(2011年 アメリカ)
興行的にも批評的にも大苦戦した作品なのですが、なぜそんなに評判が悪いのか理解できないほど楽しく見応えのある作品でした。日曜洋画劇場で慣れ親しんだ『コナン・ザ・グレート』(1982年)よりも好きかもしれないですね。
コナン・ザ・グレート【凡作】雰囲気は良いが面白くはない(ネタバレあり・感想・解説)
キンメリア人の少年コナンは、アケロン人の戦士カラー・ジムの軍団に村を襲われ、目の前で父親を惨殺される。大人になったコナンは父と一族の仇をとるためにカラー・ジムを追っていたが、ある日ついにその幹部を発見する。
1963年西ドイツのフランクフルト出身。20歳の頃にフルブライト奨学生としてニューヨーク市立大学とニューヨーク工科大学に留学し、帰国後にテレビコマーシャルやMTV監督として活躍。同じくCM、MTV出身のマイケル・ベイ製作の『テキサス・チェーンソー』(2003年)で長編監督デビューしました。
実はニスペルの監督デビュー作は初代コナンことアーノルド・シュワルツェネッガー主演の『エンド・オブ・デイズ』(1999年)のはずだったのですが、当時は映画監督経験がなかったにも関わらず「コッポラやキューブリックに対するのと同じ態度で私に接しないのなら、きみたちと仕事をする気はない」などと映画会社との打ち合わせに際して過大な要求をしたことから、監督を下ろされたという過去があります。
1979年ハワイ出身。ハワイ先住民族、ドイツ、アイルランド、アメリカ先住民族の血を引くという、アメリカの歴史が凝縮されたかのような人物です。
デザイナーのエリック・チャンドラーと小林武雄に見出されてモデル業を開始し、1999年のハワイ州のモデル・オブ・ザ・イヤーに選出。併せて俳優としてテレビドラマに出演するようになり、『ベイウォッチ』(1999-2001年)や「スターゲイト アトランティス」(2005-2008年)といった人気シリーズへの出演を経て、本作に抜擢されました。
本作後にはHBOの『ゲーム・オブ・スローンズ』シーズン1(2011年)にカール・ドロゴ役で出演。そしてDCEUのアクアマン/アーサー・カリーに選ばれ、『アクアマン』(2018年)は世界興収が1100億ドルにのぼる大ヒットとなりました。
奥さんは『エンゼル・ハート』(1987年)や『エネミー・オブ・アメリカ』(1998年)で知られるアフリカ系の美人女優リサ・ボネット。リサ・ボネットと前夫レニー・クラヴィッツとの間の娘である女優のゾーイ・クラヴィッツは、モモアにとって義理の娘ということになります。両者の年齢は9歳しか違わないのですが。
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90年代後半、ワーナーにおいて『キング・オブ・デストロイヤー/コナンPART2』(1984年)の続編としてシュワルツェネッガー主演で”King Conan: Crown of Iron”という企画が立ち上がりました。『マトリックス』(1999年)を大ヒットさせた直後のウォシャウスキー兄弟が監督候補に挙がるなどこの企画は結構盛り上がっていたのですが、シュワルツェネッガーがカリフォルニア州知事選への出馬表明をした2003年にプロジェクトは中止されました。
その後もワーナーはコナン製作に向けての検討を続け、『タイタンズを忘れない』(2000年)のボアズ・イェーキンに書かせた脚本も存在していたのですが、結局撮影開始には至りませんでした。2007年6月に権利はスウェーデンのゲーム会社パラドックス・エンターテイメントへと移り、パラドックスは本作と同じく80年代アクション大作のリメイク・続編企画である『ランボー/最後の戦場』(2008年)を製作中だったミレニアム・フィルムズとの共同製作とすることにしました。
ちょうどその頃、同じくミレニアム・フィルムズでローズ・マッゴーワン主演の『レッド・ソニア』を監督するために雇われており、ワーナーでのコナン企画にも参加したことのあったロバート・ロドリゲスが、本作の製作に参加するかどうかの交渉に入ったと発言。残念ながら本作には関与せず、また『レッド・ソニア』も権利関係や財政上の問題から製作されず終いとなってしまいましたが。『レッド・ソニア』については2018年にブライアン・シンガーとの監督交渉に入ったとの報道がありましたが、あの話は一体どうなったのでしょうか。
2008年11月、本作のプロデューサーの一人であるアヴィ・ラーナーは『X-MEN: ファイナル ディシジョン』(2006年)を大ヒットさせたブレット・ラトナーと監督交渉に入ったと発表したのですが、ラトナーは「『コナン・ザ・グレート』の映画の契約はまだ初期段階で、わたしは『ビバリーヒルズ・コップ4』のパラマウント・ピクチャーズとの契約があり、何があろうとまず『ビバリーヒルズ・コップ4』を先に製作しようと考えている」と発言して、先走った発表をしたラーナーに対して不快感を表明。その後半年に渡ってミレニアムとラトナーとの間で話し合いが持たれたのですが、結局ラトナーは去って行きました。
