(2019年 アメリカ)
直近三作品と同じく、ターミネーターの二次創作物という域を越えられておらず、キャメロン自身がやってもこの有様では、もう誰がやってもターミネーターシリーズはうまくいかないのでしょう。ただし、老いたT-800が出ている部分のみが異様に面白く、やはりこのシリーズはシュワのものなんだと再認識しました。
2020年のメキシコにターミネーターRev-9と強化人間グレースが現れ、ダニー・ラモスという少女を巡って死闘を開始する。そこに現れたのがサラ・コナーであり、ネットワーク接続機能を持ったRev-9から逃れる術を持っていないグレースではダニーを守り切れないとして、サラも逃避行に加わることにする。
1964年メリーランド州出身。1995年にCGアニメーション制作会社ブラー・スタジオを設立し、2005年にアカデミー最優秀短編アニメーション賞にノミネート。デヴィッド・フィンチャー監督の『ドラゴン・タトゥーの女』(2011年)のタイトル・シークエンスで注目を集めました。
上記の通り本来は視覚効果マンなのですが、ロバート・ロドリゲスとアダム・バーグに断られ、なかなか監督が決まらずにいた『デッドプール』(2016年)の監督を引き受け、製作費5800万ドルの中規模作品ながら全米興行成績が3億6300万ドルとDCEUの大期待作『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016年)をも超える大ヒットとなりました。ライアン・レイノルズとの意見の食い違いにより『デッドプール2』(2018年)には参加せず、本作が長編監督2作目となります。
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1954年カナダ出身。若い頃は大学を中退して結婚し、トラック運転手をして生計を立てるという生活を送っていたのですが、『スター・ウォーズ』(1977年)を見て元映画少年の血が騒ぎ、B級映画の帝王ことロジャー・コーマン率いるニュー・ワールド・ピクチャーズに入社しました。
幼少期から美術の才能を示していたことから映画界でも特撮マンとして働いていたのですが、『ターミネーター』(1984年)の脚本がハリウッド界隈の話題になったことから『ランボー』(1982年)や『エイリアン』(1979年)の続編の執筆依頼が舞い込むようになり、手掛ける作品のバジェットはどんどん巨大化していきました。『タイタニック』(1997年)と『アバター』(2009年)というモンスター級のヒット作を2本もモノにし、今や映画界のキング・オブ・ザ・ワールドです。
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1983年生まれ。父はオラクル・コーポレーションの共同設立者であり、総資産500億ドル(2014年時点)で世界5番目の富豪にも挙げられたことのあるラリー・エリソン。
デヴィッドは若干23歳でスカイダンス・プロダクションを設立し、コーエン兄弟最大のヒット作にして、アカデミー作品賞にもノミネートされた『トゥルー・グリッド』(2008年)、トム・クルーズとパラマウントとの険悪な関係性を乗り越えて製作され、シリーズの起死回生作品となった『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(2011年)、史上最大規模で製作されたゾンビ映画『ワールド・ウォー・Z』(2013年)と、破竹の進撃をしていました。2014年にはターミネーターシリーズの映画化権を取得し、『ターミネーター:新起動/ジェニシス』(2015年)を製作しました。
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ジャームズ・キャメロンが関与しなくなって以降の『ターミネーター』シリーズが歩んだのは、いばらの道でした。
『ターミネーター3』(2003年)、『ターミネーター4』(2009年)と、シリーズは思ったほどの興行成績をあげられずに権利を取得した会社が倒産し、新作が製作される度に物語が仕切り直しになるということを繰り返していました。一時期はヘッジファンド会社に権利を持たれたりもしていたのですが、2014年にデヴィッド・エリソンが権利を取得。彼は現在のハリウッドでもっとも安定したプロデューサーの一人であり、その製作会社のスカイダンス・プロダクションはパラマウントとの関係が深いことから、シリーズはようやく優秀なプロデューサーと資金力が豊富なスタジオという裏付けを得ました。
そして製作されたのが『ターミネーター:新起動/ジェニシス』(2015年)であり、三部作構想の中で製作された大期待作でした。しかし製作費1億5500万ドルに対して全米興行収入は9000千万ドルにも達することがなく、全世界興収は4億4000万ドル。製作費の3倍が採算ラインの目安と言われる中で、損益分岐点をやや下回る結果に終わりました。その後、続編企画の打ち切りをパラマウントが正式発表し、何度目かのリブート企画は終了したのでした。
しかし、シュワルツェネッガーだけは諦めていませんでした。2017年にはパラマウント以外にもやりたいスタジオはあると強気の発言をし、2019年に権利の一部が戻るキャメロンを含めた製作体制を整えました。キャメロンからすれば、シリーズ産みの親である自分が復帰すればファンからの期待値が高くなる一方で、自分自身が貶してきた『3』『4』『ジェニシス』と同等のレベルになるとそれらの作品以上の批判が殺到するというハイリスクな企画だったはずなのですが、それでも彼を座組に戻したシュワの交渉力はハンパなものではなかったと思います。
ただし、キャメロンは『アバター』(2009年)続編4本の同時撮影という『いろはに千鳥』並みの強硬スケジュールが待っていたことから監督には就任できず、代わりにティム・ミラーが抜擢されました。
