(2020年 アメリカ)
人間ドラマは不要と言わんばかりに怪獣のみにフィーチャーした潔い作風、大迫力の怪獣バトル、ちゃんと決着をつけるという姿勢と、いろいろと正しい怪獣映画でした。第一作のリアル路線も良いのですが、ここまで振り切るのもありですね。

作品解説
レジェンダリーゴジラシリーズ第三弾
『ダークナイト』トリロジーや『パシフィック・リム』など、男の子の夢を実現し続けるレジェンダリーが手掛けるゴジラシリーズも、本作で第三弾となります。
しかも別途進行していた『キングコング: 髑髏島の巨神』(2017年)の続編でもあり、夢の日米怪獣対決が描かれることとなります。
ホラー出身のアダム・ウィンガードが監督
当初、レジェンダリーゴジラシリーズは『ダークナイト』トリロジーのクリストファー・ノーランの如く、第一作のギャレス・エドワーズがシリーズ全作を統括する予定でした。
しかし『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016年)にてエドワーズはプロダクションの途中で下ろされたうえに、トニー・ギルロイがほぼ半分を撮り直して突貫作業で完成させたバージョンが高評価を受けたことから、すっかり自信を無くしてしまいました。
しばらく大規模な映画を撮らないと言い残してエドワーズはハリウッドを去り、ゴジラシリーズからも降板。
以降、レジェンダリーは毎回フレッシュな人材を監督に据えるという方針に転換し、第二作は脚本家出身のマイケル・ドハティ、そして本作ではアダム・ウィンガードが監督を務めました。
ウィンガードは1982年出身であり、本作の監督として起用された2017年5月時点で34歳という若手でした。
20代前半から低予算ホラーを撮っており、『サプライズ』(2011年)や『ザ・ゲスト』(2014年)が代表作です。またリブート版『ブレア・ウィッチ』(2016年)やNetflix版『Death Note/デスノート』(2017年)などで既存コンテンツの映画化という作業にも関わった経験を持っています。
コロナ禍で大ヒットを記録
2020年春先からの世界的な新型コロナウィルスは映画の興行に大きな打撃を与えました。2020年3月13日全米公開予定だった本作もまさにその影響を受け、度重なる公開延期措置を受けました。
2020年11月にNetflixがレジェンダリーに対して2億2500万ドルでの買い取りを提案してきたものの、傘下にHBO Maxを抱えるワーナーからの横やりで頓挫。
その後、日本と北米を除く世界マーケットでは2021年3月24日、北米では2021年3月31日に公開され、世界各国でNo.1を獲得(こういう時に後回しにされることが多いのが日本…)。
2021年7月5日時点で4億5246万ドルの興行成績を上げており(日本での興行が終了していないので、最終値はもっと高くなるはず)、コロナ発生後に公開された映画としては最大のヒットとなりました。
コロナ禍での映画興行の成功例
前述の通り、新型コロナウィルス騒動のために映画興行は成立しなくなっていました。
そんな中で期待されていたのがクリストファー・ノーラン監督の『TENET テネット』(2020年)で、2020年9月に全世界で公開予定の同作が、映画興行の起爆剤になると期待されていました。
しかし蓋を開けてみると、作品評の高さとは裏腹に全世界興行成績は3億6312万ドル足らず。
ノーランの前作『ダンケルク』の5億2694万ドルから3割減という期待外れの結果に終わり、クリストファー・ノーランの新作という強力なコンテンツをもってしても映画館に客は戻ってこないことが証明されました。
ここから各社はストリーミング公開という方向に振り切り始めたのですが、これに怒ったのが製作会社及びクリエイター達でした。
多額の製作費を投資して大作を作り上げる製作会社にとって、虎の子の大作をストリーミングに差し出すということは、どれだけ視聴者から支持されても運営会社から受け取れる固定報酬以上のものは得られないということになります。
興行成績が高ければ、その分収益も膨らんでいく映画館での興行とは根本的に収益の発生態様が異なるのです。
またクリエイター達は興行成績からの歩合を受け取る契約を締結していることが多いのですが、興行がされないのであれば本来あったはずの報酬を受け取れないということになります。
クリストファー・ノーランやドゥニ・ヴィルヌーヴらは大作をHBO Maxに流すというワーナーの方針を公然と批判し、レジェンダリーはワーナーに対して法的手段に出るという大荒れの状況になりました。それが2020年12月のこと。
その後、ワーナーはレジェンダリーへの損失補填と、キャストへの追加報酬を支払うという形で合意し、本作『ゴジラvsコング』は2021年3月31日の全米公開と同時にHBO Maxでの配信も開始という形式となりました。
