フラッド【凡作】設定とキャラに演出が追い付いていない(ネタバレあり感想)

(1998年 アメリカ)
浸水した街でのアクションには目新しいものがあったし、無気力な若者が自分の身を守るための戦いの中で逞しくなっていくという物語も、定番ながらよく出来ていました。問題は本作でデビューした監督の演出力が企画意図を実現できていなかったことであり、本来は面白い話が何となく流れていくような感覚を覚えました。

あらすじ

インディアナ州の小さな町ハンティンバーグでは記録的豪雨により町全体が冠水し、住民達は避難して無人となっていた。そんな中、立ち往生した1台の現金輸送車が強盗団の襲撃を受けるが、新米ガードマンのトムは自分の命と現金を守るため現金袋を持って脱出する。

感想

ユニークなアイデアのアクション映画

テーマは火事場泥棒(舞台は洪水の街ですが)。洪水で半水没した街での現金争奪戦というアイデアはユニークで面白かったと思います。脚本は『スピード』『ブロークン・アロー』のグラハム・ヨストによる作なのですが、この人は相変わらず面白いアイデアを提供してくれます。

興味深いキャラクター造形

物語の着想に加えてキャラクター造形もかなり奇抜で、よく考えられているなぁと感心しながら観ました。

主人公トム(クリスチャン・スレーター)

トムはセールスマンからガードマンになんとなく転職した無気力な若者。ただし安月給のガードマンという職業にもイマイチ納得できていない様子で、職務中にも不貞腐れた態度をとり続けています。そんなトムが強盗団に襲われ、戦わざるをえない立場に追い込まれることで成長する物語となっています。

ジム(モーガン・フリーマン)率いる強盗団

金は奪うが人は殺さない職人気質の犯罪者・ジムと、聖書の一説を唱える黒人というまんま『パルプ・フィクション』のサミュエル・L・ジャクソンなレイの二人こそプロっぽいのですが、残る二人はポンコツでした。

一人目は、親のコネで強盗団に加わったバカ。たいてい、こいつがジムの命令を無視して事態をこじらせます。もう一人は、元高校教師という『ブレイキング・バッド』のプロトタイプのような技術担当。この人には、安月給では生活が立ち行かなくなったんだろうなという切実さが表れていました。

このポンコツたちでも洪水で無人になった街というハードルの下がり切った場所でなら計画を遂行できるだろうというジムの目論見があったと思うのですが、バカが発砲してしまったことで殺されると勘違いしたトムが逃げてしまい、おまけにマイク保安官までが参戦して、本来イージーだったはずの強奪計画が銃弾飛び交う争奪戦へと発展していきます。バカな犯罪者が事態をどんどんこじらせていく様からは、ちょっと『ファーゴ』を連想しました。

マイク保安官(ランディ・クェイド)

意見の合わない市長のネガキャンによって保安官選挙に敗北するも、大洪水にあたっては市民を安全に避難させるという最後の職務を誠実にこなす正義の人物。不審者としてトムを拘留した際にも、「こんな怪しい奴の言い分に耳を貸すべきではない」と主張する部下達に対して「確認しに行くことが俺らの仕事だ」と言い、常にプロの態度をとり続けます。

しかし、目の前に300万ドルがあること、大洪水の中では悪事の証拠はすべて流れてしまうこと、そして20年誠実に務めてきた街に裏切られたことから、後半では人を殺して金を奪おうとする悪役に転じます。

脚本に演出が追い付いていない

ミカエル・サロモンの監督デビュー作

本作の監督を担当したのはミカエル・サロモン。この人はジェームズ・キャメロン監督の『アビス』、スティーヴン・スピルバーグ監督の『オールウェイズ』、ロン・ハワード監督の『バック・ドラフト』などで撮影監督を務めてきた人物であり、本作が監督デビュー作に当たります。

同じく撮影監督出身のヤン・デ・ボンが『スピード』で監督業に華麗に転身したことの二番煎じとも言える人選なのですが、この人の演出があまりうまくなくて、脚本レベルでは存在していたであろう良さを全然活かせていませんでした。

熱くならないアクション

水没した街をジェットスキーで疾走するチェイスという絵面こそ面白いものの、建物の位置関係や洪水がどのように街を水没させるのかといった全体の構図を観客に理解させることができていないために、サスペンスが途切れてしまいます。ただ水の中でアクションをしているだけで、秒単位で状況が変わっていくという洪水の本質的な恐怖が主題に反映されていません。

銃撃戦にしても、でかい銃声を響かせてただ撃ち合っているだけ。誰が誰を狙っているのか、放った弾丸は当たったのかといった情報が整理されていないために、こちらでもスリルが不足しています。

キャラクターを活かせていない

そして、興味深いキャラクター達もまったく活かせていません。

誰にも迷惑をかけずに金だけ奪うつもりだった強盗団の計画がどんどん崩壊していく様に、観客はもののあわれを感じるべきだったと思うのですが、キャラクターの見せ方が悪すぎてバカがバカなことをしているだけという有様にまで落ちています。

また、マイク保安官は観客がもっとも感情移入しやすいキャラクターだったはずなのに、こちらも悪に転じる際の葛藤を描けていないので、前半と後半でほぼ別人格という問題が発生しています。

トムに至っては、何の感慨も抱きませんでした。ただ生きているだけという。

あとこれは監督の責任ではないのですが、ミニー・ドライヴァーが街のみんなが憧れるマドンナにどうしても見えなかった点も厳しかったです。彼女を美人と思って見ていなかった私は、美人前提でのセリフが、当初何を言っているのか理解できませんでした。

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