(2015年 アメリカ)
シリーズ史上最高とも言えるアイデアのぶち込まれた魅力的な企画だったのですが、大作映画に馴染まないアラン・テイラー監督の凡庸な演出と、シリーズ化前提だったため本作には直接関わらないが、続編のために必要な要素を描いておく必要があったことから、流れの悪い作品になっていました。作りようによっては大化けできるポテンシャルはあっただけに、ハンパな仕上がりになったことが残念で仕方ありません。
2029年。機械と人類との戦争は人類の勝利に終わろうとしていたが、窮地に陥ったスカイネットは、人類抵抗軍リーダー・ジョン・コナーの母であるサラを殺害するために、タイムマシーンを使って1984年にターミネーターT-800を送り込んだ。人類抵抗軍の兵士カイル・リースはその後を追うことを志願したが、到着した1984年で待ち構えていたのはT-1000であり、カイルが本来追いかけていたはずのT-800はサラの味方になっていた。
1983年生まれで、本作製作開始時点では31歳でした。以下「プロダクション」の項にある通り、紆余曲折を経てスカイダンス・プロダクションがターミネーター関係の権利を取得したのですが、そのスカイダンス・プロダクションズの設立者にしてCEOがデヴィッド・エリソンです。
父はオラクル・コーポレーションの共同設立者であり、総資産500億ドル(2014年時点)で世界5番目の富豪にも挙げられたことのあるラリー・エリソン。デヴィッドは若干23歳でスカイダンス・プロダクションを設立し、コーエン兄弟最大のヒット作にして、アカデミー作品賞にもノミネートされた『トゥルー・グリッド』(2008年)、トム・クルーズとパラマウントとの険悪な関係性を乗り越えて製作され、シリーズの起死回生作品となった『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(2011年)、史上最大規模で製作されたゾンビ映画『ワールド・ウォー・Z』(2013年)と、破竹の進撃をしていました。
1965年生まれ。90年代半ばからテレビドラマの監督をするようになり、『ホミサイド/殺人捜査課』(1993-1999年)、『セックス・アンド・ザ・シティ』(1999年-2003年)、『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』(1999-2007年)、『マッドメン』(2005年)と錚々たる作品を手掛けてきました。『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』ではエミー賞監督賞を受賞。そして、現在最高の人気を誇るテレビシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011-2019年)では、もっとも衝撃的だったシーズン1第9話を監督しました。あれは何度見ても感情を掻き乱される名エピソードでしたね。
ゲーム・オブ・スローンズ/最終章はなぜ不評だったのか【個人的には7点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)
映画監督としては21世紀初頭に数本を撮ったことがあるのですが、どれも評判にはなりませんでした。『ゲーム・オブ・スローンズ』の大成功後に再挑戦し、『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(2011年)を監督し、全世界で4億5000万ドルを稼ぐヒットとなりました。
1965年生まれの女性脚本家であり、ティムール・ベクマンベトフ監督のロシア映画『ナイト・ウォッチ』(2004年)、オリバー・ストーン監督の『アレキサンダー』(2004年)、マーティン・スコセッシ監督の『シャッター・アイランド』(2010年)、ジェームズ・キャメロン製作の『アリータ:バトル・エンジェル』(2019年)と、恐ろしく脈絡のないフィルモグラフィを誇っています。要は、どんな企画、どんな監督にも対応できる有能な裏方なんでしょう。彼女はキャメロンのブレーンの一人のようで、他に『アバター』(2009年)の製作総指揮にも名を連ねています。
アレキサンダー(2004年)【5点/10点満点中_前半を犠牲にするという奇抜な構成が裏目に出た】
アリータ: バトル・エンジェル【7点/10点満点中_後半の爆発力が凄い】(ネタバレあり感想)
ヘムデール、カロルコ、C2ピクチャーズと、ターミネーターの権利を取得した会社は後に倒産するというジンクスがありますが、『ターミネーター4』(2009年)を製作したハルシオン・カンパニーもそのジンクスからは逃れられませんでした。
