【良作】マッドマックス:フュリオサ_クリヘムが最低のクソ野郎(ネタバレなし・感想・解説)

SF・ファンタジー
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(2024年 オーストラリア・アメリカ)
『怒りのデスロード』で気を吐いたフュリオサのスピンオフ。強さと脆さを両立したアニャ・テイラー=ジョイが素晴らしかったが、それ以上に悪役のクリス・ヘムズワースの狂いっぷりが最低かつ最高だった。

感想

フュリオサの一大記

公開初日でIMAXで鑑賞。ただし上下にマスクがかかっていたので、ラージフォーマットに拘る必要はなかったような気が・・・

前作『マッドマックス怒りのデスロード』(2015年)でシャーリーズ・セロンが演じたフュリオサの前日譚だけど、脚本は『怒りのデスロード』製作時点で出来上がっていたらしい。

その後、アニメ化というお話がありつつも、最終的には実写映画として完成した。

前作で完璧なフュリオサを演じたシャーリーズ・セロンは降板したが、『怒りのデスロード』からリアルで9年経過したにも関わらず、前作のキャラクターの若い頃を演じろとか普通に考えて無茶なので、降板は致し方なかったと思う。

変わってフュリオサを演じるのはシャーリーズ・セロンよりも21歳若いアニャ・テイラー=ジョイ。若きフュリオサを演じるのにちょうどいい年齢だし、華奢な体は戦士としての未熟さを、強すぎる目力は将来の大将軍らしさを表現しており、このドラマの主演としてはこれ以上ないほどの逸材だった。

思えば、前作『怒りのデスロード』は説明らしい説明のない不親切な映画だった。

繰り返されるマックスのフラッシュバックは何なのか、フュリオサはどんな思いで「5人の妻」を命がけで解放したのか、フュリオサの目的地である「緑の地」とは一体どんな場所なのか。

そうした一切の説明を排して勢いと絵力のみで2時間やり切ったことは、それはそれで素晴らしいことだと思うけど、それにしても物語としては不完全だった。

それを補ったのが本作なので、『怒りのデスロード』に魅せられた方には必見の一作だといえる(マックスのフラッシュバックの理由はコミックで判明するらしいが、そちらは未読)。

砂漠のど真ん中にあるオアシス「緑の地」で暮らす少女フュリオサが、この地に侵入してきた暴走族に連れ去られる。故郷への帰還を望む少女が運命の荒波に飲み込まれ、過酷な生存競争の中でならず者軍団の大将軍に出世するまでが描かれる。

短期間の戦いが描かれることの多かったシリーズ中では例外的に、本作では足掛け15年に及ぶドラマが展開され、上映時間は堂々の148分。120分以内で収まってきたシリーズにおいて、これまた異例に長い。

この通り異例づくめの作品ではあるが、それでもちゃんとマッドマックスしていたのだから凄い。

見渡す限りの大砂漠を珍車が暴走するというルックスが、いかに本シリーズ固有のものだったのかを思い知らされた。

クリヘムの度を越した狂人演技

本作でフュリオサの前に立ち塞がるのは暴走族集団「バイカー・ホード」のリーダー ディメンタス

その名の響きからお察しの通りローマ帝国に対する強い憧れを抱いており、グラディエーター風の鎧を身にまとい、3台のバイクをくっつけたチャリオット風の改造車を愛用している。

同じ映画館でこの前見た『猿の惑星/キングダム』(2024年)の悪役プロキシマスも古代ローマへの憧れを口にしていたけど、終末世界のならず者たちにとって世界史は必修科目なのだろうか。

ただし『猿の惑星』のプロキシマスが為政者としての矜持を持ち合わせていたのに対して、本作のディメンタスは猿以下の知能と溢れんばかりの暴力性で場をひたすら引っ搔き回す純粋悪という明確な違いがあるが。

狂人ぶりでは『ダークナイト』(2008年)のジョーカーをも超えていたように感じるが、これを演じたのはMCUで正義のヒーロー ソーを演じたクリス・ヘムズワースなので、彼の芸域の広さには感嘆した。

