アルカトラズからの脱出【良作】男のドラマと緊張の脱獄劇(ネタバレあり・感想・解説)

(1979年 アメリカ)
1960年、脱獄の常習犯フランク・モリスがアルカトラズ刑務所へと移送されてきた。フランクはまたしても脱獄をもくろむが、「ザ・ロック」の異名を持つアルカトラズからの脱出は容易ではなかった。

©Paramount Pictures

スタッフ

監督はイーストウッドの師・ドン・シーゲル

1912年生まれ。1934年に叔父の伝手によりワーナーブラザーズで働くようになり、編集助手や助監督を務めるようになったのですが、1944年にワーナーと契約で揉めて干されるなど苦労をしました。『The Verdict』(1946年)で長編監督デビューをしたものの、1948年に業績が落ち始めたワーナーのリストラに遭って9か月の無職暮らし。その後は様々な映画会社を渡り歩き、多くのB級映画を手がけました。

1954年に名プロデューサー・ウォルター・ウェンジャーの下で『第十一号監房の暴動』を監督し、同作の監督助手として後の大監督サム・ペキンパーと出会いました。以降、ペキンパーは4本の映画でシーゲルの監督助手を務めました。また、1950年代から60年代にかけては生活のためにテレビ映画も手掛けていました。

1968年に、クリント・イーストウッド主演は決定していたものの、監督選びで難航していた『マンハッタン無宿』(1968年)の監督に就任し、両者は意気投合。翌年の『真昼の死闘』(1969年)、サスペンス映画『白い肌の異常な夜』(1971年)、『ダーティハリー』(1971年)と短期間で連続してコンビでの作品を発表しました。

この勢いで1970年代には男性映画の雄となり、『突破口!』(1973年)、『ドラブル』(1974年)、『ラスト・シューティスト』(1976年)、『テレフォン』(1977年)、そしてイーストウッドとの最後のコラボ作となる本作を手がけました。

1980年代に入ると、一転してプロデューサーとの軋轢によって思うように映画を撮れなくなり、さらにはその苦境を支えてくれていた弟子のサム・ペキンパーが心不全により死去したことから映画界から距離を置くようになり、1991年に癌により死去しました。

シーゲルの強みはB級映画界で培った低予算・早撮りの技術であり、入念な打合せのもとで作品イメージを固め、現場では無駄なショットを一切撮らないという演出スタイルは、クリント・イーストウッドに引き継がれています。

脚本は『コマンドー』のリチャード・タッグル

1948年生まれ。クレジットのある脚本は本作が初なのですが、本作でイーストウッドとの信頼関係を築いたようで、イーストウッド主演のサスペンス『タイトロープ』(1984年)では脚本と監督を兼任しました。その後、当時の青春スターであり、後にテレビシリーズ『デッド・ゾーン』(2002年~2007年)で人気を博すアンソニー・マイケル・ホール主演の『ランナウェイ/18才の標的』(1986年)を監督。以降はめぼしい作品がなく、映画界からはフェードアウトしたようです。

本サイト的にもっとも重要な仕事は、筋肉モリモリマッチョマンの変態が大暴れする『コマンドー』(1985年)の最終稿を書いたことであり、その仕事をもって、信頼できる男認定ができました。

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登場人物

脱獄囚

  • フランク・モリス(クリント・イーストウッド):脱獄の常習犯で、最終的にアルカトラズに送り込まれた。高い知能を持っている。
  • チャーリー・バッツ(ラリー・ハンキン):フランクよりも後に入所し、フランクの隣の房に入れられた。実母が余命数か月と知らされるが、電話すら許されていないために脱獄を決意した。しかし、いざ脱獄という段階で行動を躊躇したため、他の脱獄メンバー達との集合時間に間に合わず、脱獄に失敗した。
  • ジョン・アングリン(フレッド・ウォード):フランクと同じくアトランタ出身で、脱獄の常習犯であるアングリン兄弟の兄。
  • クラレンス・アングリン(ジャック・チボー):脱獄の常習犯であるアングリン兄弟の弟

その他の囚人

  • リトマス(フランク・ロンジオ):老人の服役囚。ネズミを買っている。暑いと顔が赤く、寒いと顔が青くなることから、リトマスと呼ばれるようになった。
  • ウルフ(ブルース・M・フィッシャー):初日からフランクに熱烈な視線を送り、シャワー室で「現在、彼氏募集中」とナンパしたところ、フランクに殴られた。以来、フランクの命を狙っている。
  • イングリッシュ(ポール・ベンジャミン):酒場の喧嘩で2人を殺害し、99年の禁固刑に服役中。図書室で働いており、フランクを「坊や」と呼ぶ。かつて隔離房から出るためにアキレス腱を切ったことがあり、以来、足が不自由。強い者順に座ることになっている中庭の階段では、最上位に座っている。結婚を控えた娘がいる。
  • ドク(ロバーツ・ブロッサム):絵が趣味の老人。暇つぶしに描いていた所長の肖像画がたまたま本人の目に入ったことから、特別待遇で許されていた画材を取り上げられ、その抗議のために斧で自らの指を切り落とした。