ハルシオン・カンパニーは広告代理店出身のデレク・アンダーソンと、トレーダーのヴィクター・キュビチェクにより2006年に設立された新しい会社であり、コンテンツに係る知的財産権の所有とマネタイズを目的としていました。彼らは2007年に2500万ドルでターミネーターの権利を取得。設立後間もない会社のメインコンテンツとして使う予定であり、C2ピクチャーズがシーズン1を製作して好評を博していた『ターミネーター サラ・コナー・クロニクルズ』(2008-2009年)のシーズン2の製作と、『ターミネーター4』を皮切りとした映画三部作のスタートを計画していました。
しかし、『サラ・コナー・クロニクルズ』シーズン2はシーズン1と比較して視聴者が半減したためにフォックスが打ち切りを決定。また『ターミネーター4』は2億ドルもの製作費をかけながら全米初登場1位を獲れず、世界興収は3億7200万ドルと期待外れの結果に終わり、新三部作構想は破棄されました。
新興企業にとって、大々的に打ち上げた最初の花火が不発に終わったことは致命的であり、以降はキャッシュが集まらなくなって資金繰りに行き詰まり、2009年に倒産しました。
ターミネーター4【凡作】画だけは最高なんだけど…(ネタバレあり・感想・解説)
ハルシオンの倒産後にターミネーターの権利は競売にかけられ、2011年に米ヘッジファンド会社のパシフィコアが2,950万ドルで落札。これ以降、ターミネーターを製作したい映画会社があれば、パシフィコアに多額の権利使用料を支払うということになりました。
ハルシオンの登場から気にはなっていたのですが、ターミネーターの権利が映画の作り手からコンテンツビジネスの担い手へと移って行き、最終的にはヘッジファンドに取得されるという流れは何だかなぁという感じです。
2011年1月にカリフォルニア州知事の任期を満了したシュワルツェネッガーは俳優業への復帰を計画していました。ただし、2011年5月に長年連れ添ったマリア・シュライバーとの離婚騒動があり、しかもその原因はシュワルツェネッガーの浮気と隠し子だったことからパブリックイメージは最悪なものとなり、いきなり俳優業に黄色信号が灯りました。ここに至っては、『ターミネーター』という切り札を出すしかない状況となったのです。
シュワルツェネッガーは『ターミネーター5』への出演意欲があることを大々的にアピール。加えて、『ワイルド・スピード』シリーズの興行成績をV字回復させて注目を集めていたジャスティン・リンを監督として迎えるというプランも発表し(シュワとリンは同じエージェントに所属している)、製作するスタジオを募り始めました。2012年撮影開始、2014年公開が当初の目論見でした。
シュワルツェネッガーは続編の2部作を含めた三部作構想を持っていたのですが、2011年の時点では脚本家も決定しておらず、2012年の撮影開始は難しくなりました。そのため監督のジャスティン・リンは『ワイルド・スピード EURO MISSION』(2013年)の撮影を開始。他方、2019年にはターミネーター関連の権利の一部はキャメロンの手元に戻ることから、三部作を自由に作りたいのであればジャスティン・リンを待っている余裕などありませんでした。
この企画に関心を持ったのは、ミーガン・エリソン率いるアンナプルナ・ピクチャーズでした。ミーガンは世界5番目の富豪として知られるラリー・エリソンの娘であり、20歳の頃から映画への投資をしており、2011年にアナプルナ・ピクチャーズを設立していました。そして2011年6月にライオンズ・ゲートに競り勝ってターミネーターの権利を取得しました。
その後、2014年に『ミッション:インポッシブル』シリーズや『スター・トレック』シリーズなどフランチャイズの扱いに長けた兄のデヴィッド・エリソンにターミネーターの権利を譲渡。デヴィッドは、自身が所有するスタジオであるスカイダンス・プロダクションでの製作を決定し、同社への出資をしているパラマウントによる配給も決定。1984年の『1』以来、経営基盤の不安定なスタジオに製作されることの多かった『ターミネーター』が、初めて大手との関係の深いしっかりとしたスタジオで製作されることとなりました。
未来戦争の最終局面で機械軍を追い込む人類抵抗軍と、打つ手がなくなってタイムマシーンを起動するスカイネット。1984年の第一作ではテロップとセリフでのみ語られた決定的瞬間がついに具体化され、そこから映画はファンがよく知っている1984年に飛んでいくのですが、既視感溢れる光景と、予定調和をぶち壊す衝撃の展開の組み合わせには驚かされました。
ターミネーター【傑作】どうしてこんなに面白いのか!(ネタバレあり・感想・解説)
脚本を担当したレータ・カログリディスが「『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』を参考にした」と言っている通り、『ターミネーター2』(1991年)では甘かったタイムパラドックスの処理を全面的に扱った作品であり、よく知っている話が歪められていく内容は非常に緻密に、かつ、大胆に作り込まれています。
ターミネーター2【良作】興奮と感動の嵐!ただしSF映画としては超テキトー(ネタバレあり、感想、解説)