そして公開されるやコロナ禍で最大の収益を上げ、それまでトレードオフの関係性で考えられていた劇場公開とストリーミングが、実は両立可能かもしれないということが証明されました。
感想
人間ドラマは添え物という方針転換
第一作『GODZILLA ゴジラ』(2014年)は重厚な人間ドラマと、政府や軍隊の動きをシミュレートしたディザスター映画としての側面を強く持っていました。
これが第二作『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019年)になると怪獣をいっぱい出すという筋書きとリアリティとのバランスが少々厳しくなっていました。
そこに来て本作ですが、「人間ドラマは添え物」という実に潔い方針に振り切っています。
前作から続投しているマディソン・ラッセル(ミリー・ボブ・ブラウン)なんて、母親がキングギドラを蘇らせて世界を破滅一歩手前にまで追い込んだという衝撃的な過去を背負っているにも関わらず、本作では特段悩んでいる様子を見せません。
レン・セリザワ(小栗旬)は前作にて父の芹沢猪四郎(渡辺謙)を亡くしており、ゴジラに対する特別な感情から怪獣研究に携わっていると思われるのですが、そうした難しい部分は全く描かれていません。
その他の人物も一様にそんな感じです。
- 共同研究者である兄を失った地質学者ネイサン・リンド(アレクサンダー・スカルスガルド)
- 髑髏島の先住民最後の生き残りである少女ジア(カイリー・ホットル)
- 天涯孤独のジアの保護者役を買って出た言語学者アイリーン(レベッカ・ホール)
これらのドラマはまったく深掘りされず、もともと各キャラクターについて詳細なバックグラウンドが設定されていたにもかかわらず、製作途中で全部捨てることにしたということが丸出しになっています。
小栗旬はインタビューにて「途中で企画が大きく変わった」「撮影済みでもここまで話を変えられることに驚いた」という旨の発言をしており、当初は前2作のカラーを引き継いだ作風だったのだが、途中で怪獣プロレス路線に切り替えたという変遷が伺えます。
こうした変更の中で、本作への出演が大きく報道されていたチャン・ツィイーは全カットという大ナタも振るわれました。
この変更の評価ですが、私は良かったと思います。
渡辺謙を亡くしたことでゴジラを逆恨みしている小栗旬の話や、亡き兄の意思を引き継ぐアレクサンダー・スカルスガルドの話なんて、詳細に描いたところできっと面白くはなかっただろうし。
「みなさんが見たいのはこれでしょ?」と怪獣のみに集中したことで、余計なストレスを抱えずに見ることができました。
後々ファンが騒ぎ出せば『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』(2021年)みたいに上映時間が倍になったバージョンを作って、HBO Maxで配信すればいいわけだし。
ゴジラvsコング初戦はエヴァ第八話
どうやら怪獣たちにはNo.1の座を巡って喧嘩をするという習性があるらしく、特にコングはゴジラとライバル関係にあるということが古代文明の石碑より明らかになり、ほっとくと一方がもう一方に喧嘩を売りに行きかねないので、モナークはコングを隔離していました。
そんな中、ゴジラがエイペックス社の工場を襲うという事態が発生。
今までゴジラを地球の守護者だと思ってきたけど、気分によっては人類に対して牙を剥くこともあるということが分かり、緊急でゴジラ対策が取られることになります。
そのカギとなるのは怪獣達の出身地とされる地球の地下空洞であり、怪獣達を巨大化させた地下の膨大なエネルギーがゴジラ対策に活用されるとのこと。
地下の膨大なエネルギー云々の話はよく分からなかったのですが、リアリティに配慮しながら作られていた第一作『GODZILLA ゴジラ』(2014年)の作風はここで完全に崩れたということだけは分かりました。
そして地下空洞への案内役としてコングに白羽の矢が立ち、艦隊に護衛されながら地下空洞への入り口がある南極へと輸送されます。
船で運ばれることはキング・コングの伝統ではあるのですが、私はエヴァンゲリオン弐号機も連想しました。
そして艦隊はコングの存在を嗅ぎつけたゴジラに襲撃されるのですが、これがまんまエヴァンゲリオン第八話「アスカ、来日」。


圧倒的な地の利があるのは水棲動物であるゴジラで、コングを海に引きずり込もうとします。一方でコングは船から船へとぴょんぴょん飛んでゴジラの攻撃を交わしていきます。
不利な状態にあるコングは艦隊と協力しながらゴジラの攻撃を回避するのですが、シチュエーションと言い、戦闘の流れと言い、「アスカ、来日」でしかありませんでした。
そう考えるとキーとなる地が南極であることもエヴァっぽかったし、ウィンガード監督はエヴァがお好きなんでしょうか?
