(2009年 アメリカ)
シリーズの落穂ひろい的な作品であり、ファンによる壮大な二次創作物と考えてみると見応えがかなりあって、世間で言われるほど悪い映画ではないと思います。ただし、ドラマパートの出来の悪さ、キャラクター達の魅力の無さは擁護できないレベルであり、映画としては面白くありませんでした。
2003年の死刑囚マーカスは、サイバーダイン社への死刑執行後の検体提供に同意した。刑の執行により死んだはずのマーカスは目を覚ますが、そこは核戦争後の世界だった。
1968年ミシガン州出身。大学卒業後に音楽会社のカメラマンとしてスタートさせ、続いてコカ・コーラやGAPなどのCM演出を手掛けました。日本文化への造詣があり、AKB48のライブを自腹で見に行ったりもしたそうです。
映画監督としてのデビュー作『チャーリーズ・エンジェル』(2000年)がいきなり全世界で2億6千万ドルを稼ぐ大ヒットとなり、その続編の『チャーリーズ・エンジェル フルスロットル』(2003年)もほぼ同額の収益を上げ、クリエイターとしての評価はともかく大金を稼げる監督としては名を上げました。続いて、1970年に起こった実話を映画化したスポーツドラマ『マーシャルの奇跡』(2006年)でちゃんとした映画も撮れることを証明し、本作の監督就任に至りました。
結果的にシュワルツェネッガーが大スターになっただけで、キャスティング段階ではスターを使わないことがこのシリーズの伝統だったのですが、本作では大スター・クリスチャン・ベールがジョン・コナー役に起用されています。
1974年イギリス出身。父はパイロット、母はサーカスのダンサー、祖父はコメディアンという芸能一家に生まれ、13歳の時にスティーヴン・スピルバーグ監督の『太陽の帝国』(1987年)に主演し、ガッツ石松や山田隆夫と共演しました。成長してからは『リベリオン』(2002年)、『ダークナイト』(2008年)と映画ファンにとって大事な映画に出演し、『ザ・ファイター』(2010年)でアカデミー助演男優賞を受賞しました。 演じる役柄のために徹底した肉体改造をする役者バカであり、『マシニスト』(2004年)では182cmの長身ながら体重を54kgにまで落とし、その直後に控えていた『バットマン・ビギンズ』(2005年)のために6か月で30kg以上増量して今度は筋肉ムキムキになるなど、異常な役作りをしています。後の『戦場からの脱出』(2007年)、『ザ・ファイター』(2010年)でも過激な減量を行い、他方で『アメリカン・ハッスル』(2013年)では特殊メイクなしでハゲ・デブの役を演じました。その役者バカぶりが、本作で大騒動を巻き起こすことになるのですが…(「プロダクション」の項参照)。
■過去にジョン・コナーを演じてきた人たち
1997年にターミネーターの権利を取得したマリオ・カサールとアンドリュー・G・ヴァイナは、2002年にターミネーター・フランチャイズを復活させるためにC2ピクチャーズを設立しました。そこで製作した『ターミネーター3』(2003年)は新シリーズの第一弾となる予定であり、同作の脚本家として雇われたジョン・ブランカトーとマイケル・フェリスは、続編の脚本も執筆していました。
ターミネーター3【良作】ジョン・コナー外伝としては秀逸(ネタバレあり・感想・解説)
しかし、C2ピクチャーズは2008年に倒産。『ターミネーター3』こそ全世界で4億3千万ドルを売り上げるヒットとなったのですが、往年のテレビドラマをエディ・マーフィ主演でリメイクした『アイ・スパイ』(2002年)と、『ターミネーター』と同じくカロルコから引き継いできた続編企画『氷の微笑2』(2006年)が興行的にも批評的にも苦戦し、資金繰りが悪化したためでした。
ヘムデール、カロルコと、ターミネーターの権利を取得した会社は後に倒産するというジンクスがありますが、C2ピクチャーズもそのジンクスから逃れられなかったようです。
そこに現れたのが新興のハルシオン・カンパニーでした。同社は、広告代理店出身のデレク・アンダーソンと、トレーダーのヴィクター・キュビチェクにより2006年に設立された新しい会社であり、コンテンツに係る知的財産権の所有とマネタイズを目的としていました。
2007年に同社はターミネーターに係る一切合切の権利をC2ピクチャーズから2500万ドルで買い取りました。将来のターミネーター映画の製作権、マーチャンダイズ及びライセンス権、『ターミネーター3』から派生する将来収益、テレビシリーズの製作権と多岐に及んでおり、C2ピクチャーズが製作し好評を博したテレビシリーズ『ターミネーター サラ・コナー・クロニクルズ』(2008-2009年)のシーズン2はハルシオンが製作しました。