タイムトラベルをして大きな流れの変化があると、新しいタイムラインが発生する。そしてタイムトラベラーは改変前後の歴史を両方知っているというモロに『バック・トゥ・ザ・フューチャー』と同一のルールの元に掘り下げられた物語は一筋縄ではいかず、そのあまりの予測不能ぶりには呆気にとられました。ここまで凄い二次創作物はかつてなかったと思います。
加えて、従前シリーズ(タイムトラベルを扱わない『T4』は除く)では同時に登場することのなかったジョンとカイルがタイムトラベル先の2017年で顔を合わせるという展開もシリーズ新機軸なのですが、こちらにもマクフライ家のファミリーヒストリーを軸とした『バック・トゥ・ザ・フューチャー』からの影響が見て取れました。
本作ではサラの幼少期の1973年にもターミネーターが送り込まれており、そこはすでに歴史改変された後の世界なので、『1』や『2』のタイムラインとは繋がっていません。特に『ターミネーター2』(1991年)の流れはこの時間軸上には欠片もないので注意が必要です。
ここで謎として残るのが、サラの幼少期にT-800を送り込んだのは一体誰なのか、イ・ビョンホン版T-1000はどこから送り込まれたのか、1997年版スカイネットは一体どうやって阻止されたのかということです。
特に大きかったのは1997年版スカイネット阻止の過程であり、開発者であるマイルズ・ダイソンがこのタイムラインでは2017年にも存命であることから見るに、サイバーダイン社への襲撃とマイルズ・ダイソンの死という『T2』のタイムラインとは完全に分岐しており、かつ、1997年版スカイネットの出現は阻止されているのだから、我々が知っているのとはまったく別の方法で阻止されたということになります。
加えて、1984年にタイムマシーンの前でサラが「スカイネット阻止のために1997年へ行く」と主張するのに対して、カイルが「自分の記憶では核戦争が起こるのは2017年で、そこでスカイネットはジェニシスと呼ばれている」と主張します。すなわち、未来の出来事を把握して動いているはずのサラとT-800すら知らない歴史改変がどこかであったということになり、T-800やカイルとは別の改変者が我々のあずかり知らぬ場所で活動していることも推測されます。
こうした本編に散りばめられた謎が有効に機能しており、物語に対する関心を容赦なく掻き立てられました。
決して前任者であるリンダ・ハミルトンに魅力がなかったと言うわけではないのですが、それにしてもキャメロンの審美眼には以前から疑問がありました。探せばもっと美人がいるような気がするんだけどという違和感ですね。『ターミネーター』(1984年)のリンダ・ハミルトン然り、『アビス』(1989年)のメアリー・エリザベス・マストラントニオ然り、『タイタニック』(1997年)のケイト・ウィンスレット然り。
アビス【凡作】キャメロンでも失敗作を撮る(ネタバレあり・感想・解説)
そこに来て、キャメロンの手を完全に離れ、新三部作のためにキャストを選び直した本作では、『ゲーム・オブ・スローンズ』のデナーリス・ターガリエン役でお馴染み、2014年には「世界で最も理想的な女性」にも選ばれたエミリア・クラークがサラ・コナー役に就任。強さと美しさを兼ね備えた新たなサラ・コナー役を見事モノにしています。
ゲーム・オブ・スローンズ/最終章はなぜ不評だったのか【個人的には7点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)
そらカイルが惚れてまうやろという顔面偏差値の高さに、セクシーさを覗かせるタンクトップ姿、そしてタイムトラベルの場面では裸になるのですが、PG-13の映画なので大事なところは映らないにも関わらずやたらエロいです。従前作品にはなかった女性的魅力がシリーズに加わった瞬間でしたね。
彼女の他に、『キャプテン・マーベル』のブリー・ラーソンや『スーサイド・スクワッド』のマーゴット・ロビーもサラ・コナー役のスクリーンテストを受けたとされるのですが、ブリー・ラーソンは魅力よりも強さが前に出過ぎているし、逆にマーゴット・ロビーは強さよりも魅力が前に出過ぎているような気がするので、丁度良いバランスがとれているエミリア・クラークがベストだったように思います。
なお、『ゲーム・オブ・スローンズ』のキャストでサラ・コナーを演じるのは二人目であり、サーセイ・ラニスター役のレナ・ヘディも、テレビドラマ『ターミネーター サラ・コナー・クロニクルズ』で『T2』後のサラ・コナー役を演じています。
ただしとにかく演出が悪いために、この物語の面白みがほぼ死んでしまっています。
