【凡作】グレートウォール_東西折衷闇鍋怪獣映画(ネタバレあり・感想・解説)

クリーチャー・メカ
クリーチャー・メカ

(2017年 アメリカ・中国)
中国の時代劇×モンスターパニック×マット・デイモンという闇鍋映画。最後まで絶妙なブレンドには至らなかったので、映画としての出来はイマイチと言える。しかし巨匠チャン・イーモウの持てる技術を駆使した見せ場の迫力は圧巻で、見るべきものは確かにある。

作品解説

中国映画史上最大の大作

本作はレジェンダリー・ピクチャーズのCEO トーマス・タルと、『ワールド・ウォーZ』(2013年)の原作者マックス・ブルックスが考えたオリジナル・ストーリーであり、それを『HERO』(2002年)、『LOVERS』(2004年)の監督であり、北京オリンピックの開会式・閉会式の演出も務めた巨匠 チャン・イーモウが監督した。

米中両方の資本が入っているのだが、製作費1億3500万ドルは中国映画史上最高の金額であり、現場では100人もの通訳が常駐するなど、まさにグレートな大作だった。

気になるのは脚本家としてクレジットされている人数がやたら多いということであり、上記のマックス・ブルックスと『ラスト・サムライ』(2003年)のエドワード・ズウィック、『トラフィック』(2000年)のマーシャル・ハースコヴィッツが原案、そして『ナルコス』(2015-2017年)のカルロス・バーナード&ダグ・ミロと、『ボーン・アイデンティティ』(2002年)のトニー・ギルロイが脚色である。

有名脚本家がズラっと並んだクレジットは壮観だが、話をまとめられず脚本家が無節操に追加されていったようにも感じる。

トニー・ギルロイなんて、『ボーン・アルティメイタム』(2007年)の脚本でマット・デイモンから酷評を受けたところであり、関係が良いとは言えない両者がまた同じ作品に関わるなんて異常事態ではないか。

後にマット・デイモンは本作の撮影現場の様子について振り返り、ハリウッドのスタジオが過剰に口出しをして、監督のビジョンがどんどん変えられていったとコメントしている。

7500万ドルの損失を出す

完成した作品の批評家レビューは悪く、それに引っ張られてか興行的にも伸び悩み、アメリカでは4554万ドルしか稼げなかった。

中国に媚び売りまくった作品なので、中国マーケットで取り戻せればそれでも問題なかったのだが、こちらも1億7096万ドルと事前の期待には達しなかった。

なんで中国の時代劇でジェイソン・ボーンが主演なんだよと、その構図のおかしさにさすがの中国の観客も気づいたらしい。

そう考えると、トム・クルーズ主演の『ラスト・サムライ』(2003年)を大ヒットさせた日本人って、とても寛容な民族なんだなと思ってしまう。

全世界興行成績は3億3493万ドルでめちゃくちゃに悪い数字というわけではないのだが、派手にプロモーションしたために直接的な制作費以外のコストもかさんでおり(広告宣伝費だけで8000万ドルかかったらしい)、最終的に7500万ドルもの損失が出た。

感想

怪獣映画として赤点

劇場公開時にはIMAX 3Dで鑑賞したのだが、当時からパッとしない映画という感想だった。

この度、ネットフリックスで久しぶりに見返してみたのだが、やはりパッとしなかった。

ホワイトウォッシング問題など様々な文脈で批判を受けている作品なのだが、私としては政治的なことなどどうでもよくて、怪獣映画として面白いかどうかがすべてなんだけど、その期待に応えられていない。

ここで登場するのは饕餮(とうてつ)という化け物で、悪政で民衆を苦しめていた古代王朝時代に空からやってきて、以来、60年ごとに姿を現しては中国の歴代王朝に攻撃を仕掛けてきているらしい。

そして万里の長城はこの怪物から世界を守るための防波堤として築かれたものだそうな。

その起源を辿ると悪政を正す天の意志のようにも感じられるんだけど、こいつらが繁殖すると世界が滅びるというセリフもあって、饕餮という存在自体をよく理解できない。

しかも、なんだかんだで1200年間は化け物の進撃を食い止められており、人類側は20戦全勝状態(1200年÷60年)だと考えると、大した敵ではないような気もしてくる。万里の長城が築かれる前から防げてはいたのだし。

そしてこの化け物軍団が阿呆なのが、軍団の要である女王を最前線に持ってきていることだ。

女王は化け物たちの生みの親であるだけではなく、どういう原理かはよく分からないが、彼女が死ぬと軍隊も全部死ぬらしい。

そんな大事な存在であれば戦場から遠い場所に秘匿しておくべきだろうと思うんだけど、がっつり前線に置いているのだからマット・デイモンから狙われるに決まっている。阿呆すぎる。

とはいえ阿呆さ加減でいえば人間側もどっこいで、万里の長城を築くほどの大敵であり、人類の存亡がかかった戦いだと言ってる割に、現場の禁軍(皇帝直属の近衛兵)は磁気が弱点だということすら分かっていない。

地元民でもないマット・デイモンがこの弱点に気づくんだけど最初は信用されず、都から派遣された特使が「そういえば古文書にそんなことが書いてあったわ」と言ったので、ようやくこれを戦略に生かそうとする始末。もっと本気でやれ。

