【良作】48時間_バディアクションの教科書(ネタバレあり・感想・解説)

クライムアクション
クライムアクション

(1982年 アメリカ)
映画デビュー作から個性全開のエディ・マーフィがとにかく凄い。ストーリー全般は70年代風なのだけど、エディが時代を10年進めている。ポスターではニック・ノルティが前面に出ているけど、これは紛れもなくエディの映画。

作品解説

エディ・マーフィの映画デビュー作

本作の構想を思いついたのはプロデューサーのローレンス・ゴードンで、1971年頃のことだった。

ゴードンが製作を手掛けた『ストリートファイター』(1975年)の監督ウォルター・ヒルと編集ロジャー・スポティスウッドが企画の中心人物となり、スポティスウッドの監督デビュー作になる予定で進行した。

この時点で企画はコロンビア社にあり、コロンビアは『ロンゲスト・ヤード』(1975年)のトレイシー・キーナン・ウィンに脚本の書き直しをさせた。ウィンは『ザ・ディープ』(1977年)も手掛けており、そのつながりで主演にニック・ノルティの名が浮上したものと思われる。

その後、企画はコロンビアからパラマウントに移り、パラマウントは囚人役としてクリント・イーストウッドを希望。ウォルター・ヒルに脚本の書き直しをさせた。

ただしウォルター・ヒルを含む誰もが「イーストウッドは刑事役であるべき」と考えており、納得できる脚本ができずに企画は停滞。結局、イーストウッドは師匠ドン・シーゲルが監督する『アルカトラズからの脱出』(1979年)に出演した。

それからパラマウントでは「ニック・ノルティと黒人俳優の組み合わせが良いのでは」という仮説が持ち上がり、当時のスターだったリチャード・プライヤーが主演候補となった。

ただしプライヤーの出演料が高すぎることがネックとなり、当時サタデー・ナイト・フィーバーで人気を博していた若き日のエディ・マーフィに白羽の矢が立てられた。

エディ・マーフィに合わせて脚本を書き換えるため、のちに『コマンドー』(1985年)『ダイハード』(1988年)を手掛けることとなるスティーヴン・E・デ・スーザが雇われたが、ウォルター・ヒルからの信頼を得られず数週間で現場を去った。

その後、『アルカトラズからの脱出』(1979年)のラリー・グロスが雇われて、エディ扮するレジーは長い刑務所暮らしで女性を求めている、またノルティ扮するジャックは恋人との間に問題を抱えているというバックグラウンドが追加された。

興行的・批評的大成功

本作は1200万ドルの製作費に対して北米だけで7886万ドルの興行成績を上げ、全米年間興行成績7位という大ヒットとなった。

また批評家からの評価も高く、ゴールデングローブ賞やエドガー賞にもノミネートされた。

感想

昔から地上波でよく放送されてきた映画で、中学時代に金曜ロードショーで見たのが初見。

近年も「午後のロードショー」が頻繁にラインナップに入れてくれるので鑑賞機会は多いのだが、放送される度に見てしまう。もはや習慣ですな。定期的にサッポロ一番塩ラーメンを食べたくなるようなものか。

本作は下條アトムさんが初めてエディ・マーフィーの吹き替えを担当した映画で、私のデフォはもちろん下條版。一度、字幕版で鑑賞すると面白さが1/3くらいに減ったので、下條版吹替えは国宝として永久保存すべきだと思う。

DVDやBlu-rayには下條版吹替が未収録の状態が続いているが、パラマウントはマジで何考えてんだか。ソフト化権一式をすべて是空※に譲ってしまえ。

(※吹替・特典映像などの入手可能な素材を全部乗せしたこだわりの映像ソフトをリリースし続けるナイスな心意気の合同会社)

製作されたのは1982年だが、上述の通り1970年代から検討が続けられた企画であるためか、内容は驚くほど70年代的。

本作に大仰な敵組織などは登場せず、逃亡犯とその幇助者2名を追いかけるというミニマルなストーリーとなっている。

舞台もLAではなくサンフランシスコ。『ブリット』(1968年)や『ダーティハリー』(1971年)等でお馴染み、ハードボイルドな刑事たちのテリトリーだ。

サンフランシスコ市警の刑事ジャック・ケイツ(ニック・ノルティ)は、逃亡犯アルバート・ギャンズ(ジェームズ・レマー)を追っているが、その潜伏先でギャンズを取り逃がしたばかりか、同僚刑事2名を死なせてしまう。

犯罪者からの脅しに屈して銃を置いてしまうなど、ここでのジャックの対応には疑問も残るのだけど、兎にも角にも失敗を背負ったジャックは、手掛かりを求めてギャンズの昔の仲間である服役囚レジー・ハモンド(エディ・マーフィ)の元を訪れる。

開始後30分間はハードボイルドだった映画の空気は、エディ・マーフィの登場によって一変する。

ヘッドフォンから流れるボーカルを真似てシャウト。強面のジャックから高圧的な質問を受けても、あることないこと喋りまくって核心部分をスルーしてしまう。

ここでのエディの話芸は本当に凄い。映画初出演にして、すでにベテランだったニック・ノルティを完全に喰ってしまっている。

ヒアリングは不可能だと判断したジャックはレジーを仮釈放して追跡を手伝わせることにするが、申請書類はジャックによる偽造なので、事務方を騙しておけるのはせいぜい48時間だろう。

これがタイトルの由来なんだけど、劇中でタイムリミットはさほど意識されていないので、あんまり意味はなかったような。

囚人服から着替えたレジーはアルマーニをカッコよく着こなしている。よれよれのスーツ姿のジャックとは対照的だ。

またジャックが乗るのは車検を通らなそうなボロボロのオープンカーに対し、レジーが駐車場に隠していた愛車はポルシェ。

貧乏な白人警官 vs 裕福な黒人犯罪者という対抗軸がしっかりと機能していて、キャラクター劇として非常に良くできている。

対照的な個性を持つ者同士のバディという本作が確立したフォーマットは、80年代から90年代にかけて無数の模倣を生み出すこととなった。後世への影響力という点では、アクション映画史上有数の作品と言えるだろう。

手掛かりを探して二人は様々な場所を訪れ、時には「黒人は帰ってくれ」というあらぬ差別を受けることもある。

『夜の大捜査線』(1967年)の時代ならばシリアスな展開に突入するところだが、ここでもエディは口八丁手八丁で周囲を煙に巻き、人種問題をも笑いに変えてしまう。まさに圧巻のパフォーマンスだ。

当初はレジーを利用するつもりしかなかったジャックは、こうしたクレバーな振る舞いを見ていろいろと思いなおし、最終的には信頼関係で結ばれた素晴らしいバディとなる。

定番ながらも感動的な落としどころだが、8年後に製作された続編ではこれが見事にひっくり返されて面食らった。まぁそれは別の話ってことで。

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