(1981年 オーストラリア)
勢いで作られた映画のようで、実はキャラ造形も物語もしっかりと考えられた緻密な作品でした。ポストアポカリプス映画の中でも最高峰に君臨する作品だと言えます。
V8インターセプターで荒野をさすらうマックス(メル・ギブソン)は、出会ったジャイロ・キャプテン(ブルース・スペンス)から石油精製所の存在を教えられた。その精製所は暴走族に狙われており、中の住民たちは脱出の方法を探っていた。
前作のノベライズを手掛けたことでジョージ・ミラーと知り合いになったテリー・ヘイズが本作の脚本家の一人として参加しています。
1951年イングランド出身。ジョージ・ミラーが率いる製作会社の社内脚本家として雇用され、同社が手掛けるテレビのミニシリーズのすべてに関与。また『マッドマックス/サンダードーム』(1985年)も続投と、ミラーから全幅の信頼を置かれていました。
1993年頃には『猿の惑星』のリメイク企画に携わっていたオリバー・ストーンから同作の脚本の執筆依頼を受け、人類の存亡をかけて原始時代へとタイムスリップする科学者の物語として大胆な脚色を行い、大物プロデューサーのピーター・チャーニンから大絶賛を受けました。ただし、作品の方向性を巡り20世紀フォックスと対立してヘイズは降板し、この脚本が映画化されることはありませんでしたが。
1998年には、主演のメル・ギブソンと対立して脚本家兼監督のブライアン・ヘルゲランドが降板した『ペイバック』(1999年)の書き直しを依頼され、ほぼ別物と言えるほどの改変を行いました。
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撮影監督は、前作のデヴィッド・エグビーからディーン・セムラーに変更となっています。
1943年オーストラリア出身。カメラマンとしてテレビ界に入り、1970年代よりドキュメンタリー映画や短編映画を手掛けるようになり、1970年代半ばより長編映画にも参入。
本作では何十台ものカメラを並べてカーチェイスを撮影するという複雑な現場を仕切り、その手腕が高く評価されました。また、迫力ある映像を撮るためにセムラー自身がトレーラーの全面に縛り付けられて高速走行するという、全盛期のたけし軍団のような無茶な撮影までを敢行。
ここまでしてくれる人は他にはいないってことで続編『マッドマックス/サンダードーム』(1985年)でも続投しています。
程なくしてハリウッドに進出し、『ヤングガン』(1988年)シリーズなどを手掛け、ケヴィン・コスナー監督の『ダンス・ウィズ・ウルヴズ』(1990年)でアカデミー撮影賞を受賞。
以降は『ラスト・アクション・ヒーロー』(1993年)や『ウォーターワールド』(1995年)といった大作を手掛けるハリウッドトップクラスの撮影監督となりました。メル・ギブソンからの信頼も篤く、『ワンス・アンド・フォーエバー』(2002年)、『アポカリプト』(2006年)の撮影を手掛けています。
なお、本作の撮影監督としては、後に『マッドマックス/怒りのデスロード』(2014年)を手掛けるジョン・シールも候補者の一人として名前が上がっていました。
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本作は、映画史上でももっとも影響力のある作品のひとつだと言えます。
本作の登場によりSF映画のルックスは一変したと言っても過言ではなく、かのジェームズ・キャメロンすら、『ターミネーター』(1984年)の製作にあたって参考にした作品であると述べています。
それほど優れた世界観に対して、流れ者がその土地の厄介事に介入するという西部劇の王道ともいえる物語を組み合わせたことで、非常に安定した映画となっています。
加えて、ジョージ・ミラーはジョーゼフ・キャンベル著の『千の顔を持つ英雄』(1949年)を参照しているのですが、これはジョージ・ルーカスが『スター・ウォーズ』(1977年)で、デヴィッド・マレルが『ランボー』(1982年)で参照したとされており、王道の神話論を作品に取り入れたことで、高い普遍性を持つ力強い物語となっています。
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こうした神話論に根差した英雄譚も魅力的な悪役があってこそなのですが、マックスに受けて立つヒューマンガスのキャラ造形が素晴らしいことで、マックスのキャラも引き立っています。
「登場人物」の項目でも触れたのですが、彼はとにかく優秀なリーダーです。
例えば石油精製所に対して演説をぶちかます登場場面。すぐにも突撃したい部下達を「まぁ待て」と言って落ち着かせながらマイクを握るのですが、相手に対して脅しをかけつつも、同時に逃げ場も準備することで正面衝突を避けて目標を達成しようとする高いレベルの交渉術を披露します。
しかし野生児がブーメランで邪魔をしたことで場は再び荒れ始め、部下達は親分の演説そっちのけでブーメランの方に夢中になります。
そんな混沌の中で、パートナーの頭をカチ割られたウェズが激昂し「すぐにでもそっちに行ったらぁ!」という態度となるのです、この場で戦闘がおっ始まればヘタすりゃ敗北ということが分かっているヒューマンガスは、ウェズを羽交い絞めにして気絶させます。
やっと場が落ち着いたところで演説を再開し、無事、言いたいことを全部言い終えるのですが、この状況でよく冷静にやり切ったものだと、ヒューマンガスの忍耐強さには感心させられました。
同時に、アホな部下を持つリーダーは無駄な苦労をさせられるということもよく分かりました。
作品はゆったりとしたモノローグで始まり、そこからマックスvsウェズのカーチェイスという動に転換するのですが、この冒頭からテンション上がりまくりでした。
カーチェイスの迫力は前作からさらに磨きがかけられており、スピード感・迫力ともに現在の映画と比較しても遜色ないほどです。
クライマックスの追撃戦ではさらに物量までが追加され、巨大トレーラーを武装した数十台の車両が追いかけるという、かつてないレベルのカーチェイスが繰り広げられます。
本作で独特に感じたのは、クラッシュした車がバラバラに砕け散るという表現でした。通常の映画のカーチェイスではクラッシュした車はヘコむものなのですが、本作では車がバラバラに砕け散ります。
このショットを撮るためにどんな車両を準備したんだろうかということがちょっと気になったのですが、ともかくこの表現は作劇上有効に機能しています。
実は直接的な死の描写は少ない映画なのですが、あの砕け散った車を見れば、乗っていた奴は確実に死んだということが誰の目にも明らかであり、実際に映っているもの以上の衝撃度を観客に与えることに成功しています。
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