(1990年 アメリカ)
軍事サスペンスとしてのレベルは高く、ジャック・ライアンのキャラ構築にも成功していて、シリーズでは最高の出来だと思います。ラミウス側の整理がうまくつけられていない点のみ残念であり、ここをうまくやっつけられていれば傑作の部類に入ったかもしれません。
1984年、ソ連の最新鋭原子力潜水艦レッド・オクトーバーが姿を消した。ソ連海軍はレッド・オクトーバー撃沈に動き出す中、CIA分析官ジャック・ライアン(アレック・ボールドウィン)は同艦ラミウス艦長(ショーン・コネリー)の亡命の可能性を考える。
1951年生まれ。名門ジュリアード音楽院で学び、ピアース・ブロスナン主演のホラー『ノーマッズ』(1986年)で監督デビュー。『プレデター』(1987年)、『ダイ・ハード』(1988年)そして本作と、キャリア初期には奇跡のような名作を連打し、90年代初期には次世代を担う監督としてジェームズ・キャメロンと並ぶほどの注目を浴びていました。なお、B級映画のマスターピース『コマンドー』(1985年)の監督オファーも受けていたようです。また、『ダイ・ハード2』(1990年)の監督オファーを受けていたものの、本作とスケジュールが競合して、やむなく降板しました。
ソニーピクチャーズの期待作『ラスト・アクション・ヒーロー』(1993年)を期待外れの結果に終わらせた当たりからキャリアが怪しくなり、シリーズ復帰作『ダイ・ハード3』(1995年)で持ち直したものの、『13ウォーリアーズ』(1998年)が製作費1億6000万ドルに対して世界興収6,100万ドルという爆死で完全に失速しました。
2006年にはFBIへの偽証罪で逮捕され、12か月の実刑を受けました。2019年時点での最後の監督作はジョン・トラボルタ主演の『閉ざされた森』(2003年)となっています。
1943年オランダ生まれ。オランダ時代にはポール・バーホーベン監督作品の常連で、トム・クルーズ主演の青春映画『栄光の彼方に』(1983年)辺りからハリウッド映画も手掛けるようになりました。
1980年代後半から1990年代前半にかけての仕事は『ダイ・ハード』(1988年)、『ブラック・レイン』(1989年)、『氷の微笑』(1992年)、『リーサル・ウェポン3』(1992年)という物凄い状態となり、その勢いで、レニー・ハーリンに監督を断られた『スピード』(1994年)のオファーを受けて監督デビュー。こちらも奇跡的な出来で注目の監督となり、続く『ツイスター』(1996年)の大ヒットでハリウッドトップクラスの監督になったものの、『スピード2』(1997年)での失速以降はロクな映画を撮っていません。
なお、2018年に公開された『MEG ザ・モンスター』は、2005年頃にヤン・デ・ボン監督で進められていた企画でした。
1947年生まれ。保険代理店を営みながら9年がかりで書き上げた『レッド・オクトーバーを追え!』(1984年)がベストセラーとなりました。同作は、ハイテクを背景にした軍事シミュレーション小説の開祖的作品として評価されています。『レッド・オクトーバーを追え!』のジャック・ライアンを主人公とした『ジャック・ライアン』シリーズは大ヒット。また『国際陰謀』シリーズや『オプ・センター』シリーズもヒットしています。
なお、映画版の本作は製作開始が冷戦中の1989年だったものの、公開される1990年には冷戦が終わってしまったために、焦った製作陣は映画の設定年代を原作が発行された1984年に変更しています。
1990年に3月2日に全米公開。3月は面白い映画が公開されない時期なのでめぼしいライバルがなく、2位の『ドライビング Miss デイジー』(1989年)に3倍以上もの大差を付けるぶっちぎりの1位を獲得しました。
なお、その週の他の映画はスティーヴン・セガール主演の『ハード・トゥ・キル』(1990年)やケビン・コスナー主演の『リベンジ』(1990年)と小物ばかりでした。
本作の一人勝ち状態はその後も続き、3週連続全米No.1を記録。
『プリティ・ウーマン』(1990年)が公開された4週目にして首位からは転落しましたが、その後も人気は継続し、なんと15週間に渡ってトップ10圏内に残り続けました。
全米トータルグロスは1億2200万ドルにのぼり、マクティアナンが断った『ダイ・ハード2』の売上高1億1700万ドルを上回りました。ダイ・ハード2の製作費7000万ドルに対して本作の製作費は3000万ドルに抑えられていたことまで考えると、本作はビジネス上の圧倒的な成功を収めたと言えます。
通常のタイフーン級よりもさらに巨大な潜水艦で、キャタピラーと呼ばれる無音推進システムを備えており、通常のソナーでは追尾不可。艦内の照明はブルーを基調としている。