そしてC2ピクチャーズ時代にジョン・ブランカトーとマイケル・フェリスにより執筆されていた『ターミネーター3』の続編の脚本も彼らは取得し、これを製作することにしたのでした。ただし、その脚本はポール・ハギスやショーン・ライアンによって大幅にリライトされ、すでに執筆済だったノベライゼーションの書き換えが必要になったほどでしたが。
ターミネーター3【良作】ジョン・コナー外伝としては秀逸(ネタバレあり・感想・解説)
偉大な『1』『2』の存在ゆえに、何を作っても叩かれることが目に見えているターミネーターシリーズは監督探しに難航する傾向があります。少なくとも、立派な経歴を持ったベテランが監督することはありえません。
それにしてもマックGの監督就任には世界中が驚きましたが。確かに『チャーリーズ・エンジェル』からは画面作りのセンスを感じたけど、あんなカラフルな映像を撮る監督が、本シリーズのペシミスティックな世界観を構築できるのだろうかと。ジョン・コナー役のクリスチャン・ベールからは「あなたのフィルモグラフィを見る限り、この作品を撮るための適性を備えているとは思えない」と辛辣なことを言われたようです。
しかしマックGは頑張りました。真面目な彼はシリーズ継続に否定的だったキャメロンの元を訪れ、個人的にアドバイスをもらったと言います。キャメロンって怖そうじゃないですか。しかも自分の手を離れて制作されている続編を良く思っていないとなれば何を言われるか分からない状況なのに、マックGはよく行ったと思います。そして、キャメロンからは主演男優としてサム・ワーシントンを推薦されたそうです。
2009年6月の公開に向けてポストプロダクションの真っ最中だった2009年2月2日、撮影現場でスタッフにブチ切れたクリスチャン・ベールが激しい罵声を飛ばした音声データがネット上に出回りました。
撮影監督のシェーン・ハールバットが本番撮影中のベールの視界にうっかり入ってしまい、「何やってんだ、このクソ野郎!セットから出ていけ!」と怒鳴られました。それを口火にしてベールの罵倒は4分間も続き、その間にFワードを40回も連呼。
遡る2008年にクリスチャン・ベールが母と姉に暴力を振るって警察のご厄介になったというスキャンダルが出回っていたのですが、ゴシップ誌の書くことなので世間は話半分で受け止めていたら、実際その通りの癇癪持ちだったという答え合わせにもなったとの背景もあって、全米メディアは連日の大賑わいとなりました。
この件についてベールはラジオ出演して発言を後悔している旨を発言。それと同時に、現場でのやりとりが録音されていることに対する苦言も呈しました。
『ターミネーター』シリーズには2つのタイムラインが存在しています。
1997年にスカイネットが核戦争を起こし、2029年からターミネーターが送り込まれてくるというタイムラインが一つ目(以下、T2タイムライン)。2003年にスカイネットが核戦争を起こし、2032年からターミネーターが送り込まれてくるというタイムラインが二つ目です(以下、T3タイムライン)。
なぜこんなややこしいことになっているのかというと、『ターミネーター2』(1991年)でサイバーダイン社によるスカイネット計画が崩壊してT2タイムラインが閉じ、『ターミネーター3』(2003年)で軍が開発した新たなスカイネットが核戦争を起こしてT3タイムラインがスタートしたためです。
で、本作『ターミネーター4』がどちら側なのかと言うと、冒頭のテロップでは審判の日が21世紀初頭であったこと、サム・ワーシントン扮する死刑囚マーカスがサイバーダイン社に検体提供するのが2003年であることから、T3タイムライン上の話であると判別できます。加えて『ターミネーター3』で初登場した妻・ケイトの存在や、前作でT-850がジョンに対して言った「君とケイトの子供が重要になる」という意味深発言の通りにケイトが妊娠していること、ターミネーターの電池が強力な爆発力を持っていることなど、『3』の設定をきちんと引き継いだ内容となっています。
キャストが一新されているために分かりづらくはあるのですが、上記「プロダクション」の項で述べた通りC2ピクチャーズが『ターミネーター3』(2003年)の続編として作っていた脚本を引き継いでいるため、本作は『3』と繋がっているのです。
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初期稿では、ジョン・コナーはT-800に殺されるという衝撃の結末を迎えることになっていました。ただしジョンという象徴的な存在の喪失は人類抵抗軍の瓦解を意味することから、マーカスの内骨格にジョンの皮膚を貼り付け、マーカスがジョン・コナーを演じることでその存在を維持していくという筋書きが用意されていました。
しかしWEB上にリークされた脚本がファンからの猛反発を受けたことから、この衝撃的な結末はボツに。瀕死のジョンに臓器提供してマーカスが死ぬという正反対の結末に変更されました。
