(1993年 アメリカ)
本当に雪山で撮るしかなかった時代の映画なので、アクションの迫力が違います。加えて見せ場のバリエーションも多くて飽きる暇がなかったのですが、人間ドラマは意図したとおりに流れておらず、作品のクォリティを下げています。
国際的な犯罪者クエイルンは財務省の輸送機をハイジャックして1億ドルを強奪しようとするが、計画は失敗して飛行機は墜落し、金の入ったスーツケースはロッキー山脈に散乱した。墜落を生き延びたクエイルンは、山岳救助隊員にスーツケースの回収をさせようとする。
監督は90年代のアクション映画界を席巻したレニー・ハーリン。母国フィンランドで監督としてのキャリアを開始したものの、母国の製作規模では意図した映画が作れないとの判断からハリウッドに進出したとされています。
本作を製作したカロルコとは、ハリケーンの最中にネイビーシールズと現代の海賊が戦闘を繰り広げるというやたら景気の良いアクション大作”Gale Force”をスタローン主演で撮るという話が1990年頃にあって、それは結局技術的な問題で実現はしなかったものですが、ハーリンとスタローンの相性が良かったので、本作の企画がスタートしたという経緯があります。
名字はフランスでも出身はフロリダ。『007/ゴールデン・アイ』(1995年)、『ハルク』(2003年)、『ファンタスティック・フォー』(2005年)など、後に多くの大作に関わることになる職人肌の脚本家ですが、そのキャリアのスタートは、若くして本作の脚本が50万ドルもの高値でカロルコに売れたことでした。
ハルク(2003年)【5点/10点満点中 作り手の思いが肥大化しすぎた】(ネタバレあり・感想・解説)
ただしそこにはいわくがあって、本作はジーン・パトリック・ハインズというインディーズ映画のプロデューサーとジョン・ロングという世界的に有名なロッククライマーが80年代に書いた脚本の盗作であるとの物言いがつきました。カロルコはその訴えを認めて金を払い、また映画には” Based on a premise by John Long”という得体の知れないクレジットが入ることとなりました。
本作は史上最もスタント費用がかかった映画としてギネス記録を持っており、スタローンが自身のギャラを削ってまでスタント費用を捻出したほどでした。それだけの映画だけあって、見せ場の迫力はものすごいことになっています。
登山者の背中のアップからカメラがどんどん引いていき、壮大な岸壁の真っただ中にポツンと人がいるという画が何度か出てくるのですが、生身の人間にそういう危険なことをさせているからこその緊張感が見る側にも伝わってきます。これはデジタルには出せない効果であり、やはりライブの説得力は違うことを思い知らされました。
アクションには平凡なものが何ひとつなく、導入部での航空機を追う航空機というスカイアクションは19年後の『ダークナイト ライジング』(2012年)と比較しても遜色のない迫力だったし、雪崩、滑落、コウモリの群れ、狼、凍った湖と、雪山という舞台から考えうる見せ場が総動員されています。
加えて、現在の目で見てもVFXの出来に違和感がなく、前述したスカイアクションの末の航空機の墜落や、クライマックスでのヘリの落下はもちろんVFXなのですが、ライブアクションに溶け込むようなリアリティがありました。
そんな気合の入りまくった見せ場の一方で、話が全然面白くないんですよね。それが作品のボトルネックとなっており、単発の見せ場には目を奪われても、2時間を貫く大きな流れは作り出せていません。
一見すると、登場人物達には興味深い構図が置かれています。ゲイブとハルはかつての救助の失敗を巡って対立しているし、犯罪組織においても、クエイルンとトラヴァースとの間には一触即発の空気が漂っています。敵・味方ともに一枚岩ではなく、このことからアクションとドラマとサスペンスの高次元の融合を狙っていたことが推測されるのですが、アクション以外の要素がうまく機能していないんですよね。
ゲイブとハルの和解劇については、ゲイブがクエイルンに襲われた時点で早くもお互いへの思いやりが復活しており、前半にてドラマの結論が出てしまっているので、そこには感動も何もありませんでした。クエイルンとトラヴァースの対立については、どちらかが仕掛けるような展開がないために、仲の悪いおっさん二人が言い合いをしているだけというレベルに落ちています。
マイケル・ルーカー、ジョン・リスゴー、レックス・リンと演技のできる俳優を揃えたし、個々の演技は良かったのに、そうした高いパフォーマンスを活劇の構成要素として取り込むことに失敗した点は残念でした。
また、細かい部分で説得力に欠けているんですよね。
例えば、ロープを伝っていたハルの恋人の金具が破損し、ゲイブが救出を試みるも失敗して彼女を死なせるという冒頭。ハルはゲイブが判断ミスをしたせいで恋人は死んだと主張するのですが、あの場面では自らもロープを伝って恋人を救いに行くというゲイブのとった行動以外に有効な方法など見当たらず、ハルがなぜゲイブをそこまで責めているのかがピンと来ませんでした。もう一つの有効な方法を観客に対して提示し、結果から振り返ると、ゲイブが咄嗟にとった行動こそが事態を悪化させたという構図を置いておくべきでした
本編においては、ゲイブとジェシーがクエイルン一味に先駆けてスーツケースを回収し、それを交渉材料にしてハルを救おうとするのですが、追跡用端末を持っていないゲイブがどうやってスーツケースの場所を特定していたのかは謎です。また、回収したスーツケースの札束を燃やして暖をとるというくだりがあるのですが、ハルの命がかかった金を燃やすんかいと、ずっこけそうになりました。
見せ場の迫力や独創性は素晴らしく、見る価値のある映画であることは間違いないのですが、話が非常に貧弱なので、面白い映画にはなりえていませんでした。なぜこの脚本に50万ドルもの値がついたのかは謎です。
本作は7,000万ドルの製作費に対して世界興収が2億5,500万ドルの大ヒットとなり、翌年の1994年には”The Dam”というタイトルの続編が企画されました。今度はゲイブがフーバーダムでテロリストと戦うというお話で、偶然にもテロに巻き込まれた山岳救助隊という第一作の設定はどこに行ったんだという感じですが。
しかし、1994年はカロルコの末期に当たり、経営難に陥っていました。レニー・ハーリンの次回作『カットスロート・アイランド』(1995年)とポール・バーホーベン監督の『ショーガール』(1995年)の製作費捻出でいっぱいいっぱいで、新作の企画など通らない状態。結局、この2作の失敗により会社は倒産し、”The Dam”は幻の企画に終わったのでした。2008年頃にスタローンは”The Dam”の企画を再起動させようとしたものの、こちらも前進はしませんでした。
そして2019年5月14日に、突如「『クリフハンガー』リブート」の一報が入りました。今回は続編ではなくリブートであり、最近ハリウッドで流行りのジェンダースワッピング企画になるとのことです。監督にも『マッドタウン』で知られる女性のアナ・リリー・アミールポアーが起用されるそうです。
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