刑務所側

  • 所長(パトリック・マッグーハン):ネチネチとした性格で、囚人をいびることに喜びを見出しているかのような卑劣漢。

アルカトラズ刑務所とは

アルカトラズ島とはサンフランシスコ市から2.4kmのところに浮かぶ面積0.076㎢の小島であり、1934年から1963年まで連邦刑務所が設置されていました。開所当時は大恐慌や禁酒法の影響で組織犯罪が多発していた時期であり、治安当局はこうした犯罪に対する強い姿勢を打ち出す必要があったことから、社会の敵である凶悪犯を収容する施設として作られたものでした。

そして、もうひとつの特徴は「ザ・ロック」の異名に象徴される脱獄の困難さであり、以下にあげる条件が揃っていることから、歴史上14回の脱獄事件が起こったものの、成功したものはないとされています。

  • 囚人3人に対して1人の看守
  • 鉄格子が太く、溶接もしっかりとなされている
  • 点呼の頻度が高いため、不明者が出ても脱獄をやり切る前に気付かれる
  • 地盤が固く、トンネルを掘れない
  • 海は潮が早い上に、水温が低く、対岸まで泳ぎ切ることができない

本作は、14回起こった脱獄事件の中でもっとも有名な事件、1962年6月11日にフランク・モリスとアングリン兄弟が監房から消えた事件をモチーフとしています。

モリスとアングリン兄弟は2年間かけてイカダと自分に似せた人形を作り、作業場から盗んだ道具を使って交代で穴を掘りました。6月11日の夜に3人は掘った穴から煙突を伝って屋根伝いに脱出し、イカダで海に出ていきました。看守らが脱獄に気付いたのは翌朝のことで、直ちにFBIは大勢の捜査員を動員して捜索を開始しましたが、3人の消息はつかめず、死体も見つかりませんでした。FBIは1979年に捜索を中止し、3人はサンフランシスコ湾内で溺死したものと判断されたのですが、後の科学番組での実験により、3人が作ったのと同一素材のイカダでサンフランシスコ湾を泳ぎ切ることは可能と証明されています。

モリスらの事件がきっかけで施設の老朽化が明らかになり、修繕維持費の見積もりも高額となったことから、事件から1年足らずでアルカトラズ刑務所は閉鎖されました。

感想

男しか出てこない男の映画

刑務所映画なので、出てくるのは当然男ばかりです。そしてこの男達ですが、好感を持てるナイスガイと、卑劣漢の二種類しか出て来ません。なんとも分かりやすい構図なのですが、男の描き方を心得た監督・ドン・シーゲルは、実に魅力的に男たちのドラマを描いていきます。

良い奴代表のイングリッシュの底抜けの頼りがい、こいつが身近にいてくれればたいていの問題は片付くだろうという安心感は何でしょうか。対する刑務所長の卑劣漢ぶりは観客にとって適度なフラストレーションを与え、脱獄して所長をぎゃふんと言わせるクライマックスが待ち遠しくて仕方なくなります。

ちょっと残念だったのは、脱獄仲間であるアングリン兄弟がさほど深掘りされていなかったことであり、彼らはほぼフランクのお手伝いさん状態で、刑務所内のドラマにほとんど絡んできませんでした。彼らのポジションは紛れもなく主要登場人物であるにも関わらず、非常に影が薄い存在となっています。

脱獄当日の緊張感が凄い

いよいよ脱獄の時が迫った当日は、昼間っから悪いことが連続します。よりにもよってフランクの房に入ってくる所長。部屋の中をあれこれ物色し、通風孔に掘った穴が見つかるんじゃないかとハラハラさせられます。自由時間になると殺気立ったウルフが今にもフランクに襲い掛かろうとしているのですが、正当防衛でも隔離房へ入れられるルールなので、やり返せば計画は終了。いらんことすんなやウルフと、こちらもまたハラハラさせられました。

ついに脱獄計画が実行に移されても、警戒厳重な刑務所から抜け出すことは並みのことではなく、いつ見つかるか分からないという緊張感の中でイヤ~な汗をかかされました。

サービスが行き届いた地上波版吹替

地上波版吹替で見ると、作品の面白さが3割増しになります。

フランク・モリスは、演じるイーストウッドのフィックス声優であり、ルパン三世でもある山田康雄さんという抜群の安定感。そして彼と対峙する刑務所長が銭形警部こと納谷悟朗さんで、フランクを助ける囚人イングリッシュが次元大介こと小林清志さんという、完全に狙ってるだろという豪華布陣なのです。このサービス精神に嬉しくなると同時に、お三方のスキルの高さもあって、なかなか聞かせてくれました。

ソフトにはこの傑作吹替が未収録で、Netflix版では吹替キャストが一新されており、金さえ払えば視聴可能という状態ではないのですが、本作を見るなら地上波版吹替がベストなのです。

まとめ

男臭い空気感や、動きのあるドラマ、脱獄時の緊張感など、刑務所映画に必要とされる要素がほぼ満たされた質の高い作品となっています。