ジェームズ・キャメロンが関わった『ターミネーター』(1984年)、『ターミネーター2』(1991年)は傑作で、キャメロンが離脱した『ターミネーター3』(2003年)、『ターミネーター4』(2008年)、『ターミネーター:新起動/ジェニシス』(2015年)は駄作という風潮があって、キャメロン自身も自分が関わらなかった作品を結構ボロクソ言っています。
特に『ターミネーター3』(2003年)への批判はすさじく、「スープに小便をされたような気分だ」とまで言っており、T3が好きな私としては結構ショックだったのですが、キャメロンが「実質的な3作目だ」とまで言って取り組んだ本作がどうだったのかと言うと、これがT3にえらく似ているので当惑しました。
あれだけボロクソ言いながら自分で作ってもT3と同じものになってしまったんだから、とりあえずキャメロンはジョナサン・モストウとマリオ・カサールに菓子折り持って謝罪に行くべきではないでしょうか。
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そしてもうひとつ指摘したいのが、かつてマリオ・カサールが製作した『ユニバーサル・ソルジャー』(1992年)からも拝借していないかいという点です。
マッケンジー・デイヴィス扮するグレースは生身の兵士を改造した強化人間という設定なのですが、それってまんまユニバーサル・ソルジャーですよね。加えて、超人的なパワーを引き出すために代謝が上げられており、フルパワーで戦った後には体がオーバーヒートするという設定が引き継がれている上に、逃げ込んだモーテルで体を氷で冷やすというまったく同じ場面まであって、キャメロンはマリオ・カサールとローランド・エメリッヒにちゃんと挨拶済ませてんのかと確認したくなるレベルです。
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『ターミネーター2』(1991年)に登場したT-1000は映画史に残る悪役でした。中肉中背の見た目からは想像もつかないほどのパワー、猫系の鋭い眼光、いざ格闘に入ると体の一部を刃物に変形させて襲い掛かってくるという危険性。
続く『ターミネーター3』(2003年)のT-X、『ターミネーター:新起動/ジェニシス』(2015年)のT-3000は完全にT-1000の影響下にあり、T-Xはそこにプラズマ砲などの武装をくっつけることで、T-3000はナノ粒子で空気中から出現するというより進んだ設定を加えることでT-1000以上の強敵に見せようとしていたのですが、結局はT-1000の二番煎じ感が漂っており、オリジナルを凌駕するインパクトを残すことはできませんでした。
そこに来て本作のRev-9ですが、中肉中背の見た目、パワー、眼光、ボディの刃物化など、これもまたT-1000の系統にある悪役となっています。新機能としては、エンドスケルトンと外皮が完全に分離し、短時間であれば2体での活動も可能という点なのですが、この機能を初披露する際のタイミングの悪さや、戦いの中で意外と有効活用できないことから、さほどのインパクトを残せていません。結果、T-1000の二番煎じという過去作と同じ轍を踏んでしまっています。
後半、Rev-9から逃げるのではなく罠を張って撃退すると決めたサラ・コナー一行は、Rev-9の弱点である電磁パルスを発生させる装置を入手しようとします。その引き渡し場所に現れたのはディーン少佐という人物であり、空軍の所有物を黙って持ってきたと言うのですが、なぜ彼がここまで協力してくれるのか、説明もしていないのにターミネーターに追われているという前提条件を理解しているのはなぜなのか、なぜこんな人とT-800が知り合いなのかについて一切の言及がないので、続くラストバトルがスッキリしないものとなっています。
年齢や人種から『ターミネーター2』(1991年)に登場したマイルズ・ダイソンの息子なのかとも思ったのですが、ダイソンの息子はダニエルって名前だったしなぁと。結局、この人物は死んだかどうかも分からないままフェイドアウトします。
そんなこんなで本作にはあまり良い要素がなかったのですが、アーノルド・シュワルツェネッガー扮するT-800のみが良すぎました。実はスカイネットは1984年と1994年のみならずあらゆる年代にターミネーターを送りまくっており、1998年に送り込まれた個体はジョンの殺害に成功していました。
ミッションをやり遂げた上に、1994年にサラとジョンがスカイネットの出現を回避したことから戦争が起こることもなく、T-800は野良化。潜入型ターミネーターという特性を生かしてそのまま人間社会に溶け込み、そのうちDVに苦しんでいた女性と知り合いになって、彼女と幼い息子を守るというミッションを自分自身に課して20年以上を生きてきました。
人間性を学ぶターミネーターという『ターミネーター2』(1991年)のドラマの上に、外皮の生体パーツは老いるという『ターミネーター:新起動/ジェニシス』(2015年)の設定を付加したのが本作のT-800なのですが、思いがけず満ち足りた人生を送ることのできたターミネーター像を、シュワルツェネッガーが見事に演じています。その出自を封印して22年間を生きてきたT-800が、サラの出現により再び自分の存在意義に立ち返り、大事な家族と別れてまで死地に赴く様は非常に感動的でした。
老いや家族との別れは最近のシュワが頻繁に扱っているテーマであり、『マギー』(2014年)や『アフターマス』(2017年)などがそれに当たるのですが、これらの作品ではシュワの演技力不足ばかりが目立ってあまりうまくいっていませんでした。そこに来て本作では老いたシュワの良さが引き出されており、相変わらずキャメロンはシュワの使い方をよく心得ているなと感心しました。
≪ターミネーターシリーズ≫
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