それにしても、ここでのゴジラの喧嘩っ早さは凄かったですね。生意気な後輩をしめに行くヤンキーの勢いでした。

ゴジラvsコング第2戦はパシフィック・リム
その後、コングは地下空洞、ゴジラはエイペックス本社のある香港を目指します。
目的地である香港に到着したゴジラは、それでもどうしてもコングが気になるらしく、「そこにおるんやろ!コング」と言わんばかりに地面に向けて火炎放射を打ち込んでコングのいる地下空洞にまで繋がる大穴を開けます。
「おぉ、待っとれや!」と吠えて香港にまで上がってくるコング。
ここで第二ラウンドが始まるのですが、青やピンクのネオンが光る香港の町並みは『パシフィック・リム』(2012年)のようでしたね。
ビル群を破壊しながら一本気に突き進むゴジラに対して、猿の特性を生かしてビルからビルへと飛び移りつつトリッキーな攻撃を仕掛けるコングというファイトスタイルの違いは面白かったです。
そして今回のコングは手斧を所持しています。凶器を持ち込むファイトスタイルはアラビアの怪人 ザ・シークの如しです。
ただし火炎放射ができるゴジラは飛び道具を持っているようなものなので、手斧くらいでは劣勢をひっくり返すことができずにコング敗退。
今までムートーやキングギドラを惨殺してきたゴジラがここで一体どうするのかと思いきや、今回は「我々は殺し合いをしてるんじゃないんだ!分かってください!」という藤波辰爾の精神を胸に秘め、決着が付いたところで自分自身にドラゴンストップをかけます。
格の違いを見せつけたところで終わりという辺りがカッコよかったですね。
まさかのアイツ登場 ※ネタバレあり
そんなわけでゴジラvsコングはゴジラ勝利で終わったのですが、今度はエイペックス本社から小栗旬が操縦するメカゴジラが起動します。こいつの電源のために地下空洞のエネルギーが欲しかったのかと、ようやく合点がいきました。
ただしこのメカゴジラにはキングギドラの生体パーツが使われているので、早晩、操縦をギドラに乗っ取られる旬。
そして前回完膚なきまでにまでやられたギドラはゴジラに対する激しい殺意を抱いており、今度は怪獣デスマッチが始まります。
コング戦で消耗したこともあってボコボコにやられるゴジラ、相手が死ぬまでやめる気はないメカゴジラ。ウォーズマンがラーメンマンを植物状態にまで追い込んだ棺桶デスマッチを初めて見た時の緊張感が蘇りました。
しかしこちらにはコングがいる!
ゴジラとコングの共闘でメカゴジラを葬る展開は痛快の一言でした。このボーナストラックは最高でしたよ。
タレント吹替は何とかならんものか
小学生の長男と一緒に見に行ったので吹替を選択したのですが、タレント吹替の出来は酷いものでしたね。
前作に引き続きカイル・チャンドラーは田中圭が吹き替えているのですが、うまいへた以前の問題として、田中圭の声が若すぎてチャンドラーにはまったく合っていません。
前作の時点であの声はどうかと思われていたのに、また続投させるという判断はやめて欲しいところでした。
一方、エイペックス社長の娘役の田中みな実は単純に下手。彼女がセリフを言うたびに場の空気が壊れたので、頼むから黙っててくれないかなと思いました。
ただしタレント吹替がすべてダメというわけではなく、マディソン役の芦田愛菜や陰謀論者バーニー役の尾上松也はプロの声優と遜色のないパフォーマンスをしていました。
タレント吹替もあの水準ならば支持できるんですけどね。