【凡作】パッセンジャー57_強いうえにモテモテのウェズ(ネタバレなし・感想・解説)

クライムアクション
クライムアクション

(1992年 アメリカ)
僕らのウェズがハイジャック犯を倒すという、本当にそれだけの内容の映画。主人公の設定にはやたらいろんな要素がくっつけられているのですが、それらがほとんど機能しておらず、潔いまでのB級アクションとなっています。

作品解説

元はスタローン主演作だった

本作は『フィラデルフィア・エクスペリメント』(1984年)のスチュワート・ラフィルが書いた脚本を原案としています。

ラフィルはクリント・イーストウッド主演を想定しており、ハイジャック機がイランに着陸するなど完成した作品よりも遥かに大規模で政治色の強い内容としていましたが、「そんなものを作ったら映画館を爆破される」と危惧したワーナーが大幅な書き直しを指示。

テレビ脚本家で後に『ランボー/ラストブラッド』(2019年)を手掛けるダン・ゴードンと、カルト的な人気を誇るSF映画『ドリームスケープ』(1984年)のデヴィッド・ローヘリー(ロッカリー、ラヘリーという記載もあり)が脚色を行いました。ラフィルによると、完成作品には元の脚本の要素の4分の1も残っていないそうです。

企画はシルベスター・スタローン主演作として進んでいたのですが途中で降板。トム・サイズモアが演じたスライ・デルヴェッキオというキャラクターのファーストネームはスタローンから取られています。

その後、ワーナーよりスティーヴン・セガールに対して本作と『沈黙の戦艦』(1992年)のどちらに出演するかという選択肢が与えられ、セガールは『沈黙の戦艦』の方を選び、最終的にウェズリー・スナイプス主演作として落ち着きました。

意外と豪華なキャスト

そんなプロダクションだったため製作費はどんどん削られていったようで、製作当時の基準だとスターを使っていないB級アクション映画という括りだったのですが、現在の目で見返すと意外と豪華なキャストが揃っています。

まず主演は皆さんご存知ウェズリー・スナイプス。

今でこそ紛れもないエクスペンダブルズとして認知されていますが、80年代後半から90年代前半にかけてはスパイク・リー監督作の常連でした。そんなスナイプスが初めて本格的なアクションに挑戦したのが本作であり、その後『デモリションマン』(1993年)や『ブレイド』(1998年)などでアクション俳優の道を究めることとなります。

お香を焚いて全集中するウェズ。余程お気に入りなのか『ブレイド』にも同様の場面アリ。

キャビンアテンダントにメインヒロインを越えるほどの異常な美人がいて、ちょっと見切れた段階からやたら目立っているのですが、この方はエリザベス・ハーレー。映画に出始めたばかりだったハーレーにとって最初期の作品に当たるようです。

目立って仕方ないエリザベス・ハーレーの美貌

次にウェズの親友役がまだ20代のトム・サイズモア。本作の3年後の『ヒート』(1995年)ではヤクザらしい貫録を身に着け、そこから『プライベート・ライアン』(1998年)、『ブラックホーク・ダウン』(2001年)とハリウッドきっての鬼軍曹となりますが、本作の時点ではまだ貫禄がありません。『ヒート』までの3年間で何があったのでしょうか。

尚、この役柄はマイケル・マドセンに断られたもののようで、マドセンと同じく大柄なイタリア系ということでサイズモアに話がいったものと思われます。

20代のトム・サイズモア。ウェズの親友ポジション

そして航空会社の社長役がブルース・グリーンウッド。『13デイズ』(2000年)のジョン・F・ケネディ大統領、『スタートレック』(2008年)シリーズのパイク提督とエグゼクティブを得意とする俳優ですが、その走りが本作だったというわけです。

航空会社社長役のブルース・グリーンウッド。凛々しいにも程がある

全米No.1ヒット作

本作は1992年11月6日に全米公開され、前週まで4週連続No.1だったスティーヴン・セガールの『沈黙の戦艦』(1992年)に代わって1位を獲得。アクション映画が代わる代わる全米1位を取るという夢のような時代があったんですね。

全米トータルグロスは4406万ドル、全世界トータルグロスは6650万ドルで、製作費1500万ドルの中規模作品としては上々のヒットとなりました。

感想

ウェズのキャラ設定が渋滞中

ウェズ扮する航空保安員カッターがハイジャックに遭遇することが本作のざっくりとしたあらすじ。

この通りあらすじに新奇性がなかったためか、はたまたシリーズ化したいという欲でもあったためか、主人公カッターのキャラ設定が盛り盛りにされており、盛り過ぎで渋滞を起こしています。

カッターはかつてコンビニ強盗に奥さんを射殺されたというリーサル・ウェポンなトラウマを抱えており、夜な夜な照明も付けずトレーニングに励むという危ない一面があります。

電気くらいつけたらいいのに

しかし一歩外に出れば別で、真っ赤なスポーツカーを乗り回し、愛読書は孫氏の『兵法』(英語ではアート・オブ・ウォー)。いろんな意味で攻めています。なお7年後、ウェズはクリスチャン・デュゲイ監督の『アート・オブ・ウォー』(2000年)に主演することとなります。

