【凡作】アサシン 暗・殺・者_可もなく不可もなく(ネタバレあり・感想・解説)

(1993年 アメリカ)
リュック・ベッソン監督の『ニキータ』(1990年)のハリウッドリメイクであり、前作で論理的におかしかった部分の補正が為されており、随分と見やすくなっています。その一方で湿っぽさは減少しており、望まない殺し屋業を背負わされた若い女性の苦悩ははっきりと減衰しました。総合するとプラスマイナス0で、オリジナルとどっこいの出来ということになります。

あらすじ

麻薬中毒者の少年少女が薬局に乱入し、警官隊と撃ち合いになった。そのうちの一人マギー(ブリジット・フォンダ)は警官殺害の罪で死刑宣告を受けるが、死刑は執行されず政府機関に移送された。そこにボブ(ガブリエル・バーン)と名乗る捜査官が現れ、記録を抹消して暗殺者になるか、それとも死ぬかの選択を迫られる。

スタッフ・キャスト

監督は『ウォーゲーム』のジョン・バダム

1939年イングランド出身。幼少期にアメリカに帰化し、イエール大学で学びました。テレビドラマの製作を経て1976年に映画界に進出し、ジョン・トラボルタ主演の『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977年)の大ヒットで名を馳せました。

1980年代にはハリウッドを代表する職人監督となり、『ウォーゲーム』(1983年)、『ブルーサンダー』(1983年)、『ショート・サーキット』(1986年)、『張り込み』(1986年)などの幅広い娯楽作を製作。

1990年代に入ると一転して不調となり、ウェズリー・スナイプス主演の『ドロップ・ゾーン』(1994年)とジョニー・デップ主演の『ニック・オブ・タイム』(1995年)を連続してコケさせたことから映画界からはフェードアウト。以降はテレビ界での演出を中心に活動しています。

音楽はハンス・ジマー

1957年ドイツ出身。現在では映画音楽の大家的な存在ですが、本作が製作された90年代前半はそのキャリアの初期に当たります。

元はキーボード奏者としてバンド活動を行っていたのですが、『ディア・ハンター』(1978年)のスタンリー・マイヤーズに師事して映画音楽の道に進み、『レインマン』(1988年)でアカデミー作曲賞にノミネートされました。

トニー・スコットからはかなり早くから目を付けられており、『ビバリーヒルズ・コップ2』(1987年)と『リベンジ』(1990年)での起用が考えられていたようなのですが、当時の有名作曲家を望んだスタジオの意見で却下され、『デイズ・オブ・サンダー』(1990年)でようやくコラボが実現。

同作のプロデューサーであるジェリー・ブラッカイマーとの関係も強くなり、『クリムゾン・タイド』(1995年)『ザ・ロック』(1996年)、『パイレーツ・オブ・カリビアン』(2003年)など、ブラッカイマー作品の音楽はジマーとその弟子達が作り上げました。

主演はブリジット・フォンダ

本作の主人公としてはジュリア・ロバーツ、ニコール・キッドマン、ダリル・ハンナらが考慮されており、またジョディ・フォスターやウィノナ・ライダーにオファーがされていたのですが断られて、ブリジット・フォンダに落ち着いたという経緯があります。

ブリジット・フォンダは1964年LA出身。祖父はヘンリー・フォンダ、父はピーター・フォンダ、叔母はジェーン・フォンダという筋金入りの芸能一家出身であり、ニューヨーク大学の演劇科を1986年に卒業後、1987年に映画デビューしました。

抜群のネームバリューとルックスの良さからすぐに仕事が殺到し、『ゴッドファーザーPARTⅢ』(1990年)、『ルームメイト』(1992年)、『キャプテン・スーパーマーケット』(1992年)など、90年代前半には年数本に出演するほどの人気を博しました。

しかし90年代後半からは『U.M.A.レイク・プラシッド』(1999年)や『キス・オブ・ザ・ドラゴン』(2001年)などのB級映画への出演が目立つようになり、2003年に作曲家のダニー・エルフマンと結婚後には映画への出演は途切れました。実質、引退状態にあると言えます。

感想

オリジナルの問題点を解消したリメイク

オリジナルの『ニキータ』(1990年)には暗殺者達の設定にいろいろと難があったのですが、リメイク版ではその問題がかなり解消されていて、私にとっては随分と腹落ちのする内容になりました。

まず、オリジナルでは育成に時間や労力をかけ過ぎで暗殺者のコスパが悪すぎると感じたのですが、本作では主人公マギー(ブリジット・フォンダ)以外にも訓練生が複数おり、集合研修のような形で育成されているので、暗殺者のコスパ問題はかなり改善されています。

加えて、オリジナルでは3年もかけて育成されたニキータが依然としてメンタル面で煮え切らないということに相当な違和感があったのですが、本編にも直結するこの設定の穴が、リメイクでは見事にふさがっています。

マギーは組織から不適格の烙印を押されそうになっており、殺処分寸前のところでボブ(カブリエル・バーン)が突貫での育成を行い、半年で免許皆伝されたという設定に変更。そのことが彼女のメンタル面の脆弱さや、暗殺業務への抵抗感を持ち続けていることへの合理的な説明となっています。

その他、クライマックスでニキータが男装してソ連大使館に潜入するが、どう見てもおかしな変装がバレないという展開は見直されて、マギーは女性の替え玉という自然な設定に変更されました。

ハリウッドらしい大作感がない

そんな感じで痒い所に手が届く内容にはなっているのですが、アクション映画として面白かったかと言われると、決してそうではありません。

脚本は良くも悪くもオリジナルをなぞっているだけで、ハリウッド映画らしいブローアップがなく、オリジナルとほぼ似たような話を見せられただけという状態となっています。オリジナルをほとんど評価していない私としては、あまり気に入らなかった作品の再演を見せられているようでしんどかったです。

同じあらすじでも見せ場のボリュームを強化することくらいすれば良かったのに、なぜ同レベルに留めたんでしょうか。本作の製作姿勢は謎です。

組織の非情さが足りない

一方、リメイクで退化している部分もありました。

オリジナルでは欧州映画特有の湿っぽさもあって組織の非情さや、そんな組織から無理を押し付けられるニキータの苦境はちゃんと伝わってきたのですが、リメイクではその点が随分と薄味になっています。

全体的に生ぬるい空気が充満しており、表沙汰にできないヤバイ任務に女の子がたった一人で放り込まれているという緊張感や、組織からはほぼ使い捨ての道具扱いを受けているという切実感が伝わってきません。

組織側の人間ボブを演じるガブリエル・バーンは良い俳優だと思いますが、ちょっとヤバイ空気も出していたチェッキー・カリョと比較すると道理の通じそうな雰囲気が漂っており、マギーに対する好意も明確になったので、最後まで彼が信頼のおける人間だったこともマイナスでした。

マギーを大事に思っているのか、それとも使い捨ての道具だと考えているのかが不明な部分があり、必要に応じて崖からでも突き落としかねないような非情さがこのキャラクターには必要でした。

ラストでも黙ってマギーを行かせるのではなく、背後から撃つかどうかを逡巡した上で、やはり撃てなかったという描写を入れるべきだったと思います。 オリジナルのニキータとボブの間には愛憎関係があったのですが、本作のマギーとボブの間には憎の感情が希薄であるため、薄っぺらな関係性に留まっているのです。

暗殺者という非情な世界を描く上で、この関係性はマイナスでした。

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