(2003年 アメリカ)
深刻な雰囲気こそ漂っているがドラマの詰めは甘く、特殊部隊を出しているのに見せ場が少なく、何とも期待外れなアクション映画なのですが、無慈悲な大爆破で締めるラストで取り戻しています。戦争映画における航空支援とは本当に良いものです。
ナイジェリアで内戦が勃発し、ムスリム系部族がキリスト教系部族を虐殺するという事態が発生。米海軍特殊部隊のウォーターズ大尉(ブルース・ウィリス)と彼が率いるチームは、ナイジェリア国内に取り残された米国人ケンドリックス医師(モニカ・ベルッチ)の救出任務へと出動する。
しかしケンドリックスは自分と一緒に難民も救うよう主張したことから、ウォーターズは難民も連れて合流地点へと向かうことにする。
1966年ビッツバーグ出身。
デヴィッド・フィンチャーとドミニク・セナが設立した映像制作会社プロパガンダ・フィルムズ所属の監督として多くのCMやミュージックビデオを手掛け、ジョン・ウー製作の『リプレイスメント・キラー』(1998年)で監督デビュー。
長編3作目の『トレーニング・デイ』(2001年)が大ヒットし、かつデンゼル・ワシントンにアカデミー主演男優賞をもたらす高評価も獲得しました。デンゼルとは『イコライザー』(2014年)、『マグニフィセント・セブン』(2016年)、『イコライザー2』(2018年)でもコラボしています。
最新作はマーク・ウォルバーグ主演のSFアクション『Infinite』で、2020年8月公開予定でしたがコロナ流行で2021年5月28日公開に延期されました。
1955年生まれ。高校卒業後に警備員、運送業者、私立探偵など複数の職業に就いた後、俳優としてニューヨークで下積みを経験し、オフ・ブロードウェイの舞台などに立っていました。
1984年頃にLAに転居してからはテレビ俳優となり、オーディションで3000人の中から選ばれた『こちらブルームーン探偵社』(1985年~1989年)の主演でコメディ俳優としての評価を確立しました。
アーノルド・シュワルツェネッガー、クリント・イーストウッド、リチャード・ギア、メル・ギブソンらに次々と断られた末にオファーが来た『ダイ・ハード』(1988年)の主人公・ジョン・マクレーン役でコメディ俳優の枠を超える評価と、国際的な知名度を獲得。
1990年代前半には多くのアクション大作に出演したのですが、並行してインディーズ映画『パルプ・フィクション』(1994年)にも出演。
スター俳優がギャラを下げてまでインディーズ映画に出演するということは現在では一般的なのですが、ハリウッドスターではじめてそれをやったのがブルース・ウィリスでした。
『アルマゲドン』(1998年)がその年の世界興行成績No.1、翌年の『シックス・センス』(1999年)がアルマゲドンをも上回るヒットと、90年代後半から2000年代前半にかけてのウィリスは世界最強のマネーメイキングスターでした。
本作は『ダイ・ハード4.0』(2007年)として検討されていた企画だと言われていますが、実際にはそうではないようです。
本作の内容はカナダ軍の特殊部隊である統合タスクフォース2がコロンビアで従事した作戦に着想を得ており、その部隊の元メンバーがシナリオを書き、『エグゼクティブ・デシジョン』(1996年)の撮影現場において製作チームに披露したことが企画の源流でした。
一方、『ティアーズ・オブ・ザ・サン』という脚本はまったく別に存在していました。
これは90年代にアラン・B・マケルロイという人物が書いたものであり、アマゾンにラジオ局を建設に行った人々が麻薬の売人に捕まり鉱山で働かされるが、何とかジャングルに逃げ込み追跡者と戦うという内容でした。
そしてブルース・ウィリスが「ティアーズ・オブ・ザ・サン」というタイトルのみを気に入ったことから、まずダイ・ハード新作のサブタイトルとして使おうと考え、その次に本作のタイトルに使用したということです。
すなわち本作と『ダイ・ハード4.0』には内容的には全く関係がないのですが、どちらにも「ティアーズ・オブ・ザ・サン」というタイトルが検討されたために企画の流用という説が広まったというわけです。
本作は2003年3月3日に全米公開。イラク戦争(2003年3月20日-2011年12月15日)が迫る時期だったことから米兵を英雄的に描く本作が支持されるかと思いきや、スティーヴ・マーティン主演のコメディ『女神が家にやってきた』(2003年)に敗れて初登場2位でした。
