(2003年 アメリカ)
マイケル・ベイがアクションを世界一かっこよく撮る監督であることは明らかで、100分程度の上映時間でアクションのコラージュをすればB級アクション映画史上の傑作になっていたかもしれません。 しかし実体は147分というアクション映画としては異例の長い上映時間を使い、無駄と重複だらけの物語でせっかくの見事なアクションを薄めてしまっており、映画としては大変残念なことになっています。
マイアミ市警のマーカスとマイクは麻薬密輸ルートを追っていた。DEAも同じく密輸ルートを追っており、潜入捜査官として、マーカスの妹であり、マイクの恋人であるシドが本来の拠点であるNYからマイアミへとやってきた。
1965年アメリカ出身。デヴィッド・フィンチャーとドミニク・セナにより設立されたプロパガンダ・フィルムズに所属しMTVやCMの監督としてキャリアをスタートさせ、前作『バッドボーイズ』(1995年)で長編映画デビュー。同作が製作費2300万ドルに対して全世界で1億4000万ドルを稼いだことから、ジェリー・ブラッカイマー・プロダクションの主力監督の一人となりました。
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まずトニー・スコットが『ザ・ファン』(1996年)に移って行った『ザ・ロック』(1996年)の監督に就任し、その年の全米年間興行成績第4位、全世界で3億3500万ドルの大ヒット。続いて『アルマゲドン』(1998年)がその年の全世界興行成績第1位の5億5300万ドルという超特大ヒットと、完全に乗っていました。
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ブラッカイマーから「君もそろそろ映画監督としての評価と敬意が欲しい頃だろ」とそそのかされたのかどうかは知りませんが、3度断った末に引き受けた『パール・ハーバー』(2001年)が批評面で惨敗し、全世界で4億5000万ドルと興行面では健闘したもののディズニーの期待ほどは稼げず、ここで映画監督としては初めての挫折を経験しました。
そして、真面目な映画を撮ることは俺の性分じゃないということで、『パール・ハーバー』(2001年)でかいた恥を振り払うかの如く、徹底的に低偏差値に方面に振り切ったのが本作でした。
大勢の脚本家に作品を仕上げさせるブラッカイマーの通例に従い、本作にも4名の脚本家がクレジットされています。また、最終的なクレジットには残っていないのですが、プロダクションの初期にはジョン・リー・ハンコックが脚本家として雇われていました。
冒頭の、TNT(戦術麻薬捜査部隊)がKKKの集会を強襲する場面から、かっこよさと迫力が画面に溢れています。特殊部隊をここまでかっこよく見せられる監督ってマイケル・ベイくらいじゃないでしょうか。
そして輪をかけて凄いのが前半最大の見せ場であるハイチ・ギャングvsマイアミ市警のカーチェイス→銃撃戦→カーチェイスのつるべ撃ちであり、その熱量・ボリューム・サービス精神には感動しました。リアリティなんぞ無視してかっこいいアクションとは何か、撮りたいアクションとは何かのみを追求し、突き抜けた境地を見せられたかのような奇跡的な見せ場でした。なお、このアクションを撮っている向かいでは『ワイルド・スピードX2』(2003年)も撮影をしていたようなのですが、カーチェイスの迫力では本作が圧勝していました。
と、素晴らしかったのはここまでで、このカーチェイスの後には、長い長い無駄な時間が待っていました。
この映画の構成は歪なことになっています。
序盤で映画史上屈指のレベルのカーチェイスを見せながら、その後にレベルが何段階か落ちる平凡なカーチェイスを何度も挿入してくるという謎。高いレベルで目が慣れてしまった観客が平凡なカーチェイスを見て興奮するはずがなく、「さっさと終わらないかな」と思いながら眺めるという悲惨なことになっていました。これらのカーチェイスは丸ごと無駄ですね。
物語では、キューバ人の麻薬密輸業者がいて、ロジスティックスの一端を担っているのがKKKで、ロシアン・マフィアが販路を持っていて、ハイチ・ギャングが利益の横取りを企んでいて、もう一方ではマイアミ市警とDEA縄張り争いをしていてと、いろんな組織が入り乱れる複雑な構図が置かれているのですが、この複雑さが企画の持つ本来の魅力に繋がっているとも考えられず、キューバ人vsマイアミ市警でも成り立つ話なのに、なぜここまでややこしくしたんだろうかと不思議に思いました。
加えて展開に重複が多く、タピアが死体と棺桶を使って麻薬と現金を運んでいることは中盤で明らかになるにも関わらず、その後にマーカスとマイクが葬儀社に潜入し、死体の腹を開いて中を確認するという展開を入れるという無駄さ加減。
また、マーカスとマイクのコンビ仲が悪化しているというドラマが置かれているのですが、これが面白くもなんともなく、最終的には有耶無耶な形で終わるという残念なことになっていました。
マーカスは更年期障害で何事にもイライラしており、また仕事に対する気力と体力を維持できなくなっています。組織にはすでに異動届を出しているもののマイクには打ち明けられておらず、悶々とした日々を過ごしています。マイクはマイクでマーカスの妹シドと交際しているものの、若い頃からの自分の女癖の悪さを知っているマーカスが許してくれるとも思っておらず、こちらも打ち明けられずにいます。
人間関係にこうした前提条件を置いている以上は、対立と和解のドラマが作品の横軸になるのかなと思いきや、ベイはアクション演出しかやる気がなかったのか、このドラマパートを恐ろしく雑に扱い、マーカスの転属やマイクとシドの交際がどうなったのかを描かないままに映画は終了します。
アクション映画なのでドラマを描けとは言わないのですが、わざわざ人間関係に係る描写を入れておきながら、それを真面目に扱う気がないというのはどうなのと思います。
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