【良作】デイズ・オブ・サンダー_レース場面は必見(ネタバレなし・感想・解説)

その他
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(1990年 アメリカ)
『トップガン』(1986年)をカーレースに置き換えただけの失敗作と言われることの多い作品なのですが、私はトップガンと同じベクトルであるがより進化を遂げた作品んだと思っており、実は結構好きな映画です。

あらすじ

ハリー・ホッジ(ロバート・デュヴァル)はストックカーレースのエンジニアだったが、スター選手を事故死させたことから現役を引退していた。そんなハリーの前にレーシングチームのオーナーであるティム・ダランド(ランディ・クエイド)が現れ、新しいチームを作りたいと言う。

ティムはハリーに無名のドライバー コール・トリクル(トム・クルーズ)を紹介する。コールの不遜な態度に対してハリーは嫌悪感を覚えたが、ドライビングの腕は確かだったことからレーシングチームの設立を引き受ける。

スタッフ・キャスト

製作はドン・シンプソンン&ジェリー・ブラッカイマー

  • ドン・シンプソン:1943年生まれ。オレゴン大学卒業後に映画会社に入社。最初はワーナーに入り、その後にパラマウントに移籍し、若くしてマーケティング担当重役へと出世しました。『フラッシュダンス』(1983年)、『ビバリーヒルズ・コップ』(1984年)、『トップガン』(1986年)とヒット作を量産。パラマウントは80年代にもっとも高い収益をあげたスタジオでしたが、その収益に大きく貢献したのがシンプソンでした。
  • ジェリー・ブラッカイマー:1945年生まれ。最初のキャリアは、後に彼がプロデューサーとして使うこととなる監督達と同じく、コマーシャル・フィルムの監督でした。ニューヨークの広告代理店で数々の賞を受賞した後にロサンゼルスへ移って映画製作を開始。初期にはハードボイルド小説の古典の映画化『さらば愛しき女よ』(1975年)、ジーン・ハックマン主演の『外人部隊フォスター少佐の栄光』(1977年)、マイケル・マン監督の『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』(1980年)などやたらシブイ映画ばかり作っていたのですが、1980年代よりドン・シンプソンの製作助手となったことから、その作風は一変しました。
    見栄えのする若手俳優、人気アーティストを起用したサウンドトラック、特殊効果を駆使した派手なアクションというドン・シンプソンスタイルを継承・発展させ、これによりヒットメーカーの仲間入り。彼の作品は派手さの割には中身がないと揶揄されることも多いのですが、それはシンプソンと組む以前のシブい作品群が収益を生み出してこなかったというブラッカイマーなりの反省がスタート地点にあり、彼は百も承知の上でやっているのです。

監督は『トップガン』のトニー・スコット

1944年生まれ。兄のリドリー・スコットも映画監督。若い頃は画家として生計を立てていたのですが、1970年代にリドリーが経営するCM製作会社に入り、CMディレクターとして活躍しました。

その後、リドリーの後を追うように映画界入りし、デヴィッド・ボウイ主演のバンパイア映画『ハンガー』(1983年)で長編映画監督デビューしました。

細かいカット割や派手な映像装飾という特徴がジェリー・ブラッカイマーの方向性と合致しており、大作『トップガン』(1986年)の監督を任されたことから、ヒットメーカーの仲間入りをしました。

以降はブラッカイマー御用達の監督となり、『ビバリーヒルズ・コップ2』(1987年)、『エネミー・オブ・アメリカ』(1998年)、『デジャヴ』(2006年)を手がけました。

後年、トム・クルーズと共にトップガンの続編を製作しようとしていたのですが、2012年にカリフォルニア州サンペドロの橋から飛び降りて死亡。遺書はないものの自殺という見方が一般的です。

