(1994年 アメリカ)
セガールのナルシシズムが全開になった作品であり、相当イタい内容でした。ただし企画はそれなりに考えられており、セガールがくっつけた余計な尾ひれを度外視すれば、ある程度は楽しめるアクション映画となっています。
あらすじ
油田火災の専門家であるフォレスト・タフト(スティーブン・セガール)は、エイジス社の油田で起こった火災の消火活動の際に、バルブが不自然な割れ方をしていたことに気付く。エイジス社は油田を操業させるために欠陥部品の存在を知りながらも無視しており、そのことを抗議したフォレストはジェニングス社長(マイケル・ケイン)の謀略により殺されかける。イヌイットの助けで何とか生き延びたフォレストは、エイジス社の油田の破壊に乗り出す。
作品解説
セガール唯一の監督作品
90年代は俳優が監督業に進出することがブームでした。『ダンス・ウィズ・ウルブス』(1990年)でケヴィン・コスナーが、『許されざる者』(1992年)でクリント・イーストウッドが、『ブレイブハート』(1995年)でメル・ギブソンが監督と主演を務めてアカデミー賞を受賞しています。
そのブームに乗って、本作ではセガールも監督デビュー。ただしセガールはアカデミー賞ではなくゴールデンラズベリー賞最低監督賞を受賞しましたが。
これに懲りたセガールは、二度と監督をすることはありませんでした。
興行的には不調だった
本作は1994年2月18日に全米公開され、3週目に入ったジム・キャリー主演の『エース・ベンチュラ』(1994年)を抑えて全米No.1を獲得。翌週は金額こそ落ちたものの他にライバルもなく、V2を達成しました。
ただしほっといてもセガールの映画を見に来るアクション映画ファン以外に人気は伝播しなかったようで第3週、第4週と順調にランクを落としていき、5週目にはトップ10圏外へと弾き出されました。
全米トータルグロスは3859万ドルであり、セガールの前作『沈黙の戦艦』(1992年)の8356万ドルを大きく下回りました。5000万ドルという巨額の製作費は回収できず、赤字映画だったと考えられます。
『沈黙の戦艦』(1992年)との関係
本作の日本公開時には「沈黙シリーズ第2弾」という名目で公開されました。第一弾は言わずと知れた『沈黙の戦艦』(1992年)であり、同作の大ヒットにあやかって本作を続編の位置づけに置いたものと思われますが、本来はまったくの別物でした。
問題は1995年に『沈黙の戦艦』(1992年)の正式な続編『暴走特急』(1995年)が製作されたことであり、当時のピュアなアクション映画ファン達は本作をどう扱うべきかで大いに混乱させられました。
なお、セガールさえ出ていれば沈黙シリーズという本作が作り上げた公式はいまだに生き続けており、おそらくは本人すらあずかり知らぬところで、沈黙シリーズは粛々と数を増やし続けています。
感想
セガールが悪党側という面白い構図
本作でセガールが演じるのは油田火災消化のプロであるフォレスト・タフト。
ただし登場時点のセガールは正義の人ではなく、高額報酬に釣られてマイケル・ケイン扮する悪徳社長の腰巾着の一人となっています。ヒーヒー言いながら踏ん張る現場からは距離を置き、悪徳社長の杜撰な経営の結果起こった油田火災を鎮火することがその役割。
主人公のこの人物像にはなかなか興味が持てました。
加えて、悪徳社長の背景も意外と作り込まれています。
エイジス社はアラスカでの油田採掘権を持っているのですが、期限内に採掘を開始できなければその権利を失ってしまうために、是が非でもエイジス1と呼ばれる油田の操業を開始しようとしています。
そんな中でエイジス1の部品の一部に欠陥が見つかったのですが、これを取り換えていると期限が過ぎてしまうことから、不具合を隠蔽しています。
確かに悪徳社長がやっているのは不正なんですが、企業としては採掘権を失うかどうかという瀬戸際に立たされており、背に腹は代えられないとして不正に手を付けた判断にも一定の理解ができるようになっています。
単純な勧善懲悪の図式を置くのではなく、営利企業であれば仕方ないよなという図式を置いた辺りに、この脚本の周到さを感じました。
本作は単純なアクション映画ではなく、それ以上のものを目指していた志の高い作品だったように思います。実際にその通りになったかどうかは別としてですが。
『千の顔を持つ英雄』
セガールは火災現場で欠陥部品を発見し、悪徳社長に抗議します。
すると悪徳社長はセガールの爆殺を図ります。セガールはすんでのところで気付いて死こそ免れたものの、爆破で重傷を負います。その後、イヌイットに拾われて復活。
主人公が死にかけた後に超人的なパワーを得るという構成はアクション映画の定型の一つであり、『マッドマックス2』(1981年)、『ランボー』(1982年)、『ロボコップ』(1987年)など枚挙に暇がありません。
そして、そのルーツを辿るとジョーゼフ・キャンベル著の『千の顔を持つ英雄』(1949年)に行きつくわけで、本作は単純なセガール映画のようでいて、実は英雄譚の古典的なテンプレートに当てはめて丁寧に作られているということがわかります。
ただし、セガール映画でそれをやる必要が本当にあったのかという問題はありますが。そもそも強いってことで問題のないセガールに、パワーアップの儀式などが必要あったのだろうかと。
