【凡作】グリマーマン_途中から忘れ去られる猟奇殺人事件(ネタバレなし・感想・解説)

サスペンス・ホラー
サスペンス・ホラー

(1996年 アメリカ)
セガールが製作当時流行していたシリアルキラーものに挑んだ作品なのですが、その新奇性は早々に放棄されていつも通りのセガール映画になっていくので、映画としてのグレードは低いと言えます。ただしセガール作品としては並レベルなので、見ていられないほど酷いというわけでもありません。

あらすじ

ファミリーマンと呼ばれるシリアルキラーが連続猟奇殺人事件を起こしているLAに、NYからコール刑事(スティーヴン・セガール)が赴任してくる。殺人課のキャンベル刑事(キーネン・アイヴォリー・ウェイアンズ)とコンビを組んだコールは事件の捜査に乗り出すが、そこには思いもよらぬ陰謀が隠されていた。

スタッフ・キャスト

監督はテレビ界出身のジョン・グレイ

1976年からテレビ映画の脚本家・演出家として活躍しており、『ゴースト 〜天国からのささやき』(2005-2010年)や『GRIMM/グリム』(2011-2017年)などを監督しています。

90年代には映画界に進出しており、手話を使って意思疎通ができるゴリラと少年の交流を描いたドラマ『ケイティ』(1995年)なんかを監督していました。

セガール作品の監督にゴリラの友情物語を撮ったジョン・グレイとは謎の人事ですが、どうやら当初監督に内定していたのは『ミッション』(1986年)でパルムドールを受賞したローランド・ジョフィだったようです。

しかしジョフィが降板したため、ピンチヒッターとして予算と納期に厳格なテレビ界出身のジョン・グレイが召喚された。こんな事情があったようです。

主演は我らがスティーヴン・セガール

1952年イリノイ州出身。

7歳から格闘技を開始し、17歳で来日。1975年に大阪の合気道道場主の娘である藤谷美也子と結婚して一男一女をもうけました。

1983年に帰国してから何をしていたのかは不明なのですが、マーシャルアーツのトレーナーとして映画業界を出入りするようになり、誤ってショーン・コネリーの手首を折ってしまったという真偽不明の噂話もあります。

1988年に『刑事ニコ/法の死角』でデビュー。デビュー作からいきなり主演という破格の待遇であり、以降は主演作が次々と全米No.1ヒットを獲るアクションスターとなりました。

最大の成功作は『沈黙の戦艦』(1992年)で、4週連続全米No.1、全米年間興行成績第10位という大ヒットとなりました。

なお、本作ではトミー・リー・ジョーンズと『沈黙の戦艦』(1992年)以来の共演を果たすかもしれなかったのですが、土壇場で降板してブライアン・コックスが後任者となりました。

共演はウェイアンズ兄弟の長男坊キーネン・アイヴォリー・ウェイアンズ

1958年ハーレム出身。90年代から2000年代にかけて大量発生したウェイアンズ兄弟の長男で、『ラスト・ボーイスカウト』(1991年)でブルース・ウィリスの相棒を務めたデイモン・ウェイアンズ、『レクイエム・フォー・ドリーム』(2000年)や『G.I.ジョー』(2009年)のマーロン・ウェイアンズらの兄です。

本業はコメディアンで冠番組がエミー賞を受賞するという人気タレントだったのですが、映画俳優としてはなかなか作品に恵まれていませんでした。

2000年にコメディ映画『最終絶叫計画』(2000年)を監督。弟たちを俳優として起用してウェイアンズ兄弟総出で完成させた同作は製作費の15倍近くも稼ぐ大ヒット作となり、途中でデヴィッド・ザッカー監督に交代しつつも第5作までが製作される人気シリーズとなりました。

作品解説

セガール最高傑作になるかもしれなかった映画

本作の脚本を書いたのは、後に『コンスタンティン』(2005年)や『ジャドヴィル包囲戦』(2016年)を手掛けるケヴィン・ブロドビンであり、監督に予定されていたのはなんとローランド・ジョフィ。

デビュー作『キリング・フィールド』(1984年)でいきなりアカデミー監督賞にノミネート、続く『ミッション』(1986年)でカンヌ映画祭パルムドール受賞という実力派であり、セガールにとっては実績ある監督と仕事をする初めてのチャンスとなりました。

本作に対するワーナーの期待は大きく、彼らはブルース・ウィリス主演の『ラスト・ボーイスカウト』(1991年)みたいな映画にしたいと考えていました。『ラスト~』でブルース・ウィリスの相手役を務めたデイモン・ウェイアンズの兄キーネン・アイヴォリー・ウェイアンズを起用したのも、その意思の表れだったと言えます。