脚本は『チャイナタウン』のロバート・タウン

1934年LA出身。軍隊を除隊後の1958年にハリウッドを志して演劇養成所に入り、そこでジャック・ニコルソンやロジャー・コーマンと出会いました。

若い頃にはテレビドラマやロジャー・コーマンの低予算映画の脚本を書き、ロジャー・コーマンを通じて出会ったフランシス・フォード・コッポラからの依頼で『ゴッドファーザー』(1972年)撮影中の脚本の手直しを手伝いました。

そして、ロバート・タウンが執筆した『チャイナタウン』(1974年)が『ゴッドファーザー』の仕事で知り合いになったプロデューサーのロバート・エヴァンスのプロダクションの第一回作品として製作されることになり、旧友のジャック・ニコルソンが主演を務めました。

同作は高い評価を獲得してロバート・タウンはアカデミー脚本賞を受賞。一躍ハリウッドのトップ脚本家となったのでした。

1990年に入るとトム・クルーズと懇意になり、本作の脚本を共同で手掛けたのみならず、『ザ・ファーム 法律事務所』(1993年)、『ミッション:インポッシブル』(1996年)『ミッション:インポッシブル2』(2000年)にも参加しました。

なお本作の脚本は『トップガン』(1986年)にノークレジットで参加し、その後『ビバリーヒルズ・コップ2』(1987年)や『バットマン』(1989年)を手掛けたウォーレン・スカーレンが当初担当しており、続いて政治サスペンス『ミッシング』(1982年)の共同脚本でアカデミー脚色賞を受賞したドナルド・E・スチュワートが参加したのですがうまくいかず、最後に呼ばれたのがロバート・タウンだったということです。

主演は大スター トム・クルーズ

1962年ニューヨーク州出身。

高校卒業後に俳優を目指してハリウッドに移り、『タップス』(1981年)、『アウトサイダー』(1983年)、『栄光の彼方に』(1983年)などの青春映画に次々と出演。『卒業白書』(1983年)でゴールデングローブ主演男優賞にノミネートされました。

リドリー・スコット監督のファンタジー『レジェンド/光と闇の伝説』(1985年)はコケたものの、その弟トニー・スコット監督の『トップガン』(1986年)が年間第一位の大ヒットとなり、加えて同年に出演したマーティン・スコセッシ監督の『ハスラー2』(1986年)で共演のポール・ニューマンにアカデミー主演男優賞をもたらしたことで評価と人気を獲得。

以降も『カクテル』(1988年)のような若者向けの軽い作品と、『レインマン』(1987年)や『7月4日に生まれて』(1989年)のような賞レース向けの映画の両方にバランスよく出演し、スターの中のスターとなりました。

40歳を過ぎた辺りからアクションスターとして開眼し、近年は『ミッション:インポッシブル』シリーズの無茶なスタントで名を馳せています。

ニコール・キッドマンのハリウッド進出作

1967年ハワイ州出身で、4歳の時に両親の母国であるオーストラリアに帰国しました。

15歳でテレビやMTVに出演し始め、フィリップ・ノイス監督の『デッド・カーム/戦慄の航海』(1988年)がトム・クルーズの目に留まったことからハリウッドに招かれ、本作『デイズ・オブ・サンダー』(1990年)で共演しました。

1990年にトム・クルーズと結婚し、『遥かなる大地へ』(1992年)と『アイズ・ワイド・シャット』(1999年)で共演しました。

トム・クルーズと離婚した2001年以降は演技派女優としての地位を確立し、『ムーラン・ルージュ』(2001年)でゴールデングローブ主演女優賞、『めぐりあう時間たち』(2003年)でアカデミー主演女優賞を受賞しました。

なお本作のクレア・ルイッキー役にはロビン・ライトが考えられていたのですが断られたものでした。その他にキム・ベイシンガー、サンドラ・ブロック、ジョディ・フォスター、サラ・ジェシカ・パーカー、マドンナ、ミシェル・ファイファー、ジュリア・ロバーツ、メグ・ライアン、ブルック・シールズ、シャロン・ストーンからも断られています。

