに、一度見ただけでは分からない話はアルバート・ピュン節全開で、映画としての出来は決してよろしくない。ただし若い頃のヴァンダムのアクションはキレッキレだし、顔もイケメンだ。アクションスターを見る映画としては上出来だと思う。

作品解説

キャノン・フィルムズ最後の劇場公開作

本作はキャノン・フィルムズ(日本の光学機器メーカーとは無関係)の最末期の作品であり、同社にとって最後の劇場公開作品だった。80年代のB級映画界を席巻した同社が、80年代最後の年に最後の劇場公開作をリリースしたという点には感慨深いものがある。

元は『マスターズ/超空の覇者』(1987年)の続編と『スパイダーマン』実写版を同時撮影するつもりでプロダクションが進められていたのだが、会社の資金繰り悪化でそれぞれの版元に映画化権を返上した。

ただし、その時点でセットや衣装に200万ドルもの開発費を投じた後だったので何かしらを作る必要があり、両作品を監督する予定だったアルバート・ピュンに新作の発注がなされた。

ピュンは週末で脚本を書き上げるとすぐに製作に入り、撮影期間23日、製作費50万ドルで本作を仕上げてみせた。

この早技にも驚かされるが、1989年4月7日に全米公開されるや初登場4位と大健闘した。『メジャーリーグ』(1989年)や『レインマン』(1988年)といった競合と争ってこのランクなのだから結果も上々である。

最終的に全米で1000万ドルを稼ぎ、十分な利益を吐き出した。

本作後にヴァンダムが引っ張りだこになった点にも納得のいく結果である。

感想

小学生の時に日曜洋画劇場でやってるのを観たけど、妙に気持ち悪いだけで面白いとは感じなくて、その後に見返すこともなかった。

当時はジャン=クロード・ヴァン・ダムという存在も認識していなかったが、主演の人はカッコよくて動きも良いという印象だけはあった。事情を知らない異国の小学生にもある程度のインパクトを残すのだから、やはりヴァンダムって凄い存在なのだろう。

この度、DVDを380円(送料込み)で入手したので30年ぶりの鑑賞となったが、感想は小坊の時と変わらず。三つ子の魂百までとはこのことだろうか。

舞台となるのは戦争で荒廃した上に、ペストも大流行という泣きっ面に蜂どころではない未来。どう見ても絵でしかない荒廃したNYの光景が泣かせる。

女性科学者パール(デイル・ハドン)は自身をサイボーグに改造して疫病の治療方法をNYからアトランタに運ぼうとしているのだが、一方、この荒廃した世界が居心地よくて堪らない悪党フェンダー(ヴィンセント・クライン)からは、「いらんことすんな」と言ってつけ狙われている。

そこに、かつてフェンダーとのいざこざがあって彼に対する復讐心を抱いている戦士ギブソン(ジャン=クロード・ヴァン・ダム)と、フェンダーに集落を襲われた一般女性ナディ(デボラ・リッチャー)が絡み、ギブソンvsフェンダーの死闘が繰り広げられるというのが、ざっくりとしたあらすじ。

こうして書いてみるとなんて事ない話だが、実際に見てみると驚くほど話が頭に入ってこない。これぞアルバート・ピュン節である。

普通なら科学者パールを守るためにサイボーグ化された戦士が護衛につくところ、守られるべき科学者がサイボーグで、護衛が生身という設定が直感的にわかりづらい。

またフェンダーは医療情報をアトランタに持ち込んでほしくないと思っているのだから捕らえたパールをその場で殺せばいいものを、わざわざアトランタまで連行するのだから意味が分からない。

そして一般人ナディに至っては、なぜこの話に参加しているのかすら定かではない。

推測するに、当時はまともな英語を話せなかったヴァンダム※ではストーリーを引っ張れないという製作側の事情から配置された即席キャラなのだろうとは思うが、彼女には彼女なりの動機を与えて欲しいところだった。

(※2011年にアルバート・ピュンが発表したディレクターズ・カット版では、ヴァンダムのセリフはすべて別人によって吹き替えられている)

さらに本作を分かりづらくしているのが、ギブソンの過去は回想形式で徐々に明かされていくという妙に凝った表現をすることで、あまりうまくないチームが一流映画のまねごとを中途半端にするものだから、本当に訳の分からんことになっている。

「頼むから普通にやってくれ」と何度も思った。

そもそもヴァンダムがミスキャストと思わなくもない。かつてギブソンが育てた少女が現在では大人になっていることを考えると、ギブソンとフェンダーが一戦を交えたのは相当前のことだと思われるのだが、撮影当時まだ20代のヴァンダムではまったく年齢が合っていない。

このために、ただでさえわかりづらい話が余計に混乱している。

ネタを明かすと、アルバート・ピュンはチャック・ノリスが演じることを想定して本作の脚本を書いたらしい。しかしどういうわけだかヴァンダムが主演に決まり、彼に合わせた脚本の手直しも行わなかったものだから、この混乱状態を招いたようだ。まぁいい加減な現場だこと。

そんなわけで映画としては全然ダメなんだけど、アクション映画としてはなかなかイケる。

若い頃のヴァンダムのアクションはキレッキレだし、顔もかっこいい。ネタではなく本心から、この頃のヴァンダムはかなりのイケメンだと思う。本作後に大作オファーが殺到したことにも納得がいく。

対するフェンダーの強敵感も凄い。演じるヴィンセント・クラインは元サーファーなのだが、素晴らしい肉体でヴァンダムを圧倒する。若い頃のヴァンダムですら勝てないと思わせるような敵キャラはなかなか希少である。

両者がついにまみえるクライマックスは、大柄 vs中背の対決という構図といい、嵐の夜というシチュエーションといい、後の『ユニバーサル・ソルジャー』(1992年)の原型として見た。

エメリッヒは本作を見てヴァンダムの生かし方を学んだんじゃないかと思うほど、本作はヴァンダムを見せる映画としてはよく機能している。

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