(1972年 アメリカ)
迫力の映像、高い演技力に支えられたドラマと、一度は見る価値のある映画ではあるのですが、スコット牧師の強引さや、主人公は必ず正解を選ぶのだという主人公特権の存在が時代を感じさせました。 今見ると凡作ですね。
1916年生まれ。コロンビア大学とニューヨーク市立大学卒業後にジャーナリストとなり、ラジオ番組のプロデューサーを経て、テレビ界へと転身。『宇宙家族ロビンソン』(1965-196年)、『原子力潜水艦シービュー号』(1964-1968年)、『タイムトンネル』(1966-1967年)、『巨人の惑星』(1968—1970年)を製作し、SF番組のパイオニアとなりました。
またSF映画監督として主に20世紀フォックスで活動しており、『失われた世界』(1960年)、『地球の危機』(1961年)、『気球船探検』(1962年)などを手掛けています。
1911年イギリス生まれ。高校卒業後の1929年にヒッチコック監督の『恐喝』(1929年)の撮影助手としてイギリス映画界に入り、後にデヴィッド・リーンと共に映画会社を設立しました。元は撮影監督だったのですが、脚本家、プロデューサーと徐々に活動の範囲を広げていき、1947年に監督デビュー。英国アカデミー賞を二度受賞するなど、本国では高い評価を得ていました。
本作の大ヒット後にはジョン・ヴォイト主演のサスペンス・スリラー『オデッサ・ファイル』(1974年)やショーン・コネリー主演の天体衝突パニック『メテオ』(1979年)などを手掛けたものの、本作ほどのインパクトは残せませんでした。
従前はテレビドラマと低予算SF映画という分野で活躍してきたアーウィン・アレンにとって、本作が初の大作でした。その製作費は1,200万ドルであり、234万ドルで撮られた『気球船探検』とは桁違い。同時期の他の大作と比較しても、『ゴッドファーザー』が600万ドル、前年の『007/ダイヤモンドは永遠に』(1971年)が720万ドルですから、通常の大作2本分がかけられるという、大変な金額となっています。
本作はアメリカだけで8,400万ドルを売り上げる大ヒットとなり、パニック映画(現在の呼称だとディザスター映画)というジャンルを作り上げました。アレンは本作の技術とノウハウを生かして『タワーリング・インフェルノ』(1974年)を製作し、本作を上回る1億1600万ドルの興行成績を記録し、時代の寵児となりました。
ただし転落も早く、殺人バチの群れが全米を襲う『スウォーム』(1978年)、ポセイドン号で銃撃戦が行われる珍作『ポセイドン・アドベンチャー2』(1979年)、火山噴火をテーマにした『世界崩壊の序曲』(1980年)と駄作を連発したことからアレン・ブランドは急速に失速し、映画界からの撤退を余儀なくされました。
豪華客船ポセイドン号は、海底地震が起こした津波に遭って転覆した。転覆後にも船は浮かんでいられたが、いつ沈むか分からない状況にあって積極的に上を目指すべきとするグループと、現在地に留まるべきとするグループに乗客は分かれた。
ポール・ギャリコ著のベストセラー小説を、『夜の大走査線』でアカデミー脚色賞を受賞したスターリング・シリファントが脚色しただけあって、娯楽作として見事にまとめられています。
水が襲ってきたと思ったら次は火と、単調になりかねない題材ながら見せ場には意外とバリエーションがあるし、次から次へとテンポよく見せ場が繰り出されるという手数の多さも魅力です。また、登場人物達のまとまらなさ加減も丁度良く、適度にバラバラで勝手な言動もあるのですが、これ以上やられると観客がフラストレーションを感じてしまうというギリギリのところで寸止めができています。
また、CGなどなく本当にやるしかなかった時代ならではのデスウィッシュスタントの数々には、現代の目で見ても、と言うより、作り物の映像に慣れた現在の目で見てこそ感じられる迫力がありました。
スコット牧師一行が上階へ上がった直後、パーティ会場に水が流れ込んできて残った大多数を押し流していくのですが、広い空間に大量の水が流れ込み、百人単位の人が飲み込まれていくという阿鼻叫喚の図には驚かされました。
本作の特徴として随所に意見の対立が見られることが挙げられるのですが、この対立が必ずしも論理的ではないことが、作品のアキレス腱となっています。
まずは、船長vs船主。安全を重視して遅らせるべきとの船長に対して、遅延によるコスト増を心配して予定通り進むべきと主張する船主。
この流れであれば、船主が安全を軽視したためにポセイドン号が転覆したという話にすべきだったのですが、実際には突発的に発生した海底地震が起こした津波が事故の原因であるために、船主の判断ミスはほとんど影響しないということになっています。
船長の言う通りにしていれば転覆を免れていたとも思えないし、これでは船長vs船主の意見対立を描く必要などなかったように思います。
スコット牧師vsパーサーも然り。転覆後のポセイドン号で船底を目指して動くべきとするスコット牧師と、現在地に留まって救助を待つべきとするパーサーは意見が対立するのですが、多くの怪我人がいる状況を踏まえれば、下手に動かない方が良いとするパーサーの主張にもそれなりに筋が通っているし、上へあがっていったところで、鋼鉄製の船底をどうやって開けるのかという問いにスコット牧師は回答を持っておらず、こちらの意見が絶対的に正しいとも言えない状況にありました。
スコット牧師に関しては、ロゴとの意見対立においても、結果から振り返った時にたまたま正解ルートを選択していただけで、道を選択する段階ではどちらとも言えないような状況が散見されたために、彼の言動はちょっと強引すぎるような気がしました。また、説得の段階では合理的な論拠がなかったにも関わらず、ゴリ押し後に正解ルートだと分かってから「それ見たことか」という顔をするために、好きになれないキャラクターでした。
15歳のスーザンがフランク牧師に惹かれていたり、設定年齢は20代そこそこだと思われるノニーと初老のマーティンが良い感じになったりと、若い女性と中高年男性というロマンスのあり方が、現在の目で見るとちょっと気持ち悪かったですね。
ロマンスを押し出した作品ではないし、2つのカップルにも直接的なロマンスの描写があるわけではないのですが、転覆前にフランク牧師が「愛に乾杯」とか言っていたり、マーティンはローゼン夫妻から独り身であることを心配されていたりと、それらにはっきりと伏線があるので、作品のひとつのファクターではあると思います。
特に、良い歳をしたマーティンが「ノニー、ノニー」とうるさい点は見るに耐えませんでした。もっと年長者ならではの威厳や包容力で見せてくれればよかったのですが。ちなみにマーティン役のレッド・バトンズとノニー役のキャロル・リンレイは、撮影中には不仲だったようです。
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