作品解説

混乱した現場

本作の全米公開は3度も延期されました。

なぜこんなことになったのかというと現場が混乱しまくったためであり、前述した通り元はウォーレン・スカーレンが脚本を書いていたのですがトム・クルーズの眼鏡に適わず、ハリウッド有数の脚本の直し屋であるロバート・タウンが全面的な脚本の書き直しを始めたのは、なんと撮影が始まってからでした。

決定稿がないということは、すなわち完成作品の青写真がないということであり、どのショットを撮るかを巡ってトニー・スコット、ドン・シンプソン、ジェリー・ブラッカイマーは常に揉めており、時にはその争いにロバート・タウンまでが加わることもあって、撮影は常に遅れ気味でした。

上が揉めている間、スタッフ達はやることがなくただ待っている状態となり、日々膨大な人件費が浪費されていました。当初3500万ドルだった製作費は6000万ドルにまで膨れ上がっていました。

同年にパラマウントが製作したアクション大作『レッド・オクトーバーを追え!』(1990年)の製作費が3000万ドルだったことを考えると、本作の製作費がいかに異常な額であるかがわかります。

加えてドン・シンプソンが個人的な浪費を繰り返し、そのことが多くの人々に不信感を与えて現場での混乱を助長しました。

興行的には期待値に達しなかった

本作は1990年6月27日に全米公開され、公開3週目を迎えていた『ディック・トレイシー』(1990年)や『ロボコップ2』(1990年)を抑えてNo.1を獲得しました。

翌週には『ダイ・ハード2』(1990年)が公開されてランキングは2位に落ちたのですがそれでも売上高は悪くはなく、全米トータルグロスは8267万ドルでした。

一般的な映画と比較すると十分に良い数字ではあるのですが、6000万ドルもの製作費がかかった映画だと考えれば話は別。しかも『トップガン』(1986年)で年間興行成績No.1を獲ったトリオなのでかけられた期待も大きかったのですが、本作はその年の全米年間興行成績12位と期待外れな結果に終わりました。

世界マーケットにおいてもほぼ同様の結果であり、世界トータルグロス1億5792万ドル。6000万ドルの製作費を賄うためには微妙な金額であり、興行的には伸び悩みました。

ドン・シンプソンとパラマウントの蜜月を終わらせた作品

以前よりドン・シンプソンの私生活は荒れており、有名人を自宅に招いての連日のパーティ、乱れた女性関係、整形手術、ドラッグの濫用と、友人のプロデューサー ジョエル・シルバーから心配されるほどでした。

ただし80年代を通じて高い興行成績を出し続けていたからこそ、問題があってもパラマウントは彼を使い続けていたのですが、特に現場が荒れた上に結果も出せなかった本作によって、その蜜月関係も終了しました。

パラマウントからは契約打ち切りを言い渡され、相棒のジェリー・ブラッカイマーと共にウォルト・ディズニー・スタジオに移籍しました。ただし数年はほぼ休業状態であり、マイケル・ベイ監督の『バッド・ボーイズ』(1995年)とトニー・スコット監督の『クリムゾン・タイド』(1995年)までは新作のリリースが止まっていました。

登場人物

  • コール・トリクル(トム・クルーズ):ドライビングテクニックは一流だったものの父親の起こした不祥事に巻き込まれてフォーミュラカー界から追放された若手ドライバー。ティム・ダランドにその能力を見込まれてストックカーレースに鞍替えし、ハリーのチームに入る。
  • ハリー・ホッジ(ロバート・デュヴァル):ストックカーのベテランエンジニアだが、前年にドライバーを亡くしたことから引退している。新しいチームを作りたいというティム・ダランドの要請により復帰し、新チームのドライバーとなったコール・トリクルを育てる立場となる。
  • ティム・ダランド(ランディ・クエイド):裕福な自動車ディーラーであり、ハリー・ホッジにストックカーレースの新チームを作らせる。
  • クレア・ルイッキー(ニコール・キッドマン):脳神経外科医。レース中の事故で運び込まれたコールの主治医となり、のちにコールからのアタックを受けて恋人になる。
  • ロウディ・バーンズ(マイケル・ルーカー):前年の王者で、コールのライバルとなる。
  • ラス・ウィーラー(ケイリー・エルウェス):レース時の事故でコール不在となったチームの代替ドライバーとして雇われたが、すぐに頭角を現して優勝候補筆頭となった。回復後のコールのライバルとなる。

