【良作】ボルケーノ_缶コーヒーを差し入れたくなる映画(ネタバレなし・感想・解説)

災害・パニック
災害・パニック

(1997年 アメリカ)
科学考証は無茶苦茶と言われている映画なのですが、災害に対応する公務員達の姿は実に魅力的であり、かつ、対応策は難しすぎずバカっぽくもなく丁度いい塩梅のものであり、危機管理を描いた映画としては非常によく出来ています。同時期のライバルである『ダンテズ・ピーク』(1997年)よりもこちらの方が面白さでは軍配が上がります。

ダンテズ・ピーク【凡作】仕事しない町長と溶けないタイヤ

©Twentieth Century Fox

あらすじ

ある日、ロサンゼルスで中規模の地震が発生した。緊急事態管理局局長のマイク(トミー・リー・ジョーンズ)は地質学者のエイミー・バーンズ(アン・ヘッシュ)を呼び寄せて調査を行い、エイミーは異常事態が発生していると結論づける。しかし都市機能を止めるわけにもいかないことから、マイクはエイミーの意見を参考に留めることにする。

翌日の早朝、ロサンゼルスを大地震が襲い、タール池からは大量の溶岩が流れ出し始めた。その場を通りかかったマイクは、住宅地に向けて流れている溶岩を食い止めるべく懸命な対応を行う。

スタッフ・キャスト

監督は『ボディガード』のミック・ジャクソン

1943年イングランド出身。1970年代よりテレビの演出家として活動し、全面核戦争をシミュレーションした超絶鬱ドラマ『SF核戦争後の未来・スレッズ』(1984年)で全英の視聴者を絶望のどん底へと叩き込みました。

ゲイリー・オールドマンとデニス・ホッパーが出演した『理由なき発砲』(1989年)で映画監督デビュー。スティーヴ・マーティン主演の『L.A.ストーリー 恋が降る街』(1991年)を経て、ケビン・コスナー主演の『ボディガード』(1992年)が全世界で4億ドルを超える大ヒットとなりました。

どんなジャンルでも堅実にこなす器用さこそあるものの、映画監督としては凡庸と言える人物であり、「この監督じゃなきゃダメ」と言わしめるほどの強烈な個性もないために、本作の後にはテレビ界に出戻っています。

テレビ映画『テンプル・グランディン~自閉症とともに』(2010年)でプライムタイム・エミー賞演出監督賞受賞。

脚色は『キャプテン・フィリップス』のビリー・レイ

ジェローム・アームストロングという人物が描いた本作のオリジナルを脚色したのは、後に売れっ子脚本家となるビリー・レイです。

1990年より脚本家業を開始し、ブルース・ウィリス主演の『薔薇の素顔』(1994年)で初クレジット。『ニュースの天才』(2003年)、『アメリカを売った男』(2007年)の2本の社会派映画では監督も務めて高評価を受けました。他に、大ヒット作『ハンガー・ゲーム』(2012年)、ポール・グリーングラスの実録アクション『キャプテン・フィリップス』(2013年)、ウィル・スミス主演の『ジェミニマン』(2019年)を手掛けています。

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製作は『X-MEN』シリーズのローレン・シュラー・ドナー

1949年クリーブランド出身。名監督リチャード・ドナーの妻であり、その監督作『レディホーク』(1985年)、『マーヴェリック』(1994年)、『暗殺者』(1995年)などでプロデューサーを務めています。

他にもトム・ハンクス主演の『ユー・ガット・メール』(1998年)やオリバー・ストーン監督の『エニイ・ギブン・サンデー』(1999年)などを手掛けており、2000年からは『X-MEN』シリーズを製作して全世界で大ヒットさせました。

主演はトミー・リー・ジョーンズ

1946年テキサス州出身。油田作業員の息子として産まれ、奨学金でハーバードに進学したという苦労人。大学時代のルームメイトは後に副大統領になるアル・ゴアで、現在でも親交があるようです。

『ある愛の詩』(1971年)で映画デビューしたものの長く下積み生活を経験し、アンドリュー・デイヴィス監督の『ザ・パッケージ/暴かれた陰謀』(1989年)でのサイコな殺人マシーン役を演じた辺りから、ようやく脚光を浴び始めました。

その『ザ・パッケージ』の影響からか、以降は主人公を苦しめる二番手の役柄がしばらく続き(『JFK』『沈黙の戦艦』『逃亡者』『ブローン・アウェイ/復讐の序曲』、『バットマン フォーエヴァー』)、うち『逃亡者』(1993年)ではアカデミー助演男優賞を受賞しました。

