【良作】トレマーズ_手堅くまとまったモンスター映画(ネタバレなし・感想・解説)

クリーチャー・メカ
クリーチャー・メカ

(1990年 アメリカ)
モンスター映画ではあるものの陰惨な場面は少なく全体に明るい空気があって、気楽に見られる娯楽作。幅広い層に支持される魅力を持った作品です。

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あらすじ

砂漠の真ん中の小さな町を地底怪獣が襲う。電話線を切断され、隣町への道路をふさがれ、住人達は追い込まれる。

スタッフ

製作は『エイリアン2』のゲイル・アン・ハード

ジェームズ・キャメロンの2番目の奥さんとしてもお馴染み、ゲイル・アン・ハードが製作です。1955年生まれ。スタンフォード大学卒業後にニュー・ワールド・ピクチャーズに入社し、B級映画の帝王ロジャー・コーマンのエグゼクティブ・アシスタントとなりました。後に彼女が、バカバカしくも大衆受けする素材を見分けるプロデューサーとなったのは、この時に身に付けた選別眼の賜物だったのかもしれません。

このニュー・ワールド時代に、当初は雑用係として出入りしていたジェームズ・キャメロンと出会い、1985年に結婚。『ターミネーター』(1984年)、『エイリアン2』(1986年)、『アビス』(1989年)と、キャメロンの80年代の作品は、すべて彼女が製作しています。1989年に離婚し、1991年にブライアン・デ・パルマと結婚。1993年にブライアン・デ・パルマと離婚し、1995年に脚本家のジョナサン・ヘンズリーと結婚と、なかなかの破天荒ぶりでおられます。

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監督はロン・アンダーウッド

1953年生まれ。80年代にはテレビ界で仕事をした後、1990年の本作『トレマーズ』で長編映画デビュー。1100万ドルの製作費に対して興行成績は1600万ドルとパッとしなかったものの批評家受けは良く、またテレビ放映やビデオ販売でも良い結果を残しました。

翌年のコメディ『シティ・スリッカーズ』(1991年)が全米年間興行収入第5位という大ヒット。続くロバート・ダウニーJr.主演のファンタジーコメディ『愛が微笑む時』(1993年)、マイケル・キートンとジーナ・デイヴィス共演のコメディ『眠れない夜はあなたと』(1994年)と、人情コメディの名手として小さな規模で手堅く稼いできたのですが、『トレマーズ』の実績を買われて起用された製作費9000万ドルの大作『マイティ・ジョー』(1998年)が5000万ドルしか稼げず爆死。さらに、赤字映画の歴史ではその名が必ずあげられる悪名高き『プルート・ナッシュ』(2002年)を監督します。1億ドルの製作費に対して、全世界でも710万ドルしか稼げず、2009年には10年間で最もコケた映画認定までされました。

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これ以降、さすがに映画界での仕事はできなくなったのですが、テレビ界に戻って手堅く仕事を続けており、2019年現在までテレビの仕事はまったく途切れていません。

脚本は『ショート・サーキット』のコンビ

1986年の『ショート・サーキット』は、『E.T.』(1982年)の流れを汲むファミリー層向けSFとしては手堅い仕上がりであり、1988年には続編も製作されました。同作の脚本を書いたS・S・ウィルソンとブレント・マドックの持ち味なのか、モンスターパニックでありながら人間味や温かさがあるのが本作の特徴となっています。

1997年には『ワイルド・ワイルド・ウエスト』(1999年)の脚本を執筆したのですが後にほとんどの箇所を書き替えられており、完成した映画にクレジットこそ残っているものの、彼らの映画かと言われると微妙な状態だったようです。

彼らの『トレマーズ』シリーズへの関与は深く、S・S・ウィルソンは『トレマーズ2』(1996年)、『トレマーズ4』(2004年)を監督。ブレント・マドックは『トレマーズ3』(2001年)を監督しています。