あと、セガールが生まれ変わりを果たす場面で見る熊とかおばあさんとか裸の美女とかの幻想が無駄に長くて退屈だった点もマイナスでした。
マッドマックス2【傑作】ポストアポカリプス映画の最高峰
ランボー【傑作】ソリッドなアクションと社会派ドラマのハイブリッド
ロボコップ(1987年)【良作】問答無用の名作!…と同時にとても変な映画
環境破壊は許さん!と言って油田大爆破
かくして復活を遂げたセガールは、小さな国に宣戦布告でもしようとしているレベルの爆薬をエイジス1に仕掛け、これを爆破します。
セガールを迎え撃つのはリー・アーメイが率いる傭兵軍団なのですが、かのリー・アーメイ先生がいつ居なくなったのかが分からないほどアッサリと敗北するという圧倒的な力でセガールが突き進みます。
最後まで悪態をやめない悪徳社長は当然としても、戦意喪失して逃げ出す部下達までが須らく惨い死に方をするという徹底ぶりであり、ここでのセガールは怒れる神が憑依したかのような暴れっぷりを見せます。
そして、ラストではこれだけの破壊活動を行ったにも関わらず何の罪にも問われておらず、環境保護について熱弁を振るうというウルトラCまでを披露。
「一番環境を破壊したのはお前」というツッコミを誰もしない辺りに、周囲の人たちの大人の対応を感じました。
セガールの説教先生
このラストの説教ですが、撮影時点では40分もあり、セガール監督はこれを全部使うつもりでいたようです。
しかし、いくら『沈黙の戦艦』(1992年)大ヒットの直後とは言えアクション映画の後半部分が丸々説教という前代未聞の構成が許されるはずもなく、7分にまで縮められました。7分でも十分に長かったのですが。
本作はこのラスト以外にも随所にセガールの説教が散りばめられており、セガールに叱っていただく映画としても機能しています。
- (酒場での喧嘩相手に向かって)人間の本質を変えるには何が必要だ
- (悪徳社長が欠陥部品を使っていたことに触れて)どれだけ稼げば気が済むのか
- (マスコミに訴えるべきというヒロインに対し)暴力に頼りたくはないが、選択の余地はない。
特に一番目の、人間の本質がどうのこうのという説教は意味わからんものでしたね。
セガール映画の定番である酒場での大乱闘が始まり、セガールは複数人相手に余裕で勝利。リーダー格をひとしきりいたぶった後でこのセリフが飛び出すのですが、一体どの口でこんなことを言ってるんだろうかと疑問符が浮かびました。
明らかに浮いている説教の数々。セガールからこういうセリフをどこかに入れたいと言われ、脚本家達が無理やりねじ込んだかのような製作現場を想像しました。
セガール監督、やりたい放題ですね。人間の本質を変えるには何が必要なんでしょうか。
セガールの強さを説明するお囃子セリフを聞こう
またセガール映画の定番として、いかにセガールが強いか、敵に回しちゃいけないかを第三者がこんこんと語るというお囃子セリフというものがあります。
きっかけは前作『沈黙の戦艦』(1992年)であり、「やった!ライバックがあそこに乗ってるってよ!」と喜んで、後はモニターを眺めているだけのペンタゴン指令室が最初だったと思うのですが、本作では『沈黙の戦艦』×2くらいの頻度でお囃子セリフが飛び出します。
- (セガールは何者なのかと聞かれた悪徳社長が)君の魂の奥底を探って究極の悪夢を想像してみろ。奴はその悪夢を実現する男だ。
- (セガールの正体について議論する傭兵達が)相当厄介な相手ってことだ
- (セガールが隠し持つ大量の爆薬を見たヒロインが)小さな国に宣戦布告でもしようとしているの?
- (エイジス1が停電になった状況で社長秘書が)あいつが戻って来たわ
- (セガールを舐めた発言をする部下に対してリー・アーメイが)軍部で失敗の許されない作戦をやる時、この男を呼んで実行部隊の訓練を任せると言うくらいだ。奴はガソリンを腹いっぱい飲んで、平気でキャンプファイヤーに小便を飛ばすような男だ。奴を素っ裸にして北極点に置き去りにしても、翌日にはバリっと白いスーツを決め込んで、何もなかったように満面の笑みをたたえてプールサイドに現れる。テロリストを十把一絡げにしたって到底追い付かん。プロの中のプロだ。
ポイントは、これらをオスカー俳優マイケル・ケインやハートマン軍曹に言わせているということですね。最後のやつなんて異様に長いセリフなのですが、ハートマン軍曹がこれほどビビる相手だということでセガールの強さが表現されているわけです。
なかなか味わい深いセリフの数々と、これをセガール監督が言わせているという構図をぜひともご堪能ください。
≪スティーヴン・セガール出演作≫
【凡作】刑事ニコ/法の死角_パワーと頭髪が不足気味
【駄作】ハード・トゥ・キル_セガール初期作品で最低の出来
【凡作】死の標的_セガールvsブードゥーの異種格闘戦は企画倒れ
【良作】アウト・フォー・ジャスティス_セガール最高傑作!
【良作】沈黙の戦艦_実はよく考えられたアクション
【凡作】沈黙の要塞_セガールの説教先生
【良作】暴走特急_貫通したから撃たれたうちに入らない
【凡作】グリマーマン_途中から忘れ去られる猟奇殺人事件
【凡作】エグゼクティブ・デシジョン_もっと面白くなったはず
【凡作】沈黙の断崖_クセが凄いがそれなりに楽しめる
【駄作】沈黙の陰謀_セガールが世界的免疫学者って…
【駄作】DENGEKI 電撃_セガールをワイヤーで吊っちゃダメ
【まとめ】セガール初期作品の紹介とオススメ