その後もランクを上げることはなく、公開4週目にしてトップ10圏外へと弾き出され、全米トータルグロスは4373万ドルにとどまりました。
苦戦は世界マーケットでも同様で世界興収は8646万ドルにとどまり、劇場の取り分や広告宣伝費を考慮すると7500万ドルという製作費は未回収だと考えられます。
アフリカの内戦において米国民だけを連れ帰れと命令された軍人が、難民をほっとけなくなって命令に反してまで人助けをすることが本作の骨子。
最初、主人公ウォーターズ大尉(ブルース・ウィリス)は命令に忠実であり、ついて来ている難民達をどこかで切り離す気満々でいるのですが、途中で心変わりをして命令よりも難民の保護を優先します。
この心変わりこそが本編中もっともドラマティックな場面だったはずなのですが、作品は決定的瞬間を切り取ることができていません。
一応、焼き討ちされた教会を上空のヘリから眺め、「これはほっとけない」ということで引き返したという描写こそあるのですが、百戦錬磨のSEAL隊長にとっては紛争地に転がる死体や燃やされる教会などは見慣れた光景のはずで、特別心を動かされる要素があったようには見えません。
もっと核心を突くような、これまでのミッションでは切り捨ててきたが、今回ばかりは救わねばならないと思ってしまうような決定的な描写が必要だったと思います。
そして、それまでは軍人然として冷徹な面もあったウォーターズが、心変わりした瞬間より急に親切な人になるという振れ幅の極端さもドラマ性を毀損する要因となっています。
保護対象となるアメリカ人医師ケンドリックス(モニカ・ベルッチ)が共感の難しい人物だったことも、ドラマにおけるマイナス面となっています。
前半では、冷徹なウォーターズに対して人道主義を訴えるケンドリックスという対比構造が置かれているのですが、彼女は任務を帯びて来ているウォーターズの立場への理解をまったく示さず、難民も含めて何とかしろという一方的な主張をしたり、反政府軍に追われているという急場でありながら、難民達が疲れているから休ませろと言い出したりと、あまりにも周囲が見えていません。
その結果、今が緊急事態の真っただ中であるという状況を弁えずにキャーキャー騒ぐ迷惑な人にしか見えませんでした。
そしてウォーターズが心変わりをした後半になると作劇上の役割を失い、空気同然の存在感となります。この辺りのバランスの悪さも考えものでした。
このようにドラマが失速気味だった以上、頼みの綱はアクション。
何せ特殊部隊の人数は7人、クロサワ以来のコマンドものの定番の数字ですからね。ブルース隊長と最強の部下達が野蛮な反政府軍を相手に大暴れをするコマンドアクションを期待しました。
しかしブルース・ウィリス以外のキャラが立っていない上に、各自の得意分野も明確ではないため、集団アクションとして成立していません。
加えて見せ場の数が少なすぎます。最初の戦闘が始まるまで1時間弱、次の戦闘が始まるのが1時間30分時点。アクション映画としては致命的にテンポが悪いのです。
さらにはこんな下手くそな銃撃戦は久しぶりに見たというほど戦闘がなっていません。ロケットランチャーを乱射してくる反政府軍に対して、棒立ちでマシンガンを乱射する米軍という構図のどこにも緊張感は宿っていませんでした。
しまいには戦闘の小休止中にダラダラと立ち話をしているうちに反政府軍からの第二波攻撃を受けるという頭の悪さも披露し、この人たちに助かりたいという意思はないのかと思いました。
人が死ぬ度に押し付けがましく鳴り響く感傷的なBGMもトホホ感を高めており、ハンス・ジマーともあろう方がこんなベタなことをするんだと悪い意味で驚かされました。
ただし、クライマックスでのF/A-18スーパーホーネット飛来からのナパーム投下だけは良かったですね。
『プライベート・ライアン』」(1998年)、『ワンス・アンド・フォーエバー』(2002年)と追い込まれた末の航空支援は戦争映画の定番ですが、本作ではシチュエーションと言いタイミングと言い完璧な形でその定番がピシっと決まっており、大興奮の見せ場となっています。
生身の歩兵を無慈悲に焼き殺すことが戦術的・倫理的にいかがなものかという問題をさしおいての話しですが、このクライマックスでアクション映画としていろんなものを取り戻したと思います。