(1998年 アメリカ)
リアリティの醸成にこだわった非常に頭の良い映画で、SFパートにはかなりの見応えがありました。ドラマの出来が酷いものの、このジャンルでは比較的短めの上映時間のおかげで致命的な欠点にはなっておらず、トータルで見ると長所が短所を凌駕しています。
高校生のリオ・ビーダーマンが天体観測中に彗星を発見した。その報告を受けた天文台のウルフ博士の計算によって、地球との衝突コースにあることが判明。その後、米国政府はロシアと共同で彗星を破壊するためのメサイア計画を進める。
1952年ニューヨーク出身。父はB級映画監督のポール・レダーで、『ホワイト・ハウスに赤いバラ』(1977年)、『大虐殺(みなごろし)の最後通告』(1987年)、『20$スター/引き裂かれたハート』(1989年)といったそそるタイトルの駄作を撮っていた人でした。そんな父への反発があったのかなかったのか、彼女は大手テレビ局が製作するドラマの監督としてキャリアを築き上げ、『L.A. LAW/7人の弁護士』(1987年)やスピルバーグ製作の『ER 緊急救命室』(1994年)で頭角を現しました。
『ER』で見せた手腕や、同じく黒澤明フリークであったことからかスピルバーグからの信頼は厚く、彼が創始者の一人となってドリームワークスS.K.G.を立ち上げた際には、その第一回作品『ピースメーカー』(1997年)の監督に抜擢されました。
本作にはロン・エルダード、ローラ・イネスと『ER 緊急救命室』のレギュラー出演者を起用しています。
1943年デトロイト出身。ニューヨーク大学に在学し、マーティン・スコセッシやブライアン・デ・パルマがその時の同窓だったようです。
20代の頃にはインドやチベットを1年半ほど旅行し、ネパールの僧院にしばらく滞在した経験もあるというスピリチュアル系の人物で、クリスティ・スワンソンの死体が甦る『デッドリー・フレンド』(1986年)、ティム・ロビンスが生と死の間の曖昧な世界を彷徨う『ジェイコブズ・ラダー』(1990年)、がんで余命宣告されたマイケル・キートンが生まれてくる息子のために自分の映像を残そうとする『マイ・ライフ』(1993年)など、人が死ぬ映画ばかり作っています。
『ゴースト/ニューヨークの幻』(1990年)でアカデミー脚本賞受賞。
本作の企画はプロデューサーのリチャード・ザナックとデヴィッド・ブラウンが1970年代に立てたもので、パニック映画が流行っていた当時の時流に合わせて『地球最後の日』(1951年)のリメイクをしようとしていました。
結局、この企画は頓挫したのですが、CGの爆発的な発展によって映像表現の幅が広がった90年代に入って再起動。
一方、SF小説家アーサー・C・クラークの大ファンであるスピルバーグは、その著作『神の鉄槌』(1993年)の映画化企画を進めていました。
そんな折、ザナック&ブラウンとスピルバーグは元々仕事仲間だったことから、双方が似たような企画を抱えていることを知り、企画を統合して一緒に製作することにしました。
脚本家として雇われたブルース・ジョエル・ルービンは『地球最後の日』(1951年)の大ファンでした。
1998年にはディズニーも『アルマゲドン』(1998年)を製作していました。
あちらは小惑星、こちらは隕石という細かい違いこそあれど、地球に破滅をもたらすものが降ってきそうなので宇宙飛行士がその破壊に向かうという点で似たり寄ったりの企画でした。
『アルマゲドン』は『アウトブレイク』(1995年)のロバート・ロイ・プールの書いた”Premonision”というオリジナル脚本を原案としており、本作との間にパクったりパクられたりという関係性はないはずなのですが、ある企画を進めるために数十人の脚本家が作業にあたり、そのうちの誰かが無意識のうちにインスピレーションを受けて似たような話を書いてしまうことがあるというハリウッドの弊害の中で生まれた可能性はあります。
このような事態が発生した場合、スピルバーグとザナックがやったように企画の統合などで調整を図るのが通例なのですが、それぞれの製作母体であるドリームワークスとディズニーが犬猿の仲だったことから競合状態となりました。
『ピースメーカー』(1997年)のレビュー内で詳しく触れているのですが、端的に言うとドリームワークス創設者の一人ジェフリー・カッツェンバーグは元ディズニー重役であり、マイケル・アイズナー会長と喧嘩してディズニーを辞めたという経緯から、ディズニーに対する激しい対抗心を持っていたのです。
他にも『バグズ・ライフ』(1998年)と『アンツ』(1998年)も競合していました。
1998年5月8日に全米公開されてオープニング興収は4115万ドルにのぼり、2位の『シティ・オブ・エンジェル』(1998年)の売上高471万ドルの約9倍というぶっちぎりの1位を獲得しました。
