(1998年 アメリカ)
全盛期のジョン・ウーが監督したテレビ映画だが、これが驚くほど面白くない。キャラクターの設定は雑だし、戦力描写は安定していない。ストーリーはいい加減で必要なエピソードがいくつも抜けているような状態だし、肝心のアクションも月並み。良いところがどこにもない。
感想
ジョン・ウーのポンコツテレビ映画
ジョン・ウーが監督したテレビ映画。
私の初見は日曜洋画劇場で、ソフトリリースからほとんど日をあけずに地上波放送されたので凄く得した気分になった覚えがある(ソフトリリース1998年10月、日曜洋画劇場1998年11月)。
しかも製作されたのは『フェイス/オフ』(1997年)の直後、ハリウッドにおけるウーの絶頂期だったので事前の期待もハンパなものではなかったが、いざ見てみると「本当にウーが撮ったの?」と言いたくなるような出来だった。
シリーズ化が意図されたパイロット版らしいのだが、本作以降に続きは製作されなかった。
その後の人生で本作のことを気に掛けることは皆無だったのだが、最近、近所の中古屋さんでDVDが売られているのを目撃した上に、当日は店内全品1割引セールをしていたので、とりあえず買ってみた。
そうして24年ぶりの鑑賞となったが、やはり酷かった。
特典映像を見ると、出演者やスタッフは口々に「ジョン・ウーは非常に厳しく、細部にまでこだわっていた」と語っているが、完成した作品はむしろこだわりがなさ過ぎておかしなことになっている。
前述の通りシリーズ化が意図されていた作品なので設定こそいろいろ置かれているものの、それらはまったく堀り下げられないし、複線化されたドラマはうまくつながっていない。
肝心のアクションまでがいつものウーの半分程度の完成度だし、敵と味方の戦力バランスもとれていないので、良いところなし。
アクション映画界で確たる地位を築いたドルフ・ラングレンとのタッグでこれでは拍子抜けである。
あとDVDと地上波では吹替が違うようだ。前述の通り地上波放送がソフトリリースの1か月後だったので、てっきりソフトの吹き替えが地上波で流されたものとばかり思っていたのだが、それぞれ別に作られたものらしい。
腕が良いのか悪いのか分からないドル
タイトルのブラック・ジャックとは、主人公ジャック・デヴリン(ドルフ・ラングレン)のことを指している。
ジャックは元FBIで、現在はフリーのボディガード。そのスジでは腕利きとして通っているらしく、様々な案件がジャックの元には舞い込んでくる。
冒頭ではカジノ経営者の旧友より、かわいい娘ケイシーを守って欲しいと依頼される。ロシアン・マフィアからのみかじめ料の要求を断ったところ、家族を狙うと脅されたのだ。
旧友からの頼みならばと引き受けるジャックだが、早々に邸宅をマフィアに襲撃される。
激しい撃ちあいの末に刺客達を撃退することには成功するが、その最中にフラッシュバンをモロに喰らってしまい、白が怖いという謎の後遺症を発症させるジャック。
いったんは刺客を退けたものの、その後に友人とその妻を殺されてしまい、残されたケイシーはジャックが引き取ることになる。
この重要な展開はかなりの駆け足で処理されてしまうので、見ているこっちはモヤモヤしてしまう。
経営者夫妻が一体どんな死に方をしたのか、誰に殺されたのかすら説明がなく、弁護士に連れられたケイシーがいきなり玄関先にやってきて、ジャックは彼女の保護者になることを二つ返事で引き受ける。
晴れてシリーズ化された後に、ケイシーの両親の死の真相に迫るエピソードを入れる予定だったのかもしれないが、このパイロット版だけでは非常に納得感の薄い展開に終わっている。
次に引き受けるのはスーパーモデル シンダー(カム・ヘスキン)の警護。
従前から脅迫状を受け取っていたシンダーだが、ついに狙撃の対象となったものだから、警護を手厚くすることにしたのだ。
なんだけど、やはりジャックは何度も襲撃を喰らってしまい、その度に警護対象を危険に晒す。やはりボディガードとしての腕は悪いんじゃないだろうか。
しかもジャックは白が怖いという謎の後遺症を発症しているので、周囲に牛乳をぶちまけられたり、目の前でシーツを広げられたりすると、撃ちあいの最中でももがき苦しみ始める。
白い布を見てドルがもがき苦しむ様はかなり滑稽だし、チェイスしているうちに牛乳工場に入っていくなど、舞台の作り方もかなり強引。
牛乳工場なんてそこいらに普通に存在するものでもないだろう。
負け続きのジャックは、最終的にスーパーモデルに対して舞台に立つなとまで言い始める。
ケヴィン・コスナーの『ボディガード』(1992年)でも思ったが、ボディガードが警護対象に向かって「仕事場に行くな」と言い出したら終わりである。それだとボディガードを付けている意味がない。
そんなわけで、主人公ジャックが有能に見えないことがしんどかった。
あと、ちょいちょいおかしな場面がねじ込まれているのも気になった。
シンダーは痛み止めの常用者であり、現在では中毒に近くなっている。
ある時にはラリってマンションのベランダから飛び降りかけるのだが、すんでのところでジャックに止められる。そして取り乱すシンダーを落ち着かせるため、ジャックはおもむろにダンスを始める。
まったく意味の分からないくだりだが、これが「おしゃれでしょ」って感じで映し出されるので、かえってダサく感じられた。
その後、シンダーは腰椎をやっていて、そのための痛み止めだったことが分かる。いつも通りにドラッグを欲しがるシンダーに対して、ジャックは「いやいや、こっちの方が効くから」と言って整体のようなことを始める。
最初は嫌がるシンダーだが、ジャックの手つきが良かったのか「OH!!!!」とアメリカのポルノのようによがり始める。これもまた意味の分からんくだりだった。
敵が意味わからんほど強い ※ネタバレあり
シンダーを殺そうとしている敵は一体何者かというと、彼女の別れた夫だった。
元は役者を目指していたのだが芽が出ず、一方でモデルとしての成功の階段を登り始めたシンダーに嫉妬し、自分の人生がうまくいかないことのストレスをシンダーへの暴力としてぶつけていたところ、彼女から離婚を迫られたらしい。
その後に彼女への愛情を再認識したのか、現在は熱心なストーカーとなっているのだが、この経歴を見る限りは特殊な訓練を受けた戦闘のスペシャリストというわけでもなさそうだ。
にもかかわらず彼は驚くような超長距離からの狙撃をしたり、捜査網をかいくぐってジャックやシンダーに迫ってきたりと、プロ顔負けのスキルを見せる。
1対1の対決になってもドルに引けを取らないのだから相当なものだが、なぜ彼がそんなに強いのかの説明は全くない。なのでその存在には違和感しかなかった。
しかも精神異常者のくせに子分のようなバイカー軍団まで引き連れている。
あの子分たちはいったい何者なのか、何が良くてあのストーカーについているのかもよく分からない。
そんなわけで敵の設定にも説得力がないので、全体的に締まらない内容となっている。
かねてからジョン・ウーの映画には適当なところがあったが、それがかなり酷い形で現れたのが本作ではなかろうか。