感想

いつものトム・クルーズ映画

公開時、本作は『トップガン』(1986年)のテンプレをなぞった映画と言われておおむね酷評を受けました。私もその通りだと思います。

  • 天才的な才能を持つが粗削りな主人公
  • 主人公は不名誉な父の汚名を着ている
  • 主人公を導くベテランの登場
  • 恋人となる女性は社会的ステータスの高いインテリ
  • 冷徹なライバルの存在
  • 主人公が挫折の末に本領発揮するという筋書き

こうして特徴を書き出してみると、ほぼほぼ『トップガン』と同じ話です。

異常に充実したドラマ

ただし私は『トップガン』よりも本作の方が優れていると思っています。その理由はドラマの詰め込み方が尋常ではなく、展開が多いので楽しめる箇所が多くあるためです。

本作の主人公は才能こそあるが一般には無名のレーサー コール・トリクル(トム・クルーズ)。彼の前に立ちはだかるのは前年チャンピオンのロウディ・バーンズ(マイケル・ルーカー)であり、コールはどうやってロウディに勝利するのかという話を連想させられます。

実際、映画は想像通りにコールvsロウディの線で進んでいくのですが、中盤の時点でコールが実力的にロウディと互角のところまでいき、間もなくしてコールは新人ラス・ウィーラー(ケイリー・エルウィス)からその地位を脅かされる側に回ります。

すなわち本作は『ロッキー』の1作目~3作目の内容をたった一本でカバーしているということになるのですが、これを107分という通常よりもやや短めの尺に収め、かつ駆け足間もなくやってのけています。

脚本を書いたロバート・タウンは若者向けの娯楽作であると割り切って深みや洞察などとは無縁の作風に徹してはいるのですが、それでも構成力や要約力という点ではオスカー経験者らしい実力は出し惜しみしていません。各構成要素のエッセンスだけを抽出してコンパクトにまとめてみせた仕事には脱帽なのです。

加えて、主人公のメンター役を務めるのがアカデミー賞俳優のロバート・デュヴァルだったり、ライバル役がマイケル・ルーカーだったりと演技派俳優を中心に固めているので、脚本上は紋切り型であっても俳優達の演技力によってキャラクターにはそれなりの味が出ています。

こうした実力ある人々の仕事によって、本作は見ごたえのあるドラマとなっています。

クライマックスのレースが素晴らしすぎる

このドラマが結実するのがクライマックスのレースなのですが、これが実に素晴らしい見せ場で五感を楽しませてくれます。私は本作のBlu-rayを見るとき、このクライマックスは3回ほどリピートしてしまうほど大好きな場面です。

適切なショットの積み重ねによってレース場の熱狂を切り取ると、まもなくレース開始。レース場面にはスピード感や臨場感がみなぎっており、さすがは映像派トニー・スコットという職人技を拝むことができます。

そして、数か月前にコールがトラウマを受けたのと似たようなシチュエーションが発生し、これを切り抜けた瞬間に高鳴るメインテーマには鳥肌が立ちました。本作はハンス・ジマーが手掛けた初のジェリー・ブラッカイマー作品だったのですが、音楽によって映像を支えるというジマーの仕事ぶりは本作の時点で完成されています。この後、ブラッカイマーがジマーを手放せなくなったことには納得がいきました。

最後の最後は主人公vsライバルのギリギリの攻防からの優勝という定番の展開を迎えるのですが、それまでのすべてのドラマがこの数秒に集約され、全員の視線が注がれるこの瞬間にはやはり熱いものがありました。スポーツ映画の醍醐味を嫌というほど味わわされる秀逸な締めだったと思います。

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