公開3週目にしてローランド・エメリッヒ監督の『Godzilla』(1998年)に敗れて首位陥落したものの、全米トータルグロスは1億4046万ドルという大ヒットとなりました。
世界マーケットでも同じく好調で全世界トータルグロスは3億4946万ドル、年間興行成績第6位という大ヒットとなりました。8000万ドルという大作としては控えめな製作費ながら大健闘だったと言えます。
滅亡が迫った時、人類はどう反応するのかを描いたシミュレーション映画として、本作は破格の完成度を誇っています。
彗星が衝突コースにあり、2年後にその日が来ることを知りつつも、政府は最初の1年間は秘密を守り続け、有人宇宙船を送り込むメサイア計画、核ミサイルで彗星を狙うタイタン計画、新世界創造のため選抜された人々をシェルターで保護するノアの箱舟計画という、3段階の計画を準備していました。『アルマゲドン』(1998年)のように宇宙飛行士を送り込んで終わりではなく、何層もの対策が講じられているという点に燃えました。
アルマゲドン【凡作】酷い内容だが力技で何とかなっている(ネタバレなし・感想・解説)
また、計画の成功を確信できない財務長官が不自然なタイミングで辞職し、それを女性スキャンダルだと勘違いしたジャーナリストの突撃取材によって事の真相が明るみに出るという捻りの加え方にも意外性がありました。
公表にあたっては淡々と事実を話しつつも、国民を過度に不安がらせないよう、すべての対策は考えられていることを強調するベック大統領の話しぶりは非常にリアルだったし、「資源の買いだめ、独占、値上げは許さない」と締めるべき部分はきちっと締める周到さで、この人物が極めて優れた大統領であることが分かります。
メサイア計画の失敗後にはパニックを警戒して戒厳令を敷き、即座に第二段階へ移って行くという対応の良さも素晴らしいし、事ここに至っては地球が大打撃を受ける可能性が高いことを包み隠さず、政府が選んだ人間のみをノアの箱舟計画に参加させると言い切ってしまうという対応にも説得力があって、いちいち「ほぉ~」っと感心しながら見ることができました。
メサイア号が彗星破壊に挑む場面は、NASAの協力で作られただけあって説得力十分。大気という保護膜のない彗星表面では太陽光がクルー達の脅威となったり、その太陽光で急激に熱せられた地表からガス噴射が起こったりと、意外なものがトラップになるので否応なしに緊張させられました。
最大のハイライトである彗星衝突場面は現在の目で見ても怒涛の迫力で、破壊のカタルシスをたっぷりと味わうことができました。加えて、津波が来る前にいったん引き潮になったり、ビルの屋上に残った人々が津波とは逆方向に逃げているという些細な描写を入れたりすることで、大規模な見せ場を大味にしない工夫が施されています。この映像を製作したのは当時世界最高のVFX工房だったILM(インダストリアル・ライト・アンド・マジック)ですが、彼らはディティールにこそリアリティが宿るということを熟知していたようです。
と、SFとしてはよく出来ていたのですが、ドラマ部分が全然面白くないことが作品のボトルネックとなっています。
2年前に大成功した『インデペンデンス・デイ』(1996年)に倣ってか本作も群像劇スタイルをとっており、『ER 緊急救命室』のミミ・レダーを監督に選んだことからもその方向性は読み取れるのですが、魅力的な登場人物がいないので、これがちっとも面白くありませんでした。
ジェニーの親子関係の話は本当にどうでもよくて、彼女が父親と和解する場面には何の感動もありませんでした。また、ノアの箱舟に入る権利を仲間内のくじ引きで分配したり、一度得た権利を人にあげたりといった描写には疑問符が付きました。ノアの箱舟に入れるのは新世界の創造に必要だと政府が判断した人間だけであって、勝手に融通し合うようなものではないと思うのですが。せっかくSFパートで築き上げられたリアリティが、出来の悪いドラマパートによって毀損されているように見えて、良い気分がしませんでした。
もっと酷いのがリオとサラの物語で、リオ一家と共にノアの箱舟に入る権利を得たにも関わらず、自分の家族と一緒にここに残ると言い出すサラがうざいし、最終的にサラは迎えに来たリオと合流し家族を置いて高台に逃げることになるのだから、最初っからノアの箱舟に入っとけよとイライラさせられました。どうやらリオとサラの物語はもっと多く撮影されていたようなのですが、試写の結果がよくなかったために、ほとんどがカットされたようです。
あと、冒頭で彗星のデータを届けようとして死亡したウルフ博士のエピソードには何の意味があったんでしょうか。
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