エージェント:ライアン【凡作】役者は良いが話が面白くない(ネタバレあり・感想・解説)

(2014年 アメリカ)
ジャック・ライアンシリーズのリブート。若返りを果たしたキャストや、上司役のケヴィン・コスナーなどは実に良いのですが、ジャックは基本的に体力と勘を頼りに動いており、頭良さそうに見えなかったことが残念でした。敵は輪をかけてバカだったし。

あらすじ

ジャック・ライアン(クリス・パイン)はイギリスの大学で経済学を学ぶ学生だが、アメリカ同時多発テロ事件の発生により、海兵隊に入隊する。アフガンでの作戦中にヘリコプター墜落事故に遭い、脊椎を損傷する大怪我を負ったライアンは除隊したが、療養中の病院でCIAのトマス・ハーパー(ケヴィン・コスナー)からの接触を受け、CIAの協力者となった。

ハーパーの指示によりウォール街の投資銀行に入社したライアンは、仕事をしながら国際的な資金のモニタリングを行っていた。ある日、ロシアの富豪チェレヴィン(ケネス・ブラナー)の口座に異常を発見したライアンは、CIAからの命を受けてモスクワへと飛ぶ。

スタッフ・キャスト

監督はシェイクスピア俳優ケネス・ブラナー

1960年ベルファスト出身。王立演劇学校を首席で卒業し、名門ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの舞台に立っていたという演劇界のスーパーエリートです。

その後自身の劇団を設立して大成功し、『ヘンリー5世』(1989年)で映画界に進出。同作でアカデミー監督賞と主演男優賞にノミネートされました。

俳優としては『ワイルド・ワイルド・ウェスト』(1999年)や『ハリー・ポッターと秘密の家』(2002年)などの娯楽作にも出演する一方、映画監督としては長く文芸作しか撮っていなかったのですが、黎明期のMCUにて『マイティ・ソー』(2011年)を監督し大ヒットさせたことから、娯楽作を撮る能力も評価されました。

当初、本作の監督にはテレビドラマ『LOST』の監督・プロデューサーとして知られるジャック・ベンダーが内定していたのですが、その降板によってブラナーが起用されました。

脚本は『スパイダーマン』のデヴィッド・コープ

1963年ウィスコンシン州出身。サイコサスペンス『アパートメント・ゼロ』(1988年)で脚本家デビューし、初期には『トイ・ソルジャー』(1991年)や『永遠に美しく…』(1992年)などの脚本を手掛けました。

スティーヴン・スピルバーグ監督の『ジュラシック・パーク』(1993年)の脚本を手掛けた辺りからハリウッド大作に多く携わるようになり、『ミッション:インポッシブル』(1996年)、『スパイダーマン』(2002年)、『宇宙戦争』(2005年)などを手掛けています。

主演は『スター・トレック』のクリス・パイン

1980年LA出身。父も母も俳優という芸能一家に生まれ、カリフォルニア大学バークレー校で英文学の学士号を取得した後に演技を学びました。

2003年に『ER緊急救命室』でデビューした後は主にテレビドラマ界で活躍し、リブート版『スター・トレック』(2009年)の主人公ジェームズ・T・カーク役でブレイクしました。老舗フランチャイズのリブートで、若く向こう見ずな主人公という点で本作と共通しています。

DCコミックの大ヒット作『ワンダーウーマン』(2017年)に出演し、その続編『ワンダーウーマン1984』(2020年)でも続投します。

作品概要

若返りを果たしたジャック・ライアン

本作のクリス・パインは、アレック・ボールドウィン、ハリソン・フォード、ベン・アフレックに続く4人目のジャック・ライアンですが、本作にて大幅な若返りと設定の一新が図られています。

原作のジャック・ライアンは東西冷戦時代のCIA分析官であり、もっとも有名なハリソン・フォードが演じたライアンはすでにCIAでも相当上の位にいる中年男性でした。

ベン・アフレック主演の『トータル・フィアーズ』(2002年)ではCIAに入局したてのライアンが描かれましたが、本作はそれよりも若く、学生時代からスタートします。

冒頭のライアンはロンドンの大学で経済学を学ぶ学生であり、アメリカ同時多発テロ事件の発生により海兵隊に入隊。アフガンで発生したヘリコプター墜落事故により大怪我を負ったために除隊し、その後CIAのスカウトを受けてその協力者となり、ウォール街の投資銀行で働きながら不自然な金の動きをモニタリングしています。