登場人物

  • バレンタイン・”バル”・マッキー(ケヴィン・ベーコン):女に飢えているが理想は異常に高い。「俺はビッグになる」という漠然とした夢を持ってアールと共に便利屋をやっているものの、金にはならないが居心地は良い人口14人の町パーフェクションに居付いている。さすがにこれでは先がないと一念発起して街を出ようとした矢先に、連続して住人の死体を発見して騒動に巻き込まれる。
  • アール・バセット(フレッド・ウォード):アールの相棒。元カウボーイのような発言をするが、本当かどうかは分からない。「プランを立てよう」が口癖。
  • ロンダ・レベック(フィン・カーター):設置していた地震計が異常な反応を示したことから調査にやって来た女子大学生。グラボイズの生態や個体数を推測するインテリ。
  • バート・ガンマー(マイケル・グロス):銃マニアで政府の陰謀論に凝り固まっているガンマー夫妻の夫。家を核シェルターにして食料の備蓄までしている本格派。マイケル・グロスは『トレマーズ』シリーズ皆勤賞を続けている唯一の俳優です。
  • ヘザー・ガンマー(リーバ・マッキンタイア):銃マニアのガンマー夫妻の妻。偏屈なバートよりも、やや話が分かる。演じるリーバ・マッキンタイアは”カントリーの女王”と呼ばれる大物カントリー歌手で、本作は彼女の映画デビュー作となります。
  • ウォルター(ビクター・ウォン):商売人魂に溢れる中国系住民で、バルとアールの車にまとわりついていたグラボイズの触手を15ドルで買い取り、一回3ドルで記念撮影をさせた。怪物をグラボイズと名付けたのはこの人。
  • メルヴィン・プラグ(ボビー・ジャコビー):一人暮らしをしている10代の少年。まったく笑えないタイミングで悪ふざけをするアホ。

感想

モンスター映画としての魅力

グラボイズの生態

  • 巨大な口の中から3本の触手が出ており、それぞれの触手の先には小さな口が付いている。
  • 10mほどの巨体で、獲物を車ごと地中に引きずり込むパワーがある
  • 巨体の割には動きが速く小回りも利く。
  • 目がなく、音の振動で獲物を感知する
  • 知能が高く、経験から学習する。
  • ロンダの推測によると、個体年齢は20億才
  • とにかく臭い

『デューン/砂の惑星』(1984年)のサンドワームによく似た本体に、それぞれが意思を持って動いているかのような触手がくっついており、触手と本体で異なる見せ場を担当する贅沢仕様という、スティーヴン・ソマーズ監督の『ザ・グリード』(1998年)に先駆けたモンスターとなっています。当時としてはかなり斬新なデザインでした。

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また、知能が高くて学習能力があり、一度は有効だった対応策が二度は通じず、住人たちが徐々に追い込まれていくという設定もよくできていました。生き延びたければ常に新たな打ち手を考えなければならないことが、通常のモンスター映画にはない頭脳戦の要素を加えています。

見せ方の良さ

怪物目線で地面スレスレを移動するカメラワーク、グラボイズの動きに合わせて盛り上がる地面、地面に引きずり込まれていく犠牲者など、モンスター映画に必要なチョイ見せの美学が全編を貫いていました。モンスターってのは全身を見せる必要ないんですよ。なんか物凄いのが接近しているなという雰囲気でいいんです。

日曜洋画劇場での初放送時、淀川さんが「陸の『ジョーズ』」と言った通りモロに『ジョーズ』と同じやり方ではあるのですが、舞台を砂漠にしたことで新鮮さを与えるという発想も優れています。一知恵って大事なんですね。

パーフェクションという町の魅力

人口14人。隣町まで60kmも離れている砂漠のど真ん中の町パーフェクション(完全という意味)が本作の舞台となります。

年齢が離れているのに対等なコンビ関係にあるバルとアール、陰謀論や終末論に凝り固まっており、核戦争が起こっても生存可能性の高い隔絶された田舎を居住地として選んだかのようなガンマー夫妻、砂漠のど真ん中に居るには違和感がすごい中国系ウォルター、10代なのになぜか一人暮らしをしているメルヴィン。本作の登場人物は全員訳ありっぽくて、それぞれの人生で何かがあってこの小さな町に流れ着いたことを匂わせています。

しかし、作品では彼らの過去にはまったく触れません。こんな辺鄙な場所に住んでいるのは訳ありに決まってるんだから、お互いに深くは詮索し合わないような雰囲気があって、流れ者同士が身を寄せ合って生きている町にも見えます。この町が陰の主人公として機能しており、基本は能天気なんだけど、ちょっとした重みも漂わせています。

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