『ターミネーター』シリーズは基本的には現代劇でしたが、毎回冒頭で描かれる未来戦争には特撮魂をくすぐるものがありました。特に『ターミネーター2』(1991年)の冒頭で描かれた総力戦は質・量ともに素晴らしく、「これだけが見たい」、そんな感覚に憑りつかれた人も大勢現れました。
そんな映画少年達の願望をついに実現したのが本作であり、「カプリコのあたま」や「ホームパイのみみ」的なサービス精神だけでも、百点満点をあげたい気分になります。
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2003年が舞台のイントロが終わり2018年の本編に入ると、いきなり人類抵抗軍による機械軍拠点への強襲作戦が描かれます。ミサイル着弾からカメラが右へ左へとせわしなく動き回り、飛び交う爆撃機や降下するヘリをワンカットで捉えた素晴らしいショットには鳥肌が立つほど感動しました。こんなにかっこいい場面はシリーズ内において他にはなく、ビジュアル派のマックGの手腕が炸裂しています。
続けて、ジョンが操縦するヘリが上昇し、直後に電磁パルスの影響で墜落するまでをこれまたワンカットで捉えた映像のインパクトにも目を見張るものがありました。ビジュアルに関してはシリーズ最高の作品だと言えます。
なんやかんやあってマーカスが目覚めてカイルと出会い、ジョンのラジオ放送を聞いて抵抗軍基地を目指す旅に出るのですが、そこで始まるチェイスの壮絶さにも目を見張るものがありました。
ハーヴェスターと呼ばれる巨大ロボの襲撃、バイクの形状をしたモトターミネーターとのカーチェイス、エアリアル・ハンターキラーとの空中戦と見せ場は数珠つなぎ状態であり、「こんな終末映画を見たかった!」と世界中の男子が感涙しかねない状態となっています。
そんな中でももっとも壮絶だったのがモトターミネーターとのカーチェイスであり、これはシリーズ名物のカーチェイスを承継した見せ場だと言えるのですが、ただ一点違うのが、従前シリーズではトレーラーが追う側の乗り物だったのに対して、本作では追われるマーカスとカイルがトレーラーに乗っているという点です。
この構図から否応なしに連想させられるのが『マッドマックス2』(1981年)のクライマックスにおける伝説的なカーチェイスであり、ここで映画は『マッドマックス2』になります。言葉を話せない子供が参加しているという点からも『マッドマックス2』との関連は意図的であり、その超絶サービス精神には震えました。
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と、導入部は百点満点をつけられるほどの素晴らしい出来だったのですが、しつこいチェイスがひと段落し、ジョンとマーカスが接点を持った辺りから、作品は急激に失速しました。
自分が機械であることを知って落ち込むマーカス、愛するマーカスの善意を信じようとするブレア、司令部との方針の違いに苦しむジョンなど、脚本レベルでは様々なプロットが織り込まれているのですが、どれひとつうまく捌けておらず、ストーリーテラーとしては未熟なマックGの弱点がドバっと出た形になっています。
加えて、終盤におけるどんでん返しも見せ方やタイミングの問題から観客に対して衝撃を与える形にはなっておらず、面白そうな話をどうしてここまでつまらなくできたのだろうかと頭を抱えたくなりました。
マーカスは2003年の死刑囚として登場し、白血病で余命いくばくもないセレーナに対して「死の味がする」などと心ない発言をするほどの悪人でしたが、ラストでは人類抵抗軍に不可欠なジョンを生かすために自己犠牲を買って出るまでに成長しました。悪人が善行をなすようになるまでの過程こそが本作のドラマの骨子だったように思うのですが、この要素がまったく描けていません。
序盤ではマーカスのダーティな面の描写が致命的に不足しており、それどころかカイルとスターが連れ去られるとたった一人で機械に立ち向かうほどの気骨を見せており、相当早い段階で善人になっています。これでは変化の振れ幅が表現できていません。カイル、ブレア、ジョンと触れ合う中でマーカスが徐々に変わっていく過程を見せるべきドラマだったのに、なぜこんなに雑な処理になったのでしょうか。
シリーズの落穂ひろい的な作品であり、ファンによる壮大な二次創作物と考えてみると見応えがかなりあって、世間で言われるほど悪い映画ではないと思います。ただし、ドラマパートの出来の悪さ、キャラクター達の魅力の無さは擁護できないレベルであり、映画としては面白くありませんでした。
≪ターミネーターシリーズ≫
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