冒頭の未来戦争の時点から嫌な予感はしました。ついに人類抵抗軍がスカイネットセントラルに襲撃をかけ、T-800とカイルが過去に送り込まれる激アツ場面なのに、まったく温度感が上がらないというあんまりな状態に。『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(2011年)でも感じたのですが、アラン・テイラー監督は式次第通りに映画を撮ることでいっぱいいっぱいで、ポイントを押さえた演出という次元にまで至っていません。ダラダラと抑揚のない見せ場、感動のツボを捉えないドラマと凡庸な演出が続き、この魅力的な脚本の持つポテンシャルを潰してしまっています。
サラとカイルが出会う場面、サラと成人後のジョンが出会う場面も、シリーズを知っている者からすれば大変なドラマが宿っているはずなのに、それをアッサリと流してしまうという勿体ないことになっています。2017年にタイムトラベルしてきたサラとカイルの前に、サイバーダインの責任者として現れた人物がジョン・コナー。本来は衝撃と感動があるべき場面だったにも関わらず、「こんにちは、ジョンです」「ああ、ジョン、久しぶり」ってな感じで軽く流されるので台無しです。
ジョンがスカイネットに乗っ取られターミネーターに変えられていたというサラとカイルにとっては衝撃的すぎる展開にしても、何の感慨もなしに流されていくのでそこにあるべき驚きや衝撃というものがすっ飛ばされています。息子であり尊敬する上司でもあるジョン・コナーを敵に回すという悲しい戦いが繰り広げられるはずなのに、サラもカイルも完全に敵と割り切って戦っています。
クライマックスではシリーズの伝統に則ったしつこいチェイスが描かれるのですが、ジェームズ・キャメロンが緊張感と迫力満点に描いたこの展開も、あまりにメリハリがないために退屈させられるという残念なことになっています。
1984年のサイボーグ騒動に巻き込まれて以来、サイボーグを調べ続けてきたオブライエン刑事。コナー家やダイソン家といった歴史に大きく関与する人物以外で本編に絡んでくる人間のキャラクターは実は異色であり、しかも演じるのがアカデミー賞俳優のJ・K・シモンズということもあって、内心はかなり期待していました。このシリーズにアカデミー賞俳優が出演することは、実はシモンズが初めてだったのです(『4』のクリスチャン・ベールは後にオスカー俳優となるが、シリーズ出演時点ではオスカー俳優ではなかった)。
さらにこの設定、『ターミネーター3』(2003年)の企画においてジェームズ・キャメロンが降りると正式に表明する前の段階で上がっていたアイデアでもありました。その時の設定では、『ターミネーター』(1984年)でランス・ヘンリクセンが演じていたブコビッチ刑事のその後の姿ということでした。1984年のターミネーターによる警察署襲撃事件を生き延びて以降はターミネーター捜索に人生をかけてきたという設定で再登場させるアイデアだったのですが、いろいろあってボツになりました。
ターミネーター3【良作】ジョン・コナー外伝としては秀逸(ネタバレあり・感想・解説)
そのアイデアがここに来て形を変えて復活したということでさらに期待したのですが、蓋を開けてみると顔見せ以降はほとんど本編に絡んでこないという勿体ない扱いでガッカリでした。続編で重要になってくるキャラクターだったのかもしれませんが、少なくとも本作では要る必要のなかったキャラクターでしたね。
本作は三部作構想でスタートしたのですが、製作費1億5千万ドルに対して世界興収が4億4千万ドルと損益分岐点をギリギリ下回り(ハリウッド大作の損益分岐点は製作費の3倍が目安)、加えて批評的には『ターミネーター4』(2009年)をも下回るという大敗を喫したことから、パラマウントはシリーズの中止を発表しました。
『3』『4』『ジェニシス』と、シリーズ化構想をぶち上げながらも断念ということが三度も連続し、しかも今回はフランチャイズの扱いに長けたスカイダンス・プロダクションが参加してもダメだったということで、ターミネーターシリーズの難しさが再認識される結果となりました。
ただし、もはやターミネーターシリーズ以外にめぼしい企画のなくなったシュワルツェネッガーだけはやる気満々であり「他のスタジオと交渉している」と強気の発言をしていました。そこでついに立ち上がったのがシュワの親友にしてシリーズの生みの親であるジェームズ・キャメロンであり、『ターミネーター:ニュー・フェイト』(2019年)の脚本を手掛けました。キャメロンがシリーズに戻って来た背景としては、『3』『4』『ジェニシス』がそれぞれ好き放題にユニバースを拡大し、しかもことごとく低評価を受けた結果、シリーズ参加のハードルが下がりまくったという背景があったのだろうと推測します。
≪ターミネーターシリーズ≫
ターミネーター【傑作】どうしてこんなに面白いのか!
ターミネーター2【良作】興奮と感動の嵐!ただしSF映画としては超テキトー
ターミネーター3【良作】ジョン・コナー外伝としては秀逸
ターミネーター4【凡作】画だけは最高なんだけど…
ターミネーター:新起動/ジェニシス【凡作】アイデアは凄いが演出悪すぎ
ターミネーター:ニュー・フェイト【凡作】キャメロンがやってもダメだった
ターミネーター全6作品おさらい【何度目の核戦争よ…】