そしてCIA高官役にはトミー・リー・ジョーンズをキャスティングし、LAの実力者役にはエド・ハリスやジョン・マルコヴィッチといった大物を迎えるつもりでおり、当初計画通りにいけばセガール史上最高傑作になる可能性もありました。

しかしローランド・ジョフィとトミー・リー・ジョーンズが相次いで降板し、リスクを感じたワーナーは製作規模を縮小。

ボートハウスの爆破はアパートの爆破に置き換えられ、SWATとセガールが衝突する場面は撮影されず、LA美術館が舞台の予定だったラストの銃撃戦は安ホテルに変更となりました。

また完成した作品のテンポを出すために大幅なカットを行い、映画は90分程度にまで刈り込まれました。その過程で、セガールとウェイアンズとの掛け合いや、セガールの妻を演じるミシェル・ジョンソンの登場場面の大部分が削除されました。

興行的には苦戦した

本作は1996年10月4日に全米公開され、絶好調だったコメディ『ファースト・ワイフ・クラブ』(1996年)に敗れて初登場2位でした。

その後の興行成績の落ち込みが激しく、2週目7位、3週目9位とすごい勢いでランクを落としていき、4週目にしてトップ10圏外へと弾き出されました。

全米トータルグロスは2035万ドルにとどまり、4500万ドルという製作費は回収できませんでした。

登場人物

  • ジャック・コール(スティーヴン・セガール):NYからLA転属してきた刑事。殺人課でキャンベル刑事の相棒となる。数珠をじゃらじゃらさせたおかしな出で立ちであり、仏教徒で官報に精通している。刑事になる前に何をしていたのかは謎。
  • ジム・キャンベル(キーネン・アイヴォリー・ウェイアンズ):LA殺人課の刑事。新しい相棒コールとのソリが合わずに苦労する。
  • ミスター・スミス(ブライアン・コックス):CIA高官だが、名乗っているのは明らかに偽名で本名は謎。過去にコールと関係があった模様。
  • フランク・デべレル(ボブ・ガントン):LAの有力者で、義理の息子が学校で拳銃騒ぎを起こしたことから、事件を解決したコールと顔見知りとなる。事件ではコールに口裏合わせを要求するが断られる。
  • ドナルド・カニンガム(ジョン・M・ジャクソン):デベレルの警備主任で、格闘技に精通している。

感想

サイコパス×セガール

『羊たちの沈黙』(1991年)が大ヒットした影響からか、90年代はサイコスリラーが多数製作された時代でした。

という話は先週の『乱気流/タービュランス』(1997年)の記事でも書いたような気がしますが、同作はサイコパスとスカイパニックを組み合わせた珍作でした。

その他にも、法廷劇×サイコパスの『真実の行方』(1996年)、スラッシャー×サイコパスの『スクリーム』(1996年)、爆破アクション×サイコパスの『絶対×絶命』(1998年)など、他のジャンルとサイコパスを組み合わせる作品が続出していました。

そんな中で、本作はサイコパスとセガールを組み合わせるという空前の荒業に出ています。

ファミリーマンと呼ばれるシリアルキラーが夜な夜な猟奇殺人事件を起こすLAに、NYからジャック・コール刑事(スティーヴン・セガール)が赴任してきます。

経歴不明ながらも凄腕風のコール刑事は抜群の洞察力で殺人現場の分析を行うのですが、話はすぐにサイコスリラーから離れ始めます。

「これはシリアルキラーを模倣した別人の犯行だ」

ここからセガールは前職の上司であるCIA高官(ブライアン・コックス)に情報を求めに行ったり、胡散臭い街の有力者(ボブ・ガントン)を嗅ぎ回ったりと陰謀の解明の方に夢中になり、連続殺人事件の捜査をしなくなります。

本編中のどこかでこうなることは予想していましたが、思いのほか早くサイコスリラーという筋を捨てるので驚きました。こんなことなら最初からサイコスリラーの看板を掲げず、『刑事ニコ/法の死角』(1988年)みたいな映画にすればよかったのに。

シリアルキラーによる犯行と、それを模倣した別の陰謀の2本が走っているというドンデンは、普通のサスペンス映画なら終盤にまで取っておくはずなのですが、序盤でアッサリとネタバラシをしてしまう辺りのやる気のなさは凄いなと思いました。