経済学の専攻後に海兵隊入隊、ヘリコプター墜落事故で脊椎を損傷して除隊、金融系の民間企業に入社という流れは原作を踏まえたものなのですが、911とアフガン戦争を背景にしている辺りが現代風の味付けとなっています。

感想

華のあるキャスティングで明るくなった作風

ジャック・ライアンシリーズと言えば男臭い作風。主人公を演じたのはアレック・ボールドウィンやハリソン・フォードといった男の中の男のような俳優達だし、中年という年齢設定なので他の登場人物もおじさんばかり。男臭いを通り越して加齢臭がしてきそうでした。

しかし今回の主演はクリス・パイン。若いイケメンです。しかも彼の上司はケヴィン・コスナー。中年のイケメンです。この二人の組み合わせは従前のジャック・ライアンシリーズにはない美しさと爽やかさがありました。

新旧のイケメン
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加えてキーラ・ナイトレイ扮するキャシーもいろいろあって現場に出てきて大活躍。これによって華も加わり、映画の雰囲気がパッと明るくなりました。

この思い切ったキャスティングは吉と出ています。

ジャック・ライアンがキレ者に見えない

ただし映画として面白かったかどうかは別の話であり、世界を股にかけるスパイ映画としての完成度は低いと感じました。

その最大の理由はジャック・ライアンが頭良さそうに見えないということであり、ほとんどの危機を度胸と身体能力で乗り切っているような状況なので、これではイーサン・ハントの劣化コピー版です。

ジャック・ライアンの特徴は現場工作員ではなく分析官という設定であり、状況を見抜いて解決策を導く過程こそが彼の本領発揮の場であるにも関わらず、その点が追及されていないのは残念な限りでした。

終盤に至っては、ほぼ勘で捜査していますからね。情報を見ながらの分析ではなく、「〇〇は××なはずだ」とか言って、憶測に憶測を重ねて時間や場所を予測し始めるという。

ケヴィン・コスナー扮するハーパーはCIAのベテラン工作員であるにも関わらず、ライアンによる当てずっぽうの推理をその横で「なるほど~」って感じで聞いているので、何だか二人とも愚かに見えてきました。さすがにこれはあんまりでしたね。

色仕掛けに落ちる間抜けな悪党

頭が良くないのは敵も同じく。

今回の敵はロシアの富豪ヴィクトル・チェレヴィン(ケネス・ブラナー)。ロシア内務大臣と裏で繋がっているチェレヴィンは、自身の会社を隠れ蓑にしてアメリカ合衆国を転覆させる計画を遂行しています。

チェレヴィンの会社に投資銀行のコンプライアンス担当という立場でジャック・ライアンが訪れます。二人はお互いの素性を知っているにも関わらず、表面的には金融マンと顧客という関係性を崩しません。

これは007でよく用いられる構図であり、二人の間での会話は二重の意味を持ち、いつこの均衡が崩れるのかというスリルを伴った静かな攻防戦が意図されていると考えられます。ただし、本作ではあまり有効に機能していないのですが。

ライアンは会食の席でベロベロに酔ったふりをしてチェレヴィンの隙を突き、情報を盗もうとするのですが、いくら何でもこんなに安っぽい作戦に騙される奴なんていないだろと思って見ていると、チェレヴィンはあっさりこの罠に引っかかります。

チェレヴィンのお目当てはキャシー。チェレヴィンは人妻好きだという事前情報を仕入れたジャックがあえて自分のパートナーを会食に仕込んでおいたのですが、まんまとこの色仕掛けに引っかかるという間抜けぶり。ドッキリにはめられる安田大サーカスのクロちゃんみたいになっていました。

色仕掛けにはまったチェレヴィン。「惚れてまうやろ~」
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いくらスケベで人妻好きでも、目の前にCIAから送り込まれた男がいる場で、そのパートナーを本気で口説こうとする奴がいるかと愕然としてしまいました。国際テロを企む実業家どころか、そこら辺のサラリーマンでもここまで脇は甘くありませんよ。 知的でスリリングな駆け引きのはずが、アホとバカの騙し合いみたいになっています。