(1989年 アメリカ)
前作のファンほど、本作の出来に落胆するのではないでしょうか。リッグスの尖った部分が丸くなり、亡くした奥さんに対する思いも薄まってしまったので、前作の良かった部分がごっそりと失われたかのように感じました。前作と切り離して観れば楽しめるアクション映画なのかと言われればそうでもなく、話は破綻しているし、見せ場にも見応えがなく、出来の悪いアクション映画に成り下がっています。
リッグスとマータフの今回の敵は、外交官の不逮捕特権を盾にして麻薬取引や金貨の密輸など悪行三昧の南アフリカ領事。手も足も出せない状況が続くものの、同僚刑事たちの暗殺や、明らかになったリッグスの妻の死の真相から、二人は怒りを爆発させる。
脚本家として、まず前作のシェーン・ブラックが雇われたのですが、個人的事情から脚本執筆が困難な状況にあり、ブラックは友人のウォーレン・マーフィを助っ人として呼びました。ブラックとマーフィによる脚本は非常に素晴らしかったようなのですが、ワーナーとジョエル・シルバー、リチャード・ドナーはリッグスを死なせるという展開に難色を示しました。加えて、ダークで血生臭い内容も問題視され、より明るくコミカルに書き直すようにとのオーダーを出しました。ブラックとマーフィは度重なる脚本の書き換え要求に応え続けたものの、6か月後にはプロジェクトから離脱し、以降、ブラックは『リーサル・ウェポン』シリーズに関わらなくなりました。
彼らの仕事を引き継いだのは、第一作でも脚本を明るくするために雇われたジェフリー・ボームでした。ボームはワーナーの指示に従って脚本を徹底的に書き直し、それはブラックから「自分が書いた作品とは完全に別物」と言われたほどでした。
ブラックとマーフィによる脚本はいまだに一般公開されていないのですが、ブラック自身によると元の脚本は彼が書いた作品中でももっとも激しい内容であり、生涯ベストワークとも言える出来だったとのことです。
リーサル・ウェポン【傑作】最高・最良のバディ・アクション(ネタバレあり・感想・解説)
1945年生まれ。ドキュメンタリーやコマーシャルを手掛けるカメラマンとしてキャリアをスタートさせ、1980年代より映画界に進出。ピーター・ハイアムズ監督の『アウトランド』(1981年)、トニー・スコットの監督デビュー作『ハンガー』(1983年)、フランシス・フォード・コッポラ監督の『コットンクラブ』(1984年)を経て、『リーサル・ウェポン』(1987年)を手がけました。『サウス・キャロライナ/愛と追憶の彼方』(1992年)と『バットマン フォーエヴァー』(1995年)で2度、アカデミー撮影賞にノミネートされています。
後述する通り、本作は南アフリカを極めて悪く描いた作品なのですが、ゴールドブラットはその南アフリカ出身。彼は何を思いながら仕事をしたのでしょうか。
破綻なく作られていた前作と比較すると、本作は大味で論理的におかしな部分も散見され、出来がえらく粗くなったなぁという印象を持ちました。
高度な殺人スキルと自殺願望を持った異常な刑事だった前作のリッグスと比較すると、本作ではマータフとの間の緊張関係がなくなり、同僚たちとも談笑をする普通の刑事になっています。もはや別人です。また、メル・ギブソンにホリオン・グレイシーの稽古を受けさせるほど殺人スキルの描写にこだわった前作からは一転して、本作では普通の警官と変わらない銃撃や格闘を披露するのみなので、ベトナム帰りの凄い奴という設定もほぼ死んでいます。もはやリーサル・ウェポン(最終兵器)ではなくなったリッグスに、前作に感銘を受けた私は落胆させられました。
リカは敵方の組織には属しているものの、彼女自身は犯罪行為に加担していない善意の人物であることから、リッグスとの良好な関係を構築します。通常、このポジションのキャラクターは主人公に対して重要な情報や証拠を与えるという役割を果たすものなのですが、リカの場合は捜査に対して何らの貢献もしないため、全体から見た時に居なくても話が成立してしまうキャラクターとなっています。
加えて、ヴォーステッドがリッグスの奥さんを殺した怨敵であることが判明し、復讐こそが今回のリッグスの行動原理となるのですが、そこにリカとの関係が割って入り、さらにはリカも殺されたものだからリカの復讐という要素も入り込んだことで、かえって復讐劇の要素が薄まっています。リカとの恋愛はなしで、奥さんの復讐のみというシンプルな線の方が盛り上がったと思います。
1989年当時はアパルトヘイトがまだ続いていたし、ネルソン・マンデラも拘留中だったので、南アフリカは悪役にしやすい国ではあったのですが、それにしても実在する国を一方的に悪く言いすぎている点は鼻に付きました。
また、実際の南アフリカはイギリス連邦加盟国の一つなのに、本作ではナチスのイメージで描写されている点にも違和感がありました。本作における南アフリカ国籍の人物はみな大陸風の名前で、プラチナブロンドに彫りの深い顔。おまけに乗っている車はドイツ車。アージャン・ラッドの執務室には鷲を模った紋章が飾ってあり、完全に間違ったイメージが付加されているようでした。実際の国名を挙げながら、ここまでやりたい放題な描写はいかがなものでしょうか。
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