本作には、そんな二番手の悪役から一番手のヒーローに転換しようとしていた時期に出演し、作品自体はヒットとはならなかったのですが、俳優としてのイメージの転換には繋げられたようでした。

感想

科学考証は出鱈目

本作の脚本は科学誌の記事にインスパイアされて執筆されたと言われていますが、もっとも近い火山からでも数百km離れているLAで噴火が起こり、溶岩が流れるということはあまりに荒唐無稽として、公開当時にはかなり批判を受けました。

また溶岩は粘り気が多いので、映画で描かれたような勢いで流れるということもないだろうと。

科学考証という点では、同時期に製作された『ダンテズ・ピーク』(1997年)の方に軍配が上がるようです。

戦う公務員

しかし、本作には抗いがたい魅力があります。それは戦う公務員の姿が描かれているということです。

この手のディザスター映画って、一般の被災者や状況を俯瞰する政治家や科学者の視点で描かれることが多く、現場で踏ん張る公務員視点のものがそれまで意外となかったので、これがなかなか新鮮でした。

ライバル『ダンテズ・ピーク』が公務そっちのけで家族を助けに行く無責任な町長の話だったのに対して、本作の主人公マイク(トミー・リー・ジョーンズ)は初動段階で娘を人に預けてしまい、後は公務に専念するという実に気持ちの良い仕事ぶりを披露します。

現場には消防、警察、州兵が集まっているのですが、指揮命令系統がバラバラなので当初はうまく連携できません。そこにきて非常時における現場の全権限を持つ緊急事態管理局局長のマイクが現場をテキパキと仕切りはじめ、ひとつの目的へ向けて全員をまとめあげます。

その指示を受ける公務員たちも文句や異論をはさむことなく各自が一兵卒となってマイクの指示に従うので、初対面の者同士の阿吽の呼吸が出来上がっています。「これぞプロの仕事!」という感じでした。

家族愛だの地元愛だのというしみったれた話は本作にはありません。「自分は消防士として災害の現場にいる。俺達が止めなきゃ住宅街が全焼するんだから、もうやるしかないだろ」という使命感のみで動いているのです。これが最高でした。

加えて、あまりに突発的すぎて重機などを現場に集めている時間がなく、手作業で対策を進めるしかないことから、場面にはより現場感が溢れています。

本作はお仕事映画として実によく出来ているのです。

思わず缶コーヒーを差し入れしたくなる現場感
©Twentieth Century Fox

ウィルシャー通り封鎖のドキドキ感

そんな公務員たちの戦いのピークとなるのが、中盤におけるウィルシャー通り封鎖です。

流れ出る溶岩は都心一等地を焼き払いながら進み、ここで食い止めなければ住宅地へ入っていくというギリギリの状況となります。

これに対しマイクはKレールと呼ばれるコンクリート防護柵を土木会社に運ばせて、溶岩に先回りしてバリケードを築き、溶岩の流れを止めるという作戦に出ます。

時間的余裕のない中で設置が間に合うのかというドキドキ感や、本当にマイクの思惑通りに事が運ぶのかというスリル、また給水ヘリの大群が救援に現れるタイミングの絶妙さなど、この場面は最高潮に盛り上がりました。

緊張と興奮の瞬間
©Twentieth Century Fox

燃えるミニチュアワーク

この都市破壊を視覚化したVFXも一見の価値ありです。

現在同じ内容を作るとすれば恐らくCGが大量に使われるのでしょうが、本作ではミニチュアにかなりの比重が置かれており、クライマックスのビル爆破などでは素晴らしい成果を上げていました。

本物を寸分違わず再現した壮絶なミニチュアの完成度と、それを景気よく破壊する豪勢な見せ場にはぜひ注目いただきたいです。

こういう見せ場は最高すぎますね
©Twentieth Century Fox

陳腐なメッセージは要らなかった

以上、基本的には面白い映画だったのですが、ちょいちょい挟まれる「オールアメリカ」的なメッセージがウザかったので、それは減点ですね。

差別主義者の警官が危機を共に乗り切ったことで黒人と和解したり、クライマックスで灰だらけの人々を見た子供が「みんな同じ顔だよ」と言ったり。 良い話にしたいんだろうということは分かるのですが、描写は紋切り型で今更言われんでも分かっとるわいという感じで、これらのメッセージは蛇足でした。

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