現場がこんなグダグダ状態なので、化け物は万里の長城を突破して首都 開封に攻め入ってくる。進撃を許してしまった将軍たちは軒並み処刑されなきゃいけないほどの失態ではないか。

しかもこの首都最終決戦がまったく盛り上がらない。なぜなら都が無人状態だから。

『シン・ゴジラ』(2016年)レジェンダリー版『ゴジラ』(2014年)を見ても痛感したのだが、怪獣映画では人間側のリアクションがものすごく重要である。

しかし本作には饕餮の姿に怯える人々の姿がない。ただ無人の建物が破壊されるだけなので、盛り上がるはずがない。

しかもなぜ首都が無人なのかがよく分からない。事前に民衆を避難させていたとするならば、宮廷内にバカ皇帝とその取り巻きだけが残っていたことと整合しない。あのバカ皇帝は民衆を逃がして自分は戦うというタイプにも見えなかったし。

主人公のドラマが面白くない

そしてハリウッド的な映画の作り方として、主人公の成長譚も併せて描かれるんだけど、これもあんまり面白くなかった。

マット・デイモン扮する主人公ウィリアムは傭兵出身で、長年の相棒トバール(ペドロ・パスカル)と共に中国くんだりまでやってきた。目的は黒色火薬の入手であり、これを西洋に持ち帰れば巨万の富を得られるという算段である。

ウィリアムは下層の出身で、人を騙したり殺したりして生きてきたという人物像。そんな彼が集団との信頼関係を構築し、高潔な目的のために戦うようになるということが、本作のドラマツルギーなるものである。

なんだけど、童顔のマット・デイモンでは己の手を血で汚してきた悪人には見えてこない。

彼は『ディパーテッド』(2006年)で、本当はマフィア構成員なのに警察内部の者ですという顔をしていたが、本来似合うのはああいう役なのだ。表面的には善人だけど、裏に何かありそうな役。

本作はその逆をいっているので、ミスキャストと言わざるを得ない。

そういえば本作には軍師役でアンディ・ラウも出演していて、オリジナル『インファナル・アフェア』とそのリメイク『ディパーテッド』で同一の役柄を演じた俳優の共演という面白いことになっていたのに、その辺りが弄られることはなかったので、なんだか気持ち悪かった。

そこは二人に何らかの絡みをさせなきゃいけないところでしょ。

なんやかんやあってウィリアムは禁軍の作戦でも重要な役割を担うようになるんだけど、戦いが激しくなればなるほど内側の警備は手薄になっていき、黒色火薬を盗みやすくなる。

果たしてウィリアムは異国の軍隊での助っ人役をつとめきるのか、彼らを裏切って黒色火薬を持ち逃げするのかがドラマの山場となる。

なのだが、話の流れ上、後者を選ぶことはまずありえないので、物語は式次第通りに進んでいって何の面白みも感じなかった。

先述した通りそもそもマット・デイモンが悪人面ではないので、彼が人として正しい選択をするようになったという成長への感動も薄かったし。

あとウィレム・デフォー扮するバラードがなぜ万里の長城にとらわれているのかは、何度見てもよく分からない。

序盤のマスゲームは良かった

と、文句ばかり書いてきたが、『スターシップ・トゥルーパーズ』(1997年)のバグズのごとく地平線の彼方からワラワラと湧いて出てくる饕餮と、その進撃を食い止めんとする禁軍の死闘が描かれる冒頭30分だけは、本当に素晴らしかった。

鎧伝サムライトルーパーの如く色分けされた甲冑を着ている禁軍の兵士たち。彼らが北朝鮮のマスゲームのようにシステマチックに動く様には圧巻のものがあった。昔やってた田辺製薬ナンパオのCMを思い出したが、それは私が年寄りだからだろう。

よくよく考えてみれば、機能別に色分けされた軍隊なんて敵方にこちらの作戦駄々洩れだろうと思うんだけど、饕餮は色盲という設定があるのだと自分を納得させた。

この色分けされた軍隊が一糸乱れぬ完璧な集団行動をとる様は、日体大の新入生達にも見て欲しいほどの完成度であり、この日のために鍛えに鍛えられたということがばっちり伝わってくる。

しかも『マッドマックス怒りのデスロード』(2015年)のようなドンドコ隊までいる。太鼓があると見せ場は本当に盛り上がるんだけど、人間は太鼓の音を聞くとアガるということが遺伝子レベルで刷り込まれているんだろうか。

ドンドコ隊の手元をよく見ると、握っているのはバチではなくヌンチャク。もしも饕餮がこの太鼓台まで上がってきたら、このヌンチャクで応戦してやるという決意の表れなのだろうが、それにしても阿呆すぎる。

でもこの突き抜けた阿呆さ加減が最高だ。

そして禁軍の将軍はどう見ても21世紀のモデルでしかない。先頭で指揮をしているのに彼女の顔は全く汚れない。甲冑はミニスカっぽいデザインだ。

こちらがどう努力してみても宋代の軍人には見えないんだが、やりすぎるならここまで突き抜けた方がいい。これまたありえないんだけど最高だった。

本作にはいろいろとガッカリな面も多いのだが、三ツ星シェフが持てる技術を総動員して作ったお子様ランチのような映画だと考えれば、それはそれで味わい深いともいえる。

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