ディメンタスとバイカー・ホードを例えるなら、イナゴの大群

終末世界において人命よりも重要な水とガソリンの匂いを嗅ぎつけると、力づくでこれを奪い貪る。

そのターゲットにされたのは、なんと『怒りのデスロード』の悪役イモータン・ジョーが支配する砦シタデルだった。

ここに新旧ヴィラン対決が実現するのだけど、ディメンタスがあまりに狂いすぎていて、イモータンが随分とまともな為政者に見えてくるのだから不思議なものだ。

目の前にいるのがこの砂漠で随一の軍隊とも知らず、勢いだけでシタデルに攻め入ってきたディメンタスと、「俺らが誰だかわかってやってんのか?」というイモータンの嚙み合わない会話が面白い。

事情をよく知らない反グレが、本物の組事務所に手を出してしまったという構図であり、初戦で完膚なきまでに打ちのめされるバイカー・ホード。

普通に考えれば二度とイモータンに喧嘩など売らないところだが、ディメンタスの狂い方は想像のはるか上をいっていた。

イモータンの第2の拠点であるガスタウンに狙いを切り替えると、トロイの木馬作戦でこれを奪取。

こうして書くと頭を使った作戦のようにも思えてくるが、実のところは行き当たりばったりだった。

偽装を見抜かれそうになった瞬間に、自らの手で味方の兵士を殺すという明らかに問題のある戦い方をしたために、戦にこそ勝てたものの、後に軍団は2つに分裂することとなる。

この通り、ディメンタスの特徴は「戦にこそ強いが、統治能力ゼロ」。まさにイナゴ。

せっかく支配下においたガスタウンの統治にも失敗し、起死回生を図るべくシタデルへの再侵攻を企てるのだった。

戦闘シーンの迫力はシリーズ最高

かくしてイモータンvsディメンタスの紛争状態が発生。

イモータン傘下のウォー・ボーイズは最強の軍隊でこそあるが、その基本は信仰と目立ちたがり屋精神に支えられた脳筋軍団なので、彼らを統率する者が必要になる。

そこでのし上がっていくのがフュリオサというわけだ。

全体の戦況と個人の成長を絡めた構成が抜群によくできている。

メカニックの補助要員として乗り込んだウォー・タンクが、バイカー・ホードより分派した一味の襲撃を受けたことが、彼女にとっての実質的な初陣。

ここでの活躍が警護隊長ジャック(トム・バーク)の目に留まり、後継者として育成されたことが後の大将軍フュリオサにつながるのだけれど、その活躍の場となったカーチェイスはシリーズ中でも最強にして最凶の見せ場だった。

荒野を疾走するウォー・タンクにまとわりつく武装バイク集団。

『マッドマックス2』(1981年)のセルフオマージュともいえる見せ場だが、バカのくせにパラグライダーまで駆使した凝った戦い方をするバイカー軍団 vs 特殊装備満載のウォー・タンクの攻防戦は目を見張るほどの迫力だった。

しかも長い。

なんとか敵を撃破したかと思いきや、すぐに第2派がやってくる。

こちらの兵員も装備もどんどん削られていく中で激しさを増していく戦闘、そして気になっていた最後の特殊装備が火を噴く瞬間の爽快感。

加えて、描写のエグさもシリーズ最凶だった。

懐かしの第一作はグロいものを直接描写しない演出が光っていたが(編集がうますぎて観客が見た気になっていただけ)、本作はグロいものを容赦なく映し出すブルータルな作風に変更。

結果、終末世界の厳しさや、フュリオサの半生の壮絶さが目で見てわかるレベルで分かりやすく表現されるに至っている。

ジョージ・ミラー監督、80歳になっても絶好調である。

シリーズは、再度マックスに焦点を当てた”The Wasteland”が企画中のようだ。こちらは『怒りのデスロード』の1年前を舞台に、マックスのバックストーリーが描かれるとの情報もある。

後期高齢者ながらバリバリの現役であることを見せつけたジョージ・ミラー監督なら、あと一本くらい余裕で作れるんじゃないだろうか。ぜひ作ってほしい。

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