愛車は真っ赤なスポーツカー
愛読書は孫氏の兵法。見せびらかすように読む

そしてカッターは知る人ぞ知る有能な保安員程度の存在かと思いきや、対テロ分野では相当有名な人だったようで、航空会社の社長にテロ対策の重要性を軽く説明しただけで「保安責任者としてうちの副社長になってくれないか」とのオファーを受けます。

もはや凄すぎて何の人だか分かりません。

いきなり重役オファーを受けてもクールに対処

しかもイタリア系の親友デルヴェッキオ(トム・サイズモア)から羨ましがられるほど女性にモテモテで、その魅力にメロメロになった空港のセキュリティチェックの女性職員などは、センサーが鳴っているにも関わらずカッターを通してしまいます(いや、ダメだろ笑)。

しかしどれだけモテても冷静に受け流し硬派に徹してきたタッカーですが、キャビンアテンダントのマーティ(アレックス・ダッチャー)に対してだけは別で、猛烈ながっつきを見せます。

物凄く曖昧な口実で絡んでいく
そして猛烈ながっつき

奥さんを亡くした設定との兼ね合いが一体どうなっているのかはよく分からないのですが、ともかくカッターとマーティが絡んでいる場面では柳葉敏郎と浅野ゆう子でも出てきそうなトレンディなメロディが流れてきて、そのアクション映画らしからぬ雰囲気に戸惑ってしまいます。

そんなわけでカッターの設定は込み入り過ぎていたし、特に奥さんを亡くした設定は本編に対して何らの影響も及ぼしていなかったので、なくてよかったと思います。

敵が強そうにない

そんなカッターと戦うのはチャールズ・レーン(ブルース・ペイン)。

レーンは英国の上流階級出身であるものの、根っからの異常者であるため自らの手で父親を殺し、爆弾テロの首謀者として国際的に名を馳せていました。そんなレーンはアメリカの捜査機関に逮捕された後に航空機で護送されており、その便を彼の手下達が襲います。

このレーンですが、あまり迫力がないんですよね。良心も恐怖心も持たない異常者という設定ではあるのですが、目が合っただけで震え上がるような怖さがありません。

レーンを演じたブルース・ペインはロンドンの王立演劇学校出身であり、ジョナサン・プライス、アラン・リックマン、ケネス・ブラナーら同期には錚々たる面々が名を連ねているのですが、彼自身はパッとしないようです。代表作は『ダンジョン&ドラゴン』シリーズですからね。

終盤ではヒロインにねちっこく絡んでいくのですが、これがキャバ嬢に下ネタを言うおっさんレベルなので「怖い!」というよりも「しょーもない!」という印象だったし。

とんでもないド下ネタと…
当然の切り返し

そしてセクハラ発言でドン引きさせておいて「俺と寝れば好きになる」という突然の自信満々発言とか、酔ってんのかと言いたくなるようなしょーもなさでした。

ものすごい自信。マカでも飲んだのか?

そして、レーンの部下はたった4~5名。この手の映画のテログループとしては人手不足が過ぎるし、その中に強そうなキャラが一人もいない点も厳しかったです。

一番善戦するのがこのハゲなんですけど、それでもウェズに勝てるようなタマではないので緊張感も何もあったものではありません。

勝ち目がないのに無駄な抵抗をしてくるハゲ

そんなわけで、敵のショボさ加減は観ていて厳しかったです。

勢いだけで何とかなっている

そんなわけでいろいろ厳しい映画ではあったのですが、85分という異常に短い上映時間のおかげでアクション映画としては何とかなっています。

大傑作『コマンドー』(1985年)が実践した通り、いろいろと難のある話であっても90分程度であれば筋肉と勢いのみで乗り切れます。

しかも本作ではいったん飛行機を降りるという大胆な場面転換を行っているので、見せ場のバリエーションは意外と豊富。遊園地での戦いなんて翌年の『ビバリーヒルズ・コップ3』(1993年)にパクられたんじゃないかと思ったし。

加えて一枚看板での主演が初めてのウェズが本気のパフォーマンスを示しており、彼の頑張りがアクションの質を向上させていました。

終盤、飛行機と並走する車から車輪に飛びつく場面はウェズ自ら演じているのですが、演出や撮影の良さもあってノースタントの迫力を伝えられており、これがなかなかの迫力でハラハラさせられました。

箱乗りからの

車輪しがみつき

そしてヒーローとヒロインがラブラブで現場を去っていくというラストの大団円も気持ちよく決まっており、B級アクション映画として一定水準には達しています。

やりきった顔で終劇

余計な後日談などもなく、敵を倒したところでスパっと終わるという無駄のなさも良かったです。大きな期待をしなければ相応に楽しむことができるB級アクションに徹しいます。

ところで、ウェズは一体誰に間違われていたのでしょうか?あのくだりだけは謎でした。

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