めんどくさい前振りはチャチャっと片付けて、早くいつものセガール映画にしようぜみたいな。

結局、いつものセガール映画

ここからは本当にいつものセガール映画になります。いつものセガール映画って一体何なのかと言うと、

  • セガール扮する主人公は過去に軍やCIAの仕事をしていた凄腕で
  • 悪そうな奴が案の定黒幕で
  • 途中、よく分からない理由で1対多数の乱闘が始まるが、セガールが一方的な勝利をおさめ
  • その勢いのままセガールが巨悪を挫く

こういう話です。

実は本作のプロットは錯綜していて真面目に把握しようとすると分かりづらいったらありゃしないのですが、大筋はこんな感じなので、細かいことは気にせず鑑賞するのが一番です。

「俺は仏教徒だ」とか言いながら、内心では誰かを殴りたくて仕方がないセガールが暴れているうちに陰謀も猟奇殺人事件も解決する。そんな映画です。

映画としてのグレードはかなり低いのですが、この頃はまだセガールがキレのある格闘を披露していた時期であり、公開当時「セガール拳」と呼ばれたアクションにはなかなか見ごたえがありました。

白眉だったのは中盤での車上荒らしとの一戦であり、情報提供者との待ち合わせ場所に向かう途中で偶然目撃した車上荒らしをセガールが止めると、銃を持ったロシアンマフィアがゾロゾロと現れて劣勢に。

しかしセガールはクレジットカードに仕込んでおいた剃刀の刃で反撃し、そこから素手での格闘が始まります。

こうしてシチュエーションを書くと本当によく分からんのですが、ともかくそういう見せ場があって、細かいことを考えずに見ていると、これがなかなかイケるのです。

足技・手技と全身を使って攻撃してくる敵のカンフー使いに対して、手技のみで防御するセガール。セガールの所作は相変わらず美しくて惚れ惚れとするし、両者のファイトスタイルの違いをうまく見せ場に落とし込めています。

加えて、後に『コン・エアー』(1997年)『アルマゲドン』(1998年)を手掛けるトレヴァー・ラビンのスコアがなかなかかっこよく、アクションが走り始めると同時にテンションの高い音楽が鳴り始めて見せ場の援護射撃を行います。

相棒の存在感の薄さ

そんな感じでいつものセガール映画となったことの割を食ったのが相棒役のキーネン・アイヴォリー・ウェイアンズでした。

ソリの合わない者同士がコンビを組まされ、衝突しつつもそのうちお互いを認め合うという一般的なバディアクションのフォーマットが本作では採用されており、かつ、無口なアクション俳優に対してよく喋るコメディ俳優というこれまた定番のキャスティングが為されています。

『48時間』(1982年)、『レッドブル』(1988年)、『ラッシュアワー』(1998年)など本当によくあるフォーマットなのですが、途中からセガールのワンマンショーに転じる本作ではバディアクションの構図が崩れ、相棒役のウェイアンズが完全に存在意義を失っていました。

ラストの銃撃戦に至っては、ウェイアンズは突入直後に被弾して動けなくなり、そのままメインの見せ場から退場するというあんまりな扱いまでを受けます。

それならそれで、普通のアクション映画なら最後の最後で危機に陥った主人公をいったんフェードアウトしていた相棒が救うというクライマックスが用意されているものなのですが、本作にはそういうのもなし。

最後までセガールが一人で敵と戦い、相棒は徹頭徹尾何の役にも立たないという壮絶なことになっています。

セガール、鼻血を出す!

そんなわけでいつものセガール映画なのですが、最後の最後に例外的な展開が待っています。

敵の突撃隊長的なカニンガム(ジョン・M・ジャクソン)とセガールの格闘が最後の見せ場なのですが、ここでカニンガムのパンチがセガールにクリーンヒットし、セガールが鼻血を出します。

まぁカニンガムとの力量の差を見せつけるためにセガールがあえて一発喰らった場面ではあるのですが、それにしても戦闘中にセガールが流血するのは『刑事ニコ/法の死角』(1988年)以来のこととなります。

両鼻から血を垂れ流しながら「お前のパンチはそれだけか?」と言うセガール。

そこから倍返しどころか百倍返し・千倍返しが始まり、カニンガムは為す術もなくセガールにタコ殴りにされた後、柵に串刺しにされて絶命という悲惨な死に方をします。

ここで突如サイコスリラー風味が復活するのですが、それをやるのがセガールという捻じれた構図が何とも言えない後味となりました。

こんな頓珍漢なところも含めて私はセガールが好きですが、みなさんは如何でしょうか。

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