2009年6月、監督がマーカス・ニスペルに正式に決定。『テキサス・チェーンソー』(2003年)『13日の金曜日』(2009年)とリメイク・リブート企画の経験があり、『レジェンド・オブ・ウォーリアー 反逆の勇者』(2007年)で時代劇にも挑戦したことが、本作起用への決め手になったと思われます。
かくして、企画開始からかなりの時間と9000万ドルもの製作費をかけてようやく完成に至ったのですが、2011年8月に全米公開されると初登場4位、公開3週目にはトップ10から外れるという大コケとなりました。
全米でのトータルグロスは2129万ドル、全世界でも6352万ドルであり、製作費すら回収できないという期待外れな結果に終わりました。
オリバー・ストーンが脚本を書き、ジョン・ミリアスが監督した『コナン・ザ・グレート』(1982年)は、剣と魔法の世界ながら重厚な時代劇としての風格を持っており、あれはあれで見応えがあったのですが、原作準拠の方針が立てられた本作は、冒頭からクライマックスまで途切れなく見せ場が続く連続大活劇として製作されています。
コナン・ザ・グレート【凡作】雰囲気は良いが面白くはない(ネタバレあり・感想・解説)
とにかく見せ場の数とバリエーションは凄まじく、飽きる暇がまったくありません。『テキサス・チェーンソー』(2003年)のマーカス・ニスペル監督のゴア描写にはまったく手抜きがなく、生首を登場させるにしても首から下がない普通の生首ではなく、下あごから下がない生首だったりと、創意工夫がハンパではありません。そんな、やれること全部やっちゃいました感が心強くありました。
また、監督デビュー作がマイケル・ベイ製作だったこともあってか、ニスペルのVFXの使い方が非常にこなれていた点にも感心しました。例えばコナンの村がカール・ジムの軍隊に襲撃される場面。まずライブアクションで進撃する騎馬兵を見せ、カメラが引くとその背後に何千という大軍が見えます。大軍の部分はもちろんCGなのですが、一から十までCGで見せると画面はちっとも面白くありません。まずライブアクションがあって、そこからシームレスにCG映像を添えることで、観客の感じる現実味がグッと増すのですが、こうした見せ方ができていることに感激しました。
『コナン・ザ・グレート』(1982年)のコナンは一族郎党を皆殺しにされ、目の前で母親の首をはねられた後に、謎のグルグルマシーンでの奴隷労働からの剣闘士という悲惨な生い立ちを持っていましたが、あれは『英雄コナン』と同じロバート・E・ハワード原作の『征服者カル』が出典であり、原作とは違います。本作ではその点が原作準拠に修正されています。この修正によって生い立ちの悲惨さはシュワ版コナンよりも軽減されたのですが、モモア版コナンは戦闘民族キンメリアの英才教育を存分に受けて育ったということで、ヴァイオレンス度はより一層増しました。
戦士である母フィアラは臨月にも出陣し、戦場で産気づいて父コリンのナイフによる帝王切開でコナンを出産した直後に死亡。少年期には、村を襲おうとやってきたモヒカン部族にコナンたった一人で挑み、1対4の変則マッチにほぼ無傷で勝利。あごから上の生首を戦利品として村に持ち帰りました。そしてカラー・ジムの侵略を受けた際には幹部ルシウスの鼻を削ぎ落し、血と汗の匂いしかしない10代をコナンは過ごしました。どうです、この完全なヴァイオレンス野郎ぶりは。
キンメリア壊滅後に放浪したコナンは、成人になってようやくカール・ジムの幹部に辿り着くのですが、一度捉えた敵はどう転んでも殺すという姿勢が頼もしくありました。
まず捕らえたのはルシウス。カール・ジムの行き先を教えれば殺さないという条件を切るコナンに対し、ルシウスは情報を提供した上で「殺さないって約束だったよな」と確認します。するとコナンは囚人たちの手錠の鍵をルシウスに無理やり飲みこませた上で、囚人の一人にナイフを持たせ、「お前らの鍵はあいつの腹の中にあるぞ」と言って、囚人たちにルシウスを殺害させます。
次はレモ。捕らえたレモにカラー・ジムがいるシャイプール峡谷まで案内させると、レモを投石機に乗せてカラーの船めがけて飛ばし、文字通りレモを帰してやります。
敵と取引をするが、約束を反故にはしない形で最終的には殺すというコナンの首尾一貫した姿勢には、大いに笑わせてもらいました。
コナンと言えばアーノルド・シュワルツェネッガーと言うほどシュワのイメージで固まっている役柄なのですが、ジェイソン・モモアはシュワルツェネッガーとはまた違ったコナン像を作り上げており、これはこれでいけました。
上記の通り、本作のコナンは硬軟両方の性格を持っています。カール・ジムへの復讐という点ではハードな姿勢を崩さない一方で、その幹部をヘラヘラと笑いながら頓智の利いた方法で殺すという楽しいお兄ちゃんみたいな面も兼ね備えており、これは生真面目一辺倒だったシュワ版にはなかった個性だと言えます。
また、鈍重だったシュワの殺陣とは対照的に、パワーとしなやかさを両立した独特な殺陣も様になっており、その身のこなしも大きな見せ場になっています。