ポリャルヌイ水路を航行中だったことから、レッド・オクトーバーの追跡をすることになった。艦内の照明はレッドを基調としている。
ハリソン・フォード、ベン・アフレック、クリス・パイン、ジョン・クラシンスキーと多くの俳優により演じられてきたジャック・ライアンですが、私はアレック・ボールドウィンがベストだと思います。
ハリソン・フォードは成熟しすぎ、安定感ありすぎだし、アフレック、パイン、クラシンスキーは青臭すぎだったのですが、ボールドウィンはその中間の丁度良い温度感を持っています。分析官としてはすでに一流で組織内でも一目置かれているが、政治家や軍人といった部外者との交渉をこなすような器用さはまだ兼ね備えていないという、多くの観客にとって共感しやすい人物像となっているのです。
また、主にデスクワークを行うインテリ系なのだが、たまに現場に出て無茶もするのがジャック・ライアンなのですが、他の俳優ではインテリという部分が置き去りになることが多い中で、ボールドウィンには事務職らしさもあります。
本作の特色は複雑な軍事用語が飛び交い、可能な限り実機が使われていることであり、そうした本物志向ぶりは他に類を見ない程です。後述する通り物語はかなり荒唐無稽なのですが、ディティールによりリアリティの欠如という問題をカバーし、硬派な雰囲気で「それっぽく」感じさせることに成功しています。
海軍は、かつてパラマウントが製作した『トップガン』(1986年)がパイロット募集に貢献した経験から、本作が潜水艦乗りの募集に貢献することを期待しており、本作の撮影は米海軍の全面協力のもとに行われています。潜水艦艦長役を演じるショーン・コネリーとスコット・グレンは実際に潜水艦に乗艦して役作りをしたほどでした。
本作製作時点で、ジョン・マクティアナンはすでにアクション映画界の巨匠でした。しかし前2作『プレデター』(1987年)と『ダイ・ハード』(1988年)がヤンチャ系のアクション映画だったのに対して、本作は見せ場のほとんどないストリーテリングの技術で見せるタイプの作品だったので、マクティアナンにとっては未開拓の分野だったと言えるのですが、彼はこれを見事にやりきっています。
舞台が目まぐるしく移り変わり、セリフのある登場人物も大勢、おまけに一般人には耳慣れない軍事用語が飛び交う複雑な内容。読み返しの利く小説と違って観客が話を見失うと終わりという映画という媒体にあって、この難儀な内容を観客に理解させねばならないという難題を抱えながら、実に見事にやりきっています。
それまでバラバラに動いていたライアン、ラミレス、マンキューソが一地点に集まり、それと共にソ連原潜コノヴァロフとの魚雷戦が始まるというクライマックスに向けたテンションの上げ方は見事に娯楽的で、ただ複雑な物語を捌くだけでなく、アクション映画としての呼吸もきちんと整えている辺りの仕事の確実さには感心しました。
撮影は『ダイ・ハード』(1988年)でもジョン・マクティアナンと組んだヤン・デ・ボン。従前は動きの激しいアクション映画を得意としてきたデ・ボンですが、本作では対象物のスケール感を見せるという方向性での仕事をしています。
ラミウス役のショーン・コネリーの顔のドアップから始まり、カメラがどんどん引いていくとレッド・オクトーバーの規格外の巨体が映し出される冒頭のインパクトは素晴らしいものでした。また、実機の迫力を的確に伝えることに成功しているし、一部の場面では記録映像を使っているのですが、この記録映像と馴染む撮影なども行われています。
そんな感じで素晴らしい作品だったのですが、ラミウスの計画が杜撰だった点がボトルネックとなっています。
ソナー探知不可能な潜水艦でアメリカに亡命するということがラミウスの目的なのですが、核兵器搭載の最新鋭潜水艦が行方不明となれば米ソ両国に追われることになるわけで、そんな修羅場を切り抜けるためのラミウスの策とは、アメリカ側に亡命の意図を推測できる優秀な人間がおり、かつ、その人間が政治的・軍事的影響力を行使できる立ち位置に居て、レッド・オクトーバーを受け入れるために奔走してくれるというものでした。あまりに偶然性に頼りすぎているでしょ。
ショーン・コネリーが演じたおかげでラミウスには名艦長としての風格が漂っているのですが、だからこそ、これほど立派な人がこんなに杜撰な計画を立てて実行に移すものだろうかと、首をかしげてしまいました。
≪ジャック・ライアンシリーズ≫
【良作】レッド・オクトーバーを追え!_シリーズで一番面白い
【凡作】パトリオット・ゲーム_後半に向けてつまらなくなっていく
【駄作】今そこにある危機_長いだけで面白くない
【凡作】トータル・フィアーズ_全然恐怖を感じない
【凡作】エージェント:ライアン_役者は良いが話が面白くない
【良作】ウィズアウト・リモース_本当に容赦がない