(1994年 アメリカ)
密度の濃いアクションと簡潔だが好感の持てるキャラ描写と、アクション映画としての過不足がまるでない理想的な仕上がりとなっています。誰が見ても面白いと思える作品ではないでしょうか。
路線バスに爆弾が仕掛けられ、時速50マイル以下になると自動的に爆発する仕組みになっている。乗客を救うため、ロス市警のジャック・トラヴェンはバスへと乗り込む。
レニー・ハーリンとクェンティン・タランティーノに監督オファーが行っていたのですが、どちらにも断られて、アクション映画の撮影監督としての素晴らしい実績を持っていたヤン・デ・ボンに白羽の矢が立ちました。デ・ボンは低予算の本作に当初は乗り気ではなかったのですが、50歳という年齢を考えるとこのチャンスを逃すわけにはいかないとのことで、オファーを引き受けたのでした。
1943年オランダ生まれ。オランダ時代にはポール・バーホーベン監督作品の撮影の常連で、トム・クルーズ主演の青春映画『栄光の彼方に』(1983年)辺りからハリウッド映画の撮影も手掛けるようになりました。1980年代後半から1990年代前半にかけての仕事は『ダイ・ハード』(1988年)、『ブラック・レイン』(1989年)、『レッド・オクトーバーを追え!』(1990年)、『氷の微笑』(1992年)、『リーサル・ウェポン3』(1992年)という物凄い状態となっていました。本作で監督デビュー。続く『ツイスター』(1996年)の大ヒットでハリウッドトップクラスの監督になったものの、『スピード2』(1997年)での失速以降はロクな映画を撮っていません。なお、2018年に公開された『MEG ザ・モンスター』は、2005年頃にヤン・デ・ボン監督で進められていた企画でした。
MEG ザ・モンスター【4点/10点満点中_技術は良くてもダメ脚本で台無し】
1959年カナダ生まれ。名門トロント大学を卒業し、1989年からアメリカのテレビドラマの脚本を執筆するようになりました。カナダの人気テレビ司会者だった父が黒澤明のハリウッド進出作として企画されていた『暴走機関車』(1985年にアンドレイ・コンチャロフスキー監督により映画化)に関係していたことから、制御不能となった乗り物という着想を得て本作の脚本を執筆。これが初の映画化作品となりました。
本作以降は『ブロークン・アロー』(1995年)、『フラッド』(1998年)と奇抜な設定のアクション映画の脚本を執筆したものの評価も興行成績もどんどん下がっていき、90年代後半にはテレビ界に出戻りました。テレビのクリエイターとしては絶好調で、『フロム・ジ・アース/人類、月に立つ』(1998年)と『ザ・パシフィック』(2010年)で二度のプライムタイム・エミー賞を受賞しています。最近では、Amazonプライムの人気テレビシリーズ『スニーキー・ピート』(2015-2019年)の製作総指揮とショーランナーを務めました。
なお、ヤン・デ・ボンはヨストの初期稿があまりに『ダイ・ハード』(1988)に似すぎていることを懸念し、当時有名なスクリプト・ドクターで、後に『アベンジャーズ』(2012年)を監督するジョス・ウェドンにリライトを依頼しました。
フラッド(1998年)【5点/10点満点中_設定とキャラに演出が追い付いていない】(ネタバレあり感想)
2時間を切る上映時間は大きく3つのパート(エレベーター、バス、地下鉄)に仕切られており、それぞれに見せ場が詰め込まれているという、とても密度の濃いアクション映画となっています。初見時にはその密度とスピード感に圧倒されたし、現在の目で見ても、最初から最後まで完全にノンストップで走り抜けるアクション映画は希少であり、よくぞここまで詰め込んだものだと感心させられます。
特に素晴らしいのが、バスが時速50マイルを越えた直後であり、警察による警護を受けることもなくバスは公道を暴走。次々に現れる障害物を交わしながら突き進んでいくというスリルとスペクタクルには圧倒されました。
ヤン・デ・ボンは撮影監督として関わった『リーサル・ウェポン3』において、従前シリーズとは桁違いのスピード感をカーチェイスにもたらした人物でした。その手腕は本作で本格的に発揮されており、公道でのカーアクションのスピード感には目を見張るものがありました。
この通り、見せ場の連続の作品であるため、ドラマらしきものはほぼありません。ジャック、アニー、ハワードの主人公3名にすら、その人物像を説明する描写はなく、アクションの合間で軽く触れられる背景情報しか観客には与えられません。
たいてい、こういう見せ場偏重のアクション映画は失敗するものなのですが、本作では奇跡的にうまくいっています。やはり配役が良すぎました。キアヌ・リーブスとサンドラ・ブロックは25年経った現在でもスターの座にいるほどの魅力的な俳優であり、二人を映しているだけで画面はもっています。情報などなくても、画面に二人がいるだけで観客はキャラクター達の喜怒哀楽を理解できたし、その演じるキャラクターに愛着を持つことができました。デニス・ホッパーも同様。デニス・ホッパーの顔を見るだけで、なんかアブナイ奴だなということは伝わるので、それ以上の情報が必要なかったのです。
前述した通り、スタジオは特にサンドラ・ブロックの配役には賛成していなかったのですが、これを押し通したヤン・デ・ボンはなかなかの慧眼でした。
≪不出来な弟≫
スピード2【駄作】キャラ・アクション共に大きく後退
≪似て非なる作品≫
ザ・チェイス【凡作】優秀なキャラクター劇とイマイチなアクション
≪グレアム・ヨスト脚本作品≫
スピード【良作】簡潔で面白いアクション映画の理想形
ブロークン・アロー【駄作】ジョン・ウーの無駄遣いが目に余る
フラッド【凡作】設定とキャラに演出が追い付いていない